>   >  必要な時間と予算の確保には何が必要か? カッティング・エッジ 東京スタジオで、CM制作の舞台裏を探る
必要な時間と予算の確保には何が必要か? カッティング・エッジ 東京スタジオで、CM制作の舞台裏を探る

必要な時間と予算の確保には何が必要か? カッティング・エッジ 東京スタジオで、CM制作の舞台裏を探る

撮影にも立ち合うから「できないことが、できる」

C:先のCM以外でも、企画や撮影段階から参加することを心がけているのでしょうか?

フランクリン:なるべくそうありたいと思っています。CGに理解のある監督であれば、企画段階からいろいろなリクエストをさせていただく場合が多いです。例えば、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのPS4のCMでも企画から参加し、撮影にも立ち合わせていただきました。本作ではキャラクターの著作権の制限により当社が担当できなかった3カットを除く、全てのVFXを手がけています。VFXスーパーバイザーはMatt Smith氏で、私はVFXアーティストとして参加しています。

▲CM『Sony Interactive Entertainment / PS4』の完成映像


C:これは大変そうなプロジェクトですね。ほぼ全カットで細かくCGが使われているように見えます。

フランクリン:どのカットも大変でしたが、これも6〜7人のスタッフで、3〜4週間くらいで制作しました。PS4は「できないことが、できるって、最高だ。」というコンセプトを基に、現実にはあり得ないことを表現するCMシリーズを制作しています。本作はそのシリーズの第3弾で、監督は企画段階から「ミュージカル風のCMをつくりたい」と語っていました。ダンスや派手なアクションがあるのに加え、必要なエキストラやセットの数も多かったため「どうやれば撮影できるのか......」とプロダクションチームは頭を抱えていました。そこで「CGであれば表現できます」とわれわれから提案した結果、先に紹介したゴーントのC-HRのCM同様、当初予定にはなかった作業がかなり追加されました(笑)。

▲作中の多くのカットに登場するメインのセットは、当初ハウススタジオを使用する予定だった。しかし撮影のしやすさなどを考慮し、スタジオにセットが組まれた。多くのエキストラが登場し、VFXも数多く使うことが予定されていたため、撮影は長時間に及んだという。「絵コンテの段階で全カットのブレイクダウンをつくり、何をトラッキングするか、どこをCGで表現するかなど、綿密に計画した上で撮影に同席しました。トラッキングや合成がやりにくい状態で撮影が進んでいないか、レンズフレアが入っていないかなどを必ずチェックし、不安があれば調整をお願いしました」(フランクリン氏)


▲これらのカットは、グリーンーバックで撮影した役者と、CGのセットを合成している。【右】のカットでは、飛んでいるオモチャのロボットもCGで表現された


C:これを6〜7人で、3〜4週間ですか......。「できないことが、できるって、最高だ。」のコンセプトを地で行く、素晴らしいパフォーマンスだと思います。

フランクリン:撮影に立ち会えたから出せたパフォーマンスだと思います。本作の撮影では、ブルスベンスタジオのFlameアーティストにも同席してもらい、どこまでならFlameで表現できるか意見をもらいました。ポスプロでの作業内容を想像しながら、トラッキング用のマーカーの付け方、撮影のやり方など、細かくリクエストさせていただきましたね。全部を3Dで表現するのではなく、できるだけ実写を使ったり、2Dモーフィングで表現したりすることで効率化を図っています。

▲これらのカットでは、どちらも俳優の山田孝之の腕がそのまま使われており、前腕部の金属だけが3Dで表現されている。撮影時には前腕のどこに、どんなマーカを付けるか、フランクリン氏がこまかくリクエストしたという。【右】のカットの撮影時には、ポスプロでの合成を考慮し、山田孝之の前腕だけをグリーンバックで別撮りしている


▲【左】本カットの役者の腕は、Nukeでの合成とFlameでの編集時に2Dモーフィングで伸ばしている。これらの作業を考慮し、本カットの役者もグリーンバックで別撮りされている/【右】本カットでは、本当にセットの窓を壊すわけにはいかなかったため、窓の破壊はCGで表現している


▲本カットのカメラはあおり気味のアングルなのに加えドリーアウトしているため、背景のセットはMayaで制作された。「マットペイントで表現することも検討しましたが、凝ったカメラワークなので、マットペイントだと修正指示があった場合に対応しきれないと判断しました」(フランクリン氏)。なお、大量のキャンディーの動きはHoudiniで表現されている

できれば企画段階、少なくとも撮影の準備段階から参加したい

C:東京スタジオのスタッフは様々な国の出身者で構成されていますが、スタジオ運営をする上で、注意していることはありますか?

フランクリン:プロデューサーたちも私も、オーバータイム(超過勤務)には気を使っています。納期を守れるよう心がけていますが、一方で、遅くまで残業することは極力避けるようにしています。追加の作業が発生した場合には、それに必要な時間と予算をもらえるよう交渉します。「ここまではお約束できますが、これを追加するなら、このくらいの時間がかかります。追加の予算も必要です」ということを、ちゃんとクライアントに伝えます。作業時間を見積もる際には、実際に作業を行うアーティストに確認することも大切です。

C:一連のお話を伺っていると、必要な時間と予算を確保するためにも、企画や撮影段階から参加することが大切のように感じますね。

フランクリン:その通りです。撮影が終わってから相談を受けても、できることは限られますし、無駄も多くなります。われわれは、できれば企画段階、少なくとも撮影の準備段階から参加できるよう心がけています。作品のコンセプトをちゃんと理解し、ディレクターや撮影クルーと親密なコミュニケーションをとることで、作品のまとまりは何倍も良くなります。早い段階から、なるべく情報を共有していただくようお願いしていますし、それに見合う信頼できるスタジオになることを目指しています。

C:お話いただき、ありがとうございました。今後発表される新作にも期待しています。

Profileプロフィール

カッティング・エッジ(Cutting Edge)

カッティング・エッジ(Cutting Edge)

ブリスベン、シドニー、ゴールドコースト、東京の4スタジオが連携し、撮影からポストプロダクションまでの全工程に対応。CM、TV、映画、ライド・アトラクションなど、多彩な分野の映像制作で実績を残し、世界各国のクライアントから高く評価されている。
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