>   >  『恐竜超伝説 劇場版ダーウィンが来た!』、"リアルサイズ"の恐竜を蘇らせる音響制作の職人技とは?
『恐竜超伝説 劇場版ダーウィンが来た!』、"リアルサイズ"の恐竜を蘇らせる音響制作の職人技とは?

『恐竜超伝説 劇場版ダーウィンが来た!』、"リアルサイズ"の恐竜を蘇らせる音響制作の職人技とは?

<2>ティラノサウルスの咆哮音 6種の合成音の元ネタとは?

NHKの恐竜番組で音響効果を担当する山田氏は、恐竜の音づくりの難しさを語る。恐竜の骨格は化石から推測はできる一方、鳴き声については定説となる学説が現時点では存在していないという。植田監督は、音響制作について古代生物学者や現代の動物学者からのアドバイスをもらいつつも、エンターテイメント性を重視する方向性を採り、アクションシーンでは咆哮をするなど、恐竜の巨大感を出すようにしている。ただし、「怪獣」ではないのでサイズ感や生態に合わせてリアリティを込めるようにという配慮はしている。バッファローに似たパリキノサウルスにはバッファローの音や、象の音を倍音成分で二重にしてつくったりと現代の生物の音を基として体系づけた音づくりを行なった。

© NHK

ティラノサウルスの咆哮音は登場する恐竜の出す音全てのベースとなった。その中身は鳥の鳴き声、熊の鳴き声を歪ませた音、ライオンが息を吸う音、人間の声など6種類の音素材を組み合わせている。これはティラノが威嚇するときには、口からだけではなく身体全体で共振させボディソニック(体感音響)のような音を出すのではないかという考察に基づいたものだ。

NUENDOによるMA作業の例。トロオドンのホワイトがパリキノサウルスを追い払うシーン

生物的なニュアンスやキャラクター要素を出す上で、人間の声も重要な素材だった。小型恐竜のトロオドンは怖さの中に可愛らしさがあり、それは声優志望の女性スタッフがある日、声を枯らしてきた際の声をサンプリングして組み合わせて使っている。また、トロオドンの子供やカムイサウルスの子供は、山田氏の小学生の子息が高い声を出したものを回転数を上げて使っていたりもする。楽器を使うこともある。ナヌークサウルスの場合はオクターブを下げたチューバに口をつけて吹くことで、楽器の音以上に感情が乗ってくるという。

現世動物を撮影、番組づくりをしてきた知見を活かせるのは『ダーウィンが来た!』班の強みでもある。他にもスタジオを離れロケで録音した音は数多い。子息の砂場遊びの傍らで音を録ったり、学校のプールを借り切って録音した音を(アーカイブより)使用したり、袋に金属片を入れて引っ張ったときのノイズ音を水中の音とダブらせて表情をつくる、音響効果における「汚し」を使って厚みをもたせたりしている。

また、別のロケで行なった船着き場で橋桁がぶつかる鉄の擦れた音は、余韻を足すと大きさが強調されるため、ティラノを含め大きな恐竜の咆哮音として使われていたりもする。これはリバーブ(合成の反響)には出せない実存感だ。難しかったのは恐竜のゆっくりとした動きにまつわる音だという。皮膚のこすれる音や些細な動きのムーブ音など、CG映像が細部まで表現しているためそれに対応するための音づくりが求められている。山田氏は「今後、羽毛が鮮明に出てきたら何かしらそこにも音が付けられるのではないか」と、早くも次の課題を考えている。

© NHK

本作は足立泰啓プロデューサーからの「CGを増やして物語に没入して、子供を感動で泣かせる映像にしてください」というオーダーから始まった。完成した今、植田監督と山田氏はさらなるハイクオリティ映像制作に目を向けている。

© NHK

「大きな装置などを使って音を録ったり、音色の種類を増やしたり、監修の先生との連携を密にするなどして、より長尺、大物量にも対応できるように制作体制を強化するのが目標。また編集段階から入って映画展開・国際展開できる世界最先端の音づくりを実践していきたいと思います」(山田氏)。

「自分としては初めてつくることができたフルCGの映画になり手応えを得られましたのでまた新しい恐竜世界を描き出したいですし、恐竜時代以外にも様々な古代生物世界を描いてそれらをお茶の間に蘇らせて子供・大人を含め楽しんでもらえるようなものをつくりたいと思っています。ぜひとも巨大スクリーンで観てほしいなと思います」(植田監督)。

info.

  • 『恐竜超伝説 劇場版 ダーウィンが来た!』
    2020年2月21日(金)ユナイテッド・シネマほか全国ロードショー
    ナレーション:田辺誠一 大塚寧々 龍田直樹
    製作・配給・宣伝:ユナイテッド・シネマ
    制作:NHK エンタープライズ
    映像提供:NHK
    上映時間:86分
    kyouryu-darwin.com

Profileプロフィール

監督・植田和貴、音響監督・山田正幸

監督・植田和貴、音響監督・山田正幸

右より、植田和貴氏(NHKエンタープライズ)、山田正幸氏(NHK)

スペシャルインタビュー