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墨を磨(す)ったのは小学生以来~モリカトロン森川幸人氏に聞く、アートとエンジニアリングの往来

墨を磨(す)ったのは小学生以来~モリカトロン森川幸人氏に聞く、アートとエンジニアリングの往来

アナログとデジタルは往き来した方が良い

CGW:一方でイラストはいかがですか? テレビ番組のCG素材をつくられゲームをつくられ、AIでゲーム開発の支援をされている過程で、様々な場所でイラストを描かれていますよね。書籍『マッチ箱の脳: 使える人工知能のお話』の表紙や文中イラストなど、絵を描くのはお好きなんですか?

森川:好きじゃないですね。本当に描かないんですよ。毎年2月にある「ネコトモ」に合わせて、年が明けてから1ヶ月半だけ集中して描くんですよ。残りの10ヶ月くらいは描かないんです。

CGW:では森川さんにとって絵を描くというのは、どういう位置にあたるんでしょうか? 「ネコトモ」も3年続けられているわけですが、何か楽しさがありましたか?

森川:もし、いしかわじゅんに誘われなかったら、「ネコトモ」は参加しなかったし、イラストを描いて展示するようなこともなかったでしょうね。それこそプレゼン用のスライド向けに描いたかもしれませんが、それ以外に自主的に創作的な絵を描く習慣はないし、興味もないし。描いているときは楽しいのですが長続きしなくて。

CGW:石原さんといい、いしかわさんといい、ご縁ですね。

森川:そのときにあまり慎重に考えない方が良いですね。自分のスキルと照らし合わせてとかそういうことではなく、少しでも食指が動いたらやったことがなくても「やります」「やれます」と言ったほうが良い。そこで何かしら展開が起こりますから。まあ、それでトラブルも多いんだけど。

CGW:今後、森川さんが取り組まれたいことはどういったことですか?

森川:ものすごく真面目に答えると、ゲーム業界におけるAIの研究開発について後継者を育てたいですね。自分の後継者という意味ではなくて、AIのプランナーやエンジニアをエンタメの世界で育てていかないと。せっかく世の中がそういう話を聞いてくれる時代になったので。

実際、家庭用ゲームをつくっていた頃は大変だったんですよ。AIを使ってゲーム開発したくても、偉い人がなかなかハンコを押してくれなくて。ロビー活動みたいなことがとても大変でした。若い世代の人たちには、なるべく無駄な苦労をさせたくなくて。そのための環境づくりですね。

CGW:当時はよく「それでゲームになるの?」と言われましたよね。

森川:そうそう。AIって言葉は知っているけど、具体的にAIでどうなるのかわからなくて。つくってみないとわからないけど、お金を出してくれないとつくれないという。プロトタイプという概念も当時はなかったので。

CGW:教える側の問題もありますよね。いわゆるAI全体ではなくて、ゲームAIという狭い括りで考えたとき、それを学生に教えられる学校や教員があまりないという。そのため大手ゲーム会社の研究開発チームでは、広くAI全般を研究している大学の研究室で、エンタメに興味がある学生に個別アプローチをするような採用活動をしていると聞きます。

森川:そうですね。ただ、エンタメで活躍するAI人材は足りていません。

CGW:AI自体は、自動車、金融・証券、音声認識、画像解析など、堅い分野で応用が進んでいます。エンタメに進むよりも高給取りですし、食いっぱぐれがないイメージがあるようですね。その一方でゲームAIは、まだフワッとしているというか。まだまだそんな状況なんだと改めて感じます。

森川:まずはそこからですよね。ちゃんとゲーム業界でAIを商売として成立させるために。モリカトロンはそのために設立したと言っても過言ではないですね。「ちゃんと企業としてやっていけます」とか「ちゃんとこれで食べていけます」だとか。その中でこういう楽しい仕事ができますよ、と。そこの第一歩を築き上げるところからですね。

CGW:それとは別に、1.5ヶ月だけ墨絵アーティストになると。

森川:もう結構嫌になっていますけどね。ずっと描いているので。どうするのよ、この先みたいな。

CGW:CGWORLD.jpの読者にとって、墨絵のようなアナログの分野や個展の開催などはあまり縁がないのかなと思います。何かメッセージをいただけますか?

森川:アナログとデジタルの世界を往き来した方が良いですよ。どちらか片方だけだと脳の半分しか使ってないので、もったいない感じがしますね。文系・理系といった区分けもそうだけど。

例えばだけど、筆はヒジで描くんですよね。まっすぐに筆で線を引くときって、半身を前に出して体を後ろに動かしながら、最後にヒジを後ろに抜くでしょう? そういう身体性はCGだけではできないんですよ。

そんなふうに、普段はデジタルでもたまにアナログをやって、身体とのリンクをつくっておくと良いんじゃないですかね。最終的にどちらに進むとしても、大事なトレーニングになると思います。

CGW:ぜひ3DCGアーティスト向けに墨絵ワークショップを開いてください。

森川:いやいや、基礎的な技術がまったくないから。この道で何十年も真面目にやってきた方から怒られるんじゃないかなあ。墨汁を使うだけでも「何やってんだ!」って(笑)。

  • 森川幸人 墨ねこ
    墨絵個展

    日時:12月10日(木)~16日(水)/12:00 ~ 19:00(最終日17:00まで)
    会場:リベストギャラリー「創」

Profileプロフィール

森川幸人/Yukihito Morikawa

森川幸人/Yukihito Morikawa

代表取締役 モリカトロンAI研究所所長

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