<2>アニメーションの醍醐味、ファンタジックな表現
物語のキーとなる通称「もしも玉」こと、「不思議な玉」の表現は、遠藤自身で一連の制作をリードしたという。ベースとなるデザインは昔の灯台にあった投光器のレンズを参考に、監督が自ら設定画に描いたもの。アニメのアセットというよりは、写実的な透明ガラスの表現にこだわったということから、複雑な屈折や反射表現が必要なレンダリングコストのかかる表現となっている。そのために「もしも玉」が3次元的な動きをするCUTや背景が映り込んだり屈折するCUTは、Mayaで「もしも玉」にアニメーションを付けてレンダリングしているが、「もしも玉」が登場するCUTは非常に多いため、レンダリングコスト削減のため、事前にレンダリングした汎用素材を使っているCUTもあるそうだ。
「もしも玉」の汎用素材はAfter Effects上で球の回転を自在にコントロールできるように、あらゆる回転角度に対応できるよう細かく連番レンダリングした素材が使われている。あまりアップにならないCUTでは、この素材から対応する角度の画像をピックアップし色調整して使用している。
TOPIC 4.「不思議な玉」
武内監督から最初に提示された参考イメージ
上段は「もしも玉」とカメラマップのCUTの作業画面。美術が張り込まれた状態。カメラの起動とエイムはモーションパスでアニメーションさせている。下段はカメラのアングル変化をいくつか抜いたもの
「もしも玉」の汎用素材。「もしも玉」に動きが必要なCUTはアニメーションさせてレンダリングする必要があるが、止めのCUTでは効率を図るために3種類ほどのルックちがいで角度パターンを作成しておき、画像内右に並んでいる質感素材(上から陰影、ハイライト、水滴、コースティクス)をコンプで重ねて調整している。「もしも玉」は60CUTほどで使われているが、3分の2はこの汎用素材を使用している
使用素材。上段左からカラー素材、マスク素材、キズとスペキュラとフレネル素材、ライトと光の素材。下段は張り込んだ背景素材。「もしも玉」の落ち影も透けて見えるのでこの素材に追加している
カメラマップの活用〜映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』メイキング<2>
典道が劇中で初めて「もしも玉」を投げるシーンでは、カメラマップを活用したダイナミックなカメラワークが用いられている
CGの利点を活かした"不思議な玉"〜映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』メイキング<3>
TOPIC 5.ハイディテールな灯台
物語の後半で重要な役割を果たす灯台シーンは、荻原あすか氏によって作成されたアセットが使われている。灯台の制作はリアルスケールの灯台の図面を基にモデリングしつつ、実際に犬吠埼の灯台をロケハンして、テクスチャなどの質感表現に活かしているという。また、劇中の灯台は補修中という設定であるため、多くの足場が組まれているが、この足場も実物の足場の資料から、実際のパーツと同様のパーツをモデリングし、レイアウトに合わせて組み上げていっている。ただリアルスケールで組んでいるものと、作画されたレイアウトでは合わせることが難しい部分もあり、リテイク時には監督と共に画面を見ながら修正を行なったという。
「組んでいくとレイアウトと合わないときもあるのですが、そんなときはキャラクターを優先させレイアウトを変更しています。監督に指示をもらいながら、様々な試行錯誤が必要でした」と、荻原氏。灯台が登場するCUTは、灯台から発せられる光が回転しているなど動きを伴うCUTが多く、静止背景ではなく動画背景が多いため、作画との撮影時に動きのタイミングが調整できるよう、屈折素材やライティング素材など10種類程のレンダーパスを出力して撮影部に納品された。
武内監督による灯台の設定資料
Mayaでの作業画面
© 2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会