<3>全ての工程が同時並行という"禁じ手"
本作の演出では、野末ディレクターの下に3人のユニット・ディレクターが立ち、野末氏が掲げたストーリーテリングを具体的な画づくりへと落とし込む役割を担ったという。「今回は彼らに委ねる面が大きかったですね。3人ともプリビズアーティスト出身で、もう10年近い付き合いの中で、どういう作り方、演出理論でやっていくのかを把握しているので、信用 しています」(野末氏)。
そのひとり、三幕構成で描かれる本作の第三幕を担当した山本和仁氏は次の ようにふりかえる。「プリビズは、ストーリー ボードで固めるところもあれば、協力していただいた外部パートナーさ んと一緒に考えながら決めていくなど、様々な アプローチを使い分けていきました」。
プリビズ実制作で中核を担ったのが米The Third Floor(以下、サード・フロア)である。同社は世界最大のプリビズ・スタジオとして知られているが、どのような経緯で参加が決まった のだろうか。「まずはデモリールで目星をつけながら、様々なプロダクションにメールでオファーすることからはじめました。サード・フロアもそのうちの1社だったのですが、2年前のNYコミコンへ参加する際に野末と僕で実際に見学させてもらい、具体的な相談にのっていただいたことが決め手になりましたね」(白石 氏)。「純粋にこれまでに手がけられたプリビ ズのクオリティがハイレベルでしたし、CGの 利点を活かした表現にもなっていたことがポイントでした。本作の物量に対応できる組織 力も重要でしたが、なによりも代表のクリス・エドワーズさんの人柄も大きかったと思います」(野末氏)。サード・フロアは最終的に約4割の プリビズを担当したという(残りは第2BDやプリビズから一括して担当した外部プロダク ションなどで分担)。
© 2016 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
上述のとおり、約50もの外部パートナーと協業することになった本作。最終的な制作の 進め方を確立するまでには様々な試行錯誤が行われた。まず社内でパイロットフィルムが制作され、作品の方向性やテイスト、クオリティが決められ、必要な技術も洗い出された。目指したテイストはどのようなものだったのだろうか。
「どちらかというと従来までのFFらしさよりも新しいことにチャレンジしようという路線で進みました。ゲームとデザイン設定を共有しているものも多いのですが、ゲームシネマティクスとはまったく異なる画づくりを行いました。『キングスグレイブ FFXV』は、(FFXVと共通の)世界観は守るけれど、映画ならではの利点を活かして新しいことにどんどん挑戦していったので、独立したコンテンツとしても楽しんでもらえるものになったと自負しています」(野末氏)。
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そんな外部パートナーはどのように決まっていったのだろうか。「本作ではV-Rayベースの画づくりを行うことを決めていたので、まずはV-Rayに精通しているのかが大きな指針となりました。これがなかなか難しくて(苦笑)、次第にそれに固執せずに、純粋な表現力や自分たちの考えに賛同してもらえるのかが決め手になりました。また、個人 的にはゲームシネマティクスで培ってきたノウハウの下に映画をつくりたかったので、その分野の第一人者たちにぜひ協力してもらいたいという思いもありました」(野末氏)。
そこで、まず白羽の矢が立ったのがDigic Picturesであった。ハンガリーに拠点をかまえる同社 は『アサシンクリード』シリーズをはじめとする数多のハイクオリティなゲームシネマティクスで知られているが、実は参加にあたっては知られざる"縁"もあった。
「共同創立者のアレックス(Rabb Sándor Alex)さんは、元スクウェア USAのメンバーなんですよ。初期の頃から『ぜひ一緒にやりたい』と言ってくれていました」(野末氏)。パートナー探しでは、第2BDのメンバーたちのこれまでのキャリアにも助けられたというが、FFシリーズというIPの存在も大きかったようだ。
「先方に熱烈なFFファン の方がいらっしゃったりすると『絶対この仕事をとってくれ!』と社内で働きかけてくださったり。こちらが修正のお願いをする前に自主的にブラッシュアップしてくださるスタジオさんがいらっしゃったりもしました。恐縮し つつも本当にありがたかったですね」(内藤 哲 チーフ・デベロップメント•マネージャー)。
野末氏をはじめ第2BDメンバーの多くは同社 ヴィジュアルワークス出身者であるが、これま でに培ってきた画づくりを外部パートナーと 実践していく上ではインハウスツールの外部への提供も行われた。「野末の方針の下、必要 に応じてインハウスツールを外部へも提供していたのですが、円滑なデータ受け渡しを行うための新たなツールもどんどん開発しました。蓄積したノウハウを提供してでも、良いものをつくるんだという決意の表れですね」(北川哲 一郎テクニカル・スーパーバイザー)。