導入機材とネットワーク環境
最後に、具体的な導入機材と制作環境をみていこう。グラフィニカでは、昨年5月のオフィス移転を機に、社内の機材とネットワークを全面的に見直したという。「諸々の調整を経て、今年3月に社内の PC を全て64ビットマシンに移行させました。併せて、ネットワーク・ストレージとレンダーファームについても5〜6月にかけて 64 ビット対応の機材に一新させました」(江田氏)。VFX 班の場合、移転前まではレンダーファームを PowerMac G5 の Apple Xserve で構築していたそうだが、32ビット処理なのに加え AE もバージョン 7.0 までしか対応していなかったため、今回のリニューアルによって大幅に作業効率が向上したそうだ。新しいレンダーファームは、HP Z800 Workstation が14台で構成されており、1台あたりのスペックは Intel Xeon X5690(6コア)のデュアルCPU、メモリ48GB と非常にハイスペック(トータル168コアだ)。80人規模のプロダクションとしては、充実したレンダーファームである。
デジタル・アーティストたちが使用する作業用マシンも、HP Z600 Workstation を採用した。「今までは、古くなったり壊れたりしたタイミングで BTO マシンをその都度購入することが多かったのですが、マシンごとのバラツキが大きく、管理する上でとても非効率だったので、実績のある HP 製ワークステーションに統一しました。信頼性や保守のことを考えると、メーカー保証がある純正モデルはやはり安心できますね」(江田氏)。もちろん、無闇にハイエンドなものに揃えるのではなく、同じ Z600 でも VFX 班向けのものはグラフィックスボードに Quadro 2000 を選択してあるのに対して、3DCG 班向けのものは Quadro 4000 を採用(レンダーファーム用の Z800 は Quadro 600 )するといった具合に用途に応じて細かく仕様を分けて費用対効果の最大化が図られた。「余談ですが、CUDA を用いた GPU レンダリングにも注目しています。かなり実用性が向上してきたので、後は対応レンダラが増えることに期待したいですね。その他にも回線速度の問題がクリアになれば、ストレージのクラウド化も検討できればと思っています」(江田氏)。
グラフィニカのネットワーク構成図(2011年6月24日現在)。今年に入り、作業用PCからネットワーク・ストレージ、レンダーファームまで全て64ビット対応機材へとリニューアルされた。レンダリングのジョブ管理には、Autodesk Backburner と PipelineFX Qube! を併用している。ストレージは、VFX と 3DCG で各10TB とレンダーファームの規模に比べると少なく感じるが、現時点では十分賄えているそうだ
制作データの管理については、特にデジタルアセット管理ソフト等を用いずに、ファイルサーバ上にプロジェクトごとにディレクトリを作成し、マニュアルで管理しているという。「アニメから実写、ゲーム、遊技機まで幅広いデジタル・コンテンツ向けの CG・VFX 制作を手掛けているため、アセット管理を一元化するのは難しいですね。また、アーティストが個人単位でエフェクトのアーカイブをストックするといったことはしていますが、基本的に納品が受理された作品のデータは、クライアントに返却後、サーバー上からは消去しています」(大鳥居氏)。必要以上に空き容量を設けないことで、自ずと各スタッフが不必要なデータを残さないよう習慣づけられているわけだ。ちなみにVFX 班では1案件(2クールもののTVシリーズを想定)につき約 500GB 程度、3DCG 班では、案件ごとのバラツキは大きくなるものの大半は 300〜800GB の範囲で収まっているという。
5階( 3DCG )に設置されているデータ・ストレージとレンダーファーム(上)と2階( VFX/編集)にあるマシンルーム(下)。14台の HP Z800 Workstation で構成されたレンダーファームは、今年6月に導入したばかりの新品。また、HDCAM-SR をはじめ、ポスプロ仕様のハイエンドな VTR が利用できるのもキュー・テックグループであることの強みだ
使用ツールについては、VFX 班は Adobe After Effects 7.0〜CS5.5、3DCG 班は Autodesk Maya 2010〜2012 並びに Autodesk 3ds Max 2009〜2012 と、発注元や外部パートナーの環境に柔軟に対応できるように幅広く取り揃えている(全てのクライアントが最新バージョンで制作を行なっているわけではないので、必然的に古いバージョンも維持管理しておく必要があるとのこと)。全社的に64ビット環境に移行したことで、当初は古いバージョンを使用した際の不具合なども懸念されたが、今のところ問題なく稼働しているそうだ。
現在、グラフィニカで利用している主なソフトウェアとプラグイン一覧。VFX スタジオとして様々な案件を手掛けているため、主要ツールについては新旧バージョンを幅広く取り揃え、プラグインについても同じ系統(グローエフェクトなど)のものを複数種類用意している
日本のデジタルアニメーション先駆者の系譜を継ぐグラフィニカ。最後に今後の展望について聞かせてもらった。「VFX スタジオの場合、何か特定の分野に専門化して独自色を出すのがセオリーだと思いますが、敢えて特化はせず、フルラインの機能を持つことにこだわっています。キュー・テックと連携することで、テレビ局や劇場への最終的な納品まで対応できるようになったので、引き続きトータルサービスを提供できるスタジオとして活動領域を広げられたらと思っています」(藤黒氏)。そのためにも、ゴンゾ時代のように自社ツールの開発にも取り組んでいきたいとのこと。昨今の実写 VFX と CG アニメーションが融合する流れも相まり、今後もさらなる活躍が期待できそうだ。
TEXT_大河原浩一( Bit Pranks )
PHOTO_弘田 充
グラフィニカ中核スタッフ
写真後列右から、藤黒素子氏(チーフ・マネージャー)、大鳥居紀行氏(VFX副統括)、江田道啓氏(管理 システムエンジニア)、牧 達也氏(CG プロデューサー)以上、グラフィニカ
▼ About Company
株式会社グラフィニカ
デジタルアニメーションの先駆者的存在である ゴンゾ(旧 GDH ) のデジタル部門が2009年4月、株式会社キュー・テック グループに移管設立された CG・VFX スタジオ。『青の6号』(1999)や『ラスト・エグザイル』(2003)等で培われたゴンゾ時代の創作力と、キュー・テックの技術力とのコラボレーションにより、常に先進的映像を発信するスタジオとして進化を続けている。
http://www.graphinica.com/
TEL:03-6803-6611(代表)
連動記事を公開中!
今回、紹介したグラフィニカにて、撮影監督として活躍中の吉岡宏夫氏へのインタビュー記事を下記サイトにて公開中です。ぜひ、あわせてご覧ください。
CG-ARTSリポート「プロダクション探訪~第一線で活躍する先輩からのメッセージ~」第2回(前編):グラフィニカ 吉岡宏夫さん