TOPIC 6.水時計の城
最後に紹介するのが、ミュージカル調に展開する「水時計の城」シーンだ。このシーンを担当したのは、ダンデライオン期待の若手である横川由梨氏。劇団イヌカレーのデザインした背景設定を基に30パターン程度の城がモデリングされてシーンが構築された。このシーンは、キャラクター以外ほぼ3DCGということで、始めにアニマティクスが作成されているが、このアニマティクスも横川氏が作成している。
「カメラワークがなかなか決まらなかったので、演出の方と相談しながら決めていきました。水時計の中の泡の動きもシミュレーションでは求める動きにならなかったため、ラティスで変形させながらアニメーションさせています。ガラスや金属表現、コンタによる表現などとても勉強になりました」と、横川氏はふり返る。
劇団犬カレーによる「水時計の城シーン」イメージラフ
武内監督による「水時計の城シーン」イメージラフ
水時計の城の一連のCUTの最後に出てくるメインの城と周辺の城のモデルおよびレイアウト。左がシェーディング、右がワイヤーフレーム。水時計の城の配置はそれぞれのCUTで変えるのではなく、全てのCUTで同一のアセットを使っている
ガラス製の馬車のモデル。左がシェーディング、右がワイヤーフレーム。電車がこの馬車に変身するという設定だったため、大きさは電車と同じになっている
セル調の馬車のモデル。左がシェーディング、右がワイヤーフレーム。実はなずな達の乗っている半球のパーツは、他のパーツとは繋がっておらず浮いている。これは、デザインをシンプルにするため
Mayaの作業画面。レンダーレイヤーは基本の10+セル用のマスク素材。水時計の城から見えている格子は、水時計のオイルをアニメーションさせるためのLattice。城の周囲にある円は、CUT毎に城をまとめたグループを動かすコントローラー。真ん中に見えている十字矢印はカメラのaim point
総括
取材の最後に、遠藤氏は本プロジェクトについて次のように語ってくれた。
「この作品ではセル調などのこれまでやってきたテイストとは異なる表現が試せたので、得るものが数多くありました。スケジュールに対して制作CUT数が非常に多かったのですが、これも自分たちにとって良い経験になったと思います。個人的には、このように多くのCUT数をこなしながらも、経験の浅いスタッフに教えるといった新人教育をしていけるようになりたいですね」。
作画中心のアニメ作品にリアルな質感の3DCGアセットを使用するというのは、世界観の統一や画の馴染みという点からなかなか難しいものだ。しかし本作では違和感を上手く解消し独特な雰囲気をもつファンタジー空間をつくり上げており、これからのアニメの表現形態のひとつとして注目できる作品だ。
© 2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会
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映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
原作:岩井俊二
脚本:大根 仁
総監督:新房昭之
企画・プロデュース:川村元気
監督:竹内宣之
キャラクターデザイン:渡辺明夫
音楽:神前 暁
アニメーション制作:シャフト
配給:東宝
©2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会
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