>   >  さらに深みが増したゾンビアイドルたちの歌唱表現!『ゾンビランドサガ リベンジ』
さらに深みが増したゾンビアイドルたちの歌唱表現!『ゾンビランドサガ リベンジ』

さらに深みが増したゾンビアイドルたちの歌唱表現!『ゾンビランドサガ リベンジ』

<2>『佐賀事変』MVの経験を活かす~キャラクターリグ&モーションキャプチャ~

様々な改良を施してより高度な動きを実現

2期では、萌によって様々なリグの改良が施されている。1期のリグでは、肩や腕のねじりに対する形状破綻やフリップが頻発していたため、ねじり方向への対策を補助ボーンを作成することなどで解消。揺れものは、SpringMagicを使用しつつ、スカートが足にめり込まないように自作スクリプトで制御したり、スカートのフリルの破綻を防いだりと、細かな調整が施された。さらに髪の毛のリグについては、IKとFKを切り替え可能にするなど、アニメーターがより使いやすく、作業に専念するための工夫が凝らされている。フェイシャルについてはブレンドシェイプベースになっているが、眼まわりの制御は、しっかりとリグが作成された。「生きている」と感じさせるために、キャラクターの目線の演技にこだわった結果だ。

モーションキャプチャ(以下、MOCAP)はexsaが担当。exsaが参加したきっかけは、2019年11月に発売されたアルバム『ゾンビランドサガ フランシュシュ The Best』のBlu-rayに収録にされた新曲『佐賀事変』MVのMOCAPを担当したことであり、2期では同作の経験が活かされている。一連の収録は、exsaの系列会社であるStudio Tantaで行われており(システムはOptiTrack)、2期の収録当初は25台のカメラだったが、その後28台に増設されている。MOCAPデータは、MotionBuilder(以下、MB)から3ds MaxでBipedでリギングされたモデルに流し込んで、納品しているとのこと。今回は、2つの挑戦があった。1つ目が同時収録人数。7話の収録では、フランシュシュメンバー7名に、ゲストキャラの舞々を加えた8名の同時収録が行われたが、exsaにとって初めてのことであり、カメラの配置などを工夫して収録範囲を広げるための試行錯誤がなされた。2つ目は、楽器演奏の収録である。4話『純情エレクトリック SAGA』で描かれる山田たえ(CV:三石琴乃)のドラムパフォーマンスの収録では、ドラマーとして活躍する川口千里氏にアクターを務めてもらった。「最大限のパフォーマンスを発揮していただくために、川口さんが日頃使われているドラムセットを持参していただき、反射の誤検知を防止をする布などはあえて付けない状態で収録しました。そのためシンバルなど金属部分から発生するノイズが大量に発生しましたが、スタッフが懸命にノイズの中からスティックやボディのマーカーを抽出してくれました。この作品では、新たなチャレンジをさせていただけて感謝しています」と、MOCAPマネージャーを務めた佐藤純恵氏。

作業効率と表現力を高めたリグの改良



  • ▲さくらのボディリグ。2期向けにイチから組み直された。1期のリグに対して、より細かなコントロールと精度が出せるように組まれている



  • ▲2期の4話に登場する新規衣装(アイドル衣装D)のリグ


リグの改良は萌が担当した

▲髪の毛のIK/FK切り替え。1期ではIKメインの構造になっていたが、細かい動きに対応できるようアニメーターがIK/FKを切り替えられるようにされた

▲1期のリグでは手首や肩の関節の破綻が大きく、アニメーションの際フレーム単位で調整を入れる必要があったそうだが、2期では破綻しないように組み直された(図中・右)オフセットで細かな調整も可能である

▲スカートやフリルの挙動が脚の動きに合わせて自動で動くようにスクリプトコントローラでプログラムを組み込んでいる(図中・右)これにより、めり込み修正の手間を減らし、脚の可動範囲に沿った破綻のない自然な動きに仕上げられるという

収録エリアを拡張し、8人同時収録を実現

Studio TantaのStudio-Cにおけるモーションキャプチャ収録の様子。2期向けに機材の配置を改良することで8人同時収録を実現した

▲収録時の演者の動き(実写部分)と、その動きをリアルタイムのストリーミングで描画しているMotionBuilderのUI。「MBの四分割の画面とOptiTrackのMotiveが同期しており、収録後の確認用動画として利用しています」(新家氏)

▲確認用動画を、毎テイクごとに演技終了後に再生して収録内容のOK/NGを確認している様子

キャプチャデータのブラッシュアップ

マーカー認識の修正例

▲未編集のデータを開いたMotiveのビューポート。右手首のマーカー(青色)の認識が入れ替わっており、本来の演者の角度とは異なった状態になっている

▲編集後。手首のマーカーが正しい状態で認識されている


▲MBのActorBody機能を用いたマーカー情報から演者の動きと体格を再現した参照データ

▲【参照データ】の動きをMB上のパラメータで体格差の補正をせずにキャラクターに割り当てた状態。腕や足の長さなど、演者とキャラモデルに体格差があるため、ポーズや接触部分などにズレが生じている

▲【参照データ】の動きを、MB上のパラメータで体格差の補正を行いキャラクターに割り当てた状態。重心の位置やタッチしている手、ポーズ全体のシルエットが演者に近づけられたことがわかる

ノイズとの戦いとなった楽器演奏のキャプチャ

4話で山田たえ(CV:三石琴乃)が披露するドラムパフォーマンスのキャプチャデータの修正例

▲未編集のデータを開いたMotiveのビューポート。動きや遮蔽物によってマーカー自体が隠れたり、早い動きによってマーカーのトラッキングが外れてしまいアニメーションカーブに欠損が起きている(赤色)ため、Motive上で修正する。また、意図的にドラムセットを黒布等で覆わなかったため、金属質の反射をマーカーの反射と誤認して、Unlabeled Markerとして残ってしまっている(青色)。これらは不要のため、データ処理時に削除する

▲適切に編集し終えた状態


▲Motiveで編集したデータをMBへ読み込み、ActorBodyと使用するキャラモデルを並べたもの。ActorBodyはマーカーデータをキャラのアニメーションソースに変換する中継の役割であり、マーカー情報に合わせて作成するため、演者の体格に寄った作りになる

▲MBのActorBody機能を使用し、マーカー情報から演者の動きと体格を再現した参照画像

▲演者の動きを、MB上のパラメータで体格差の補正をせずキャラクターに割り当てた状態。腕や足の長さなど、演者とキャラモデル側で体格差があるため座っている位置や足の位置(ペダルを踏んでいる部分)などにズレが起きていることがわかる

▲MB上のパラメータで体格差の補正を行いキャラクターに割り当てた状態。座っている位置や足の位置、ポーズ全体のシルエットが演者に近づけられた

<3>プライマリ工程に重点を置いたワークフロー~アニメーション~

追求する"動き"に最適化したワークフローを構築

2期では、アニメーションワークフローを大きく3段階で定義(下表を参照)。まず、レイアウトと呼ばれる工程だ。レイアウトでは、カメラワークやラフモーション(指先を含むシルエット)が作られる。続いては、プライマリと呼ばれる工程。ここでは、モーションのタメツメの調整、フェイシャル・揺れものの動きの作成が行われ、ライティングやラインの調整も行われる。この工程で、完成70%のクオリティを目標にするため、全体のほとんどの工数を使用しているという。最後に、セカンダリと呼ばれる工程だ。ここでは、モーションブラッシュアップ、めり込み修正が行われ、ライト演出や最終ルック調整や素材出しといった、撮影に渡すまでの工程が行われる。ちなみに、ライト演出では楽曲に合わせた明滅のタイミングなどをコンテを基に行なっている。アニメーションはレイアウト~セカンダリまでを同じアニメーターで担当することが多いそうだ。アニメーションは、フル3Dのライブシーンの作業が中心になるが、作画でのライブシーンでも3Dでのレイアウトを用いているため、作業が発生しているとのこと。ライブシーンは50~60カットにもなり、作画用のレイアウトだけでもなかなかに大変だそうだ。

2期では、CG打ちでバーチャルカメラを導入するという新たな試みが行われた。「リモートワークで作業を行なっているスタッフが多いため、境 宗久監督のイメージを共有するために導入しました。2期はカメラが大きく動くカットが多用されていることもあり、具体的にイメージが共有できると現場でも好評です」(黒岩氏)。このバーチャルカメラには、iOSアプリ「VirtuCamera」を使用。同アプリのBlenderアドオンを併用し、境監督には自作したiPhone用のカメラリグを持ってライブシーンのレイアウトを探ってもらった。カメラの動きはそのままBlenderのカメラデータとして使用することができるので、演出がBlenderを触って3D上で作業するという新たな作業スタイルも見えてきたという。そのほかにも、ライブシーンの観客モブ表現では、モブ用のモデルのメッシュの削減の仕方や、アニメーションのバリエーションなど、モブの見せ方の検証を行った上で制作。モブの配置とアニメーションは、ポイントキャッシュをランダムに大量配置するスクリプトと3ds Maxの高機能なパーティクルプラグイン「tyFlow」を併用して作成している。モブのサイリウムには、3ds Maxの「BerconMaps」プラグインのマテリアルを使い、プロシージャルに色指定ができるようにされた。4話のライブシーンでは、8,000人規模のモブを実現させている。

『ゾンビランドサガ リベンジ』 アニメーションワークフロー

▲黒岩氏が作成したアニメーション工程のワークフロー図(一部抜粋)。「2期ということもあり、作品の方向性や最終ルックの調整の仕方は把握していたので、仕様書等で方向性や作画注意事項、NG等を担当者が作業開始する際に伝えてさせていただきました」。一連のチェックバックはShotgunにて行われており、監督・演出リテイクは、ビデオ会議なども利用して適確にイメージが共有されることを心がけているとのこと

バーチャルカメラも利用~CG打ち~

1期よりもライブ会場が広くなった分、カメラが大きく動くカットが増えている。そこで、監督のイメージを具体的に共有するためにCG打ちでは、iOSアプリ「VirtuCamera」も利用されている。本アプリのBlenderアドオン(オープンソース)を利用してライブ会場の背景セットのバーチャルロケハンを行なっているとのこと



  • ▲DJI OsmoとiPhone 12 Proにリグを組み合わせたバーチャルカメラ



  • ▲CG打ちにおけるバーチャルロケハンの様子

▲「VirtuCamera」のUI

▲Blender上の背景セット

▲バーチャルカメラを操作する境 宗久監督

作業内容を明確にする

▲レイアウト作業の例。1話『グッドモーニングリターンズ SAGA』の『REVENGE』歌唱シーン。アニメーターは、MOCAPデータを流し込んだ状態で、絵コンテに沿ってカメラワークを付けていく。併せてポーズ修正もラフに行う


同じカットのプライマリアニメーション作業

▲アニメーターは、動きのタメツメ、フェイシャル、おおまかな揺れもの、ライト位置の調整を行う。最初はポリゴン編集や補助コントローラでの修正を行わず、モーフによるラフな表情付け(目パチ・口パク含む)と、動きのタイミングが決まった50~60%程度の状態で社内チェックに回す

▲修正方針が決まったらカットを詰め、プライマリとして完成度70%を目指す


セカンダリ作業

▲アニメーターは、最終ルックの調整と、カットのブラッシュアップ、落ち影、マスク等の素材出しを行う。3DBGの場合は、背景のレンダリングと、ライト素材の書き出しも行う

▲ライティングは仮で、撮影工程で最終的なライト演出が行われる。ライトは各キャラクターごとに用意されており、カット単位で調整。影付けが少な目の作品のため、固定影のみにすることも多いという。図は、さくらの作画に関する注意事項をまとめた資料。CGキャラクターもこれに基づいた画づくりが施されている

フェイシャルへのこだわり

フェイシャルは、各ストーリーの展開をふまえた上でのキャラクターの心情が表現できているかを意識しているという



  • ▲力いっぱい歌っている表情の例。4話『純情エレクトリックSAGA』より



  • ▲年頃の女の子らしくコロコロと表情を変えたり、仲間と目を合わせて笑ったりと仲の良い様子を込めた例(7話より)



  • ▲新キャラの舞々は、キャラクターデザイナーの深川氏が描いたアタリを基にモーフターゲットが作成された



  • ▲【左画像】を用いた完成カットの例(7話より)

進化したライブ演出

観客のモブは1期よりも大人数になると同時に、より複雑な表現に仕上げられている

▲モブ用モデル。寄り用と引き用の2種類を作成

▲モブの配置とアニメーションは、ポイントキャッシュをランダムに大量配置するスクリプトとtyFlowを併用して作成している



  • ▲1期はサイリウムの色をマテリアルIDで切り替えていたが、2期は色をランダムに割り当てるプラグイン「BerconMaps」(www.ylilammi.com/2013/09/berconmaps)を使用。曲ごとに使用する色の割合は変更されている



  • ▲完成したモブカットの例(4話より)

次ページ:
<4>ビジュアルによって世界観を高める~撮影&2Dワークス~

特集