<2>あえて具体的なビジュアルの指針は定めず、相手に合わせた"言葉"で根気よく伝えていく
ーー萩原監督は普段のCM制作でもVFXをよく使われるのですか?
萩原:いいえ。ここまで多用した作品はやったことがありませんね。僕がやるCMって、ドラマ的なものが多いので。
ーー今回の経験はいかがでしたか?
萩原:面白かったですよ。大の大人が集まって「赫子はこうじゃない」とか、小学生の男子が夢中で話すみたいな(笑)。そういう作業がすごく幸せだなと。
桑原:デザインからショットワークまで。各工程で必ず萩原監督も意見を出してくれたんです。アニメーションチェックも毎週のようにここ(ビジュアルマントウキョー)に通ってくれて、みんなで意見を出し合ってつくっていった。やっぱり監督がCGを吸収して良くしようとする姿勢がね、画面として結果に出てると思うんですよ。
© 2017「東京喰種」製作委員会 © 石田スイ/集英社
ーーわからなくて無邪気に現場をかき乱すこともあるわけですが、そこは上手く対処できてると。
桑原:そうですね。監督チェックはいつも楽しかったですよ。
萩原:最初に言った「気持ち悪さ7:美しさ3」みたいなものが自分の中であったから、どうしたらそこに近づいていくのか。その軸があったから、全然そこに向かって進んでいけたんだと思います。
桑原:そこについては萩原監督の中で決してブレないものがあって、気持ち悪すぎでもダメ、気持ち悪さが足りな過ぎてもダメ。美しさも入れなければならないので、試行錯誤を重ねましたね。その中で僕なりのテーマもあって、赫子って自分の身を削って出しているイメージがあったので、苦しみながら出しているような痛々しさも織り込みました。肉が裂けて大きくなったりとか、裂けている箇所も肉々しくしたりとか。何となく、途中から「気持ち悪さ6:美しさ2:痛々しさ2のバランス」でやっていましたね。
ーー失礼ながら、CMディレクターの撮る映画は往々にしてスタイリッシュになりすぎるという印象があるのですが、この作品にはそうしたものがないんですよね。
萩原:自分もそういう映画を観て面白くないなと思ってたので、その辺は考えましたね。
一同:(笑)。
萩原:ただ、原作が人気の理由のひとつとして、やっぱり絵が美しいというのがある。表紙だけ水彩画っぽかったりとか、そういうトーンみたいなものは映像でも全体として表現したいなと。だからそれを最低限踏襲しつつ、スタイリッシュになりすぎないというのは意識しました。
ーー映画を撮るにあたって、リファレンスになった作品などは何かありますか。
萩原:それはけっこう言われたんですよ、プロデューサーから「こういう映画みたいにしたい」といった指針を示した方が良いんじゃないかって。だけど、頑なにやらなかった。それをやってしまうと、模倣になっちゃうじゃないですか。もちろん好きな映画はたくさんあるし、ティム・バートンの作品は大好きだったりもするのですが、具体的な作品に引っ張られすぎると、新しいものにはならないと思ったので、ゼロからどんなアプローチをしたらいいのかを、ずっと考えてましたね。
ーーシナリオだったり、そのシーンが求めているものをスタッフがどう捉えるか、ですよね。
萩原:だから、ビジュアルではなく、言葉で伝えようとしました。例えば美術的なことで言えば、カネキが喰種になる前と後で世界観を変えたい。喰種になる前は色を失くしたいって言ったんですよ。本質が見えてないからすごくクリーンな世界にして、喰種になって街にと出てからは世界が色づいてくる。美しさと毒々しさが色づく感じにしたくて。だからあんていくのセットは、喫茶店なので木目っぽくて暖色になりがちなところを、あえて色を落としてもらって白っぽいルックに仕上げています。
主人公カネキ役の窪田正孝に、演技指導をする萩原監督
ーーたしかに前半はグレーというか、低彩度の色合いで描かれますね。
萩原:喫茶店「あんていく」の中も、実はカネキが喰種の悲しみを知る前と後で色味がちがって、喰種のことを知ってからのシーンは温かみを感じるライティングにしてるんです。カネキの視点でビジュアルはつくっていきました。でも自分の中で最初からこういう色にしたいとか、こういう世界にしたいというビジュアルが思い浮かんでいたわけではなく、その軸としてカネキが喰種のことを偏見の的として見ているときは、あんていくも怖い印象にしたい。その中でどういうビジュアルがベストなのかをグレーディング工程で探っていった感じですね。
ーー色味に関しては撮影や照明ではなく、グレーディングで調整していくかたちだったのですか?
萩原:けっこうやりました。実はグレーディングは日本人ではなく、オーストラリア人のカラリストにお願いしました。海外アーティストのセンスが反映されることで、当初からのコンセプトであった「観たことのない映画」に近づけらないかと。
ーー音楽や音響についても、ハリウッドでも活躍する一流スタッフを起用していますね。こちらも監督の発案ですか?
萩原:そうです。CM業界だと当たり前というか、海外のスタッフにも日常的に参加してもらっているんです。音楽の場合、僕はいつもドイツでつくってもらったりとか、効果音をカナダでやってもらったりとか、キャメラマンを海外から呼ぶ場合もあります。僕がアメリカのアートカレッジで映画製作を学んでいたこともあって、海外のアーティストと制作することをごく自然に行なっています。
ーー映画のようなエンタメの現場であっても、(日本人は)海外スタッフと組むと変に身がまえてしまいがちなので興味深いです。
萩原:日本人が撮る東京って、カッコいい画にならない印象がずっとあって。海外の人が東京を撮ると良いじゃないですか、『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)とか。カネキが喰種になって、世界が変わって見えるということをなんとしても映像で表現したかった。僕らが思い描く東京にしたくなかったんです。
© 2017「東京喰種」製作委員会 © 石田スイ/集英社
桑原:VFX制作でも同様の試みをしています。赫子のキーとなるアニメーションについては、TOYBOXというニュージーランドのVFXスタジオにリギングと合わせてお願いしました。以前にCM案件でコラボレーションしたことがあったスタジオですが、日本人にはない感覚を込めてもらう事で想像していなかったアニメーションも出てきて、その後の作業でもとても役立ちました。
© 2017「東京喰種」製作委員会 © 石田スイ/集英社
ーー今日はありがとうございました。作品そのものはもちろん、制作スタイル自体も既成概念にとらわれない様々な試みが実践されたことがよくわかりました。多くの人に劇場で観てもらえることを願っています!
© 2017「東京喰種」製作委員会 © 石田スイ/集英社
作品情報
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映画『東京喰種 トーキョーグール』
7月29日(土)世界公開
原作:石田スイ「東京喰種 トーキョーグール」(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
監督:萩原健太郎
脚本:楠野一郎
音楽:ドン・デイヴィス
主題歌:illion「BANKA」(WARNER MUSIC JAPAN)
撮影:唐沢 悟
照明:木村匡博
美術:原田恭明
装飾:三浦伸一
アクション監督:横山 誠
VFXスーパーバイザー:桑原雅志(ビジュアルマントウキョー)
特殊造型・デザイン:百武 朋
コスチュームデザイン:森川マサノリ(CHRISTIAN DADA)
サウンドデザイン:浅梨なおこ
特殊音響効果:ニコラス・ベッカー
録音:渡辺寛志
制作プロダクション:ギークサイト
企画・配給:松竹
出演:窪田正孝/清水富美加/鈴木伸之/桜田ひより/蒼井 優/大泉 洋
© 2017「東京喰種」製作委員会 © 石田スイ/集英社
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