>   >  "かぎりなく実写"な女子高生CGキャラ『Saya』で国内外から注目をあつめるデジタルアーティスト、「TELYUKA」(テルユカ)とは、何者?
"かぎりなく実写"な女子高生CGキャラ『Saya』で国内外から注目をあつめるデジタルアーティスト、「TELYUKA」(テルユカ)とは、何者?

"かぎりなく実写"な女子高生CGキャラ『Saya』で国内外から注目をあつめるデジタルアーティスト、「TELYUKA」(テルユカ)とは、何者?

<2>作家ではなく、職人として腕をみがき続ける

ーー改めて『Saya』についてお聞かせください。日本の女子高生がモチーフとのことですが、このアイデアはどこから浮かんだのでしょう?

晃之:友香にはいつも「あれをつくりたい」というのが明確にあって......。

友香:そして、やりたいことのストックもたくさんあります(笑)!

晃之:もちろん、自分としてもやりたいことがあるのですが、いつも彼女のアイデアが優先されてしまう(笑)。でも、それはそれで面白いんですけどね。自分の感性にないものをつくるというチャレンジが。そんなわけで、『Saya』の「女子高生」というキーワードを出したのも彼女でした。

友香:以前から日本の女の子をリアルなCGでつくってみたかったんです。2人でフォトリアルな人間キャラクター制作に挑戦しはじめたのが4年ほど前だったのですが、そもそも人間を3DCGでフォトリアルに仕上げるって、最高峰に難しいですよね? そこで、まずは手始めにデヴィッド・ギャンディ/David James Gandyさんをリファレンスとして作成した西洋的な男性キャラクターに挑戦しました。ですが、最初のバージョンを発表したときは全然反応がなくて。もう、不気味の谷以下だったよね(苦笑)。

晃之:出来上がったときは、「これならいける!」って、思ったのですが......泥人形だった(笑)。色々と勉強する必要があることを痛感しました。これ(下図)は、改良した2代目ですね。この前にいたのが泥人形がだったという。

限りなく実写の女子高生CGキャラ『Saya』の生みの親、TELYUKAとは?

壁面のテレビに映し出されている男性CGキャラクターが、TELYUKAが最初に取り組んだフォトリアルCGキャラクター。本人たちは「泥人形」だったと謙遜するが、その後にブラッシュアップしたバージョンは3DTotalの"Excellence Award"に選出された

友香:めげずにドンドンつくっていきました。次にチャレンジしたのが、『Courir(クリール)』と名付けた西洋系のお姉さんです。

晃之:このキャラクターもいくつかバージョン(改良)を重ねましたね。

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『Saya』のひとつ前に発表した『Courir』(クリール)。海外のCG系Webメディアからも高く評価された。CGWORLD vol.199の第2特集では、本作のメイキング解説を寄稿していただいたので、そちらもぜひ!

友香:形状は前のバージョンと同じだけど、テクスチャを作り直すことでクオリティを上げたりとかしましたね。これまで2体とも西洋系だったわけですが、ある程度はリアルにつくれたのだからアジア系もできるはずだと、『Saya』にチャレンジしている最中です。実は人間のCGキャラクター制作で一番難しいのが、アジア系の女の子だって言われているんですよ。そこで、日本の女子高生を選んだという。

ーーすばらしいチャレンジ精神です!

友香:女子高生の肌って、すごく透明感があって綺麗なんですよね。それをCGで再現しようとしてもディテールが足りずに、すぐ不気味の谷に落ちちゃうというか......。本当に難しいモチーフなので、試行錯誤の繰り返し。でも、だからこそ実現したかった。少し逸れますが、外国の方が自国のキャラクターをつくるのと、わたしたち日本人がそれ系のキャラクターをつくるのでは、どんなにクオリティを高められたとしても、その国の人が観たら「日本人がつくったな」って思われてしまう面がどうしてもあると思うんですよ。

こうしたツイートからもTELYUKAの職人魂が存分に伝わってくる

ーーこれまでの西洋系キャラに対して、そういった反響があったのでしょうか?

晃之:たしか「ジャパニーズ(の作品)だね」とか、言われなかったっけ? 日本人ぽい(作風)みたいな。そうしたコメントがあった記憶があるのですが、それに対して別の方が「そんなこと言うなよ」と反論してくれて、差別だからって(笑)。でも、自分でも日本人らしさが意識せずとも反映されていると感じることはありますよ。面白いのは、それを突き進めると「自分たち(TELYUKA)らしい」みたいな面に気づかされるというか。

友香:特に表情には、作り手のクセみたいなものが出がちですね。

ーーイラストでも「あの人のキャラクターだ」って、わかりますもんね。フォトリアルなCGキャラにもそうした面があるというのは興味深いです。

友香:どことなく作り手自身と似たものが入り込んでくるんですよね。Sayaにも私たちがこれまでにつくってきた他の作品に相通じるものがあるのかもしれません。

限りなく実写の女子高生CGキャラ『Saya』の生みの親、TELYUKAとは?

ーーぜひお聞きしたかったのですが、実在するモデルはいらっしゃるのですか?

友香:いいえ、存在しません。完全にオリジナル(架空)で、一番難しい日本人の女の子をつくりたかったので。その年頃ならではの可愛さや透明感をイチから創り出そうと。

ーーTELYUKAが考えた、最高峰に可愛い女子高生が『Saya』ということでしょうか?

友香:うーん、可愛い......なんと言うか、ブリブリの可愛さにはしたくなかったんですよ。ちょっと優等生っぽいというか、わたしとしては正統派の美少女を目指しています。実は、当初は様々なデザインを試していたんですよ。

晃之:実際のアイドルの方々も、それぞれに特徴があるじゃないですか? その意味では、完全にオリジナルではあるけど、いろんな女の子の要素をごちゃ混ぜにした結果と言えるかもしれません。その時々で「これが良いかな?」と思った顔を造形しては、まったく別の要素を加えてみたりとか......本当に何十体も、泣きながら作りました。彼女に「可愛くない!」って、ダメ出しをされながら(笑)。

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ーー『Saya』を発表されてから、様々な反響が届いていると思うのですが、改めて現在の心境をお聞かせください。

友香:『Courir』を発表したときもそれなりに反響があったのですが、CG制作現場の方々からのコメントが大半でした。だから、今回もプロの人たちにご評価いただけたら嬉しい、くらいのノリでいたんですよね。

晃之:これを機に、お仕事もらえないかな、的な(笑)。

友香:そうそう。ところが、『Saya』の場合はプロの方よりも一般の方々からの反響がすごくて、しかも世界中からいただいたので......自分たちの予想をはるかに超えたスケールでした。

ーーそれはすごい。

晃之:海外では、リアル系の人間CGキャラクターはコンスタントに発表されていますし、実写VFXになってくるとハリウッドの方がはるかに先を進んでいると日々感じています。それなのに海外からも多くの反響をいただけて、「逆に何で?」と(笑)。もちろん、一般の人の目にとまるとも思っていませんでした。

ーー例えば、どういった感想がありましたか?

友香:本当に色々なものがあって面白いですよ! ありがたいことに、お仕事のお誘いやご提案も数多くいただけています。Sayaを広告に起用したいとか、ユニークなものでは写真集を出しませんかとか。個人的なものでは、海外の富豪と思しき方から「Sayaを買いたい」というオファーをいただいたりも。「いや、買いたいって言われても......」みたいな(笑)。あと、一般の方からの感想では、日本だけでなくアジア圏の方々からも多くのコメントが届いています。「Sayaちゃん可愛い!」に加えて、「(可愛いから)こういうことをやってほしい」とリクエストをいただいたり、「がんばって!」という応援とか。

ーー「がんばって!」というのは、まさにアイドルへのファンレター的なものを感じますね。おふたりとしては、Sayaをプロデュースして、売れっ子にしようといった密かな目標もあったりはしないのですか?

友香:とんでもない! あくまでも自分たちの技術向上を目的とした習作ですから。日本人のティーンエイジャーの女の子という構想は以前から抱いていたわけですが、実際に『Saya』を仕上げることにした直接のきっかけは、「CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンスでメイキング講演をしませんか?」というお話をいただいたからです。「まずい、はやくSayaを仕上げてしまわないと!」的な(笑)。

晃之:"課題"を出されたので、今年の7月ぐらいから慌てて仕上げていきました(笑)。

ーーまさか、そうだったとは(笑)!
※今年で5回目となる「CGWORLD クリエイティブカンファレンス」の各講演は、その多くがデジタル・コンテンツ業界の方々の自発的なアイデアを下に決まっていくものであり、CGWORLD編集部は基本的に関与していない(良い意味で)

限りなく実写の女子高生CGキャラ『Saya』の生みの親、TELYUKAとは?

ーー『Saya』は、今後どのように展開していくのでしょう? 最終的には映像化を目指しているとか。

晃之:はい、Sayaは2~3分くらいの自主制作ムービー用キャラクターの1体としてつくりはじめたものです。ですが、今のところはそれぐらいしか考えていません(笑)。様々なご提案やお誘いをいただいてはいるのですが......。

友香:みなさん、夢が膨らんでいらっしゃるみたいで(汗)。本当にありがたいことなんですけどね。

晃之:とにかく2〜3分の映像化を目標に、ひき続き制作していくつもりです。

ーー映像化も2人(TELYUKA)だけで行なっていく予定ですか?

友香:映像化となると、2人だけでは難しい面が出てくるかもしれません。ですが、今までと変わらず自分たちだけでやってみて、それをご覧になっていただいた方々の反響を下に、新たな展開を考えていければと思っています。

晃之:くり返しですけど、TELYUKAのオリジナルは自分たちの技術向上が目的なので。確かに、作品(キャラクター)が少しずつ増えてはいるのですが、"自分たちは、あくまでも職人"なので。自分たちのキャラクターをコンテンツに仕上げるとなると、プロデューサーやディレクターの存在が不可欠です。彼女にやってくれと言ってるのですが、「イヤだ」って(笑)。

友香:わたしだってつくるので精一杯なんだから(笑)! でも、『Saya』をご覧になっていただいたメーカーさんや代理店さんからのコンタクトも多くいただけています。せっかくの貴重な機会なので、無碍にお断りするわけにもいかず「どうしよう?」と困っていたところ、、、『Courir』制作時からお世話になっているロゴスコープさんにご協力いただけることになったんです。

晃之:『Saya』が手始めになると思うのですが、TELYUKAで挑戦してきたフォトリアルなCGキャラクター制作を、「ヴァーチャル ヒューマン プロジェクト」として、さらなるリアリティを追求していこうと。BT.2020規格※4Kや8Kなど、ITU(国際電気通信連合)が定める次世代の放送規格)に基づいた、360度VRも含めた映像制作をロゴスコープさんと共同で進めています(下記)。

<実験プロジェクトのコンテンツに興味のある方は、下記宛に問い合わせをお願いします>

株式会社ロゴスコープ / Logoscope Ltd.
担当:ジャナック・ビマーニ 博士(メディアデザイン)、研究員、プロデューサー
Janak Bhimani, Ph.D., Researcher, Producer
janak@logoscope.co.jp
kame@logoscope.co.jp


ーー最後に、CG制作に取り組まれている方々へメッセージをお願いします。

晃之:雑草のように生きてきたので、立派なことは言えません(笑)。でも、とにかくつくり続けることなのかな。叩かれたり、イヤなことがあってもつくり続けてさえいれば、何か身につくものがあるはず。必死に山を登ってきて、ふり返ってみたら道ができていたら良いのかなあと。

友香:とにかく、身体を大事にしてください! フリーランスか勤めているかを問わず、みなさん長時間労働だと思うので。

11月22日(日)に文京学院大学(東京都文京区)で開催される「CGWORLD 2015 クリエイティブカンファレンス」では、「フォトリアルキャラクターメイキング」と題し、『Saya』を中心としたメイキング講演が行われるので要チェック!

INTERVIEW_戸崎友莉 / Yuri Tozaki
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota



Profileプロフィール

石川晃之&石川友香/TELYUKA

石川晃之&石川友香/TELYUKA

2011年頃から、フリーランスの夫婦ユニット「TELYUKA(テルユカ)」として活動を開始。2人ともゼネラリストとして、国内外のプロダクションからムービーの制作やキャラクター関連のアセット制作を依頼されることが多く、最近はフォトリアルな作品を中心に活動中。オリジナル作品では、奥様の友香さんがディレクションを、ご主人の晃之(てるゆき)さんが技術面をリードすることが多いという。

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