その斬新な設定とユーモアと情熱あふれるアニメーションが多くの人を魅了した『ゾンビランドサガ』。2期となる本作では、3DCGベースで描かれるライブシーンがさらにハイクオリティに仕上がっている。中核スタッフたちに創意工夫を聞いた。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 275(2021年7月号)からの転載となります。
TEXT_最上真杜
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamda
『ゾンビランドサガ リベンジ』好評放送&配信中!
原作:広報広聴課ゾンビ係
監督:境 宗久、シリーズ構成:村越 繁、キャラクターデザイン:深川可純、総作画監督:崔 ふみひで、桑原幹根、美術監督:大西達朗、色彩設計:佐々木 梓、3DCGディレクター:黒岩あい、撮影監督: 三舟桃子、八木まどか、編集:後藤正浩
制作:MAPPA、製作:ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
zombielandsaga.com
©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
1期の教訓をベースに"歌う"という表現をさらに追求
『ゾンビランドサガ リベンジ』(以下、2期)のCGキャラクター表現については、制作プロダクションであるMAPPA社内を中心に、外部パートナー数社が制作に参加。本作のCG表現は、フランシュシュメンバーのライブパフォーマンスが中心だ。彼女たちの素体モデル(顔、髪、ボディ)は、1期で作成したものをひき続き使用しているが、新たに登場する衣裳や新キャラについてはその都度、新規にモデリングされている。ライブシーンは、3Dで仕上げるものと、3Dレイアウトをベースに作画で仕上げるものの2パターンがあるが、どちらもモーションキャプチャをベースに作業が行われている。
【上段左から】CGIプロデューサー 淡輪雄介氏(MAPPA)、3DCGディレクター 黒岩あい氏(MAPPA)、3DCGサブディレクター 平田千佳氏(MAPPA)、【中段左から】撮影監督 三舟桃子氏(MAPPA)、撮影監督 八木まどか氏(MAPPA)、2Dワークス 小出 南氏(MAPPA)、【下段左から】MOCAPプロデューサー 池口裕児氏(exsa)、左から、MOCAPマネージャー 佐藤純恵氏 MOCAPディレクター 新家勇太氏(exsa)、3DCGモデル・セットアップ 平岡正浩氏(萌)
「舞台となるライブ会場が広くなったことに伴い、ダイナミックなカメラワークや観客モブを見せるカットが増えたりと、3Dの総量が1期と比べて大分増えましたが、良いスタッフに恵まれて助けられています。1期では課題が残った"歌う"という演技をどれだけ追求できるのかをテーマに、目線や眉などのモーフターゲットを増やして、生き生きとしたフェイシャルに仕上げることにこだわっています」と、3DCGディレクターを務める黒岩あい氏。
2期では楽器演奏シーンも新たに登場するため、モーションキャプチャの収録方法やその後のモーションクリーンアップにひと工夫が加えられた。さらに、イメージ共有を円滑にする施策として、CG打ちではバーチャルカメラを導入するといった新たなチャレンジも行われている。「ストーリーを伝える上で必要な感情表現、演技、アニメ的な整合性を保つことを目標に、 不自然なコマや破綻した画を見せないことを意識しています。最終回に向けて、これまでに蓄積してきたことをできるだけ多くのカットに反映できるよう、スタッフ一同で取り組んでいきます」と、CGIプロデューサーの淡輪雄介氏。ファンだけでなく、制作側にも愛されている作品であることが実感できた。
<1>多彩な衣装を適確につくり込む ~キャラクターモデル~
同じ素体を使っていかにして表現を高めるか
ここからは、各工程ごとに具体的な画づくりを紹介する。まずは、キャラクターモデルだ。2期のモデルは基本的に1期のものを継承しているが、新規衣装や、新キャラなど新たに作成するものも多々あった。メインのDCCツールは、1期と同じく3ds MaxとPencil+ 4を使用。新規衣装の作成では、まず衣装の設定が上がって来たらラフモデルの作成を開始。通常は、フランシュシュメンバーの中で最も標準的なプロポーションである主人公の源 さくら(CV:本渡 楓)の体型に合わせてモデリングが行われる。その後、出来上がったモデルを他のメンバーの体型に合わせて作り変えていくというながれだ。ただし、星川リリィ(CV:田中美海)はプロポーションが極端に異なるため、より多くの調整が求められるそうだ。フェイシャル用のモーフターゲットは、1期から引き継ぎつつ、各話で必要となる新たな表情のターゲットを適宜追加している。先述の通り、2期では"歌う"演技をどれだけ生き生きと描けるのかを追求しているため、アニメーターがカットバイでターゲットを作ることもあるそうだ。
7話『マイマイレボリューション SAGA』に登場する楪(ゆずりは)舞々(CV:花澤香菜)は完全新作のモデルだが、こちらの制作はアセットからアニメーションまで幅広く携わっている萌が担当した。「ポリゴンの割りなどは、フランシュシュメンバーに合わせるようにしたのですが、胸がかなり大きなデザインだったので立体として成立させることに苦労しました。ですが、キャラクターデザインの深川(可純)さんに完成したモデルをお見せしたところ、『可愛い』とおっしゃってもらえたので良かったです」と、萌の平岡正浩氏はふり返った。
毎話、新しい衣装が登場
フランシュシュのゾンビ1号こと、源 さくら(CV:本渡 楓)のアイドル衣装D(4話に登場)完成モデル
▲さくら(アイドル衣装D)の設定
▲2期で運用されているPencil+ 4のライン設定
7話限定で登場「楪 舞々」
楪 舞々のアイドル衣装E完成モデル。萌が新規にモデルを作成した
▲ラメ素材部分のマスク素材
▲ラメ素材の部分は、CGでも質感を付けた上で撮影で発光エフェクトが加えられた。なお、マスク素材はアトリビュートで切り替えてレンダリングを行なっている
▲舞々(アイドル衣装E)の設定
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<2>『佐賀事変』MVの経験を活かす~キャラクターリグ&モーションキャプチャ~
<2>『佐賀事変』MVの経験を活かす~キャラクターリグ&モーションキャプチャ~
様々な改良を施してより高度な動きを実現
2期では、萌によって様々なリグの改良が施されている。1期のリグでは、肩や腕のねじりに対する形状破綻やフリップが頻発していたため、ねじり方向への対策を補助ボーンを作成することなどで解消。揺れものは、SpringMagicを使用しつつ、スカートが足にめり込まないように自作スクリプトで制御したり、スカートのフリルの破綻を防いだりと、細かな調整が施された。さらに髪の毛のリグについては、IKとFKを切り替え可能にするなど、アニメーターがより使いやすく、作業に専念するための工夫が凝らされている。フェイシャルについてはブレンドシェイプベースになっているが、眼まわりの制御は、しっかりとリグが作成された。「生きている」と感じさせるために、キャラクターの目線の演技にこだわった結果だ。
モーションキャプチャ(以下、MOCAP)はexsaが担当。exsaが参加したきっかけは、2019年11月に発売されたアルバム『ゾンビランドサガ フランシュシュ The Best』のBlu-rayに収録にされた新曲『佐賀事変』MVのMOCAPを担当したことであり、2期では同作の経験が活かされている。一連の収録は、exsaの系列会社であるStudio Tantaで行われており(システムはOptiTrack)、2期の収録当初は25台のカメラだったが、その後28台に増設されている。MOCAPデータは、MotionBuilder(以下、MB)から3ds MaxでBipedでリギングされたモデルに流し込んで、納品しているとのこと。今回は、2つの挑戦があった。1つ目が同時収録人数。7話の収録では、フランシュシュメンバー7名に、ゲストキャラの舞々を加えた8名の同時収録が行われたが、exsaにとって初めてのことであり、カメラの配置などを工夫して収録範囲を広げるための試行錯誤がなされた。2つ目は、楽器演奏の収録である。4話『純情エレクトリック SAGA』で描かれる山田たえ(CV:三石琴乃)のドラムパフォーマンスの収録では、ドラマーとして活躍する川口千里氏にアクターを務めてもらった。「最大限のパフォーマンスを発揮していただくために、川口さんが日頃使われているドラムセットを持参していただき、反射の誤検知を防止をする布などはあえて付けない状態で収録しました。そのためシンバルなど金属部分から発生するノイズが大量に発生しましたが、スタッフが懸命にノイズの中からスティックやボディのマーカーを抽出してくれました。この作品では、新たなチャレンジをさせていただけて感謝しています」と、MOCAPマネージャーを務めた佐藤純恵氏。
作業効率と表現力を高めたリグの改良
リグの改良は萌が担当した
▲髪の毛のIK/FK切り替え。1期ではIKメインの構造になっていたが、細かい動きに対応できるようアニメーターがIK/FKを切り替えられるようにされた
▲1期のリグでは手首や肩の関節の破綻が大きく、アニメーションの際フレーム単位で調整を入れる必要があったそうだが、2期では破綻しないように組み直された(図中・右)オフセットで細かな調整も可能である
▲スカートやフリルの挙動が脚の動きに合わせて自動で動くようにスクリプトコントローラでプログラムを組み込んでいる(図中・右)これにより、めり込み修正の手間を減らし、脚の可動範囲に沿った破綻のない自然な動きに仕上げられるという
収録エリアを拡張し、8人同時収録を実現
Studio TantaのStudio-Cにおけるモーションキャプチャ収録の様子。2期向けに機材の配置を改良することで8人同時収録を実現した
▲収録時の演者の動き(実写部分)と、その動きをリアルタイムのストリーミングで描画しているMotionBuilderのUI。「MBの四分割の画面とOptiTrackのMotiveが同期しており、収録後の確認用動画として利用しています」(新家氏)
▲確認用動画を、毎テイクごとに演技終了後に再生して収録内容のOK/NGを確認している様子
キャプチャデータのブラッシュアップ
マーカー認識の修正例
▲未編集のデータを開いたMotiveのビューポート。右手首のマーカー(青色)の認識が入れ替わっており、本来の演者の角度とは異なった状態になっている
▲編集後。手首のマーカーが正しい状態で認識されている
▲MBのActorBody機能を用いたマーカー情報から演者の動きと体格を再現した参照データ
▲【参照データ】の動きをMB上のパラメータで体格差の補正をせずにキャラクターに割り当てた状態。腕や足の長さなど、演者とキャラモデルに体格差があるため、ポーズや接触部分などにズレが生じている
▲【参照データ】の動きを、MB上のパラメータで体格差の補正を行いキャラクターに割り当てた状態。重心の位置やタッチしている手、ポーズ全体のシルエットが演者に近づけられたことがわかる
ノイズとの戦いとなった楽器演奏のキャプチャ
4話で山田たえ(CV:三石琴乃)が披露するドラムパフォーマンスのキャプチャデータの修正例
▲未編集のデータを開いたMotiveのビューポート。動きや遮蔽物によってマーカー自体が隠れたり、早い動きによってマーカーのトラッキングが外れてしまいアニメーションカーブに欠損が起きている(赤色)ため、Motive上で修正する。また、意図的にドラムセットを黒布等で覆わなかったため、金属質の反射をマーカーの反射と誤認して、Unlabeled Markerとして残ってしまっている(青色)。これらは不要のため、データ処理時に削除する
▲適切に編集し終えた状態
▲Motiveで編集したデータをMBへ読み込み、ActorBodyと使用するキャラモデルを並べたもの。ActorBodyはマーカーデータをキャラのアニメーションソースに変換する中継の役割であり、マーカー情報に合わせて作成するため、演者の体格に寄った作りになる
▲MBのActorBody機能を使用し、マーカー情報から演者の動きと体格を再現した参照画像
▲演者の動きを、MB上のパラメータで体格差の補正をせずキャラクターに割り当てた状態。腕や足の長さなど、演者とキャラモデル側で体格差があるため座っている位置や足の位置(ペダルを踏んでいる部分)などにズレが起きていることがわかる
▲MB上のパラメータで体格差の補正を行いキャラクターに割り当てた状態。座っている位置や足の位置、ポーズ全体のシルエットが演者に近づけられた
<3>プライマリ工程に重点を置いたワークフロー~アニメーション~
追求する"動き"に最適化したワークフローを構築
2期では、アニメーションワークフローを大きく3段階で定義(下表を参照)。まず、レイアウトと呼ばれる工程だ。レイアウトでは、カメラワークやラフモーション(指先を含むシルエット)が作られる。続いては、プライマリと呼ばれる工程。ここでは、モーションのタメツメの調整、フェイシャル・揺れものの動きの作成が行われ、ライティングやラインの調整も行われる。この工程で、完成70%のクオリティを目標にするため、全体のほとんどの工数を使用しているという。最後に、セカンダリと呼ばれる工程だ。ここでは、モーションブラッシュアップ、めり込み修正が行われ、ライト演出や最終ルック調整や素材出しといった、撮影に渡すまでの工程が行われる。ちなみに、ライト演出では楽曲に合わせた明滅のタイミングなどをコンテを基に行なっている。アニメーションはレイアウト~セカンダリまでを同じアニメーターで担当することが多いそうだ。アニメーションは、フル3Dのライブシーンの作業が中心になるが、作画でのライブシーンでも3Dでのレイアウトを用いているため、作業が発生しているとのこと。ライブシーンは50~60カットにもなり、作画用のレイアウトだけでもなかなかに大変だそうだ。
2期では、CG打ちでバーチャルカメラを導入するという新たな試みが行われた。「リモートワークで作業を行なっているスタッフが多いため、境 宗久監督のイメージを共有するために導入しました。2期はカメラが大きく動くカットが多用されていることもあり、具体的にイメージが共有できると現場でも好評です」(黒岩氏)。このバーチャルカメラには、iOSアプリ「VirtuCamera」を使用。同アプリのBlenderアドオンを併用し、境監督には自作したiPhone用のカメラリグを持ってライブシーンのレイアウトを探ってもらった。カメラの動きはそのままBlenderのカメラデータとして使用することができるので、演出がBlenderを触って3D上で作業するという新たな作業スタイルも見えてきたという。そのほかにも、ライブシーンの観客モブ表現では、モブ用のモデルのメッシュの削減の仕方や、アニメーションのバリエーションなど、モブの見せ方の検証を行った上で制作。モブの配置とアニメーションは、ポイントキャッシュをランダムに大量配置するスクリプトと3ds Maxの高機能なパーティクルプラグイン「tyFlow」を併用して作成している。モブのサイリウムには、3ds Maxの「BerconMaps」プラグインのマテリアルを使い、プロシージャルに色指定ができるようにされた。4話のライブシーンでは、8,000人規模のモブを実現させている。
『ゾンビランドサガ リベンジ』 アニメーションワークフロー
▲黒岩氏が作成したアニメーション工程のワークフロー図(一部抜粋)。「2期ということもあり、作品の方向性や最終ルックの調整の仕方は把握していたので、仕様書等で方向性や作画注意事項、NG等を担当者が作業開始する際に伝えてさせていただきました」。一連のチェックバックはShotgunにて行われており、監督・演出リテイクは、ビデオ会議なども利用して適確にイメージが共有されることを心がけているとのこと
バーチャルカメラも利用~CG打ち~
1期よりもライブ会場が広くなった分、カメラが大きく動くカットが増えている。そこで、監督のイメージを具体的に共有するためにCG打ちでは、iOSアプリ「VirtuCamera」も利用されている。本アプリのBlenderアドオン(オープンソース)を利用してライブ会場の背景セットのバーチャルロケハンを行なっているとのこと
▲「VirtuCamera」のUI
▲Blender上の背景セット
▲バーチャルカメラを操作する境 宗久監督
作業内容を明確にする
▲レイアウト作業の例。1話『グッドモーニングリターンズ SAGA』の『REVENGE』歌唱シーン。アニメーターは、MOCAPデータを流し込んだ状態で、絵コンテに沿ってカメラワークを付けていく。併せてポーズ修正もラフに行う
同じカットのプライマリアニメーション作業
▲アニメーターは、動きのタメツメ、フェイシャル、おおまかな揺れもの、ライト位置の調整を行う。最初はポリゴン編集や補助コントローラでの修正を行わず、モーフによるラフな表情付け(目パチ・口パク含む)と、動きのタイミングが決まった50~60%程度の状態で社内チェックに回す
▲修正方針が決まったらカットを詰め、プライマリとして完成度70%を目指す
セカンダリ作業
▲アニメーターは、最終ルックの調整と、カットのブラッシュアップ、落ち影、マスク等の素材出しを行う。3DBGの場合は、背景のレンダリングと、ライト素材の書き出しも行う
▲ライティングは仮で、撮影工程で最終的なライト演出が行われる。ライトは各キャラクターごとに用意されており、カット単位で調整。影付けが少な目の作品のため、固定影のみにすることも多いという。図は、さくらの作画に関する注意事項をまとめた資料。CGキャラクターもこれに基づいた画づくりが施されている
フェイシャルへのこだわり
フェイシャルは、各ストーリーの展開をふまえた上でのキャラクターの心情が表現できているかを意識しているという
進化したライブ演出
観客のモブは1期よりも大人数になると同時に、より複雑な表現に仕上げられている
▲モブ用モデル。寄り用と引き用の2種類を作成
▲モブの配置とアニメーションは、ポイントキャッシュをランダムに大量配置するスクリプトとtyFlowを併用して作成している
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▲1期はサイリウムの色をマテリアルIDで切り替えていたが、2期は色をランダムに割り当てるプラグイン「BerconMaps」(www.ylilammi.com/2013/09/berconmaps)を使用。曲ごとに使用する色の割合は変更されている
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▲完成したモブカットの例(4話より)
次ページ:
<4>ビジュアルによって世界観を高める~撮影&2Dワークス~
<4>ビジュアルによって世界観を高める~撮影&2Dワークス~
ストーリーテリングに基づく画づくりを実践
2期の撮影では、よりシネマルックにこだわった画づくりが実践されている。制作に先立ち、キャラクターデザインの深川氏から2期の画面設計についての提案を図示した資料が提示された。具体的には、各シーンやカットごとに空気感(明暗やキーカラーなど)を強調したり、映画的な情感を高めた画づくりをしてほしいというものであった。例えば、雨のシーンでは雨もやを出すことで不気味な感じを、陽が差し込むシーンでは光の感じを強くしてドラマチックな演出を強めたりといった具合だ。求められるイメージをすり合わせるため、2期では各話数のシーンにおいて撮影処理を施した「撮影ボード」を作成し、撮影チーム内で適確にイメージを共有することが実践されている。
「新しく出てきたシーンでは、あらかじめ撮影処理の方針を決めておくようにしました。1期を観て、自分ならこうしたいというものもあり、撮影ボードを用いたすり合わせが効果的でした」と、プリプロから4話までの撮影監督を務めた三舟桃子氏はふり返る。三舟氏からバトンを受け継ぎ、5話以降の撮影監督を務める八木まどか氏も「1期よりもクオリティを上げた画づくりをしているので、それが良い結果として出るようにがんばっています」と語る。撮影工程では、作業担当者による撮影フィルタ適用ミスを防ぐため、スクリプトによってシーンに決められた撮影フィルタが自動で適用されるしくみも構築された。これにより、全体のルックを揃えることができているとのこと。
最後に、2Dワークスを紹介したい。2Dワークスは、衣装の柄や小物のパッケージ、作中内の画面デザインなど多種多様なデザインが求められ、一見地味だが、作品の世界観を高める上では欠かせない要職である。内容によっては、デザインをイチから手がけることもある。例えば2期のTV番組用テロップでは、佐賀ローカル局向けテロップは質素なデザインにまとめる一方、全国ネットの番組用テロップでは情報量を増やし、デザインとしても凝ったものに仕上げられた。ほかにも『ゾンビランドサガ』シリーズならではの2Dワークスとして、手書き文字が挙げられる。筆跡は各キャラの個性が具体化されたものと言えるため、1期制作時にMAPPA内でキャラ筆跡担当オーディションが開催され、スタッフの中からそのキャラのイメージに合う筆跡担当が選出された。「手書き文字については、その話数でしか使われないものでも必ず担当の方に書いていただいています」と、2Dワークスを務める小出 南氏。取材を通じて、各セクションで実践されている数多くのチャレンジの根底には、作品への愛情が込められていることをおおいに実感できた。
深川可純氏によるルックの改良案
▲深川氏からルックの改良案例。これらを指針として、よりドラマチックな画づくりが2期では実践されている
撮影ボードの作成
▲2期から「撮影ボード」が作成されている。これは美術ボードにシーンカラーのキャラを合成しフィルタ調整を施したものであり、これを参考に撮影が行われる
▲撮影ボードを参考に撮影された完成カット(8話より)
撮影によるエフェクト表現
▲4話の『目覚めRETURNER(Electric Returner Type "R")』歌唱シーンのフランシュシュメンバーたちの動きに合わせた発光エフェクトは撮影で処理が加えられた
▲FXmasterというテンプレート素材を使用
▲エフェクトとCGキャラを合成した状態。スクリプトAfter3dsmax(after3dsmax.artandgj.com)を使い、腰の位置情報を出力し、エフェクト素材を追従させている
▲発光処理を加えた状態。このシーンはステージが消灯している設定のため、撮影時に暗く落としている
▲発光処理、ライブシーン専用の処理とフィルタを加えた完成形
世界観を高める~2Dワークス~
▲衣装向け2Dワークスの例。2話『ぶっ壊れかけのレディオ SAGA』で描かれる『風の強い日は嫌いか? FranChouChou cover』歌唱シーンの衣装のヒョウ柄は、小出氏が衣装デザインを基に貼り込み素材を作成した
TV番組のテロップは、本作特有の2Dワークスと言える。テロップのデザインでは、ローカルと全国ネットのちがいを意識しているという
3話『愛と青春のアコースティックSAGA』に登場するローカルTV局のテロップ。番組ロゴは実際のものを提供してもらい、作成された
4話に登場する全国ネットのテロップ。某朝のワイドショー・情報番組にインスピレーションを得ている
手書き文字も2Dワークスによるもの。キャラクターごとに手書き文字の担当者をスタッフの中から決めている
カレンダーに書き込まれた、たえを除くフランシュシュメンバー6人の手書き文字。各キャラごとに書き手が定められている(制作スタッフから選抜)
アイアンフリルのパフォーマンスを研究分析する水野 愛(CV:種田梨沙)の手書きメモ