皆さんの思い入れのある作品は?
安田:池谷さんにとって1番思い入れの強い作品は何ですか?
池谷:2014年の作品ですね。
織笠:え? 2014年だけでもいろいろありますよ!
池谷:クイズかなって(笑)。答えを言うと、『ジョバンニの島』ですね。主な作業自体は2013年でしたが、初チーフで、社長とふたりで頑張ってまとめたんですよ!でもこの経験で作品を通して私の世界が広がったと思います。
安田:カットというより作品全体ですか?
池谷:カットに関してもそうだし、新人が入って教えて、指示して、管理して、先方とやりとりして......全部やっていましたね。世界観も独特で、CGを馴染ませるのにとても苦労しました。
▲池谷氏のイチオシ:ファンタジア国際映画祭で今敏賞・観客賞を受賞した『ジョバンニの島』(2014)。初めて単独のリーダーとして立ち、内部チームはもちろん、外部スタッフとのやり取りまで担当し、池谷氏の世界を広げた一作。美術監督はサンティアゴ・モンティエル氏で、作品全体のタッチも独特だ。広角気味のパースで直線的な線もない。そんな個性的な世界観に合わせるようにCGも制作された。この予告映像では冒頭のシーンがCGのカット。本編はもちろん、予告映像だけでも同作でのCGの在り方の難しさがわかる
清宮:自分は、オレンジに入って最初に担当した『坂道のアポロン』(2012)かな。よくあるクルマのカットだけど、初めてまともに任されたカットでした。CGディレクターの越田祐史さんや井野元さんに何度も見てもらって、2週間くらい試行錯誤したんですよ。オンエアを観たときは嬉しかったなぁ。
安田:社長がクルマ好きなので、クルマに関してはチェックが一段と厳しいですね。
清宮:後は『宝石の国』でしょうか。フォスの顔の影の付け方とか、雰囲気が出せたな、と。
安田:CGが一番苦手なところですよね。いっそのこと、1枚1枚描いた方が楽なくらい
清宮:それから、氷山が出てくるカットで厄介だったのが冷気のシミュレーションです。冷気は煙より重いから、流氷に沿って降りるようにしたかったので、試行錯誤しました。
織笠:映像ではちゃんと冷気が降りていますね! こうした表現の裁量権は、スタッフそれぞれに結構与えられていますよね。
▲清宮氏のイチオシ:『宝石の国』第7話。フォスフォフィライト(フォス)を中心にカメラが180度回転した後に氷山が登場する。このカットでは、キャラクターのカメラワークは3D、背景は横長のものを発注した2D画、そして氷山はカメラマップと、それぞれ使い分けている。氷山から出ている冷気はシミュレーションで作成しているが、空気より重い冷気ならではの動きの表現にはかなりの時間が要された。ただし、他のカットと同時並行で進めていたため期限との戦いとなったと言う。フォスの心情にも大きな変化を与える冬の印象的な季節の1シーンを細かく描きあげた
安田:僕が印象深いのは『宝石の国』8話です。松本憲生さんの作画からプリビズをつくって、それをCGで起こしたカットがありまして。再現するのも大変だったけど、なかなかできない経験で、担当できて良かったですね。
織笠:松本憲生さんの作画に合わせてみてどうでした?
安田:CGだと表現の仕方がちがうので、完璧に合わせるのは難しかったですね。単純にCGに起こすだけだと雰囲気がちがうものになってしまいますから。
▲安田氏のイチオシ:『宝石の国』第1話カット12。物語冒頭の大切なつかみのシーンという大役を任された。美しい宝石たちの中でもモルガナイトのふわふわとした長髪は際立って特徴的で制作にも力が入ったという。風を受けて柔らかくながれる自然な動きが意識されている。美しい宝石の質感でありながら「生」を感じさせる動きであり、まさに「生きる宝石」という不思議な存在を、見事に成立させてみせた
大川:僕も『宝石の国』のアニメーションは記憶に強く残っています。僕はモデラーですが、アニメーション作業を通じて、表情をつけるときに両目を同時に動かすようにターゲットをつくった方が良いと体感しました。片目ずつ動かすと面倒だと身に沁みましたね(苦笑)。
清宮:『宝石の国』の7話以降は、大川さんは完全にセカンダリ要員に入ってもらいました(笑)。
大川:レイヤーの分け方とか、実際に『宝石の国』の作業で触ってよくわかりました。モデリングやリグに活かしたいですね。
▲大川氏のイチオシ:『宝石の国』第7話、アンタークチサイトのアップ。大川氏がフェイシャルアニメーションを担当した。危機に瀕するフォスに対するアンタークチサイトの感情を表した大切なカット。基本的にモデラーとして作業を行う大川氏だが、このようにモーフを組み、表情をつけることもある。オレンジでは役職の垣根を超えた作業をあえて行い、例えばモデラーがアニメーターの作業をすることで、その経験をセットアップへと活かすことができる。『宝石の国』では、大川氏も本格的なアニメーション作業まで行なった
小島:私も『宝石の国』には思い入れがあって。モデリングを担当した「ミニしろ」のカットは、アニメーションの差し替えとかも私がやっています。表情付けもやらせてもらえて楽しかったです。もっとやりたかった!
織笠:『宝石の国』の制作期間中も他のプロジェクトが動いていたので、池谷さんはそこを支えてくれましたよね。
池谷:はい。あ、でも『宝石の国』の年賀状をやりましたよ! レイアウトも全部自分で決めて、初めてレンダリングもやりました。Twitterで反響をいただいて嬉しかったですね。これが、私の中で一番の『宝石の国』です!!
小島:私は『スターフォックス』も思い入れがあります。それまでボーン入れをやったことがなくて、すごく悩みました。当時は井野元さんからの高い要望も辛くて......。ただ、勉強にもなって、今ではやって良かったと思います。
池谷:井野元さんと直接やり取りすると思い入れが強くなりますね。要求レベルも高くて、守りたいクオリティのボーダーを超えなくちゃいけないから、人材は育ちますね。
織笠:勉強になりますよね。
▲小島氏のイチオシ:Wii U専用ゲームソフト『スターフォックス ゼロ』(2016)のショートアニメ『スターフォックス ゼロ ザ・バトル・ビギンズ』。小島氏がこれまで手がけてきた作品の中で、最も楽しみながら制作できた作品だと言う。セットアップ経験の少なかった当時の小島氏にとって、フェイシャルのボーン(3ds Max)をイチから組み上げるのは初めての経験となった。社内的にもまだノウハウがなく、Mayaのボーンの構造を参考に試行錯誤を重ねて形にした。また、設定にはなかった「グレートフォックス」の模様も小島氏が考案している
池谷:視聴者さんや他の会社さんに認めてもらえるのは、井野元さんの求めるクオリティのボーダーのおかげだと思います。
織笠:オレンジは分業がないのも特徴ですね。レイアウトを起こすところから仕上げまでの全工程をひとりでやります。効率的にはデメリットもあるけど、モチベーションにもクオリティにも影響します。ただ、ツライことも(苦笑)。
池谷:最初の頃はモデラーとアニメーターも分かれていませんでしたね。
安田:今は分けられるようになりましたね。小島さんも大川さんも、モデラーだけどアニメーション作業もしていましたし。
池谷:今も分かれてはいますけど、でも、その壁は低い感じですかね。それが逆に良いんじゃないかな。
織笠:僕は『宝石の国』10話の「62秒の長尺カット」が思い出深いです。キャラクターに感情移入できるように工夫しながら、動きも全て手で付けました。
安田:作画ではほとんどやらないようなカットでしたね。
織笠:オレンジに入ってから一番大変なカットだったので、何度も試行錯誤しながら作っていました。
清宮:そういうときは僕らもそっと見守りますよね。
織笠:そっとしておいてくれるのが一番集中できるのかも。その代わり、廊下とかで会うと気を緩めて笑い話なんかしてくれるのでありがたいです。
▲織笠氏のイチオシ:『宝石の国』第10話の長尺カットアニマティクス
ダイヤモンドと月人が繰り広げる戦闘を、1カット62秒の長尺にわたって表現した。髪の毛以外のほぼ全てを織笠氏がひとりで担当し、約1,400フレームにおよぶアクションシーンは3ds Max上で手付けし、視聴者を飽きさせることなく、キャラクターに感情移入できるようにと工夫している。途中でカットが切り替わらないためか、キャラクターと一体化するような感覚さえ覚える迫真のカットだ。オレンジ入社後、織笠氏にとって最も大変と言えるカットとなった
完成カットは下記twitterリンクから確認をしてもらいたい。
https://twitter.com/cg_orange_inc/status/941266298574553094
https://twitter.com/cg_orange_inc/status/941266388848488449