>   >  『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』CGディレクター・藤江智洋氏に聞く、ガンダムシリーズの系譜を受け継ぐCG表現
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』CGディレクター・藤江智洋氏に聞く、ガンダムシリーズの系譜を受け継ぐCG表現

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』CGディレクター・藤江智洋氏に聞く、ガンダムシリーズの系譜を受け継ぐCG表現

<2>スペシャルにつくるより、丁寧な仕事の積み重ねで生み出した映画

CGW:MSのアニメーション作業を効率的に行うための工夫はありましたか?

藤江:一般的なつくり方と同じように、アニメーション用の軽いモデルでカットワークを進めていき、最終的には形状のハイポリ化や、細かいディテールをつくり込んだモデルに差し替えています。特に本作では、MSのデータ量が重かったので大変でした。『UC』のユニコーンガンダムのCGモデルと比較すると、Ξガンダムやペーネロペーはポリゴン数だけでもおよそ3倍です。リグについては基本形状と間接部分にのみ組んで、後はカットワークを担当されるチームの方が使いやすいように、それぞれカスタマイズしていただきました。

CGW:レンダリングについてはいかがでしょうか?

藤江:3ds Maxを使うチームであればサンライズのセットをお出ししますが、LightWaveを使うチームであればこれもそれぞれのチームにお任せしています。本作は質感処理などを行なっていないので、色指定通りにセルルックの素材を出力してもらえればOKでした。ライティングの印象さえ合っていれば、カットごとに影付けを追い込まなくても全体として統一感は出るだろう、という考えで進めました。

CGW:本作において技術的なチャレンジはどのようなものがありましたか?

藤江:使っているソフトも従来と同じですし、テクニカルな部分でのチャレンジはさほどないのですが、新しい試みとして全天周モニター(コックピットのドーム)に表示される虚像のグラフィック表示を今回は3DCGで制作しました。従来であればCGでドーム状のガイドを作り、撮影でモニター表示の素材を歪ませて貼り付けていたのですが、本作ではやはりリアル志向で、空間に表示されるグラフィックを実際の3D空間に配置する形で作られています。CGであれば量産ができて作るメリットが大きい案件だったので、担当スタッフには本当に繊細な調整までがんばってもらいました。

CGW:つくり込みにはかなり時間がかかったのではないですか?

藤江:かかりましたね。全天周モニターは専用のデザイナーさんがいらっしゃって、デザインで描かれたものをCGにしてはみたものの印象がちがうことがあり、細かく修正する必要がありました。実際にコックピット内にカメラを置いてみると虚像という設定ですが、実際は3Dモデルが置いてあるので視差も全て表現できます。丁寧に見ると積層感があり動いている様子がわかりやすくなっていて、2Dでは実現できなかったカットもいくつかあります。あと、全天周モニターは外の景色を見せる必要がありますが、手前の計器などにも存在感があります。それらは見えなくても見えすぎてもいけないので、その塩梅を探るためのやり取りを繰り返しました。ただ、仕様が決まりさえすれば情報量が非常に高い映像になるので、大きなメリットでした。

CGW:藤江さんのお気に入りのシーンとその理由を教えてください。

藤江:私はモデラー出身のディレクターなので、やはりCGモデルに目が行きますね。ペーネロペーのような複雑なモデルはなかなかお目にかかれないです。それをアニメーターさんのセンスで生々しく動かしているシーンは、まさに複雑な形状を動かすCGの得意とするところで見ごたえがあると思います。村瀬監督からも「生物っぽく」というオーダーがあり、従来のMSと比べてふり回したような動きが出ていると思います。

CGW:本作では非常に豊かなビジュアルが従来のファンを越えて好評です。今後の第2部、第3部への抱負をお聞かせ下さい。

藤江:リアルになればなるほど増尾さんの領分になるので、増尾さんのご活躍に期待します(笑)。私の方では、伝統あるガンダムシリーズの系譜として「セルアニメらしさ」を残していく必要があると考えています。ここで金属質感の強いギラギラした極端な画づくりなどをすると、作風としてちがってしまいますからね。従来のテイストをきちんと残しつつ要所でプラスアルファを積み上げ、それらが融合していけばまた新しい画面づくりができると思います。今回のように全天周モニターの表現を新しくすると、また別の部分で改良したくなるでしょうね。村瀬監督のビジョンを進めれば、やがて地球丸ごとCGで作って、そのバーチャル空間にカメラマンを置いて撮っていこう......となっていくのではないかと思います(笑)。

CGW:藤江さんから読者の皆さんに、本作の見どころをおしえてください。

藤江:監督はアニメーションカットを作るというよりも、すでにそこにある出来事をカメラで撮り続けて映画にしたかのような作りに感じます。大人な演出の見せ方もあり、映画として見ごたえのある内容になっていると思います。私たちとしても画面の「端の端」にあるデジタル表示まで丁寧に扱い、止め画にしても耐えられるようにつくっています。特別なことをするというよりも、ひとつひとつの表現が非常に丁寧に仕込まれてつくられているので、映画全体に統一感があります。CGづくりでいえば、プラグインありきではなく、先につくりたい画をしっかりとイメージしてそれを具現化する。皆さんと同じ機能を使っていても、そこから差別化する一工夫を加えて「どうやってこの画をつくったんだろう?」と思わせることができたら、CGディレクター冥利に尽きますね。

CGW:ちなみに次作に向けたスタッフの募集はありますか?

藤江:ぜひとも。モデラーやアニメーターはもちろん、本作ではあまり組むことができなかったリグもさらに追求していきたい考えです。今回、MSをここまでCGで動かしたことによって、ガンダムシリーズといえども3DCGの利用はさらに加速していくと思います。ただ、そう簡単にことは進みませんので、それを支えるテクニカルな専門スタッフに参加していただけると大変助かります。





Profileプロフィール

藤江智洋/Tomohiro Fujie

藤江智洋/Tomohiro Fujie

東京電機大学工学部を卒業。
エンジニアとして車両メーカーに就職後、CGクリエイターに転身。『SDガンダムフォース』への参加をきっかけに、株式会社サンライズに移籍。『GUNDAM EVOLVE』、『ケロロ軍曹』などの作品にも参加。
現在、サンライズ所属のCGディレクターとして、『機動戦士ガンダムUC』、『Gのレコンギスタ』、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』などのCGモデリング、ディレクションを手がける。

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