
舞台は煌びやかなネオンライトで彩られた近未来の東京。 “シンジュク・ヴァンパイア”として名を馳せる裏社会の殺し屋コバヤシとなり、血液で駆動する刀、血の特殊能力を駆使して東京に巣食う狂人たちを抹殺する。
そんなイントロダクションで始まるのは、今春Steamでリリース予定のアクションゲーム『Tokyo Underground Killer』(以下、『TUK』)だ。
『TUK』の開発を手掛けるフェニックスゲームプロダクションは、ドイツ出身のDaniel Hedjazi氏が代表を務める大阪のゲーム会社である。本記事では、『TUK』の企画立案経緯と制作工程を掘り下げるとともに、フェニックスゲームプロダクション独自の作品の世界観、そして同社の今後の展望について聞いた。
作品情報

Tokyo Underground Killer
2025年リリース予定
store.steampowered.com/app/2063090/Tokyo_Underground_Killer/?l=japanese
© Phoenix Game Productions LLC All rights reserved. Licensed to and published by Nevermind Inc.
ネオンで彩られた、ディープな東京の側面が魅力の『TUK』

Daniel Hedjazi(ダニエル ヘジャージ)氏
フェニックス・ゲームプロダクション
CEO ディレクター
ドイツ出身、来日して13年。デンマークでゲーム業界でのキャリアをスタートした後、サイバーコネクトツー、プラチナゲームズでの勤務を経て現職。フェニックス・ゲームプロダクションでは代表とディレクターを兼務している。

Ernesto Elvin Pareira(エルネスト エルビン パレイラ)氏
フェニックス・ゲームプロダクション
背景アーティスト
インドネシア出身。京都の専門学校で4年間アートやCGを学んだ後、フェニックス・ゲームプロダクションに入社。現在入社2年目。
CGWORLD(以下、CGW):『TUK』のトレーラーを拝見しました。ドイツご出身のDanielさんがどのような経緯で東京が舞台の任侠ゲームをつくることになったのか気になります。企画のきっかけは何だったのでしょう?
Daniel Hedjazi氏(以下、Hedjazi):『TUK』の構想自体は10年以上前からありました。初めて観光で東京を訪れたときに感じた気持ちを、ゲームに落とし込みたいと思ったんです。
僕は元々ドイツの田舎の出身なのですが、ドイツに住んでいた頃から日本や東京のカルチャーが好きで、憧れを持っていたんです。具体的には、三池崇史監督や黒沢 清監督、塚本晋也監督の撮る映画や、ゲーム作品だと『ジェットセットラジオ』は音楽も世界設定もアートスタイルもすばらしくて大好きですし、『バイオハザード』シリーズや『サイレントヒル』の悪夢のような狂った世界観に夢中になりました。『シルバー事件』なんかもいいですよね、ゲーム表現の可能性に刺激を受けました。
『TUK』の企画は、新宿ゴールデン街や歌舞伎町、秋葉原、原宿など日本国外から訪れる観光客にとっても印象的なエリアを舞台にしつつ、日本の任侠映画のテイスト、アンダーグラウンドやヤクザなどの要素を組み合わせて生まれました。

CGW:『TUK』の制作はいつから始まったのでしょうか?
Hedjazi:フェニックス・ゲームプロダクションを設立した2019年からです。ただ、初めの3年はプロトタイプをつくっていただけなので、チームを組成して本格的に開発を始めたのは2022年からですね。
開発初期においては、僕が30ページにわたる企画・世界設定資料をつくり、この資料をベースにコンセプトアーティストに数多くのコンセプトアートを描いてもらい、プログラマーがプロトタイプを構築する、といった役割分担で、3名体制でつくっていきました。当初は他の業務が終わった後に、少しずつ進めていましたね。
CGW:本制作に入ってからの制作工程についても教えてください。
Hedjazi:本制作に入る前に完成していた戦闘ステージのプランをもとに、ひとつずつのステージとボスを制作していきました。
それから、本作ではステージをクリアするごとに展開していくストーリーを漫画スタイルで演出しており、そのためのカット制作ですね。シナリオにイテレーションをかけながら少しずつ完成させていったのですが、最終的に制作したカット数は実際のコミック単行本、約90ページくらいの大ボリュームになりました。

CGW:本制作に入った際の、開発チームの構成や人数を教えてください。
Hedjazi:セクションとしてはプログラムチーム、アートチーム、そしてサウンドの3つです。
アートチームにはモデラー、アニメーター、VFXアーティスト、UIやアイコンのデザイナーとコンセプトアーティストが最大8名参加してくれました。プログラムチームは3名、サウンドは『Doom Eternal』などの作品を手掛けたAndrew Hulshult氏が劇伴からSEまで全て担当しています。
ディレクター兼プロデューサーの僕を含めると、約13名で手がけたゲームとなります。
CGW:開発にあたって使用したツールを教えてください。
Hedjazi:プロトタイプの段階から、メインツールはUnreal Engineです。背景制作には3ds Maxを使用しています。
Ernesto Elvin Pareira氏(以下、Pareira):背景の仕上げにはSubstance 3Dも使っています。現実に存在する街がモデルになっているため、ユニークな要素を盛り込みつつ、現実感を感じられる街になるようこだわってつくりこんでいきました。


CGW:Pareiraさんが開発に入られてからのことを教えてください。
Pareira:私は2023年から『TUK』の制作に参加し、ステージの背景制作を担当しました。途中まで制作されたステージの続きをつくっていくケースもあったのですが、その際にはストーリーやコンセプトアート、企画書で定義された世界観を元に「こういう要素を追加するのもアリなんじゃないか」と提案しつつ、調査、制作、ブラッシュアップを繰り返しました。
特にこだわって制作した背景としては、浅草の地下通路が挙げられます。この場所はストーリー上重要な役割を担うボスキャラクターの秘密基地なのですが、実際の浅草の地上の風景を参考にしつつ、『TUK』の世界観、秘密基地の雰囲気を構成する要素を加えて完成しました。
具体的には、東京の地下通路でしばしば見かける壁面に張り巡らされた配管や、居酒屋の立ち並ぶ光景、そのレトロ感が『TUK』の雰囲気に合うのではないかと思って提案していきました。



Pareira:『TUK』独自の設定や、ネオンをモチーフにしたアートの統一感と、現実の浅草の光景とをミックスするように世界を構築していくのが楽しかったですね。
CGW:『TUK』の制作において、こういったデザイナー発信の提案を取り入れる場面は多かったのでしょうか?
Hedjazi:もちろんです。ただ、どんな提案でも採用するわけではなく、作品の柱を理解しているかどうかを都度検討・議論しています。アイデアを思いつくこと自体は誰にでもできるかもしれませんが、それが作品の質を上げるものかどうかまで判断できないといけない。その点の理解があれば、柔軟にどんなアイデアでも取り入れてつくり上げてきました。
CGW:リリースを目前に控えた今、『TUK』はフェニックス・ゲームプロダクションにとってどのような意味を持つ作品になったと感じていますか?
Hedjazi:ようやく念願を果たし、フェニックス・ゲームプロダクションのイメージを体現してくれる作品をつくりあげられたと感じています。また、我々がつくるゲームの定義、今後超えていくべきベースのクオリティラインの認識を、社内で共有する契機となりました。
オリジナルタイトルのリリースをかなえた、フェニックス・ゲームプロダクションのこれから
Hedjazi:ここからはPareiraに代わって、アートマネージャーの中井が参加します。

中井陽一氏
フェニックス・ゲームプロダクション
アートマネージャー兼リードアニメーター
ゲームプロダクション2社での勤務を経て、現職。1社目ではアニメーター・リードアニメーターとして15年、2社目ではシニアアニメーターとして7年務めたあと、2025年2月にフェニックス・ゲームプロダクションに入社。
CGW:入社したばかりの中井さんからみて、フェニックス・ゲームプロダクションはどのようなゲーム会社ですか?
中井:僕の第一印象としては、オープンな人が多い会社だなと感じました。16人の社員のうち9人が海外出身で、出身国もドイツ、アメリカ、イタリア、フランス、インドネシアと様々ですが、入社初日から今日まで多くのメンバーと密にコミュニケーションが取れています。国籍などは関係なく、一般的に入社してすぐの時期は多くのメンバーとコミュニケーションをとるのは難しいと思うのですが、ここでは壁を感じることがありませんでした。
Hedjazi:実は今のオフィスも、よりコミュニケーションが活発な環境でゲーム制作を行うために準備したんです。

CGW:社内でのやり取りは、どの言語で行われているのでしょうか。
Hedjazi:基本的に社内報は全て日本語で流していますし、全体会議も日本語で行います。日本語が母語でない人同士の会話では英語が使われることもありますが、日本語を話せることを採用の要件のひとつにさせてもらっています。今は『TUK』の次のプロジェクトが始まったばかりなので、ちょっとした雑談から議論まで、とにかく会話が飛び交っているような状況です。
中井:これまでの長いキャリアにおいては、部署同士が隔てられていたが故に、コミュニケーションをとりづらく、却って問題解決に手間がかかってしまった経験もありました。例えば、UIを工夫すれば簡単に解決できる問題にもかかわらず、アニメーション工程ですごく時間をかけて解決してしまっていたり。フェニックス・ゲームプロダクションに入社してからはそういったことが全くないので、解決するべき課題がいつもシンプルに捉えられて良いなと感じています。
Hedjazi:例えば、『TUK』における漫画スタイルのカットシーンは自社開発のツールで制作しています。演出方法を社内で議論した末にプログラマーがUEでつくってくれたツールなのですが、このツールのおかげで演出の変更からローカライズまでスムーズに対応できるようになりました。
CGW:『TUK』の次のプロジェクトが動いているというお話もありましたが、今後のフェニックスゲームプロダクションの展望について改めて聞かせてください。
Hedjazi:これからリリースされる『TUK』を皮切りに、フェニックス・ゲームプロダクションならではの世界観で構築された作品を世に送り出していければ、と思っています。操作の爽快感、プレイヤーに没頭してもらえるストーリー、他にない尖ったスタイルを追究していきたいです。
そのために、現在フェニックス・ゲームプロダクションでは採用を強化中です。アクションゲームの経験のある人が来てくれると嬉しいですが、大きな会社ではないので、まずはゲームを良くするためにどうすればいいか皆と一緒に前向きに考えられる人、技術の習得に対して前向きで、こだわりのある人に来てもらえたら嬉しいです。

求人情報

フェニックス・ゲームプロダクション
www.phoenixgp.co.jp
▼募集職種
・プロデューサー/プロジェクトマネージャー
・コンセプトアーティスト
・キャラクターアーティスト(キャラクターモデラー)
・プランナー
・ゲームプログラマー
TEXT_稲庭淳
EDIT_Mana Okubo(CGWORLD)
PHOTO_中村昭一(レブフォトワークス)