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CGアニメ『こねこのチー』はいかにしてフランスを席巻したか? チーフプロデューサーが語るキャラクターコンテンツの世界戦略(後編)

CGアニメ『こねこのチー』はいかにしてフランスを席巻したか? チーフプロデューサーが語るキャラクターコンテンツの世界戦略(後編)

世界中で愛される3DCGアニメーション『こねこのチー ポンポンらー大冒険(以下、こねこのチー)』前編では、チーがどのように世界展開され、3DCGアニメ制作にいたったかを、チーフプロデューサーであり原作『チーズスイートホーム』の連載時の担当編集者である北本かおり氏にお話しいただいた。後編では引き続き、世界を視野に入れた3DCGならではの制作体制や演出方法、プロモーションの方策について聞いた。クリエイティブとビジネスの両方にまたがり指揮を執る、日本でも数少ないプロデューサーの経験談と思考法はアニメ・3DCG業界に限らず多くの方にとってのヒントとなるだろう。

TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

『こねこのチー ポンポンらー大冒険』
Amazonプライム・ビデオにて独占配信中
原作:『チーズスイートホーム』(講談社「モーニング」刊)
原作者:こなみかなた
チーフ・プロデューサー:北本かおり/監督:草野公紀/副監督:沓名健一/キャラクターデザイン:鴻巣 智、皆川恵美里/アートディレクター:梅田年哉
アニメーション制作:マーザ・アニメーションプラネット
chissweethome.com
公式Twitter:@chi_ssweethome
公式Facebook:www.facebook.com/chissweethomeofficial
公式Instagram:chi.ssweethome
©こなみかなた・講談社/こねこのチー製作委員会

<1>"原作に忠実"なことにこだわらないのはコンテンツを広げ、生き続けさせるため

――『こねこのチー』で、はじめて3DCG会社と組んでの感触はいかがでしたか?

北本かおり氏(以下、北本):放送の2週間前くらいには納品データができているし、3DCGの会社は進行管理がしっかりしているという印象ですね。スケジュールが立つことでチームとしてのディスカッションがより練られているような感じがします。これは『こねこのチー』でマーザ・アニメーションプラネットさんとお仕事をする以前の話ですが、国際ライツ部で韓国地域を担当していた際に初めて3DCGスタジオに伺ったんです。そこで一番驚いたのは、最終的なアウトプットに向け逆算して作業を決め込んでいくという制作スタイルでした。例えばライティングの方向性も、ストーリーをつくる時点で決めているんです。悲しい物語を描写する際にはライティングを抑えめにする必要があり、シナリオが変わったらそこも当然変わってきますし、やり直しになったら何千万円という赤字が発生します。だからこそ密なコミュニケーションをして計画を立て情報を共有していくことが不可欠で、その結果としてセルアニメの制作環境よりも3DCGアニメの制作環境の方が進行管理が機能しているのかな、と。ともするとセルアニメやマンガの現場は締め切り前に怒涛のつじつま合わせをするつくり方になりがちですが、進行を共有することでよりチームワークが働きやすい。だから今回は3DCGの制作スタイルをベースにしました。

  • 北本かおり/Kaori Kitamoto(講談社 ライツ事業部副部長)
    1981年生まれ。2003年に講談社入社、週刊モーニング編集部に配属。『チーズスイートホーム』(こなみかなた)、『チェーザレ~破壊の創造者~』(惣領冬実)を連載起ち上げから担当。社内の海外研修制度でヨーロッパの出版社にて研修。帰国後、編集部と国際ライツ事業部を兼務しヴェルサイユ宮殿とグレナ社と合同で漫画を制作。現在はライツ事業部に所属してTVアニメ『こねこのチー ポンポンらー大冒険』のチーフ・プロデューサーとして原作含めた作品全体を総監修している

北本:なにぶん私は3DCGの素人なので、作品全体のトーンを決めていく際に、まず3DCGアニメの制作現場で使われている言葉や技術的に可能なこと、特徴を教えていただきました。例えば、コントラストが強くて黒が強い画面構成だと大人っぽく見えるとか、パステル調になると優しい感じになるとか。最初に小物や空の色などをひとつひとつ監修しても、結局ライティングで変わってしまいますので、もっと大きな視点で作品全体のカラーを決めるようにしました。そうしたつくり方を含め、こなみ先生にご説明差し上げてから小物類の色のテイストを決めていきました。

作品キービジュアルの変遷。【左】最初に提案されたビジュアル。原作の世界観を忠実に表現しようと色遣いや服装なども原作のものを使用し、初期に模索したクレイアニメのテイストでつくられている。「このテイストだとターゲットが『幼児(0~5歳)』に絞られてしまう。作品はこれまでの海外での実績などからも、広く子ども世代(0歳~10歳)にリーチできるポテンシャルをもっているので、背景のクレイテイストはやめ、ビジュアルの世界観を全面的に変更してもらうよう依頼しました。せっかく3DCGでつくるのだから、3DCGでリアルだけど温かくて安心できるビジュアルを創造して、世界に、新しい子ども向け3DCGアニメを届けることを目指そうと決めました」(北本氏)。【右】チーのルックが固まり、それを基に作成したキービジュアル。ロゴもアニメのタイトルのものが入っている。「"世界中を笑顔にするチー"というキャラクターがこのアニメの中心要素。ゆえにチーのみを全面的に押し出すビジュアルにしました」(北本氏)

――マーザがこれまで制作してきた3DCG映画は『キャプテンハーロック』『バイオハザード:ヴェンデッタ』など大人向けの作品ばかりでしたが、今回『こねこのチー』のような作風を手がけるにあたり、コミュニケーションには苦労をされましたか?

北本:チーが呼び寄せるのか、幸いにして草野監督をはじめ、優しい方ばかりが集まってくれたんです。ただ、これまでの経験上、複数社にまたがって優しい人ばかりが集まると、遠慮してしまって打ち解けるまで時間がかかったり、なかなか本音でぶつからないというデメリットもあります。クリエイティブな現場で意見を言うことを遠慮するのは、気遣いのつもりがむしろクリエイティビティを阻害してしまうので、フランクに話し合えるように最初からあえてキツイことをけっこう言いました。

――距離を詰めるために?

北本:ええ。本音を言ってもらうまでにどれくらい時間がかかるかを見るわけです。例えば、ノーと言われてそれに合わせるけれども納得していないときってありますよね。つくり手として「ここは納得できない」というときに、それを率直に言ってもらえる信頼関係をつくりたかったんです。3回も修正して、それでもノーだと言われたら気分を害されると思いますが、それでも敢えて言ったこともありました。このプロジェクトの皆さんでなければ空中分解してもおかしくなかったと思いますが、良い作品をつくることに貪欲で、タフで、優秀な人たちは一度信頼し合うと豊かなチームになります。それにみなさん、すごく才能がある人たちで、恵まれていたと思います。この作品が終わった後には、きっとそれぞれの道で活躍されて日本の3DCG・アニメの世界で大事な一角を担う人たちになると思います。


チーが生活する山田家の内装が固まるまでの工程。【左上】リビングルームの初期ビジュアルに対する北本氏からのチェックバックの一部。赤字でソファの形状やカーテンの色味、壁に飾る絵のサイズにいたるまで細かく書き込まれており、「日本を特定させる要素を強く入れない」、「家具はパリのおしゃれなアパートのようなバランスで統一する」といった北本氏のこだわりが感じられる。【右上】ライティングのリファレンスに使用された同カット。ソファの形状などが修正されているのがわかる。【下】内装の完成形

――『こねこのチー』では過去の2Dアニメのときよりも尺が延びて15分になりましたが、シナリオについてはどのように制作されていったのでしょうか?

北本:アニメは実尺12分の中で、気持ち良いリズムやクライマックスを構成する必要があります。そして、アニメーションはやはり動きの気持ちよさがあってのものなので、構成的にオチが付いて上手く収まっているよりも、動きが可愛い部分が長い方が満足度が高いんです。だから、そこで"原作に忠実に"つくって下さいと注文すると、大抵面白くなくなるんですよ。大人向け作品だったらその方向で良いかもしれませんが、子ども向けの作品はアニメーションとして圧倒的に面白くなければいけないので、"原作に忠実である"ということを放棄しなくてはいけません。ただ、最初から作家さんに頭ごなしにそれを言うと困ってしまうので、「アニメをひとつの作品としてつくります。でもチーの根幹はブレないようにしますのでまかせてください」と、今回の線引きをお伝えしました。チーが喋る独特の"チー語"はキャラクターの個性なので、そこが原作と合っているかどうかは見ますが、それ以外のところではアニメとして面白いかどうかを見ていました。その結果として、アニメ独特の面白いシーンが生まれていきました。

――北本さんが特に気に入っているのはどんなシーンですか?

北本:私が第1期で一番好きなのは、原作にもあったのですが、チーが「シャーッ」という威嚇のポーズをとるけれども、それが可愛いのでまったく威嚇にならないというシーンです。アニメではチーが2足立ちになって、見るからに可愛いポーズをするんです。このシーンは草野監督がコンテで描いてくれて「やりすぎだったら言ってください」とおっしゃっていたのですが、見るとすごく可愛い。もともと原作では猫たちを擬人化しすぎない、ということをとても重視していて、そもそもセリフを言っている時点で十分擬人化してしまっているので、動きにおいては猫の仕草に忠実にしてそれ以上の擬人化は極力避けようとしていました。そのテーゼからすると真反対な表現ではありました。でも、これを見た子どもが真似してくれるだろうなと思い、そのままにしてもらったんです。そうすると、やはり放送が終わった後に「ウチの子が『シャーッ』をやっています」という反応がたくさんあって。そういう逸脱ができるとチーがどんどん新しく広がっていけるんです。こういうつくり方ができたのは、原作者のこなみ先生がアニメのスタッフの人たちや観てくれる子どもたち含めて、"みんなのチー"という思いをもっておられるからで、もちろん時には逸脱しすぎたなとスタッフのみなさんと反省することもありましたが、このシーンのように、クリエイターさんの新しいアイデアでチーを広げていくことに、二次三次のコンテンツ展開をする価値があると思います。

北本氏お気に入りのシーン2選。【左】チーが2足立ちで威嚇にならない可愛さをみせる「シャーッ」のシーン。【右】チー(右)がコッチ(左)に思わぬことを言われ「えーっ!?」と驚くシーン。「すごくびっくりして耳と顔がちょっと伸びるのですが、驚いているお芝居のアニメーションとしてとても可愛くデフォルメされた動きになっています。こういうちょっとしたしぐさに、監督をはじめ、みなさんのチーへの愛情が込められていると思っています」(北本氏)

――メディアミックス作品においてはとかく原作に依拠しがちになりますし、しかも北本さんは原作の起ち上げ時からずっと寄り添ってこられた担当編集者ですから、なおのことその方向に傾きがちになるかと思いますが、お話しいただいたように懐が深い姿勢でいられるのはどうしてでしょうか?

北本:それはやはり、私がアニメが好きだからなんですよね。原作の担当者という立場からすると、アニメ化というのはこれまでの積み上げでようやくたどり着ける場所なので、せっかくここまできたのだから、面白いアニメになってほしいという思いがあります。今回、制作するにあたって子ども向けのアニメをいろいろと見直したんです。その中で気になったのが『Masha And The Bear(マーシャと熊)』(2009~)というロシアのアニメーションで、ルック的には『モンスターズ・インク』(2001)の人物キャラクターみたいで、正直あまりかわいくないな、と最初思ったのですが、キャラクターの動きのリズムがすごく早くて、特に主人公のマーシャが元気にいたずらをしながら駆け回るのを見るだけで楽しいんですよね。それを見て、やっぱりアニメーションにはビジュアル云々を突き抜ける動きの面白さがあるんだなと再確認しました。だから今回、3DCGになったことで、コミカルなリズムを取り入れたほうが良いかなと考えました。

Masha And The Bear - Best episodes of 2017

北本:それと、「子どもは3秒で飽きるからその間だけでも画面を見続けてもらうにはどうしたら良いかという発想をしなくてはいけない」とずっと意識していました。これは弊社の幼児向け雑誌『おともだち』の編集長からもらったアドバイスです。彼らは子どもとずっと向き合ってきたプロたちで、それを私は草野監督にそのまま伝えたところ「わかる気がします」と。「ただ会話をしているだけでもヒゲが可愛く動くとか、尻尾が常に気になる動きをするといった工夫が必要ですね」とおっしゃって、そうした内容がふとしたところで表現されているんです。様々な人のアドバイスや実際自分が見て面白いと思ったアニメの時代感・スピード感は大事にしています。そうでないと作品がどんどん古くなってしまいます。この作品は生き続ける作品であってほしいんですよ。

北本:フィギュアのようなツルツルした質感なのに暖かみがあるキャラクターと、リアルな物質感をベースにしながらも抜けのある適度な密度の背景が絶妙なバランスを創り出しているのが『こねこのチー』というアニメのビジュアルの魅力だと思っています。これまで観る側として3DCGのアニメを楽しんできて感じていたのは、リアルを"忠実に追求する"ことを目的にし過ぎると、画面がうるさくなり、子どもたちが物語に集中できなくなる、ということでした。同時に、原作マンガを"忠実に再現する"ことを目指し過ぎると、動くマンガの紙芝居のようなものになり、アニメとしての物語の楽しさやリズムが生まれない、ということも感じていました。アニメの一番の楽しさは動きでドラマを生むこと。そのためには、ビジュアルと動きとストーリーでどこを"忠実"に、どう"逸脱"するかのバランスを取る人間が必要なのではないか、と思いました。


北本:アニメとして楽しい作品をつくることが、チーの最新作として新たに3DCGアニメをつくる意味でした。そのために、ちゃんと"チー"であるためにどこを守り、そしてどの方向にどこまで"逸脱"するか。そのバランスを図り、導くことがチーフプロデューサーとしての最大の仕事だったと思っています。原作のプロデューサーがここまでアニメのクリエイティブに直接参加するのは、世界的に見てもなかなか例をみないことだったと思います。スタジオ外の人間を中に入れてくださったこと、そして新しいチーのアニメを素晴らしいものにして、世界中の子どもたちに届けようと模索し続けたマーザのみなさんに心から感謝しています。あらゆる壁を乗り越えて、マーザ版チーは世界中で愛される3DCGアニメとなりました。

――現在制作中(2018年放送予定)である『こねこのチー』第2期では原作のこなみ先生がオリジナルのシナリオを手がけられるそうですね。一度完結した作品のメディア展開において、原作者が新たに物語をつくり出すというケースはなかなかないパターンかと思いますが、この企画はどのようにして生まれたのでしょうか?

北本:先生も第1期のアニメの企画を動かし始めたときには「もうお話が浮かばない」といった状態で、そういうときは無理しても仕方がないので、「いつかまた描きたくなる日が来るかもしれませんね」とお休みいただいて、アニメの宣伝やイベントのために、番外編的なマンガを描いてもらう程度にしていたんです。でも、アニメが始まってチーがまた様々な人から応援されたり、アニメの中で楽しそうに遊んでいるのを見ていくうちに、少しずつ蓄積するものがあったようです。ちょうど2期の構成を話し合っていて「12巻までのお話で完結させるには構成上のアップダウンが難しい」となったときに、スピンオフのエピソードを9巻と10巻の間に位置づけて先生に描いていただくことができるようになったというわけです。これはパラレルワールドではなく、スピンオフから本筋にきちんと戻ってくる構成です。

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<2>プロモーションにはギャップが必要。『こねこのチー』で、"純粋家族物語"推しをしない理由

Profileプロフィール

北本かおり/Kaori Kitamoto(講談社 ライツ事業部副部長)

北本かおり/Kaori Kitamoto(講談社 ライツ事業部副部長)

1981年生まれ。2003年に講談社入社、週刊モーニング編集部に配属。『チーズスイートホーム』(こなみかなた)、『チェーザレ~破壊の創造者~』(惣領冬実)を連載起ち上げから担当。社内の海外研修制度でヨーロッパの出版社にて研修。帰国後、編集部と国際ライツ事業部を兼務しヴェルサイユ宮殿とグレナ社と合同で漫画を制作。現在はライツ事業部に所属してTVアニメ『こねこのチー ポンポンらー大冒険』のチーフ・プロデューサーとして原作含めた作品全体を総監修している

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