こんにちは! ボーンデジタル テクニカルサポートの黒河です。本連載では様々なソフトウェアの深掘りと、クリエイターに役立つテクニカルな情報をお届けしていきます。
建築業界で徐々に導入が増えてきているビジュアライゼーション(Viz)向けリアルタイムレンダラ、D5 Render。実は海外では、イラストや動画の背景制作に活用する例もあると言います。 そこで今回は、D5 Renderの機能がそういった制作にどう役立つのか、検証してみました。
※Version 2.10にて検証しています

黒河 建
ボーンデジタルのテクニカルサポート担当。前職ではIT企業にて基幹システムの導入に従事。現在はRevitを中心に、建築業界向けのサポート業務を担当している。
X:@BD_SoftwareDiv
※本記事は、月刊『CGWORLD + digital video』vol.322(2025年6月号)掲載の連載「TECH ROOM:このソフト、どこまでやれる?」を再編集したものです。

D5 Render

Dimension 5が提供するビジュアライゼーション向けリアルタイムレンダラ。直感的なインターフェイスとAI機能の搭載により、高品質な画像を素早くアウトプットできる。建築アニメーション向けの便利機能も搭載
レンダリング画像に変化を与える2つのAI機能を検証
D5 Renderは、インポートした3Dモデルを魅力的にビジュアライズすることに特化したレンダリングツールです。類似ソフトには、例えばTwinmotionが挙げられます。
D5 Renderはビジュアル表現に特化しているため、ゲームエンジンのような多機能性は備えていない反面、操作が非常にシンプルで直感的です。3DCGに不慣れな方でも、基本的なアセットの配置やライティング設定を習得すれば、3D空間上で構図やルックの検討をスピーディに行うことができます。
本ソフトの大きな特徴として、レンダリング画像に対してAIによる後処理を適用できる点が挙げられます。機能としては、質感の向上を図る「AIエンハンサー」機能、水彩やイラスト風の表現に変換する「AIスタイル転送」機能、そして空や地面などの要素を認識して描き変える「AIインペインティング」機能があります。
今回は「AIスタイル転送」と「AIインペインティング」の2機能に注目し、それぞれを使用してどのような出力が得られるか試してみます。
※これらの機能は有料版限定の機能になります。無料版ではご利用できません。
機能① 「AIスタイル転送」で画風を変換する
まずは屋内シーンを使い、「AIスタイル転送」を使用した出力結果を確認してみます。

また、AIスタイル転送は、季節や時間帯に応じた色味に変更することもできます。種類は春、秋、冬、夕日、夜の5種類です。また、手持ちの画像を参照させることも可能です。

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▲元画像に「夜」を適用 -
▲「夜」を適用した後、続いて「漫画」を適用してみます。このように、D5 RenderのAIによる後処理は複数回にわたって適用することが可能です。ただし、くり返し処理を重ねることで画が徐々に破綻し、不自然な描写が目立つようになる場合もあります。何度試しても納得のいく結果が得られない場合は、元シーンの構成自体を見直すことも検討すべきでしょう
機能② 「AIインペインティング」機能で修正を加える
次は屋外シーンを使い、AIスタイル転送とAIインペインティングの2機能を組み合わせて試してみます。

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▲なお、AIインペインティングの「空」機能は、複数の空模様から選択が可能で、単に空を描き足すだけでなく、周囲のライティングにも影響を与える点が特徴です -
▲例えば「夕暮れ」を適用した場合、空の色調だけでなく、シーン全体が柔らかな赤みに包まれた表現に変化します
機能③ アウトラインモードで輪郭線を抽出する
D5 Renderには、3Dモデルのエッジを線画として表示する「アウトラインモード」が搭載されています。このモードをONにすると、モデルの一番外側のエッジが自動検出され、輪郭線として描画されます。
設定項目は非常にシンプルで、外側ラインと内側ディテールの太さや色、背景色のみが調整可能です。描画処理に基づく機能のため、AI後処理のような出力結果のブレがない点も特徴です(ただし、ビューポートとレンダリング結果に若干の差異はあります)。動画出力にも対応しています。なお、背景色を設定した場合、影の表現は無効化されるため注意が必要です。

線画表現は、漫画やWebtoonにおいて都市の俯瞰や樹木の密集表現などに有効で、特に広がりのある風景描写で活躍が期待されます。D5 Renderに標準搭載されている植栽アセットは高品質かつ種類も豊富で、庭園や森林などのシーンはソフト内で完結させることも可能です。それ以外の建築物や都市アセットについてはFBX形式で外部データの取り込みが可能なため、外部モデルを活用しながら効率的にレイアウトしていくとよいでしょう。
都市や自然背景をイチから手描きで制作するのは時間と労力を要する作業ですが、D5 Renderには豊富な植栽アセットや地形生成機能が搭載されており、簡単な操作で直感的にシーン構築が行える点も大きな魅力です。これにAI処理を組み合わせることで、制作スピードの向上が図れるだけでなく、構図の検討やアイデア出しといった創造的な工程により多くの時間を割けるようになります。
こうして見ると、D5 RenderのAI機能は最終表現を置き換えるものではなく、あくまで作業を補助し、クリエイターの発想力を引き出すために設計されている印象を受けます。
CG分野以外のクリエイターにもオススメの表現力

上の画像は、フリーのFBXデータをダウンロードしてD5 Renderに読み込み、D5 Render内の人物アセットとカメラを配置したのち、レンダリング後にAIスタイル転送の「漫画」表現(スタイル転送ウェイト:1.0、構造一致ウェイト:0.1)を適用した例です。女性キャラクターは、Procreateに取り込んで若干の加筆修正を行なっています。

また、上の画像はD5 Render内の素材のみを使用し、まずAIスタイル転送で「夜」表現(スタイル転送ウェイト:0.6、構造一致ウェイト:0.9)を適用した後、さらに「漫画」表現を重ねています(同じくスタイル転送ウェイト:1.0、構造一致ウェイト:0.1を設定)。
3DCGに不慣れな方でも基本操作を覚えればシーン制作や構図に集中できるため、非CG系クリエイターの導入ツールとしても大きな可能性を感じます。特にアイデア出しのタイミングでの活用は効果がありそうです(DCCツールなどが少し触れる人にも〇)。
ただし、AI機能は有償版からの利用に限られるため、その点は導入のハードルとなり得ます。興味をもたれた方は、まず無料版で基本操作に触れてみてください。
今回紹介した機能を使用する機会は、あまり多くないと思います。活用事例などの情報もほぼないので、今回の記事が少しでも使用感の参考になれば幸いです。クリエイティブな補助ツールとして意外な飛び道具になる可能性がありますので、ぜひ試してみてください。
次回予告|Flix

次回は、Foundryのアニメーション制作支援ツール「Flix」を取り上げます。Flixはプロジェクト全体の一元管理と制作フローの効率化を目的に開発されたツールで、スケジュール管理やリファレンスの整理、進捗トラッキングといった制作支援機能を網羅。さらに、キャラクターの動きやシーンのタイミングといった演出面の調整情報をソフト内で共有できるなど、アニメーション制作における情報ハブとして活用されています。「名前は聞いたことがあるけれど、詳しくは知らない」という方に向けて、基本情報と他製品との連携方法などを、イメージを交えて紹介予定です。どうぞお楽しみに!
テクニカルサポートが選ぶ今注目のソフト|MEDITOR

meditor3d.com
MEDITORは、3D Webアプリケーションを通じて画像ダウンロードを提供するサブスクリプション型サービスです。人体、動物、医療機器などメディカルコンテンツ制作に必要不可欠な100点以上の3Dモデルを収録しています。Freeプランでも基本機能を十分に体験でき、美術解剖学の学習用ツールとしても有用です。医療・教育分野はもちろん、リアルな人体表現を求められるエンタメ業界のクリエイターにとっても、活用の幅が広がる注目のサービスです。
INFORMATION

月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.322(2025年6月号)
特集:アニメ『TO BE HERO X』
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2025年5月10日
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TEXT_黒河 建/Takeru Kurokawa(ボーンデジタル)
EDIT_小村仁美/Hitomi Komura(CGWORLD)、李 承眞/Seungjin Lee(CGWORLD)