絶賛放映中のTVアニメ『セスタス -The Roman Fighter-』(以下、セスタス)。3DCGで制作された、拳闘(ボクシング)をメインテーマとした格闘アニメだ。制作プロダクションは「モーションキャプチャを中心に、日本一生産性に優れた3DCGアニメーションスタジオを作る」を理念に掲げる、LOGIC&MAGIC。同社はこれまでに元請け作品こそないものの、ベテランスタッフを多く抱え制作体制が充実している。実際、本作にかかった制作も約1年という短い期間であった。本稿ではその制作内容やTVアニメシリーズのための効率的なワークフローに迫っていく。

TEXT_坂本剛一(亡霊工房) / Gouichi Sakamo(Boureikoubou)
EDIT_沼倉有人(CGWORLD)/ Arihito Numakura、山田桃子 / Momoko Yamada

©技来静也, 白泉社/セスタス製作委員会

info.

『セスタス -The Roman Fighter-』
【放送情報】フジテレビ「+Ultra」ほかにて毎週水曜日24:55から放送中
【配信情報】FODにて最新話まで全話配信中(毎週水曜日24:55更新)、TVer/GYAOにて最新話 無料配信中(毎週水曜日25:25更新)※放送・配信日時は予告なく変更になる可能性がございます。

cestvs-anime.com/
©技来静也, 白泉社/セスタス製作委員会

  • 『セスタス -The Roman Fighter-』
    Blu-ray BOX完全受注生産で発売決定!

    7月7日(水)まで予約受付中。販売ページは、こちら

キャプチャデータを用いた格闘シーン

『セスタス』の制作が決定した後に、同社がまず着手したのはモーションキャプチャの検証だったという。キャプチャはLOGIC&MAGIC内のTUNEDiDスタジオで行われた。

はじめに制作スタッフによるキャプチャのテストが行われた。このテストでは、拳闘シーンの収録で実際よりも相手と距離を開けて、お互いに拳を当てないままリアクションをとっていくという形で行われた。この方法の場合、安全に行えるが、打撃位置やタイミングなどを後で修正する作業コストが高くなるため、本編の収録では実際の距離感で行うことになった。ただ、一部のテスト用モーションはティザームービー内で採用されており、検証の中で一定の成果を出せていたようだ。

▲ 社内スタッフでモーションキャプチャをしたデータを活用したティザーPV

本編のキャプチャでは、JAPAN ACTION ENTERPRISEが全面協力、アクションコーディネーターに六本木康弘氏、監修には元プロボクサーの亀海喜寛氏が参加した。テストとは異なり、キャプチャスーツの下にプロテクターを装着し、実際に打撃をヒットさせている。これによりアニメーション制作の負担も減った。

キャプチャはVICONで行われており、MotionBuilder(以下、MB)にてリアルタイムプレビューを実施。収録後のプレイバック再生では、コンテのレイアウトやパースペクティブビューなど、様々な角度で確認を行うことができた。

監修の亀海氏にもスーツを着てもらい、拳の避け方や動きの参考にキャプチャを行なったことで、モーションに説得力をもたせることができた。ただし、プロの動きは、予備動作などが少なく洗練され過ぎていたため、あくまで亀海氏のモーションは参考ということで、実際には絵映えするようアクターが誇張して演じた動きをキャプチャしていった。現実のボクシングとは異なるアニメ的な見映えについては、初期のころはスタッフ間で認識に差があったというが、制作を続けるうちに詰めていくことができたという。そのためアニメーター自身もスーツでキャプチャを行なったり、亀海氏の寸止めパンチをうけるなどして、イメージを膨らませていったそうだ。

キャプチャの現場には監督や演出、アニメーターなどが参加したため、その場で全ての要素を踏まえた収録を行うことができた。これにより、クオリティアップのためコンテから動きを変えたりと、柔軟性のある状況をつくり出すことができた。

カット制作においては、インハウスのツールが役に立ったようだ。インハウスツール「LM_ShotCreater」は、エピソードとカット番号を入力するとネーミングコンベンションに沿ったフォルダやファイル名が設定され、必要な背景やプロップ、キャラクターなどアセットが読み込まれる。その後LM_AnimLoaderを走らせると、MotionBuilderから出力されたカメラやキャラクターのアニメーションが自動でロードされる。データ保存時のテイクも管理され、カット番号やレンダーレイヤー名を継承した連番が所定の場所へ出力されるよう、最終レンダリング工程も自動化。このようなツールにより、各ショットのセッティングが効率化された。

モーションキャプチャ検証時の収録模様

▲ コンビネーションの検証映像

▲ 決めの一撃の収録検証映像

▲ アクション監修・亀海喜寛氏のディフェンス参考収録映像

モーション収録とリアルタイムプレビュー

▲ アクション収録の様子。非接触のまま収録したデータを後で修正する方法はコストがかかるとわかったため、収録時は元プロボクサー亀海喜寛氏監修のもと、JAEスタッフがスーツ内にプロテクターを入れ、実際に殴っている

▲ モーションキャプチャスタジオでは、ShougunとMotionBuilderをつなぎ、リアルタイムプレビューできるようになっている。監督や演者は、身体を動かしながら実際のキャラクターの体格での見映えを確認し、演技を決めていった

▲ 収録後、モーションを再生しながらの確認が行われる。収録中のリアルタイムプレビューでは、演者の全身が映る引きのカメラにしているが、モーション再生のプレビューの際は、実際のカメラをイメージした角度から確認したり、片方の演者を非表示にして主観的な絵で確認したりと様々な角度からプレビューが可能。長尺で段取りの多いアクションの場合、再生スピードを変えてプレビューもできるため、後の工程で「早回し」や「スロー」の可変処理を予定しているカットのイメージもつかみやすく、収録現場でモーションを決め込むことができる

富永竜二(モーションキャプチャースーパーバイザー)

  • 仲里奈穂(モーションキャプチャーアーティスト)



補助ツール「LM_ShotCreater」

  • <1>Maya作業はLM_ShotCreaterから始まる。エピソードとショットナンバーを選択するとネーミングコンベンションに沿ったフォルダやファイル名が設定されデータベースの情報を元にショットに必要な背景、プロップス、キャラクター、シェーダがシーンにリファレンスされる


<2>LM_ShotCreaterによって自動構築されたファーストシーン。カット担当者はカット番号を指定するだけで、必要なアセットが全て準備される

<3>次にLM_AnimLoaderを走らせることで、MBから出力されたカメラや各キャラクターのアニメーションが自動ロードされるので、ライティングレンダリングの作業へとスムーズに入ることができる

  • <4>ツール群は映像制作部 映像ユニットのテクニカルアーティストが作成したものと、技術開発部 テクニカルユニットが開発したものが共存している。ワークフローの根幹に関わるものや効率化のためのツールを技術開発部が担当し、素材分けやエフェクトの追加など絵に関わるものを映像制作部が担当した


フェイシャルアニメーション

▲ MB上で、「ブレンドシェイプ」と「フェイシャルリグ」の併用によって表情を細かく調整。試合中は常にキャラクターが動き続けるため、鋭い眼光や食いしばった表情などを一瞬でもしっかり印象に残るように制作した

アクションシーンのアニメーション

▲ プロのアクターによるモーションキャプチャの動きを壊さない程度にレイアウトに合わせてポーズを修正し、2コマ打ちでもアクションか省かれないようにタイミングを調整。キャプチャによる実際の人間の動きとアニメ的なタメツメが両立したかっこよさを追求した

原作のテイストを活かしたキャラクターづくり

キャラクターは、最初に主人公のセスタスから制作された。アニメのキャラデザインでは通常の2Dによるデザイン案をあえて起こさずに、原作のコマから全身、表情、腕などのパーツを抜き出すことから始められた。ある程度でき上がった段階で2Dでレタッチを行い、イメージを固めた上でモデリングの仕上げが行われた。

カラーリングに関しては、原作のイメージを参考にしつつも、原作ではカラー表現のないキャラクターもおり、検討を重ねつつ、アニメシリーズとしての色彩を決定していく方針が採られた。

チェックでは作画のキャラデザインのように静止画を用いていくつかの角度を確認。ターンテーブルは実際には使わない角度もあるので、静止画でチェックすることでよりイメージしやすいようにした。

作中に登場するキャラは、おおよそ30体。ダメージや包帯などのバリエーションを含めると90体以上になる。上半身が裸のキャラが多いため、素体をある程度共有できるようにした。また、トゥーンシェーダにより筋肉の鋭さを強調し、角ばった形状が意識されている。

スムーズを行なっても筋肉の隆起を損なわないように意識されており、キャプチャ時のプレビューでもイメージを共有しながらキャラクター制作を進めることができたそう。実線の表現には、Pencil+ 4 for Mayaが使用されている。

キャラクターモデルの変遷

▲ 頭部は初期ラフ案から主人公の少年感やあどけなさを意識し、丸みのある方向に修正調整が行われた

▲ 身体は引き締まった軽量級な印象に調整を行なっている

色設定

▲ セスタスの色設定資料

素体モデルの作成

▲ 左側が今作用に作成した素体、右側がスカルプトモデルをリトポしただけの状態。上から「ワイヤーフレーム表示」、「デフォルトシェーディング」、「トゥーンシェーディング(本番用は固定影などのTEX要素も含む)」。トゥーンシェーディングでライティングした際に筋肉の立体情報がなるべく明確にシャープに反映されるよう、隆起に沿った分割にしつつ立体を強調する形で調整が行われている。また、首から下の素体部分は形状UV含め全キャラ統一されている

次ページ:
MotionBuilder主軸のワークフローでさらなる効率化を図る

[[SplitPage]]

MotionBuilder主軸のワークフローでさらなる効率化を図る

キャラクターリグはIK、コントロールリグの両方で動かせるよう設定されている。表情もブレンドシェイプとリグで細かい調整が可能。脇や胸筋用にマッスルの補助ボーンを仕込んでいる。

ハチマキや髪の毛、さらにほぼ全てのキャラが身についているスカートについては、自動追従して動くようになっていたものの最終的なモーション調整が多かったそうだ。手甲のビスも浮いてしまうなど、制御が大変だったという。

モーション制作はMBで行なっている。動作の軽さやモーションキャプチャとの親和性により、効率が良かったそうだ。ちなみにMayaはレンダラとして活用するようなイメージで使用された。

ただし、制作協力会社にMBに慣れたスタッフが少なかったため、約50ページの作業マニュアルを作成し、誰でも使用できるようにする必要があった。とは言え、基本的なアニメーションカーブやコマを打つ作業に変わりはないので、マニュアルさえあればMBを主軸にしたワークフローもそこまで高いハードルとはならなかったようだ。

リップシンクについては仮の声を使い作業を進め、CGアニメーションをベースにアフレコ、最終的にリップの微調整を行なっている。カットによっては3DCGのリップにテンポやセリフ内容を合わせることもあったそうだ。

ボディリグ&セットアップ

▲ 格闘シーンで用いられたセスタスのジョイント配置。MBにはデフォーマ等の機能がないため、基本的には補助骨のみでリグの構築を行なっており、サブディビジョンサーフェス等の処理はレンダラとして機能しているMayaで行うかたちをとっている。本作の他キャラクターもこのジョイントの形式を流用しており、短期間で30体以上にのぼるセットアップを行うことができた

▲ 補助骨運用の一例。肘のローカル回転数値をMBのRelationConstraint機能で受け取り、補助骨の位置や角度を簡易的な四則演算で調整している。画像では肘先の張りや、上腕二頭筋や上腕三頭筋が調整されている

▲ 上記補助骨運用のリレーションの一例。ノードベースで数値をそれぞれ調整し、肘の数値を4つの補助骨に渡している

フェイシャルリグ&セットアップ

▲ セスタスのフェイシャル。主要キャラクターは、ジョイントとブレンドシェイプの両方が実装されており、それ以外のキャラはブレンドシェイプのみを用意。アニメではテンプレートな表情を超えて大袈裟な顔を用意する、というよりは決まった表情を決まったタイミングで行えることが重視されるため、基本的にはブレンドシェイプで運用、カメラから見て補正が必要な場合はジョイントでの微調整が行われた

▲ ジョイント制御は顔にコントローラーを付けるとアニメーション作業時に見辛いこともあり、フェイス操作用ボードの上にマーカーを置き、コントローラーとジョイントが連動するかたちで運用された。MB上でのフェイスコントローラーの生成と連動は指定したジョイントの名前が一致していれば自動で生成されるようになっている

▲ ブレンドシェイプ制御では顔の各部位ごとに細かく表情差分が用意されており、これらの組み合わせで様々な表現をすることができた

ゆれもののセットアップ

▲ 髪とハチマキは綺麗な揺れ感を出す必要があるため、従来のFK制御、またはMBのDamping(3D)という自動制御、2つの機能を活用した。FK制御では根本、中央、先端でコントロールできる部位を分け、揺れもの特有の動きをアニメーター側で大まかに制御することができる

▲ スカートの場合も髪などと基本は同じだが脚の稼働に合わせてスカートの骨も動く仕組みを追加している。屈伸等急な角度では対応できないことが多いため、そういった場合は手動での調整を行う運用をしている

ポンペイの街並みを再現した背景美術

背景のポンペイの街並みの制作にはCityEngineを使用。学術的に再現されたポンペイの街並みをプロジェクトに活用している。寄りのカットなどでは調整を行なっているが、俯瞰など遠景に関しては組んだプリセットのまま使用している。データがかなり重いため、広さなどをUnityで検証した上でMayaへ移行させているそうだ。

最終的にはイメージボードに合わせて色などをつくり込んでるが、ショットによってはPaint風処理などを撮影時にFlameで足している。スケジュールに合わせた臨機応変な対応をしつつ、制作を進行していったようだ。

CityEngineで生成されたポンペイ

▲CityEngineで作成されたポンペイ市街地全景モデルは、モデルデータが膨大すぎるのでUnityに読み込み、作品に必要な大通り周辺以外の不要な部分を削除してFBX形式で出力した

背景モデルの調整

▲【上】Flame、【下】Maya。Unityから出力したFBXデータをMayaで読み込みデータの最適化を行なったあと、イメージボードに合わせてマテリアル設定・ライティングを行った。アップ用にディテールが足らない部分はジオメトリー、テクスチャの改修を行う。CityEngineのモデルは自動生成のためは独特の構造をもっており建物ごとに分割されていないため、部分的な修正をするためのデータ整理に予想外の手間が必要となった

背景の質感設定

▲背景モデルにマテリアル設定とライト設定を済ませた状態のレンダリング画像。【左】ポンペイの有力者ファブリウス家のテラス、【右】ポンペイ闘技場全景と貴賓席

次ページ:
3,000人が登場する群衆の表現

[[SplitPage]]

3,000人が登場する群衆の表現

群衆についてはUnityで作成している。モデルのリダクションを行なっているとはいえ、闘技場に3,000人並ぶのでデータが重くなるため、ゲームエンジンであるUnityを使用することになった。制作初期の段階では群衆にもモーションをつけていたが、動かすと画面的にうるさくなってしまい、最終的には止めの表現となった。画面手前に映るごく一部のキャラクターのみ、モーションさせている。

Unityで作成した群衆表現

▲群衆素材を生成したUnityの操作画面

▲Unityから書き出した合成用の素材。【左】手前、【右】奥

細やかな作業が行われたエフェクト&撮影

エフェクトは表現によりツールを変えて作成されている。炎はHoudiniで汎用素材を作成し、Flameにてリマップやディテールの足し引きなどを行い作成されている。パレードで舞う花びらなどはMBのパーティクルを使用している。雨のエフェクトも同じくMBで作成されており、これらは背景アセットのような位置付けでアニメーションの工程の時点で入れ込まれた状態になっている。

エフェクトによっては撮影素材も使用された。同社には実写VFXの経験者が多いこともあり、血飛沫や土煙などは実写素材を用いて作業を行ったそうだ。また、主人公の脳内シナプスの表現等はFlameのSubstance Noise Nodeを組み合わせてつくられた。

撮影は、前述の通りFlameで行われている。Flameを使った理由としては、LOGIC&MAGICが普段から合成の主軸にFlameを置いているという点が大きかったようだ。撮影は1話に対し1名のFlameアーティストを基本とし、ショットの合成のほか、1話分のタイムラインも組んで前後のつながりやOLなどを確認できるようにしている

この方法は全体を見ながら制作するのに適しており、かなりのスピード感あったそうだ。複雑な合成や撮影台の流用がノードベースで作業できるという利点も大きかったという。

炎エフェクト

▲ 炎はHoudiniで元素材を作成。横回転8方向×上下振り3方向で全24種類。サイズは1024×1024で96フレームのLOOP素材になっている

▲ 画面左上が合成全体のBatch Schematic。赤いCompassがHoudiniの炎を合成している個所。画面左下はAction Schematicで、3DCG背景を読み込み、松明の位置に炎を配置することで立体的なカメラワークにも対応できるつくりにしている

▲ 1つの炎は画像のBatchSchematicのノード群で制御。左から[倍速>Loop>TimeOffset]と処理し、ColorCorectで輝度を調整しStylizeノードの「ColorSmudge」を使用することで、ショットによって多すぎる炎のディディールを削ぎ落している。その後、Timewarpで2コマ打ちの処理を加え、波ガラスの処理のあり/なしで上下分岐している。スーパースローのときは炎の絵を止めて波ガラスのみの処理に切り替えて使用している

花びらのエフェクト

▲劇中で出てくる花びらや雨の粒子には、MBのParticleShaderを使用している。シーン上でリアルタイムに降り注ぐアセットを用意し花びらや雨が降り注ぐ中、アニメーション作業は行われた

▲花びらのテクスチャはMayaでライティングと回転アニメーションを付けたABCの3種類を使用。MBのVideoSettingsでPlaySpeedとOffsetを変えることにより、9種類のバリエーションを作成している

▲MBで標準で用意されているCubeを9個用意し、各バリエーションのテクスチャを適用。ParticleShaderは同じものを一括で与えている

▲雨、雪、花びらのような環境エフェクトの場合は、StartDeltaとEmitRadiusの値を大きめにして発生のランダムさを出すと自然になる。SpeedのDeltaやSpreadも少し値を与えることでも、動きがリアルに見える。Accelerationの値を混ぜて、動きに不規則さを出すと雪や火の粉の表現が可能だ

▲「Display Mode」は、花びらでは「Matte」にし、雨のような半透明の際は「Translucent」を使用。「Fade In」 /「Fade Out」は、花びらのようなMatteのものには不適合の様に見えるが少し数値を入れておくことで、発生と消滅の際に背景になじませることができる。「Enable Motion Blur」はテクスチャが伸びてしまうので、花びらではOFFに。雨のときにはONにしている。ONにすることで、テクスチャの方向がParticleの進行方向を向くので、その機能だけを使用したいときは、ONにして値をゼロにしている

▲「Play Speed」は、Particleの挙動全体を早回しにしたりスローにできるパラメータで、値にアニメーションキーを打つことも可能なので、アニメ的なタメツメを利かせたエフェクトをつくりたいときに重宝する

Flameによる撮影処理

▲Mayaの背景、Unityの群衆、作画のキャラクター、実写の煙を合成した例。作画キャラはActionノードにて、Flameの3D空間上に配置して合成している

▲脳内シナプス表現では、SubstanceNoiseノードの模様を何重にも重ねFlameでジェネレートした素材のみで作成している。ノードを複雑に積み上げてもスピーディに合成を確認できるFlameのパワフルさが短時間でショットを仕上げるのにつながった

▲主人公の血管の隙間をすり抜けるショットは、Actionノードにて3Dカメラワークを付け、Flameに搭載されたパーティクルで赤血球の粒子を表現し、コンポジターが中心となって仕上げた

▲血飛沫や流血には、実写の素材が使用されている。図の例では、Mayaから出力された流血個所のガイドFBXをActionにインポートし、素材を親子付けして、CGキャラクターの目元に実写の血を合成している

次作に向け、さらなるステップアップを目指す

最後に制作の総括として、制作スタッフのコメントを紹介していこう。

  • 門間和弥(シリーズディレクター)
    「これまでも3DCGに関わってはいましたが作画畑の3DCGだったため、ここまでキャプチャを大幅に使う作品は初めてでした。なのでバトルシーンの動きの説得力はぜひ観てほしいポイントです。リアルな格闘シーンや筋肉の動きなどは3Dならではの重みのある表現ができています。3DCGの手法に携わることができたので、今後はさらにアップデートして制作できればと思います」

  • 松野美茂(CGプロデューサー)
    「今できる革新的な技術は網羅できたと思いますが、過去の技術の模倣も多いのでもう1段進化していきたいです。セスタスという作品でLOGIC&MAGICを旗揚げできました」

  • 林 成輝(CG監督)
    「クオリティを維持しつつ、今後はさらに効率を追求していきたいです。それがLOGIC&MAGICの命題でもあります」

  • 小高忠男(クリエイティブリーダー)
    「将来的にはリアルタイムCGで作品制作を行いたいです。それを最初にやるのはLOGIC&MAGICだと思っています」

  • 佐藤浩一郎(撮影監督)
    「『アニメの撮影をFlameで行う』という試みを少人数で成立させるため、Mayaから出力される素材を限定し、撮影台となるノード群も大分シンプルにしたつもりですが、それでも1名のFlameアーティストで1話約300カットを捌くというのは、大変なことでした。本作の経験をふまえ、さらなる効率化を追求し、進化したワークフローをまたお見せできるよう精進したいと思いますので、ぜひ、今後のロジマジの活躍もご期待ください!」

  • 島崎佳樹(アニメーションリグ)
    「今回のケースでは一人で30体以上のセットアップを行う必要があったため、精度と効率のバランスがとれず、多くの解決すべき課題を見つけることができました。また、群衆周りのクオリティも向上の余地があるため、次に活かしたいと思っています」

吉國 圭(3Dキャラクターデザイン)
「3Dでキャラクターデザインという手法をとったのは初めてで、良い経験になりました。今回見えた改善点などを次に繋げていければと思います」

野口忠一(CG制作)
「さらなる効率化というのもあるが、この期間、人数でTVシリーズの物量を納品、進行できたことはそれ自体が革新的だと感じています。これを踏まえつつ、今後も効率やクオリティを追求していきたいです」

吉田拓也(CG制作)
「今後は作画チームとの連携の精度を上げ、フローの体系化、言語化を行なっていきたい。それによりクオリティアップを目指していきます」

それぞれの立場からのコメントだが、ベクトルとしては一方向を向いている点が興味深かった。筆者としては、同社による『セスタス』のワークフローは、一般的なアニメーション制作と比べると順序の組み方の異なる点もあるが、映像を完成させるというゴールを意識し、ロジカルに組み立てられたものという印象を受けた。

今後も効率化やクオリティアップを進め、進化していくだろう同社の意気込みを感じる。