<2>誰も目にしたことがない事象をビジュアル化する
本作の全VFXショットは撮影された素材と、フルデジタルで作られた素材の融合によって創り出されており、ショットごとにどのように組み合わせて作るかは緻密に計画されたものである。しかし素材ごとに見ると、ときには単なる撮影実験の結果、良い素材が撮影できた場合もあれば、事前に計画的にデザインした通りにつくられた場合もある。
グラス氏は言う、「常にできる限り私たちは実写による手法を追求しました。本作のために撮影チームはIMAXカメラを手に世界中を回り、ありとあらゆるものを、海の中も含めて全てを撮影しました。衛星や宇宙探査船の映像に頼らなくてはいけないような宇宙のシーンの映像でも、できるかぎり実写を使いましたし、顕微鏡レベルでの撮影でも、また抽象的な模様をつくり出すためのもの、デジタルワークで加工するための元素材としても、膨大な実写撮影を行いました。それでも宇宙のショットに奥ゆきを加えたり、単細胞生物に動きを付けたり、地球から死に絶えた太古の生命体を再生するためにはCGIが必要だったわけです」。
このように宇宙のシーンの合成素材や、抽象的な模様が変化する映像などのために、伝統的なクラウドタンクのような実験的手法も多く使われ、専門の撮影チームが編成された。
「私たちの実験撮影スタジオは、テリーに"スカンクワークス"(※ロッキード・マーティン社の極秘開発部門の呼称に由来する)と名付けられたのですが、指定された特定の現象を目指して撮影する場合もあれば、より実験的なトライアルを繰り返すことで面白い使い方ができる素材が得られる場合もありました。常に目指したものは、有機的で、自然に見えるテクスチャを撮影し、それを使って各ショットにスケール感やクリエイティビティを加えることでした」。
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映画が進むにつれ、宇宙の創生から、原始の地球、生命の誕生へと時が進んでいく。地球上で多くの生命体が生まれ、進化していく様が描かれる。この中で過去に絶滅した生物を何種類か再現しているが、どんな制作過程だったのだろうか。
グラス氏は言う、「過去の生命体を映画に登場させた目的は、派手で見映えのするクリーチャーではなく、今とは異なるあまり馴染みのない形状をもつ、普通の生物をフィーチャーする点にありました。古代生物学者であるジャック・ホーナー博士のような専門家たちからのアドバイスと共に、多くの研究結果を参照することによって、われわれの表現が正確で、その時代の環境下にいるように見えるか確認しながら進めました」。
恐竜の登場シーンについても、これまでの恐竜映画とは異なるアプローチが取られた。「VFXスーパーバイザーのエリック・デ・ボアが率いるMethod Studiosのチームとの協同作業で、あたかもその時代の1コマが目の前に出現したかのような自然なショットを追求しました。例え結果的にほぼ輪郭だけしか見えなかったとしても、まるで現代の動物自然史の映像を見ているかのようにライティングをしています」。
10年という長い映画制作を終えたグラス氏にその制作をふり返ってもらった。
「テリーはこの映画制作を通じて常に寛大な導き手であり、友人であり続けてくれました。この映画制作を通じて私はまだ誰も目にしたことがないものを視覚化する役割でした。人類が見たことのないものを視覚化することに挑むこと、それが私の仕事の全てであり、やりがいだったのです」。
通常の映像制作と異なり、多くの研究成果や論文を解読したり、科学者たちと理解し合ったりという稀有な経験をすることになったグラス氏であるが、その経験はどのようなものだったのだろうか。
「私は数えきれないくらいの研究を行い、実験を重ね、様々な専門家たちと協同作業をしてきました。そしてこのような素晴らしい創造の機会に巡り合えたことは私にとってこれ以上ないほどの特別な経験で、本当に嬉しい気持ちでいっぱいです。このプロジェクトに私はほぼ10年という歳月を費やしましたが、今思い返してみても、作品そのものが永遠とか無限をテーマとするものであったということと合わせて考えると、10年の中でたくさんの出来事があった、というよりも、全ての経験の集合体こそが私にとって特別な思い出なのだなと感じられます」。
アイスランドで行われたロケ撮影の様子
「本作は真の意味で、素晴らしい色域をもったドルビーHDRでマスタリングされた最初の映画になりました。色々な探査シーンや繊細なディテールの表現に多くのショットが割かれているため、今日の他の映画に比べるとVFXショット数は300から400とそれほど多くはありません。しかし1つ1つのフレームに費やされた時間と労力は決して少なくはありません。8年以上の間、何十人ものデジタルアーティストをはじめとするスタッフたちがずっと献身的に働き、様々なかたちで手を加えてくれたおかげで、本作の映像は極めて豊かなものになったのだと思います」。
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作品情報
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映画『ボヤージュ・オブ・タイム』
2017年3月10日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
監督:テレンス・マリック
製作:ブラッド・ピット、ジャック・ペラン
VFXスーパーバイザー・協力プロデューサー:ダン・グラス
VFX制作:One Of Us、Method Studios、Double Negative、Prime FocusLook FXほか
配給:ギャガ
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