世界中で愛される3DCGアニメーション『こねこのチー ポンポンらー大冒険(以下、こねこのチー)』。前編では、チーがどのように世界展開され、3DCGアニメ制作にいたったかを、チーフプロデューサーであり原作『チーズスイートホーム』の連載時の担当編集者である北本かおり氏にお話しいただいた。後編では引き続き、世界を視野に入れた3DCGならではの制作体制や演出方法、プロモーションの方策について聞いた。クリエイティブとビジネスの両方にまたがり指揮を執る、日本でも数少ないプロデューサーの経験談と思考法はアニメ・3DCG業界に限らず多くの方にとってのヒントとなるだろう。
TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
『こねこのチー ポンポンらー大冒険』
Amazonプライム・ビデオにて独占配信中
原作:『チーズスイートホーム』(講談社「モーニング」刊)
原作者:こなみかなた
チーフ・プロデューサー:北本かおり/監督:草野公紀/副監督:沓名健一/キャラクターデザイン:鴻巣 智、皆川恵美里/アートディレクター:梅田年哉
アニメーション制作:マーザ・アニメーションプラネット
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©こなみかなた・講談社/こねこのチー製作委員会
<1>"原作に忠実"なことにこだわらないのはコンテンツを広げ、生き続けさせるため
――『こねこのチー』で、はじめて3DCG会社と組んでの感触はいかがでしたか?
北本かおり氏(以下、北本):放送の2週間前くらいには納品データができているし、3DCGの会社は進行管理がしっかりしているという印象ですね。スケジュールが立つことでチームとしてのディスカッションがより練られているような感じがします。これは『こねこのチー』でマーザ・アニメーションプラネットさんとお仕事をする以前の話ですが、国際ライツ部で韓国地域を担当していた際に初めて3DCGスタジオに伺ったんです。そこで一番驚いたのは、最終的なアウトプットに向け逆算して作業を決め込んでいくという制作スタイルでした。例えばライティングの方向性も、ストーリーをつくる時点で決めているんです。悲しい物語を描写する際にはライティングを抑えめにする必要があり、シナリオが変わったらそこも当然変わってきますし、やり直しになったら何千万円という赤字が発生します。だからこそ密なコミュニケーションをして計画を立て情報を共有していくことが不可欠で、その結果としてセルアニメの制作環境よりも3DCGアニメの制作環境の方が進行管理が機能しているのかな、と。ともするとセルアニメやマンガの現場は締め切り前に怒涛のつじつま合わせをするつくり方になりがちですが、進行を共有することでよりチームワークが働きやすい。だから今回は3DCGの制作スタイルをベースにしました。
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北本かおり/Kaori Kitamoto(講談社 ライツ事業部副部長)
1981年生まれ。2003年に講談社入社、週刊モーニング編集部に配属。『チーズスイートホーム』(こなみかなた)、『チェーザレ~破壊の創造者~』(惣領冬実)を連載起ち上げから担当。社内の海外研修制度でヨーロッパの出版社にて研修。帰国後、編集部と国際ライツ事業部を兼務しヴェルサイユ宮殿とグレナ社と合同で漫画を制作。現在はライツ事業部に所属してTVアニメ『こねこのチー ポンポンらー大冒険』のチーフ・プロデューサーとして原作含めた作品全体を総監修している
北本:なにぶん私は3DCGの素人なので、作品全体のトーンを決めていく際に、まず3DCGアニメの制作現場で使われている言葉や技術的に可能なこと、特徴を教えていただきました。例えば、コントラストが強くて黒が強い画面構成だと大人っぽく見えるとか、パステル調になると優しい感じになるとか。最初に小物や空の色などをひとつひとつ監修しても、結局ライティングで変わってしまいますので、もっと大きな視点で作品全体のカラーを決めるようにしました。そうしたつくり方を含め、こなみ先生にご説明差し上げてから小物類の色のテイストを決めていきました。
作品キービジュアルの変遷。【左】最初に提案されたビジュアル。原作の世界観を忠実に表現しようと色遣いや服装なども原作のものを使用し、初期に模索したクレイアニメのテイストでつくられている。「このテイストだとターゲットが『幼児(0~5歳)』に絞られてしまう。作品はこれまでの海外での実績などからも、広く子ども世代(0歳~10歳)にリーチできるポテンシャルをもっているので、背景のクレイテイストはやめ、ビジュアルの世界観を全面的に変更してもらうよう依頼しました。せっかく3DCGでつくるのだから、3DCGでリアルだけど温かくて安心できるビジュアルを創造して、世界に、新しい子ども向け3DCGアニメを届けることを目指そうと決めました」(北本氏)。【右】チーのルックが固まり、それを基に作成したキービジュアル。ロゴもアニメのタイトルのものが入っている。「"世界中を笑顔にするチー"というキャラクターがこのアニメの中心要素。ゆえにチーのみを全面的に押し出すビジュアルにしました」(北本氏)
――マーザがこれまで制作してきた3DCG映画は『キャプテンハーロック』や『バイオハザード:ヴェンデッタ』など大人向けの作品ばかりでしたが、今回『こねこのチー』のような作風を手がけるにあたり、コミュニケーションには苦労をされましたか?
北本:チーが呼び寄せるのか、幸いにして草野監督をはじめ、優しい方ばかりが集まってくれたんです。ただ、これまでの経験上、複数社にまたがって優しい人ばかりが集まると、遠慮してしまって打ち解けるまで時間がかかったり、なかなか本音でぶつからないというデメリットもあります。クリエイティブな現場で意見を言うことを遠慮するのは、気遣いのつもりがむしろクリエイティビティを阻害してしまうので、フランクに話し合えるように最初からあえてキツイことをけっこう言いました。
――距離を詰めるために?
北本:ええ。本音を言ってもらうまでにどれくらい時間がかかるかを見るわけです。例えば、ノーと言われてそれに合わせるけれども納得していないときってありますよね。つくり手として「ここは納得できない」というときに、それを率直に言ってもらえる信頼関係をつくりたかったんです。3回も修正して、それでもノーだと言われたら気分を害されると思いますが、それでも敢えて言ったこともありました。このプロジェクトの皆さんでなければ空中分解してもおかしくなかったと思いますが、良い作品をつくることに貪欲で、タフで、優秀な人たちは一度信頼し合うと豊かなチームになります。それにみなさん、すごく才能がある人たちで、恵まれていたと思います。この作品が終わった後には、きっとそれぞれの道で活躍されて日本の3DCG・アニメの世界で大事な一角を担う人たちになると思います。
チーが生活する山田家の内装が固まるまでの工程。【左上】リビングルームの初期ビジュアルに対する北本氏からのチェックバックの一部。赤字でソファの形状やカーテンの色味、壁に飾る絵のサイズにいたるまで細かく書き込まれており、「日本を特定させる要素を強く入れない」、「家具はパリのおしゃれなアパートのようなバランスで統一する」といった北本氏のこだわりが感じられる。【右上】ライティングのリファレンスに使用された同カット。ソファの形状などが修正されているのがわかる。【下】内装の完成形
――『こねこのチー』では過去の2Dアニメのときよりも尺が延びて15分になりましたが、シナリオについてはどのように制作されていったのでしょうか?
北本:アニメは実尺12分の中で、気持ち良いリズムやクライマックスを構成する必要があります。そして、アニメーションはやはり動きの気持ちよさがあってのものなので、構成的にオチが付いて上手く収まっているよりも、動きが可愛い部分が長い方が満足度が高いんです。だから、そこで"原作に忠実に"つくって下さいと注文すると、大抵面白くなくなるんですよ。大人向け作品だったらその方向で良いかもしれませんが、子ども向けの作品はアニメーションとして圧倒的に面白くなければいけないので、"原作に忠実である"ということを放棄しなくてはいけません。ただ、最初から作家さんに頭ごなしにそれを言うと困ってしまうので、「アニメをひとつの作品としてつくります。でもチーの根幹はブレないようにしますのでまかせてください」と、今回の線引きをお伝えしました。チーが喋る独特の"チー語"はキャラクターの個性なので、そこが原作と合っているかどうかは見ますが、それ以外のところではアニメとして面白いかどうかを見ていました。その結果として、アニメ独特の面白いシーンが生まれていきました。
――北本さんが特に気に入っているのはどんなシーンですか?
北本:私が第1期で一番好きなのは、原作にもあったのですが、チーが「シャーッ」という威嚇のポーズをとるけれども、それが可愛いのでまったく威嚇にならないというシーンです。アニメではチーが2足立ちになって、見るからに可愛いポーズをするんです。このシーンは草野監督がコンテで描いてくれて「やりすぎだったら言ってください」とおっしゃっていたのですが、見るとすごく可愛い。もともと原作では猫たちを擬人化しすぎない、ということをとても重視していて、そもそもセリフを言っている時点で十分擬人化してしまっているので、動きにおいては猫の仕草に忠実にしてそれ以上の擬人化は極力避けようとしていました。そのテーゼからすると真反対な表現ではありました。でも、これを見た子どもが真似してくれるだろうなと思い、そのままにしてもらったんです。そうすると、やはり放送が終わった後に「ウチの子が『シャーッ』をやっています」という反応がたくさんあって。そういう逸脱ができるとチーがどんどん新しく広がっていけるんです。こういうつくり方ができたのは、原作者のこなみ先生がアニメのスタッフの人たちや観てくれる子どもたち含めて、"みんなのチー"という思いをもっておられるからで、もちろん時には逸脱しすぎたなとスタッフのみなさんと反省することもありましたが、このシーンのように、クリエイターさんの新しいアイデアでチーを広げていくことに、二次三次のコンテンツ展開をする価値があると思います。
北本氏お気に入りのシーン2選。【左】チーが2足立ちで威嚇にならない可愛さをみせる「シャーッ」のシーン。【右】チー(右)がコッチ(左)に思わぬことを言われ「えーっ!?」と驚くシーン。「すごくびっくりして耳と顔がちょっと伸びるのですが、驚いているお芝居のアニメーションとしてとても可愛くデフォルメされた動きになっています。こういうちょっとしたしぐさに、監督をはじめ、みなさんのチーへの愛情が込められていると思っています」(北本氏)
――メディアミックス作品においてはとかく原作に依拠しがちになりますし、しかも北本さんは原作の起ち上げ時からずっと寄り添ってこられた担当編集者ですから、なおのことその方向に傾きがちになるかと思いますが、お話しいただいたように懐が深い姿勢でいられるのはどうしてでしょうか?
北本:それはやはり、私がアニメが好きだからなんですよね。原作の担当者という立場からすると、アニメ化というのはこれまでの積み上げでようやくたどり着ける場所なので、せっかくここまできたのだから、面白いアニメになってほしいという思いがあります。今回、制作するにあたって子ども向けのアニメをいろいろと見直したんです。その中で気になったのが『Masha And The Bear(マーシャと熊)』(2009~)というロシアのアニメーションで、ルック的には『モンスターズ・インク』(2001)の人物キャラクターみたいで、正直あまりかわいくないな、と最初思ったのですが、キャラクターの動きのリズムがすごく早くて、特に主人公のマーシャが元気にいたずらをしながら駆け回るのを見るだけで楽しいんですよね。それを見て、やっぱりアニメーションにはビジュアル云々を突き抜ける動きの面白さがあるんだなと再確認しました。だから今回、3DCGになったことで、コミカルなリズムを取り入れたほうが良いかなと考えました。
Masha And The Bear - Best episodes of 2017
北本:それと、「子どもは3秒で飽きるからその間だけでも画面を見続けてもらうにはどうしたら良いかという発想をしなくてはいけない」とずっと意識していました。これは弊社の幼児向け雑誌『おともだち』の編集長からもらったアドバイスです。彼らは子どもとずっと向き合ってきたプロたちで、それを私は草野監督にそのまま伝えたところ「わかる気がします」と。「ただ会話をしているだけでもヒゲが可愛く動くとか、尻尾が常に気になる動きをするといった工夫が必要ですね」とおっしゃって、そうした内容がふとしたところで表現されているんです。様々な人のアドバイスや実際自分が見て面白いと思ったアニメの時代感・スピード感は大事にしています。そうでないと作品がどんどん古くなってしまいます。この作品は生き続ける作品であってほしいんですよ。
北本:フィギュアのようなツルツルした質感なのに暖かみがあるキャラクターと、リアルな物質感をベースにしながらも抜けのある適度な密度の背景が絶妙なバランスを創り出しているのが『こねこのチー』というアニメのビジュアルの魅力だと思っています。これまで観る側として3DCGのアニメを楽しんできて感じていたのは、リアルを"忠実に追求する"ことを目的にし過ぎると、画面がうるさくなり、子どもたちが物語に集中できなくなる、ということでした。同時に、原作マンガを"忠実に再現する"ことを目指し過ぎると、動くマンガの紙芝居のようなものになり、アニメとしての物語の楽しさやリズムが生まれない、ということも感じていました。アニメの一番の楽しさは動きでドラマを生むこと。そのためには、ビジュアルと動きとストーリーでどこを"忠実"に、どう"逸脱"するかのバランスを取る人間が必要なのではないか、と思いました。
北本:アニメとして楽しい作品をつくることが、チーの最新作として新たに3DCGアニメをつくる意味でした。そのために、ちゃんと"チー"であるためにどこを守り、そしてどの方向にどこまで"逸脱"するか。そのバランスを図り、導くことがチーフプロデューサーとしての最大の仕事だったと思っています。原作のプロデューサーがここまでアニメのクリエイティブに直接参加するのは、世界的に見てもなかなか例をみないことだったと思います。スタジオ外の人間を中に入れてくださったこと、そして新しいチーのアニメを素晴らしいものにして、世界中の子どもたちに届けようと模索し続けたマーザのみなさんに心から感謝しています。あらゆる壁を乗り越えて、マーザ版チーは世界中で愛される3DCGアニメとなりました。
――現在制作中(2018年放送予定)である『こねこのチー』第2期では原作のこなみ先生がオリジナルのシナリオを手がけられるそうですね。一度完結した作品のメディア展開において、原作者が新たに物語をつくり出すというケースはなかなかないパターンかと思いますが、この企画はどのようにして生まれたのでしょうか?
北本:先生も第1期のアニメの企画を動かし始めたときには「もうお話が浮かばない」といった状態で、そういうときは無理しても仕方がないので、「いつかまた描きたくなる日が来るかもしれませんね」とお休みいただいて、アニメの宣伝やイベントのために、番外編的なマンガを描いてもらう程度にしていたんです。でも、アニメが始まってチーがまた様々な人から応援されたり、アニメの中で楽しそうに遊んでいるのを見ていくうちに、少しずつ蓄積するものがあったようです。ちょうど2期の構成を話し合っていて「12巻までのお話で完結させるには構成上のアップダウンが難しい」となったときに、スピンオフのエピソードを9巻と10巻の間に位置づけて先生に描いていただくことができるようになったというわけです。これはパラレルワールドではなく、スピンオフから本筋にきちんと戻ってくる構成です。
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<2>プロモーションにはギャップが必要。『こねこのチー』で、"純粋家族物語"推しをしない理由
<2>プロモーションにはギャップが必要。『こねこのチー』で、"純粋家族物語"推しをしない理由
――日本とフランスで『こねこのチー』の受け入れられ方に何かちがいはありましたか?
北本:キャラクターとの友だちのなりかたにはリアルな友人関係や親子関係が反映されるので、ちがいが出たかなと思います。日本の子どもは"自分の中に取り込む"感じですね。フランスでは「チーに向けて報告する秘密の日記帳」という商品があって、そのコンセプトにも表れているのですが、"友だちになる"という関係性なんですね。捉え方のちがいは若干あるかと思いますが、チーが喜んでいるのを見ると子どもも喜ぶし、笑っているのを見ると笑うという点では共通しているかなと思います。
北本:これも『おともだち』の編集長から言われたことなのですが、「子どもたちは一生懸命言葉を覚えている最中だからポジティブな言葉を使った方が良い」と。私もさすがにいい年した大人なので、好きとか楽しいとか、そういう言葉ばかりをセリフにすると子どもたちがちょっと恥ずかしくなったりするかな、と迷っていたのですが、「もっとシンプルで良いんだよ」と言われて、なるほどなと思いました。あと、「子どもは大人よりも論理的だからね」とも(笑)。特に主人公の性格がいつもとちがうとか、ロジカルな矛盾は見抜いてすごく嫌がるんだそうです。あるカットと次のカットで立ち位置がちがうと、「なんでさっきはここにいたのに、今は向こう側にいるの?」と疑問をもってしまって、子どもは立ち止まってしまうのだそうです。それは結果としてストーリーから離れてしまうことになる。「大人向けよりごまかしがきかないと思ってつくりなさい」ということも言われましたね。私は子どもの専門家ではないし自分に子どもがいるわけでもないので、社内のプロフェッショナルな仲間からのアドバイスを草野監督やシリーズ構成の千葉さんはじめ、脚本チームのみなさんに共有しました。このチームの素晴らしいところは、それらを参考にしながら、きちんと咀嚼してアウトプットしてくださることなんです。
――先ほど、子どもは最新技術を素直に受け入れるというお話がありましたが、VRもその一環ということでしょうか?
北本:そうですね。VR自体は子どもたちの視力が固まるまでの使用を避けたほうがいいという医学的な説があったので、推奨されている12歳以上の方に向けてのみの展開だったのですが、そもそも3DCGでつくることのビジネス的なメリットとして、アニメの素材を使った新しいデジタル的な広がりができることを意識していたので、何かやってみたいと思っていました。Japan ExpoでのイベントをきっかけにチーのVRコンテンツをつくっていただいたところ、こちらの想像の100倍くらい良いものができました(笑)。キャラクターも大集合して、チーが遊んでいるところの横でお父さんがコーヒーを飲んでいたりとか、360°どの視点から見るかで見えるストーリーが変わるという、まさにVRにふさわしいものをいきなりサンプルで出していただけたんです。
Japan Expo 2017で披露されたVRコンテンツのレンダリング画像【左】と、レンダリング画像をUnity上で天球にマッピングしている様子【右】
――それに関係して、SNS上に「#Chi_Tech」というハッシュタグでデジタル技術とのコラボ画像を載せたり、主題歌にPerfumeを起用したりと、物語の外側のプロモーション関連は日常生活をベースにした本編とは敢えて異質なものを採り入れられています。これにはどのようなねらいがあったのでしょうか?
北本:ストーリーでもプロモーションでも必ずびっくりさせたいというところはすごく意識しています。これはマンガ編集者として受けた教育の賜物ですね。世の中にコンテンツが数多あるなかで、世間の人に興味をもっていただくにはギャップが必要なんです。想定外のものがないと、人間は「おや?」とは思ってくれません。制作の皆さんとは『こねこのチー』の温かい世界にいかに不純物をもち込まないようにするかをずっと話しているのですが、プロモーションではサプライズを起こすようにしています。『こねこのチー』を「純粋に素敵な家族物語です」とプロモーションしたところで、想定内すぎますのでスルーされることはわかりきっています。その方策のひとつがPerfumeだったというわけです。
『こねこのチー ポンポンらー大冒険』のオープニングテーマに起用されたPerfume『ねぇ』(2013)
北本:それにPerfumeは本当に海外に浸透している日本人アーティストの数少ない成功例といえます。実際にヨーロッパのSpotifyを調べたところ、日本人アーティストのベスト3はPerfume、きゃりーぱみゅぱみゅ、L'Arc-en-Cielだったんです。この人たちが評価されているのは、単なる洋楽のキャッチアップではなく、日本のアーティストとしてのオリジナリティをもっているからです。この作品はグローバルに展開していくことを目標にしているので、主題歌もそうして支持されている彼女らであればピッタリだなと。彼女らの歌詞はポジティブだし、メッセージがすごくシンプルで強くて優しい。その本質は『こねこのチー』と通じる部分があるんです。それに子どもたちにとって踊れる主題歌というのは大事な要素ですので、それも含めプロモーションでは新しいポップで上質なエンターテインメントにすると意識しています。
――第2期の放送開始を控えているころかと思いますが、今後『こねこのチー』に関するムーブメントをどのように展開しようと考えていらっしゃいますか?
北本:第1期の目標はチーが元気に楽しく動いている幸せな日々を一緒に体験してもらうところにありました。クリエイティブについては世界中からすごく良い反響をいただいて、満足しています。プロモーション的なところでは海外に比べて日本の知名度が低いので、それをいかに上げるかという点でフランスで人気があるというところを国内でも押し出していきました。すると「何でフランスで人気なの?」とか「自分はマンガから知ってたけど、いつの間にか海外にも広がってたんだ」という最初のフックが生まれるんです。そのためにJapan Expoに連れて行って、本当に向こうの子どもたちとチーが幸せにしている様子を動画で撮ったり記事にしたりしていただきました。今では『こねこのチー』と検索サイトに入れると、関連ワードに「フランス」と出てくるほどです。これで第1弾は達成できたと考えています。
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北本:第2弾としては、制作的なところで、私たちがかつて日本のアニメで観ていたような、子どもが成長していく過程で心に残る物語をつくりたいなと考え、それを草野監督やシリーズ構成の千葉(美鈴)さんたちと話しています。子どもたちにとってチーの毎日は安心できるという信頼関係の中で、子どもたちが人生で体験するかもしれないような、出会いと別れのような要素を少しずつ入れていく。もちろんチーの物語だから最終的には幸せになるのですが、時には悲しい出来事や、それを乗り越えていく過程も描いていく。それは子どもたち自身が人生で経験することでもあるので、人生は素晴らしいということを伝えるために子どもたちを信じて、1期よりももう少し骨太なものを入れていこうかなと。
北本:あとはアニメーションとしてもう少しリアリティを跳躍しても良いかなと思っています。チーのアニメーターの方はすごく真面目で、物理的な法則にすごく忠実なんですよ。「猫の脚力だったらジャンプはこれくらいの高さだ」と分析したりだとか、草野監督も「猫がスケボーに乗っているだけで物理的な必然がないのに、何でこんなに飛べるんですか?」とか聞かれたそうです。そこに引っかかるんだ(笑)、という。でも、子どもたちはチーが自分たちよりも飛んだりすることに憧れをもつので、それをアニメーションとして描いてもらう必要があります。そこの解決も含め、ストーリー上でファンタジーの世界に行くということを盛り込むことにしました。そうすることで、今までさせることができなかった面白い動きができたり、もう少し擬人化させることもできます。先ほどの「シャーッ」にしても子どもたちは純粋に「チーと同じポーズができる!」という喜びがあるだろうし、それが作品の解放感にも繋がると思うので、それができる、原作とはちがうフィールドを用意しようと考えています。賛否はあるかもしれませんが、それはアニメに広がったチーだからこそできるものだと楽しんで観ていただけたら嬉しいです。