>   >  「災い転じて福と成す。」画龍・早野海兵が四半世紀にわたって、トップシーンで活躍し続けられる"理由"とは?
「災い転じて福と成す。」画龍・早野海兵が四半世紀にわたって、トップシーンで活躍し続けられる"理由"とは?

「災い転じて福と成す。」画龍・早野海兵が四半世紀にわたって、トップシーンで活躍し続けられる"理由"とは?

<4>デザインとしてのCG、そして後身の育成

CGW:海兵さんが会長になられた頃から、画龍では「デザインとしてのCG」をより前面に打ち出されるようになったと感じてます。

早野:個人としては活動当初からデザインを含めて担当させていただくようにしてきたわけですが、デザインから手がけるCGプロダクションがまだ少なかったため、積極的に手を挙げるようにしました。先ほどお話しした『リング・オブ・ガンダム』もそうした案件のひとつですね。そのほかにもゲーム『バイナリー ドメイン』(2010)のコンセプトデザイン、毎年サッカー日本代表のオフィシャルスーツを提供しているダンヒルが2012年に企画した「ロボティックスーツ」のデザイン、資生堂でヘア&メーキャップアーティストとしてご活躍中の原田 忠さんが漫画『テラフォーマーズ』とコラボレーションした『原田忠×TERAFORMARS』(2015)では「ミシェル・K・デイヴス」の3DCGを担当させていただいたり......。

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  • ミシェル・K・デイヴス
    『原田忠×TERAFORMARS』(2015)
    Hair & Make up & Creative Direction:TADASHI HARADA(SHISEIDO)
    Photo:TORU KOIKE(buffo piazza)
    Digital Operation:ERI KATO
    Styling:TSUYOSHI TAKAHASHI(N・E・W)
    Costume Direction:SAORI TSUJI
    3DCG:KAIHEI HAYANO (GARYU)
    Coordination:HIROTATSU KISHI(SHISEIDO PROFESSIONAL)


CGW:錚々たる顔ぶれですが、いわゆるデジタルコンテンツ産業だけでなく、異業種とのコラボレーションを多数手がけていらっしゃるのが興味深いです。

早野:不思議と、CG・VFX業界以外からのお仕事の方が多いんですよ。また、当社の規模では長尺の映像をつくりきることはできませんので、いわゆるエンタメ系のお仕事の場合は、画龍がデザインやキービジュアルを担当させていただき本制作は外部パートナーさんにお願いするというやり方も良いのかなと感じています。

CGW:なるほど。

早野:このスタイルではまったのがミュージックビデオ(MV)の制作です。MVは長い歴史がありますが、アーティストのイメージに合わせたファンタジックな世界観を描くには3DCGが最適なんです。ツールや技術の進化によって3DCGを積極的に使えるようになってきたこもあり、画龍のお仕事では現在一番多いかもしれません。

CGW:なるほど。

早野:仕事の効率だけを考えればCMの方が短尺ですし、予算も多くあります。ですが、MVはアーティスティックな画づくりをより積極的に求められるので、デジタルアーティストとしてのやりがいも大きいです。携わったMVのYouTube再生回数が1億回を突破したときとかは格別の思いがありますよ。

三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE『J.S.B. LOVE』MV
本作の背景美術のデザインと3DCGワークを画龍が手がけた


CGW:以前だったら、セットを組んだり大道具を制作するのが定番だったと思うのですが、3DCGベースで世界観を表現できるようになっているというのは興味深いです。

早野:そう言えば先ほどご紹介した資生堂の案件には面白いエピソードがあるんです。当時、Kindleによる自費出版が注目をあつめ始めていたので、自分も『ARTWORK KAIHEI』という画集を出版したのです。数冊しか売れなかったのですが(苦笑)、そのうちの1冊を購入してくださったのがほかでもない資生堂のトップヘア&メーキャップアーティストの原田様でした! 掲載されていた作品に興味をもっていただいたことから交流がはじまったんですよね。



CGW:それは素敵です!

早野:昨年もセイコーさんの本社移転に伴う、エントランスのシンボルとなる世界時計「Seiko Space Eye」のデザインを手がけさせていただきました。実制作はその筋の専門家さんに委ねるわけですが、エンタメの分野で培ってきた画づくりが異業種の方とのコラボレーションに活かせるというのはありがたいことです。最近ではAIやディープラーニングが注目をあつめていますが、いつの日かCG制作が全自動化されるときが訪れても、人間しか成し得ないデザインを創り出すことで生き残れるようにしたいですね。

『Seiko Space Eye』ダイジェストムービー

CGW:ここぜひお聞きしたいのですが、早野さんにとってデザインとは何でしょうか?

早野コミュニケーションですね。デザインって何かしら、観る人の心を動かすことじゃないですか。それってつくり手と受け手のコミュニケーションということなんです。観る人の気持ちは関係なくて、自分の思いさえ表現できればOKというのは、アートとしては成立するかもしれませんが、デザインではありません。それはクライアント様にとってはもちろんのこと、エンドユーザーとのコミュニケーションを意識することもかかせまん。

CGW:近年では若手の育成にも力を入れていらっしゃいますね。

早野:CGWORLDの連載ソースなどを活かしながら、教育に特化したかたちで横展開していったところ、様々なお誘いをいただけるようになりました。特にこの1〜2年は学校関係からの引き合いが多くて、毎月のように全国の美大や専門学校で講演やセミナーを行なっています。

CGW:CGWORLDの連載だけでも大変だと思うのですが、幅広く精力的に活動されていらして驚きます。

早野:実はこうした取り組みは、これまでずっと断ってきたんですよ。というのもフリーランスに成り立ての頃、同様のお声がけが続いたことがありまして、調子にのって引き受けすぎた結果、体調を崩したことがあったんです。ですが、先ほどお話ししたように後進の育成にも力を注ぐべきときがおとずれたのだと考えを改めました。画龍だけでなく、デジタルコンテンツ業界全体のことを考えて少しでも還元したいと。正直、もっと早く取り組んでおけば良かったと後悔するところもあります。

CGW:最近ではデジタルハリウッドで講座も受けもたれていらっしゃいますよね。実際に教えてみて、いかがですか?

早野:セミナーや講演とちがって、教える・教わるの関係性をじっくりと育めるのが良いですね。単発の講演では、どうしても一方通行になってしまって「参加してくださった方々の身になっているのだろうか」「技術の自慢をしているだけではないのか」という葛藤があったので......。ありがたいことにデジハリさんでの短期集中講座はリピーターの方が多く、そうした反響もあって今年4月から1年間の専科「画龍・早野海兵監修 3dsMax クリエイター専攻」も担当させていただくことになりました。

CGW:確かな手応えを感じられていらっしゃるようですね。

早野:今は教育に心が傾いています。もっと20代の若手が前に出ていけるような環境を応援できれば良いなと。30代でキャリアに悩む人が増えてくるという話をしましたが、40代になってから後身の育成についても考えるようになりました。もちろんデジタルアーティストとしても、創り続けていきますよ。そもそもCGアートを描くのは自分のライフワークですからね。

CGW:受講生はどのような方が多いのでしょうか?

早野:デジハリの短期集中講座ではフリーランスや少数精鋭のチームで活動されている方が多いですね。目の前の仕事に集中するあまり、ルーチンワークになってしまって、新しい技術もわからないといった悩みが動機の方が多いようにも感じます。多くの方とお話させていただくなかで、3DCG制作に求められる様々な技能のうち、ある一分野しかこなせていない自分に悩みを抱かれている方々の存在も見えてきました。通常の講演やセミナーでは、高校生からシニアまで幅広い方にご参加いただいています。

CGW:歯車とまでは言いませんが、大規模な案件ほど個々のアーティストの担当領域が特化されがちですよね。表現や技術の高度化、複雑化の弊害だと思います。

早野:そうした経緯もあって、"1人で作品をつくる楽しさ"を知ってほしいんです。分業制は効率的ですが、どうしても作業をこなす的な意識に陥りがちになってしまい、CG本来の楽しさを忘れがちです。みんな「CGって楽しそう」と思って業界に入ってくるはずなんですよ。そうした気持ちをずっと抱き続けてほしいんですよね。

CGW:これから新たに挑戦してみたいことはございますか?

早野:話が逸れるかもしれませんが、まったく無駄なことって、そうそうなくて、何かがどこかでつながったりするじゃないですか? 自分の場合は秘境が好きで、イースター島やアメリカのグランドサークルなど、いろんなところに行って、風景写真やビデオを撮り貯めてきました。実は韓国人アーティスト・テミン(TAEMIN)の日本デビュー曲『さよならひとり』MVの制作では、そうした写真素材を組み合わせてコンセプトアートを描いたところ、先方から喜んでいただき、本編にも採用されたんです。

テミン(TAEMIN) - 『さよならひとり』 MUSIC VIDEO(Full Version)

CGW:趣味だった秘境の風景撮影を仕事にも活かせたわけですね。

早野:そのとおりです。おかげでとても楽しい案件になりましたね。だから、若い人たちにも「今はダメでも、自分の中で蓄積したものが、いつか必ず役立つから」と機会をみつけては話すようにしています。ねらって、成果につなげられるのは素晴らしいことだと思いますが、CGにかぎらず創作活動を楽しい思う気持ちを忘れずに、とりあえず自分で行動してみることが大切。私もひき続きいろんなことに挑戦していきたいですね。

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Profileプロフィール

早野海兵/Kaihei Hayano(画龍/Garyu)

早野海兵/Kaihei Hayano(画龍/Garyu)

株式会社画龍 代表取締役会長。CGゼネラリスト・アートディレクター・デザイナー。日本大学芸術学部卒後、ソニーミュージックエンタテインメント、リンクス(現IMAGICA)、ソニーコンピューターエンタテインメントを経て独立。フリーランスとして活動した後、2007年に株式会社画龍を設立。月刊「CGWORLD +digital video」誌にて「画龍点睛」連載中。講演やセミナーをはじめ、後進の育成にも熱心に取り組んでいる。

「早野海兵」公式サイト
kaihei.strikingly.com
「画龍」公式サイト
www.ga-ryu.co.jp

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