<2>周到な準備と機転を利かせた現場対応〜パフォーマンスキャプチャ/アニメーション〜
スカウティングに基づいた「アクションライン」を用意し、万全の体制でパフォーマンスキャプチャに臨んだという本作。アクションシーンの収録では「ビデオコンテ」をできるだけ忠実に再現することを目指すなど、生身の演技を最大限CGアニメーションに継承することが徹底された。
綿密な事前準備があってこそ柔軟な現場対応が可能になる
坂本知万Senior Animation SVがプロジェクトに合流したのは2015年12月。まずは、フェイシャルアニメーションツールの検証からはじめたという。FacewareとDynamixyzの比較を行なった際、一長一短あったのだがMayaでの作業スピードを重視したということもあり最終的に『キャプテンハーロック』でも導入していたFacewareの採用に至った。パフォーマンスキャプチャ(以下、PCAP)ならびにキャプチャデータのクリーンアップはダイナモピクチャーズが一括して担当。収録は、2016年1月末に外国人キャストに来日してもらい実施された。収録は10日間にわたり、うち6日がドラマシーン、残りの4日がフェイシャルを伴わないアクションシーンの収録に充てられた(トータル368シュート)。スケジュールも過密だったが、坂本氏はキャプチャ現場の経験を活かし、収録香盤の作成するなどしっかりとスケジューリング対応したという。そして辻本監督の豊富な現場経験によって非常にスムーズに収録を終えたそうだ。「私がスクリプター的な役回りをしていて手一杯だったことから、アクション監督の園村さんには善意で助監督的な役回りも担っていただき本当に感謝しています」。収録前に「アクションライン」(Mayaでの配置設定情報)を作成し大道具小道具の準備をサポート、背景の配置情報も綿密に計測しアクターの誘導ラインなどの設置を徹底的に行い、さらにはモーションデータの修正コストを減らすため猫背やなで肩にはかなり気を遣ったそうだ。「収録前にデー タのルールを徹底しましたね。MotionBuilderのイニシャライズの際肩の上がりや、歩いたときの足の曲がりや首の移動値にはかなり気を遣いました」。ダイナモピクチャーズとの密な連係によって収録されたデータをほぼそのまま使うことができるという確かな恩恵があったそうだ。
アクションパートについてもほぼ全てのアクションをキャプチャを実施。部分部分のモーションクリップをつないで1つのアクションにするなど様々な工夫がとられた。ドラマパートはPCAPだが、アクションパートのフェイシャルはプリビズ動画を見ながら別の収録を行なったという。またフェイシャル用のカメラはFaceware純正のカメラを4台を使い収録を行なったのだが、4人以上の同時収録の場合は収録を分けて対応。キャプチャを行う際、顔と身体はタイムコードで同期を取るのだが、長時間収録を行う際にはインハウスツールの対応が後から必要にもなったという(マーザのTDに補足するプログラムを書いてもらうことで対応したとのこと)。
フェイシャルツールの検証
初期に行われたFacewareとDynamixyzの性能検証より
完全オートでまずはどの程度のトラッキング精度が出るかをチェック
-
任意のフレームを手動でマーキングし精度の向上に要する時間を計測。操作性の良し悪しでちがいが出たというが、慣れたら差は縮まるだろうという結論に達した
-
最後にキャラクターにリターゲットし、求めるクオリティが出るまでの時間を算出
「リターゲットは『キャプテンハーロック』のときに経験があったことに加え、Facewareの方がシンプルな操作手順のため、スピードに差が生じましたが、リターゲットの時点でかかった時間はトータルで同程度で、クオリティに関しては得手不得手がそれぞれあるなと思いました」(坂本氏)。どちらも定評あるツールだが、つまるところ習熟度や使い手の好みに依るところが大きい
収録の様子
IMAGICA品川プロダクションセンターで行われたパフォーマンスキャプチャ収録の様子
-
事前にダイナモピクチャーズへ提出した大道具の配置図。ヒューマンエラーが極力生じないように、グリッドの1マスが100cmになるようにルール付けされてある
-
平面図だけでは配置がわかりにくい可能性があるシーンでは、役者や大道具などの相関を示した画像も用意された
キャプチャ精度を高めるために
収録時のビデオアウト
ダイナモピクチャーズから納品されたクリーンアップ後のアニメーション。収録したビデオとキャプチャデータはタイムコード(TC)による共通化が図られたが、マーザのインハウスツールでは、TCをフレームに変換する際に5桁以上には対応していなかったため、後日TDによって改良プログラムが作成された(図は改良後)。「事前にお渡ししたステージ(BG)のデータも配置した状態で納品してもらいました。レイアウト作業時に問題があれば、MotionBuilder上で解決した上でパイプラインに乗せます。ファイル名でsequence、shotを、シーン内のprefixでキャラクター、propを判別し、自動でMayaのリグ(eST)のアニメーションに変換されたデータが出荷されるしくみを用意しました。なお収録時は、コンテ上の複数ショットを一連で録っているので正規のショットではなく、レイアウト向けの一時的なショットとして出荷されます」(坂本氏)
アニメーション工程によるブラッシュアップ例
修正前
修正後
ボディとフェイシャルを同時に収録したショットについては、図のように軽微の修正で済んだという。「画面に映っている場合は、指のアニメートや目線の調整も必須で行なったほか、効果がありそうな箇所のみ発音に合わせて舌を動かすように指示を出させてもらいました。進行に応じて、担当アニメーターさんが自発的にそうしたブラッシュアップを施してくれたりもしています」(坂本氏)