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短期連載 第3回<br>バンダイナムコスタジオ アニメーションの流儀<br>ステートマシン環境がワークフローをどう変えるのか

短期連載 第3回
バンダイナムコスタジオ アニメーションの流儀
ステートマシン環境がワークフローをどう変えるのか

従来のワークフロー

<STEP01>アニメーションのアイデア出し

森宗氏も関わってきたBNSの格闘ゲームを例に、従来のアニメーション制作のワークフローを紹介する。ステートマシン環境の場合と同様、まずは企画とアニメーターが相談し、アニメーションのアイデア出しを行う。

格闘ゲームの場合『2体のキャラクターが様々な技をくり出し、互いの体力を削り合う』という基本的な仕様は決まっているため、その仕様に乗せる技の内容、技の数、技の出し方などが議論の中心となる。「格闘ゲームでは、技のアニメーションがレベルデザインに直結します。そのため企画とアニメーター間のアイデア出しは、かなり白熱したものになるのが常です」(森宗氏)。

なお、このような格闘ゲームとは対象的に、昨今のゲームでは、アニメーションとレベルデザインが分離しているゲームも増えている。例えば、マップ上の障害物やアイテムの配置で難易度を調整するゲームの場合、アニメーターはレベルデザインに関与しない。ユーザーの感情を揺さぶり、気持ち良さを提供することがアニメーターの主な役割となる。こういったゲームの方が、ステートマシン環境の導入に適していると中矢氏は語る。


▲【A】∼【C】『ソウルキャリバー』シリーズのキャラクターのデザイン画
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

▲【D】同シリーズの技のアイデアスケッチ/【E】技やポーズのアイデア出しをする森宗氏。キャラクターの性格や武器も考慮に入れつつ、様々な方法でアイデアを形にしていく
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

<STEP02>モデル要件の決定

多くの場合、<STEP01>の時点でキャラクターデザインの大枠は決まっている。しかし技のアイデアを踏まえ、デザインや3Dモデルの要件が変更されることもある。「例えばアイデア出しの段階で、『武器を回転させたい』という提案が出たとします。ところが、武器が回転に対応したデザインになっていない場合には、修正が必要となります」(森宗氏)。一方で、キャラクターの衣装にヒラヒラとした揺れものが付いている場合には、それが映える大ぶりな動きを追加することもあるそうだ。



▲『ソウルキャリバー』シリーズのキャラクター。武器の立体的な形状、衣装の見映えも視野に入れ、モデル要件と技の両方を見直していく
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

<STEP03>アニメーション制作

<STEP01>で出されたアイデアを基に、アニメーションを制作する。格闘ゲームのアニメーションは遷移図にすると単純だが、そこに乗せる技の数は膨大で、その内容がゲームの難易度に大きく影響する。例えば予備動作の大きい蹴りは痛そうに見える反面、攻撃の予測や回避が容易になる。一方で、予備動作の小さい蹴りはリアリティに欠ける反面、回避が難しい。技の内容に加え、発動するタイミングもレベルデザインと密接に関連するため、アニメーターだけで動きの良し悪しを判断できないという難しさがある。


▲『標準君』でアニメーションを制作中の画面。ここでつくったアニメーションデータが、各キャラクターの3Dモデルのリグへとリターゲットされる

<STEP04>テストプレイ

アニメーションデータの実機への組み込みは、基本的に企画が担当する。アニメーターの中には組み込みのやり方を修得している人もいるが、アニメーション制作との兼業は負担が大きく、両方を担うのは現実的ではないという。

技が発動するタイミングは、この段階で企画が設定する。組み込んでみた結果、『リーチが短く相手に当たらない』『動きが地味で見映えがしない』などの不具合が判明し、<STEP01>のアイデア出しからやり直す場合もある。

くり返しになるが、格闘ゲームの場合にはレベルデザインとアニメーションが密接に関連しているため、ワークフローの最後まで企画とアニメーターの協業が続く。このようなタイトルでは、ステートマシン環境ではなく、従来のワークフローの適用が望ましいという。


▲『ソウルキャリバー』シリーズの対戦画面
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

CONCLUSION

BNSでのステートマシン環境導入はまだ日が浅く、対応できるアニメーターの数は限られている。しかし、今後の仕事を支える大切な道具になり得るからこそ、使い手が増えてほしいと両氏は語る。「昨今のインゲームアニメーターは『良い動きをつくれる』だけでは不十分で、『動きによってプレイヤーを楽しませる』ことが期待されています」(中矢氏)。そのためには、ゲーム開発そのものに強い興味をもち、企画やプログラマーとの相互理解に努める姿勢が必要だという。「例えばゲームをプレイするとき、ボタンを連打して連続入力をしてみると、タイトルによって挙動がマチマチなことに気づけます。そこに興味をもち、なぜそうなっているのかを考える習慣を身に付けることが、理解を深める第一歩だと思います」(森宗氏)。

TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田充

Profileプロフィール

バンダイナムコスタジオ/BANDAI NAMCO Studios

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左から、森宗義貴氏、中矢陽一氏

バンダイナムコスタジオ

バンダイナムコスタジオ

バンダイナムコグループの一角を担う、自立型のクリエイター・エンジニア集団。約1,000人の従業員が所属し、家庭用ゲームソフト、業務用ゲーム機、モバイルコンテンツ、PCコンテンツなどの企画・開発・運営を事業の柱としている。『アイドルマスター』、『鉄拳』、『テイルズ オブ』シリーズなど、多様なヒットコンテンツを展開。新タイトルの開発にも力を入れている。アニメーションディレクター、アニメーター、テクニカルアニメーターなど、新戦力を積極的に募集中だ。
http://cgworld.jp/jobs/30385.html

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