40 種以上に及ぶ、豊富なツール群
OROCHIには、この他、P2Pネットワーク、マッチングサービスなどに対応したネットワークエンジン、 立体音響や多言語にも対応したサウンドエンジンなども統合されているが、OROCHIならではの訴求ポイントとして 新井氏が特に強調したいのが豊富なツール・ユーティリティ群だという。実際のゲーム開発に必要になる細かなツール群はもちろんのこと、 プロトタイプ製作に役立つツール群などまで、その種類は40以上にもなるという。
新井氏:DCCツール使用経験がないプランナーレベルでも触れる簡易マップエディタはプロトタイプ製作には便利だと思います。実際の開発現場で好評なのは、シーンに登場キャラクタなどを配置するユニット配置エディタですね。配置したオブジェクトのパラメータが全自動でリストアップされる機能が便利だと言われます。リアルタイムグラフィックスで表現されるイベントシーンを製作するためのリアルタイムデモエディタも用意されています。
ユニークなところではリアルタイムの天球生成機能、独自のフォント描画システムなどがある。前者は地球上の任意の経度緯度、時刻を設定すると、その空模様の天球が描画できるというもの。PS Vita などで GPS や電子コンパスと連動させて天気データを反映させれば、現実世界に近い空模様を再現した AR や VR を実現できるかもしれない。後者は、ゲーム中の会話シーンやムービーシーンなどで描画する字幕文字を、システムフォントではなくオリジナルの書体で表現できるものだ。文字に至るまで雰囲気作りを行いたいという場合には有用な機能となる。
左から「簡易マップエディタ」、「オブジェクト配置ツール」、「天球生成機能」
実際に役立つ豊富なツール群。画像をクリックすると拡大されるので、見て頂きたい
MADE IN JAPANの必然
新井氏の話を聞いてきて感じたのは、OROCHI の各機能が欧米製ゲームエンジンや他のゲームエンジンと張り合うために盛り込まれているのではなく、
日本の開発スタイルに適合するように設計されているということだ。そのスペックは1つずつ見ていけば確かに高機能であることが分かるが、各機能はハイスペックとなることを目指して設計されているのではなく、
日本の開発者が使ったときに「高機能である」と実感できるようデザインされているのだ。いわばこれが OROCHI の一番の特徴だといえる。
例えばシェーダツールや AI ツール。欧米製ゲームエンジンではシェーダや AI そのものをビジュアル的に制作できる万能ツールが提供されている場合が多いが、OROCHI ではシェーダや AI の基本パーツはプログラマーが開発してツール上に組み込み、デザイナーやアーティストがそれらのツール上で調整して最終形に作り上げるスタイルにしている。これは、機能実装は優秀なプログラマーに任せ、職人芸的な作り込みや些細な調整はこだわり派のデザイナーやアーティストに任せるという日本の一般的な開発シーンには非常にマッチしている。
「国産オールインワンゲームエンジン」は単なるキャッチコピーではない。ゲームエンジンを「日本のゲーム開発シーンに適合」させるためには、「MADE IN JAPAN」が必然だったのだ。
TEXT_西川善司
PHOTO_大沼洋平