<2>モデラーから"シネマティック・アーティストへ"~SAFEHOUSEが目指す次世代のCGプロダクション~
ここからは、SAFEHOUSEが進めているリアルタイムCGへの取り組みと、在籍するアーティストたちの人税育成について紹介しよう。
2019年にSAFEHOUSEが携わった案件の割合はおおよそプリレンダーが7割、リアルタイムCGが3割だったそうだ。そして、この割合は変わりつつあるという。
「SAFEHOUSEを設立した当初はプリレンダーが大半だったのですが、徐々にリアルタイムCG案件が増えています。SAFEHOUSEのリアルタイムCG案件の大半は、(ノンゲームの)映像コンテンツ向けのものになります。当初はプリレンダーを前提に打ち合わせをしていた案件でも、自分たちが試作したリアルタイムCG映像をご覧になっていただいたことがきっかけでリアルタイムCGに切り替えるといったこともあります。そうしたことの積み重ねで増えていったのですが、来年には逆転するかもしれません」(鈴木氏)
近年、ノンゲームにおけるリアルタイムCGの活用が急速に広まっている。リアルタイムCGを導入するメリットは、プレビューやレンダリングを効率良く行えることが大きいだろう。つまり、下流工程(ライティング、レンダリング、エフェクト&コンポジット)におけるイテレーション(トライ&エラー)の回数を増やせるわけだ。しかし、その部分にだけフォーカスする(プリレンダーの一部工程をリアルタイムCGに置き換える)のでは、リアルタイムCG本来の優位性を引き出すことができないとSAFEHOUSEでは考えているそうだ。
『Origin Zero is now called ZENOBIA』が示すように、リアルタイムCGを正しく活用すればプリレンダーに肉薄するクオリティを得ることができるようになった。今後は(ハイエンドの)ゲーム開発で培われてきたリアルタイムCGの作法やワークフローをプリレンダーの映像制作に採り入れていく割合が急速に増えていくはずだと、鈴木氏は続ける。
「例えばテクスチャ作成の場合、プリレンダーではユニークなテクスチャを作るのが一般的です。一方、ゲーム開発では、できるだけ少ない工数でバリエーション化するといった、より効率性を重視したワークフローが確立されています。映像コンテンツもより高度で複雑な表現が追求されていくはずですが、限られたリソースをできるだけ有効に活用するためにはリアルタイムCG制作技法を採り入れていくことが近道だと考えています」(鈴木氏)
いわゆる背景CG(エンバイロンメント)制作を主業務とするSAFEHOUSEだが、リアルタイムCGによる画づくりを進めていく上では所属アーティストたちを「モデラーから"シネマティック・アーティスト"へと育てていく」ことが欠かせないという。
ハリウッド映画のVFX産業では、海外の税制優遇措置をめぐる問題が根深い。コストメリットを求めるのはビジネスである以上、避けられないことだが先進国である日本で3DCG制作を"素材づくり"の範疇で行なっていくのでは早晩限界がおとずれるのはまちがいない。
そこでSAFEHOUSEでは、「アセットをモデリングするだけではなく、演出的な意図を理解してレイアウトやライティングを行う」という、まさに画づくりを実践できるアーティストの育成を行なっていくのが当面の目標だという。
「作業者ではなく、映画的なビジュアルを創る人という意味合いです。このライティングで良いのか、このレイアウトで良いのか、デジタルデータを扱う上でも感性を問われるポジションになります」(由良氏)
確かなアートの素養を武器に、独学ではじめたリアルタイムCGによる映画的な画づくりを行うブロスダウ氏は、まさに"シネマティック・アーティスト"の先駆者というわけだ。
これまではハイエンドなデジタルコンテンツを制作する上では、相応の人員とスタジオ規模が求められた。そうした面にも変革をもたらすのがリアルタイムCGだとSAFEHOUSEは考えている。実際にブロスダウ氏は一連のリアルタイムCG映像をほぼ単身で手がけてきた。また、レンダリングやストレージについてはクラウドサービスの進化も見逃せない。
「今後は個人創作やインディーズがより面白くなるはずです」(鈴木氏)
info.
-
リアルタイムエンジンによるフォトリアル映像制作/エラスマス・ブロスダウ 氏
UNREAL ENGINE 4でハイクオリティな映像作品をつくるには
参加費:11,000 円(税込)
開催日:2020年5月14日(木)17:00〜20:00
会場:ヒューリックカンファレンス ROOM0(東京都台東区浅草橋1-22-16 ヒューリック浅草橋ビル)
お申込みリンク:https://shop.cgworld.jp/shopdetail/000000000762