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企画出身だからできる開発効率の推進〜バンダイナムコスタジオのテック職に聞く異色のクリエイターキャリア論

企画出身だからできる開発効率の推進〜バンダイナムコスタジオのテック職に聞く異色のクリエイターキャリア論

人と人をつなぐ......小濵氏流のテック術

左から小濵 智、伊藤澄夫、山本 圭、沼上広志、宮津章好、加藤裕之(敬称略)

現在、小濵氏が在籍するコアテクノロジ2課には、6名のテックが存在する。業務用から家庭用、そしてモバイルまで、バンダイナムコスタジオが手がけるゲームの開発支援を包括的に手がけるチームだ。いずれもゲーム開発のベテラン勢で、最新のビジュアル技術やDCCツールなどに関心のある者ばかり。言い換えれば既存のゲーム開発ラインに収まりきらなくなった、「はみ出し者」の集まりだともいえる。

「メンバーの中には、ディープラーニングが一般化する前に、機械学習を用いたモーションデータの認識技術を研究開発し、ゲーム開発に役立てる構想をプレゼンした者がいます。しかし、内容が新しすぎて誰も満足に理解できなかったほどです。他にDCCツールの黎明期、いち早くパーティクルによるエフェクト表現や、クロスシミュレーションの研究開発を始めたメンバーもいますね」。こうした研究開発を自発的に行なっていたメンバーが集まり、組織化されたのだ。

もっとも、経歴の異色さでいえば小濵氏が最右翼だ。現在メインで担当しているプロジェクトは、グループ会社のバンダイナムコオンラインと共同開発中のMMORPG『BLUE PROTOCOL』。プラットフォームはPCで、ゲームエンジンはUnreal Engine 4となる。開発チームにまじって、MayaPhotoshopのツール開発などを担当する日々だ。キャラクターモデル・背景・シェーダ・エフェクトなど、依頼に応じて様々なタスクをこなしている。そこにはプランナー出身ならではの強みがある。

「チームで何か問題があるから、テックに依頼があるわけですが、依頼するにも信頼関係が必要じゃないですか。となると、いかに人間関係で壁をつくらないかが重要だと思うんですよね。チャットツールのSlackで会話をするだけでなく、直接机まで行って、顔を突き合わせて会話をするのが大事だと思っています。そうしたことが苦にならないのは、プランナー出身だからですかね」。

こうした日々の信頼関係の積み重ねで、今ではデザイナーだけでなく、プランナーから相談を寄せられるようにもなった。「工程管理ツールを視覚化して、わかりやすくしたい」などだ。他にマネージャークラスへの報告用に、工程管理ツールからExcelへのエクスポータ制作なども手がけるという。テックといえばデザイナーの支援というイメージが強かった同社で、これまで見られなかった動きだ。

「エキスパートではなく、オールラウンダーたれ」......小濵氏の持論だが、これもプランナー視点の考え方だろう。それぞれの専門分野で達人はいくらでもいる。それらをフォローするポシジョンに立ち、点と点をつなぎ合わせることで、新たな価値を生み出していくというわけだ。専門職指向の強いプログラマーやデザイナーとは、異なる考え方だ。

もっとも、これは日本のプランナーが日常業務で、無意識のうちに期待されることでもある。プランナーの役割は企画立案や仕様書制作だけに留まらない。雑用に近い、泥臭い仕事もプランナーの職分だ。プログラマーやデザイナーが専門職化していく過程で、そこから取りこぼされたものを拾ったり(進捗管理はそのひとつだ)、役職を超えた繋がりをつくったりする業務が、プランナーに課せられてきたからだ。

小濵氏が制作した汎用エクスポータ。『BLUE PROTOCOL』開発チームでは、本ツールがキャラクター班だけでなく、アニメーション班や背景班でも使用されている

小濵氏がテックとして最初期に手がけた、MayaからUE4へのエクスポータは好例だろう。当時、Mayaの勉強を始めたばかりで、UE4も未経験だった小濵氏。そこでPythonの知識を活かし、Maya側のエクスポータ開発に注力した。一方でUE4側のインポータは、『BLUE PROTOCOL』開発チームのプログラマーに用意してもらった。両者を組み合わせれば完成だ。誰がどのようにつくるかは、問題ではないというわけだ。

こうして制作されたエクスポータは、その汎用性が評価されて、今では社内の様々なチームで使われているという。中にはチームごとに改良が加えられ、独自の進化を遂げたり、自身があずかり知らぬところで活用され、驚かされたりすることも。小濵氏はそんなふうに使用者の顔が直接見えて、喜ばれる姿を見るのは楽しいという。自分の成果物が貢献している姿をみることは、モチベーションの向上にもつながる。

そのため小濵氏も、次第に『BLUE PROTOCOL』向けにツールを開発しつつ、汎用性を高めるための工夫を並行して進めるようになった。ツールの土台になる部分をつくり、社内サーバで公開。その上でプロジェクト固有のカスタマイズをほどこし、目の前のチームに提供するなどだ。「プロジェクト固有の問題はどうしても出てきます。だったら、そこは各々の現場で独自につくり込んでもらう方がいいですよね」。

キャラクター班向けに開発された自動アルファ設定ツール。本作では衣装同士の着合わせのために、頂点アルファが段階的に設定されている。この設定はツールで自動化している作業のひとつだ

すでに退職したテックやプログラマーが手がけたツールの保守管理や、改善要求に応えることも重要な役割だ。Maya向けの内製モーション編集ツールはそのひとつで、改修を重ねながら、現在も使用されている。小濵氏が手がけたのはジョイント選択ツールにおけるUI/UXの改善だ。「マウス操作だけで直感的に使用できる」、「画面上で行なった修正がすぐにデータ構造に反映される」など、ちょっとした改善で開発効率は大きく変わる。デザイナーの要望と実装のバランスを取ることが重要で、ときには外観はそのままに、ゼロからつくり直すこともあるという。

小濵氏がUI/UXの改修を行ったものや、要望により作成したアニメーション班向けツール群。ジョイント選択ツールや、ジョイントの下層へアニメーションキーを転写するツールなどが含まれる

他に気にかけているのが、ヒューマンエラーを起こさないためのしくみつくりだ。前述したエクスポータでは、フォルダパスや命名規則に基づき、セクションやアセットタイプを自動判別して、エクスポート先やインポート先が自動で設定されるようにした。エクスポート用セットを自動生成する補助機能も、デザイナーがワンクリックで完結することにこだわった。既定のフォルダパスに配置されていなかったり、命名規則に違反したファイルからでは、これら機能が警告を促し、実行されないように処理を追加したほどだ。こうしたことにも、プランナー時代の経験が活かされているという。

今後求められるテクニカルプランナーという新職種

プランナー時代から他人をフォローする立場にいるのが楽しかった。それがテックに移って、自分が所属するチームだけでなく、会社全体をサポートできるようになり、役に立てる範囲が広がった......。小濵氏はこれまでのキャリアをふり返って、このように語った。依頼された課題をこなすだけでなく、現場の潜在的な問題を言語化し、改善につなげていくことも重要な職務のひとつで、ここでもプランナーとの関連性が覗く。顧客の潜在的なニーズを言語化することは企画の本質だからだ。

問題は慢性的な人手不足だ。ゲームの開発効率を高める目的は、アセット量産の効率化にある。そのためには量産前に準備が整っていることが望ましい。しかし量産することで、初めて明らかになる問題もある。ひとつの対応がまた別の問題を呼ぶこともしばしばだ。結果として、なかなか目の前のプロジェクトから離れられない。一方で社内には様々な開発ラインがあり、固有の課題が存在する。そのため、様々な課題に対して、後手後手に回っているのが現状だという。

もっとも、ことはテックだけの問題に限らない。開発規模が大型化すればするほど、役職の専門職化が進む。その結果、役職間で誰も手を着けたがらない、潜在的な問題が広がる。たまたまチームメンバーに、落ち穂拾い的な業務をこなすメンバーがいればいいが、先述したように人事評価のエアポケットに挟まるおそれもある。中でも小濵氏が自称した「テクニカルプランナー」的な役職は、次世代機に向けてAIを活かした新しいゲーム体験が期待される中、ますますニーズが高まることが予測される。

一方で「役職間の落ち穂拾い」では人と人とのつながりが重要で、プランナー的な資質をもつ開発者が向いている......小濵氏はそのように語る。「技術については、自分も入社してからつけたタイプ。現場でもまれれば、いくらでもつくと思うんです。チームをテクニカルな立場からサポートすることに興味がある学生がいれば、新卒でテックというチャンスもあると思います」。もちろん、現役プランナーがキャリアアップする手段としても有効だろう。こうした人材をいかに育て、活用できるかが、今後のゲーム開発で鍵を握るのではないだろうか。

Profileプロフィール

小濵 智/Satoru Kohama

小濵 智/Satoru Kohama

バンダイナムコスタジオ 技術開発統括本部 技術本部 コアテクノロジ部アテクノロジ2課
www.bandainamcostudios.com

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