>   >  まるで実写! リアルなCG美女を追求するクリエイターが海外へ挑戦するまでのキャリアアップと仕事スタイルとは
まるで実写! リアルなCG美女を追求するクリエイターが海外へ挑戦するまでのキャリアアップと仕事スタイルとは

まるで実写! リアルなCG美女を追求するクリエイターが海外へ挑戦するまでのキャリアアップと仕事スタイルとは

<2>助け、助けられ 周囲との繋がりとリスペクトがキャリアパスをつくる

――次の転機はどんなタイミングでしたか?

やはり、DFを辞めたときですね。有給を消化しつつゲーム会社の求人に応募していたのですがなかなか上手く決まらず、そんなときにFacebookに自主制作したキャラクターを載せていたら、それを見たDFの同期がオムニバス・ジャパンに紹介してくれたんです。ここは僕を含めてフリーランスとして在籍する人が多いのですが、そこでフリーランスの方々からいろいろな仕事を紹介してもらい、様々な経験をさせていただきました。あるミュージックビデオではキャラクターモデルだけではなく映像全てをまかせていただく機会にも恵まれました。

ただ、もう少しスキルアップしないとフリーランスではやっていけないと思って、そこでModelingCafeを紹介してもらい、フリーランスとして入りました。ModelingCafeはモデリングに特化した少数精鋭のスペシャリスト集団。そこでも刺激を受けつつ、寝る間を削ってどんどんスキルを上げていきました。そんなとき、スクウェア・エニックス(以下、スクエニ)の『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』の仕事が会社に舞い込んで、ModelingCafeから出向できるという話になり、僕はそこですぐに手を挙げたんです。

『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』(2016)

――『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』はどんな現場でしたか?

スクエニのチームは精鋭ぞろいで個々の技術もすごかったのですが、何よりチームワークの力を思い知らされました。キャラクターCGというものは1人でもつくることはできますが、チームで動くと情報収集とその共有も効率的に行えますし、個人のスキルアップというよりも、チームとして向上していく感じです。それにここで世界向けにつくる作品のクオリティに触れることができた経験も大きかったです。お金と期間のかけ方もちがいましたし、キャラクター1体に求められるクオリティとそれにかける時間もそれまでとは別次元でした。この作品で海外が視野に入りましたね。

この頃は、出向でスクエニに行って、帰ってきてModelingCafeに戻って仕事をして、家に帰らずにそのままスクエニに行くという日々を3ヶ月くらいくり返していました。たぶん人生の中で一番働いた時期だったと思います(笑)。それでスクエニでの経験からこのまま自分のスキルを上げたとしても結局は個の力であって、チームの力には勝てないと考えModelingCafeでリーダーを、社員になってからはスーパーバイザーをやるようになったんです。

――リーダーの立場になってみていかがでしたか?

個人のスキルは上がっていった感覚があったのですが、リーダーとしての仕事をきちんとまっとうできたかどうかわかりません。リーダーは自分のものをつくりつつ、下の子たちのチェックをしてクオリティのサポートをしていくのですが、そこで多くを求めすぎてしまって。実際は言いませんでしたが「できないんだったら泊まってでも仕上げろ」と思っていたのが態度として出てしまったのか伝え方が下手だったのか、合わない人とは徹底的に合わなくて、ずいぶん反発もありました。チームとして動かしたいのに上手く機能しないという理想と現実の葛藤に苦労しましたね。

――仕事をまるっきり離れた趣味というものはおもちですか? それともつい仕事脳で見てしまいますか?

フリーランスのときも会社員のときもそうでしたが、働こうと思ったら一週間ずっと働けていたので、そうならないよう日曜日だけは必ず休むようにしていました。CGのことは頭から離して、ラフティングなどのアクティビティで体を動かすことをしようと心がけています。出かけないと偶然の出会いも起きないので、これは意外と大切なことなのではと思います。

――今までの仕事をふり返って、ご自身として特に大きなことを成し遂げたと思えるものは何ですか?

2015年に担当させてもらったトヨタのCM『PRIUS! IMPOSSIBLE GIRLS』ですね。これで初めてCGディレクターに近いことをやらせてもらって、キャラクターのデザインを3Dにして、どういう感じに見せるのかを監督とやり取りをして、簡単なセットアップやアニメーション、コンポジットまでやりました。クオリティ的にもスケジュール的にも納得がいく、理想的な仕事ができたと思います。このときはCMだったので小規模で、監督も柔軟な方だったので上手くできたのですが、あとはこれをいかに拡大していくかですね。

――やはりその先には映画などの大きなプロジェクトを考えられているんですね。

はい。実は海外を目指そうと思って、来週から(※取材時)カナダのバンクーバーに行くんです。一応、何社かSkypeで面談も行なっているのですが、まだ結果待ちの段階で。それ以外はまだ何も決まっていないのですが、とりあえず向こうの人に会って会社を見学させてもらうなどして、6ヶ月間を全て使って向こうで仕事を探そうかと。どこかしら引っかかるんじゃないかと甘いことを考えています(笑)。

――すごい行動力ですが、それを決断したのはどんな理由から?

きっかけはいろいろあるのですが、ひとつは今年父を亡くしたことです。父は海外で働いていた人間だったので「海外を回るのは良いぞ」とずっと言っていて。父は60代で亡くなったので、自分が今30歳ですから折り返し地点だな、という意識になり、だったら何も考えずに一度行ってみようかなと。それは後々キャリアアップやスキルアップに繋がると思いますし。

以前は30代になったら管理職に就いて、ある程度落ち着くのかなと思っていたのですが、まだ物足りないという気持ちが湧いてきました。そう思えたのは北田栄二さんをはじめとして海外経験のある方が運よく周りにいて、応援やアドバイスをいただけたからです。嬉しいことに「もしダメだったら戻って来ても良いよ」と言ってもらえたので、失うものはないかなと思って、そこから海外を目指す上で自主制作を表に出すようにしました。この水着美女CGもその一環です。今考えると就職活動にはふさわしくないテーマかもしれませんが(笑)。

――この先に向けての準備や勉強としてはどんなことをしていますか?

学生時代から尻を叩かれないと頑張れないタイプというのが変わっていなくて、今回も何も決まっていない中カナダに行くので、最後に帳尻を合わせるために頑張るというのが自分のスタイルです。きっとずいぶん凹むことになると思いますよ(笑)。

――最後に、これからアーティストを目指している方や若いクリエイターに向けて松井さんの経験を踏まえたアドバイスやメッセージをお願いします。

ありきたりなことで申し訳ないのですが、失敗を恐れないことです。いっぱい失敗した方が良いと思います。それと、人との繋がりを大切に。ただ単に広げるだけではなく、身近にいる同僚たちをリスペクトして大切にすること。ある意味で、それは技術より大切なことなのかなと最近は特に思うようになりました。自分が助けてもらうことを目的にしてはいけませんが、その人たちはいつか助けてくれますし、自分が助けることにもなるかもしれません。そうやって人付き合いをしていけば、技術的なディスアドバンテージや多少の仕事の失敗はどうにかなります。失敗しまくっても助けてもらえるし、逆の立場になっても助けてあげることができる存在になるということが、自分自身にとっての未来に繋がるんだと僕は思います。

Profileプロフィール

松井優和/Yuwa Matsui

松井優和/Yuwa Matsui

1986年奈良県生、2010年大阪教育大学卒業後、株式会社デジタル・フロンティアに就職。その後ModelingCafeに就職しモデリングスーパーバイザーとして主にキャラクターモデリングを制作。2017年現在フリーランスになり海外就職に向けて就職活動中。参加作品に映画『GANTZ』(2011)、映画『バイオハザード ダムネーション』(2012)、『牙狼〈GARO〉-GOLD STORM- 翔』(2015)、TVドラマ『大河ファンタジー 精霊の守り人』(2016~)、『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』(2016)など

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