ルールとアニメーションの間にあるもの
CGW:ゲーム開発の民主化に伴って、アニメーション作家がゲームをつくっていくながれが今後も増えそうな気がするんですね。実際にクオリティさえ考えなければ、小学生でもゲームをつくって配信できる時代になっています。その上で、アニメーションから生まれるゲームの可能性みたいなものについて、どのようにお感じになられますか?
和田:自分1人の発信ではないにせよ、今回初めてゲームをつくってみて、考え方だとか、使う脳みそがちがうなっていうのを感じた一方で、それを基に何かできることがけっこうあるだろうなとも思いました。ただ、これが売れてもらわないとね。アニメーションと同じ道をたどることになるので。しっかり売るっていうことも考えないといけないかなと思います。
CGW:今回は短編アニメーションが先にありましたが、映像作品がまずあって、それをゲーム化していくことを考える方が、つくりやすいと感じられますか?
和田:今回は腹筋をするっていうのがあって、それを基にゲームっていうながれはあったので。じゃあ真っ白な状態でつくるとしたら、もう少し考えられる部分は出てきそうな気はしています。必ずしも映像からという訳でもないだろうし。どちらかというと僕は、気持ちの良い動きとか、間とか、そういうのがベースとしてあるので。そこから映像に行ったり、ゲームに行ったりといったふうに、考えていくような気はします。
CGW:面白いですね。伝統的にゲームをつくる人は、ルールからつくり始めることが多いんですね。ルールというのは世界の抽象化です。映像も同じように世界を抽象化しているわけですよね。ただ、同じ世界を見ていても、ゲームクリエイターと映像クリエイターの抽象化の仕方は、ちょっとちがうと思うんです。その上で、和田さんが言われた気持ちの良い動きや間というのは、その中間にある存在なのかなっていう感じもしていて。これからどんなものをつくっていかれるのか、すごく楽しみです。
CGW:そのうえで土居さんとしては、ニューディアーという会社を経営されている中で、ビジネス面についても意識されていらっしゃると思うんですけども、これからインディゲームに対して、どういった展開というか、ビジョンをおもちでしょうか?
土居:アニメーション作家がつくるゲームについて、さっき抽象化の方法論がちがうんじゃないかみたいな話をされていましたよね。まさにそのズレというか、ギャップみたいなものがあることで、作品が目立ちやすくなっているところは、間違いなくあると思うんですよね。実際にインディゲームが市場で飽和してしまって、せっかくリリースしてもまったく話題にならないで埋もれてしまうゲームも、たくさん出てきているのが現状です。そんなときに、「アニメーション作家がつくったゲーム」というのは、すごく売りやすいなと思うんです。
その一方で現状の問題点として、日本のアニメーション作家の中にゲームをつくりたいと思っている方がすごくたくさんいると思うんですけど、まずつくり方がわからないんですよね。コードを書くことができないので、それができる人を見つけるところから始めなくちゃいけない。そこで大きなハードルがある。それから、売り方が難しいなあというのもあって。そこは僕自身が試行錯誤しなければいけないところでもあるんですが。
現状だとYouTuberの皆さんのおかげで、作品がある一定の層にすごく広がっているんですが、その数に比べると売上自体は正直いってそうでもないなっていうのがあって。これから海外市場の方々が見つけてくれる時期になってくると思うので、そこでどれくらい伸びるかですね。そのときにこの2.99ドルという設定が良いのか悪いのかっていうのが、まだちょっとわからない部分があって。
CGW:なるほど。
土居:まだAndroid版をリリースしていないのと、中国市場にまったくアプローチできていないので。どういう風に展開していくか、いろいろな企業さんとお話ししている最中です。何かそこで、もしかしたら廉価版みたいなものを出していく可能性もあるだろうし、無料ゲームで広告課金の方にシフトしていく可能性もあるだろうし。市場との距離感の掴み方について考えています。逆に「キャラクターもの」としてグッズなどの展開をしてみたりだとか。
その一方でゲームアニメーションとの親和性でいえば、『Florence』のようにインタラクティブなストーリーゲームという分野は、まさにアニメーション作家の才能が活きる分野だろうなあと思っていて。本当にそれぞれの作家さんを、ゲーム業界のどの文脈に当てはめてどういう風に売っていくのか、試行錯誤を今後していかなきゃいけない時期に来ているというか。実際、インディゲーム業界の中でも、どういう風に売るかが問題になっていると思うんですけど。
FLORENCE | Launch Trailer
逆にそこを上手く乗り越えられれば、アニメーション作家によるゲームのボリュームゾーンがどんどん広がっていって、ゲーム業界に対して何かしら新しい可能性を提示したり、影響を与えられるようなものになってくれたら良いなと思っています。アニメーションとゲームを組み合わせることで、アニメーション業界にとってもゲーム業界にとっても何かしら新しい一歩を示せるような活動ができると良いなと思っています。そして、その可能性は意外とあるんじゃないかという手応えを感じています。CGW:その中に手描きアニメーションだけではなくて、3DCGという表現が入ってくると、また可能性が広がってくるのかなと思います。『Florence』もそうですし、最近では『Sky 星を紡ぐ子どもたち』などもそうですね。ちなみにこのゲームは日本と海外だと、どちらのお客さんが多いんですか?
土居:思ったより日本が多いですね。そこは意外でした。日本では有料ゲームを買ってくれない印象がありましたが、日本のコアゲーマーや、ゲーム実況をする人たちに需要があったようで。ただ、いまはアメリカや韓国、中国が伸びつつあります。
CGW:確かに、実況して楽しい、実況映えするゲームというのは、アニメーションベースのゲームならではかもしれませんね。
最後に和田さんの方から、今回つくってみてわかったことを、次にどう繋げていくのか。これからもゲームをつくっていくのか、または映像の方に戻るのか、色々あると思うんですけども。何かお考えがあればお願いします。
和田:そうですね。ゲームは今はお腹いっぱいですけども、さっきも言ったように可能性としては感じているところがあるので。どっちか一方というよりは、両方というか、アニメーションという表現を使って何ができるかっていうところを考えたいです。はじめてゲームっていう選択肢が与えられて、可能性を感じたっていう状態なので、引き続き探り続けたいなって思います。
CGW:Unity以外に何か良いツールがあれば良いんですよね。小説ベースのゲームではノベルゲームがあり、ティラノビルダーのようにコードを書かずに作品がつくれるエンジンも登場しています。自分も専門学校で作家志望の学生に使わせてみたところ、けっこう面白いノベルゲームをつくってくるんですね。
他にJRPGの文脈ではRPGツクールが海外で広まって、刺激的なインディゲームがたくさん出てきています。同じように和田さんみたいなアニメーション作家が活躍しやすい、使いやすいゲームエンジンやツールが日本から出てきて、結果的にみんなが盛り上がっていくと良いですね。
土居:3DCGの世界でいえばBlenderが大きな影響を与えていますね。フランスのジェレミー・クラパン監督が、映画『アメリ』で脚本を手がけたギョーム・ローランの原作を映画化した『失くした体』が好例で、手描きのタッチを活かしながらも、Blenderでつくられているんですね。あの作品は大きな転換点になると思います。『Away』というCG長編アニメーションも1人でつくられたのですが、『風ノ旅ビト』をはじめとする「雰囲気もの」のゲームに、とても影響を受けていると監督が言っていました。
『失くした体』予告編 - Netflix
土居:僕は新千歳空港国際アニメーション映画祭でフェスティバル・ディレクターをしていて、上映作品の選定もしているんですが、今年になってゲームエンジンでセットを組んで、バーチャルカメラで撮影してつくられた映画がすごく増えてきていて。今後、大きな潮流になると思います。そいうつくり方ができるようになると、映画の人たちがCGに取り組みやすくなる。僕自身も日本人の実写の監督と組んで、3DCGを上手く使って、これまでなかったようなCGアニメーション作品をつくろうと画策しているところです。
CGW:楽しみですね。お2人の今後の活躍を楽しみにしております。