>   >  CGアニメ『こねこのチー』はいかにしてフランスを席巻したか? チーフプロデューサーが語るキャラクターコンテンツの世界戦略(後編)
CGアニメ『こねこのチー』はいかにしてフランスを席巻したか? チーフプロデューサーが語るキャラクターコンテンツの世界戦略(後編)

CGアニメ『こねこのチー』はいかにしてフランスを席巻したか? チーフプロデューサーが語るキャラクターコンテンツの世界戦略(後編)

<2>プロモーションにはギャップが必要。『こねこのチー』で、"純粋家族物語"推しをしない理由

――日本とフランスで『こねこのチー』の受け入れられ方に何かちがいはありましたか?

北本:キャラクターとの友だちのなりかたにはリアルな友人関係や親子関係が反映されるので、ちがいが出たかなと思います。日本の子どもは"自分の中に取り込む"感じですね。フランスでは「チーに向けて報告する秘密の日記帳」という商品があって、そのコンセプトにも表れているのですが、"友だちになる"という関係性なんですね。捉え方のちがいは若干あるかと思いますが、チーが喜んでいるのを見ると子どもも喜ぶし、笑っているのを見ると笑うという点では共通しているかなと思います。


北本:これも『おともだち』の編集長から言われたことなのですが、「子どもたちは一生懸命言葉を覚えている最中だからポジティブな言葉を使った方が良い」と。私もさすがにいい年した大人なので、好きとか楽しいとか、そういう言葉ばかりをセリフにすると子どもたちがちょっと恥ずかしくなったりするかな、と迷っていたのですが、「もっとシンプルで良いんだよ」と言われて、なるほどなと思いました。あと、「子どもは大人よりも論理的だからね」とも(笑)。特に主人公の性格がいつもとちがうとか、ロジカルな矛盾は見抜いてすごく嫌がるんだそうです。あるカットと次のカットで立ち位置がちがうと、「なんでさっきはここにいたのに、今は向こう側にいるの?」と疑問をもってしまって、子どもは立ち止まってしまうのだそうです。それは結果としてストーリーから離れてしまうことになる。「大人向けよりごまかしがきかないと思ってつくりなさい」ということも言われましたね。私は子どもの専門家ではないし自分に子どもがいるわけでもないので、社内のプロフェッショナルな仲間からのアドバイスを草野監督やシリーズ構成の千葉さんはじめ、脚本チームのみなさんに共有しました。このチームの素晴らしいところは、それらを参考にしながら、きちんと咀嚼してアウトプットしてくださることなんです。

――先ほど、子どもは最新技術を素直に受け入れるというお話がありましたが、VRもその一環ということでしょうか?

北本:そうですね。VR自体は子どもたちの視力が固まるまでの使用を避けたほうがいいという医学的な説があったので、推奨されている12歳以上の方に向けてのみの展開だったのですが、そもそも3DCGでつくることのビジネス的なメリットとして、アニメの素材を使った新しいデジタル的な広がりができることを意識していたので、何かやってみたいと思っていました。Japan ExpoでのイベントをきっかけにチーのVRコンテンツをつくっていただいたところ、こちらの想像の100倍くらい良いものができました(笑)。キャラクターも大集合して、チーが遊んでいるところの横でお父さんがコーヒーを飲んでいたりとか、360°どの視点から見るかで見えるストーリーが変わるという、まさにVRにふさわしいものをいきなりサンプルで出していただけたんです。

Japan Expo 2017で披露されたVRコンテンツのレンダリング画像【左】と、レンダリング画像をUnity上で天球にマッピングしている様子【右】

――それに関係して、SNS上に「#Chi_Tech」というハッシュタグでデジタル技術とのコラボ画像を載せたり、主題歌にPerfumeを起用したりと、物語の外側のプロモーション関連は日常生活をベースにした本編とは敢えて異質なものを採り入れられています。これにはどのようなねらいがあったのでしょうか?

北本:ストーリーでもプロモーションでも必ずびっくりさせたいというところはすごく意識しています。これはマンガ編集者として受けた教育の賜物ですね。世の中にコンテンツが数多あるなかで、世間の人に興味をもっていただくにはギャップが必要なんです。想定外のものがないと、人間は「おや?」とは思ってくれません。制作の皆さんとは『こねこのチー』の温かい世界にいかに不純物をもち込まないようにするかをずっと話しているのですが、プロモーションではサプライズを起こすようにしています。『こねこのチー』を「純粋に素敵な家族物語です」とプロモーションしたところで、想定内すぎますのでスルーされることはわかりきっています。その方策のひとつがPerfumeだったというわけです。

『こねこのチー ポンポンらー大冒険』のオープニングテーマに起用されたPerfume『ねぇ』(2013)

北本:それにPerfumeは本当に海外に浸透している日本人アーティストの数少ない成功例といえます。実際にヨーロッパのSpotifyを調べたところ、日本人アーティストのベスト3はPerfume、きゃりーぱみゅぱみゅ、L'Arc-en-Cielだったんです。この人たちが評価されているのは、単なる洋楽のキャッチアップではなく、日本のアーティストとしてのオリジナリティをもっているからです。この作品はグローバルに展開していくことを目標にしているので、主題歌もそうして支持されている彼女らであればピッタリだなと。彼女らの歌詞はポジティブだし、メッセージがすごくシンプルで強くて優しい。その本質は『こねこのチー』と通じる部分があるんです。それに子どもたちにとって踊れる主題歌というのは大事な要素ですので、それも含めプロモーションでは新しいポップで上質なエンターテインメントにすると意識しています。

――第2期の放送開始を控えているころかと思いますが、今後『こねこのチー』に関するムーブメントをどのように展開しようと考えていらっしゃいますか?

北本:第1期の目標はチーが元気に楽しく動いている幸せな日々を一緒に体験してもらうところにありました。クリエイティブについては世界中からすごく良い反響をいただいて、満足しています。プロモーション的なところでは海外に比べて日本の知名度が低いので、それをいかに上げるかという点でフランスで人気があるというところを国内でも押し出していきました。すると「何でフランスで人気なの?」とか「自分はマンガから知ってたけど、いつの間にか海外にも広がってたんだ」という最初のフックが生まれるんです。そのためにJapan Expoに連れて行って、本当に向こうの子どもたちとチーが幸せにしている様子を動画で撮ったり記事にしたりしていただきました。今では『こねこのチー』と検索サイトに入れると、関連ワードに「フランス」と出てくるほどです。これで第1弾は達成できたと考えています。

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北本:第2弾としては、制作的なところで、私たちがかつて日本のアニメで観ていたような、子どもが成長していく過程で心に残る物語をつくりたいなと考え、それを草野監督やシリーズ構成の千葉(美鈴)さんたちと話しています。子どもたちにとってチーの毎日は安心できるという信頼関係の中で、子どもたちが人生で体験するかもしれないような、出会いと別れのような要素を少しずつ入れていく。もちろんチーの物語だから最終的には幸せになるのですが、時には悲しい出来事や、それを乗り越えていく過程も描いていく。それは子どもたち自身が人生で経験することでもあるので、人生は素晴らしいということを伝えるために子どもたちを信じて、1期よりももう少し骨太なものを入れていこうかなと。


北本:あとはアニメーションとしてもう少しリアリティを跳躍しても良いかなと思っています。チーのアニメーターの方はすごく真面目で、物理的な法則にすごく忠実なんですよ。「猫の脚力だったらジャンプはこれくらいの高さだ」と分析したりだとか、草野監督も「猫がスケボーに乗っているだけで物理的な必然がないのに、何でこんなに飛べるんですか?」とか聞かれたそうです。そこに引っかかるんだ(笑)、という。でも、子どもたちはチーが自分たちよりも飛んだりすることに憧れをもつので、それをアニメーションとして描いてもらう必要があります。そこの解決も含め、ストーリー上でファンタジーの世界に行くということを盛り込むことにしました。そうすることで、今までさせることができなかった面白い動きができたり、もう少し擬人化させることもできます。先ほどの「シャーッ」にしても子どもたちは純粋に「チーと同じポーズができる!」という喜びがあるだろうし、それが作品の解放感にも繋がると思うので、それができる、原作とはちがうフィールドを用意しようと考えています。賛否はあるかもしれませんが、それはアニメに広がったチーだからこそできるものだと楽しんで観ていただけたら嬉しいです。

Profileプロフィール

北本かおり/Kaori Kitamoto(講談社 ライツ事業部副部長)

北本かおり/Kaori Kitamoto(講談社 ライツ事業部副部長)

1981年生まれ。2003年に講談社入社、週刊モーニング編集部に配属。『チーズスイートホーム』(こなみかなた)、『チェーザレ~破壊の創造者~』(惣領冬実)を連載起ち上げから担当。社内の海外研修制度でヨーロッパの出版社にて研修。帰国後、編集部と国際ライツ事業部を兼務しヴェルサイユ宮殿とグレナ社と合同で漫画を制作。現在はライツ事業部に所属してTVアニメ『こねこのチー ポンポンらー大冒険』のチーフ・プロデューサーとして原作含めた作品全体を総監修している

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