フォトリアルな画づくりと大物量を両立させるべく成熟した技法とワークフローの下、適材適所を徹底。リモートワークへの対応にも迫られた舞台裏を追った。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 278(2021年10月号)からの転載となります。

TEXT_石井勇夫(ねぎぞうデザイン)
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamda
©2021『妖怪大戦争』ガーディアンズ

映画『妖怪大戦争 ガーディアンズ』大ヒット公開中
出演:寺田 心 杉咲 花 大沢たかお 他
監督:三池崇史/製作総指揮:角川歴彦、荒俣 宏/脚本:渡辺雄介/撮影:山本英夫/照明:小野 晃/美術:林田裕至/編集:相良直一郎/装飾:坂本 朗/装置設計:郡司英雄/VFXスーパーバイザー:太田垣香織/妖怪デザイン:寺田克也、井上淳哉/キャラクタースーパーバイザー:前田勇弥/妖怪特殊メイク造型ディレクター:石野大雅/画コンテ・妖怪デザイン:相馬宏充
制作プロダクション:OLM/制作協力:楽映舍/配給:東宝、KADOKAWA
movies.kadokawa.co.jp/yokai

リモートワークの課題はコミュニケーション

好評上映中の映画『妖怪大戦争 ガーディアンズ』は、1968年公開の特撮映画を2005年にリメイクした『妖怪大戦争』の最新作。メガホンを取ったのは前作にひき続き三池崇史監督で、たくさんの妖怪が暴れまわる痛快な冒険特撮大作だ。そしてVFXも前作同様、数多くの三池作品に参加してきたオー・エル・エム・デジタル(以下、OLM)が担当した。

制作は2019年の夏から始まり、翌2020年のクランクアップ直後に緊急事態宣言が発令されたため、4月7日(火)以降、ポスプロはリモートワークに切り替えて進められた。制作の途中からリモートデスクトップツールはSplashtopを導入。進捗の管理はGoogleスプレッドシート、外部とのファイル共有はGoogleドライブを使用したという。リモートワークとはいえ、コンポジターは週1~2日は出社して、マスモニでチェックをしつつ作業を進めた。色の調整はまだまだリモートでは難しいのが現状だ。シークエンスのチェックは、マスモニ以外ではFrankieを利用。Frankieはコマ指定でテキストや手書きで指示ができるツールで、これとGoogle Meet(オンライン会議)を併用して、社内ではほぼ毎日ミーティングが行われた。一方、デジタルアーティストたちは通勤時間もなく、自分の時間も確保できるリモートワークを歓迎しているが、管理側としては課題も多いという。元来、アーティストはひとりでやっていると勝手につくり込んでしまう傾向があり、シーン全体で見るとつながりが悪くなるという問題が起こりがちだ。物理的に席が近ければ気軽に画面を見てコメントしたり、すれちがいざまに雑談混じりに進捗をチェックしたりもできるが、リモートではそれが難しい。また、監督への説明用、作業者への指示出しに細かい文章を用意するという工程が増え、リモートワークではコミュニケーションのための準備に時間が必要になることを浮き彫りにした。「本作で苦労したところは何と言ってもコミュニケーションの大変さでした。CGの技術を上げること以上に、コミュニケーションの改善を考えないといけない。今後もリモートワークが続くので、大きな課題ですね」と、VFXスーパーバイザーの太田垣香織氏。

<1>プリプロ&アセット制作

VFXカットは適材適所でシークエンス単位の発注を徹底

本作では撮影のメインカメラはALEXA、クレーンの撮影にはソニーのVeniceが使用された(ドローンによる空撮も実施)。納品のサイズは2Kで、シーンリニアワークフローによる制作。約570以上のVFXショットを、OLMをメインに、NEWPOT PICTURES(水龍シーン、群衆表現)、LiNDA(八百八狸や、スネコスリのモデル制作)、ナイス・デー(隠神刑部がバイクで走るシーン)、海外スタジオではOLM Asia SDN BHD、インドのAnibrain(妖怪獣の冒頭シーン)、マレーシアのFly studio(体育館シーン)などが参加した。担当を分けるにあたっては、「アニメーションやエフェクトなどの作業工程ごとに担当を分けると無責任になりがちで、修正が増えていきます。あえてシークエンスで渡して、自分たちのカットという思いでつくってもらうようにしています」(太田垣氏)と語るように、単純な効率だけではなく、つくり手の気持ちも考慮して割り振られた。

OLMが担当したモデルは、大魔神と妖怪獣(第一・第二形態)。大魔神のデザインは寺田克也氏によるもので、デザイン画にはどんな姿勢で中に人が中に入るかなどまで描かれており、見る側も納得のいくデザインになっていたという。大魔神のモデリングでは、セットに対してどの程度のサイズが適正かをスマホのAR機能を活用して検討。同時に1/1のバストアップの造形も制作していたので、そちらとの整合性も保ちつつの作業となった。妖怪獣は全高が300メートルもあるため、スケール感を出すのに苦労した。形態も変化するため、柔軟に対応できるようにアセットが組まれている。また、大魔神の肩に主人公が乗るミドルからロングのシーンでは、レスパスビジョンがフォトグラメトリーから作成したデジタルダブルを活用。大魔神の造形に実際に子役が乗っているカットと巧みに組み合わせており、初見では気づかない観客が大半だと思われる。

八百八狸のモデルは、毛が生えたキャラクター表現に定評あるLiNDA(グリオグルーヴ)が担当。XGenを活用したリアルな動物感のあるモデルに仕上がっている。同社は動物系妖怪のスネコスリも担当した。そのほか、撮影スタジオをRealityCaptureでキャプチャし、それをベースにガイドのモデルを作成してカット制作に利用した。正確なセットのモデルがあると、カメラのポジションを現実に即した場所に置きカット制作ができるため間違いが少なくなり、加えてトラッキングの精度が上がるため、重要な工程だ。トラッキングはPFTrackをメインに、一部でSynthEyesを使用。最近の写真ベースのフォトグラメトリーは、以前のレーザー測定より簡単で助かっているとのことであった。

妖怪獣のモデルの変遷

妖怪獣の第一・第二形態におけるモデルの変遷



  • ▲第一形態。顔のモデルはアニメーション作業やオーラのエフェクト作業で使用



  • ▲第二形態のベースモデル。ショットごとに形状を大きく調整する必要があるため、バラバラにパーツを作成し、組み替えられるようにした

▲第二形態ベースモデルの組み合わせ例

大魔神のモデル

▲セットの半身モデルと同時期に作成していたため、セットとの整合性をとりながらモデル作成を進めた

八百八狸のモデル

▲毛の表現にはXGenを使用

デジタルダブル用モデル

デジタルダブル用に作成した渡辺ケイ

▲最終的なデジタルダブル用モデル

▲フォトグラメトリーソフトウェアRealityCaptureで立体に起こしたモデル(1,000万ポリゴン)を、主にZBrushの八百八狸のモデル。毛の表現にはXGenを使用 ZRemesherを使ってパーツごとにリトポロジーした

セットのモデル

▲RealityCaptureで立体化したセットのMayaシーン

▲RealityCaptureでの作業の様子

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<2>妖怪獣VS大魔神

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<2>妖怪獣VS大魔神

全高300メートルの妖怪獣と飛翔する大魔神を成り立たせる

クライマックスの妖怪獣VS大魔神シーンは、VFXの物量も品質も素晴らしく、ダイナミックで見応えのあるシーンだ。実写撮影は、KADOKAWA大映スタジオ内で最も面積の広い「STAGE G」で行われたが、大きさが300メートルもある妖怪獣が暴れ回るような広大なシーンをつくり上げるため、セットエクステンションを多数用意した。妖怪獣は、まずは正確な大きさのモデルをフォトグラメトリーから作成したバーチャルセットに置いてレイアウトを検討し、カットバイで調整していった。ライトの配置も難しく、セットのライティングとマッチングさせつつ、奥行きをつくるのに苦労したという。臨場感にもこだわり、3DCG・撮影・Nukeでそれぞれ多種多様な煙や火の粉を何度も重ねてコンポジット上でボリュームアップをくり返し、最後まで調整した。その甲斐があって、とてもセットとは思えないリッチな画面に仕上がっている。

大魔神が飛翔して妖怪獣に斬りつけるシーンは作品の大きな見どころのひとつ。特に苦労したのは刀が伸びるカットだ。「このカットは凄まじくコストが高かったです。コンテ通りにつくった後で、アセットを直しながらつくり込みました」と、小俣隆文VFXディレクター。クライマックスシーンを含めた背景アセットを全て担当した伊藤裕佑氏がふり返る。「いつもはスタッフが隣に座っているので質問があるたびに声をかけてもらえば良かったのですが、リモートワークではそうはいかないのでしくみとルールづくりが必要になっています」。リーダーが基本的な配置やつくり方のルールを決め、作業者が考え込まずに作業できるレールを敷くことが大事だと語った。

一連のクライマックスシーンは、状況を説明するような引きのカットを排除したバストショットの連続で成り立っているが、三池監督の優れた演出力により見応えある映像に仕上がっている。監督が描いた人物配置の図面を現場で共有・理解した上で撮影され、各カットの演者の目線位置が正確なため、自然に鑑賞できる。実際に映画館で観てみると、ダイナミックな演出で目が離せない。

グレーディングはまずオフライン作業でプレグレーディングして方向性を決め、VFX作業後に本グレーディングが施された。作業はカメラマンにまかせっきりにはせず、VFXが介在するシーンのグレーディング作業には必ず太田垣氏も立ち会い、相談しながら進めたという。「グレーディングに立ち会わないVFXスーパーバイザーが多い印象ですが、すごく重要な作業なので、カメラマンとお互いの意志を尊重しつつもゆずれない部分ははっきりとその理由を伝えることを心がけています」(太田垣氏)。

武神の飛行シーンにおける背景セット



  • ▲ドローンで撮影した街の夜景の素材を地面に投影して使用



  • ▲地面が平面だと炎のFXの照り返しが立体的に表現できないため、要所にビルや瓦礫の3Dオブジェクトを配置した

Nukeによる飛行シーンのコンポジット作業



  • ▲PositionToPointsノードで妖怪獣、大魔神の位置を確認しながら背景を撮影



  • ▲切断エフェクトを合成

▲合成に使用した全ノード

飛翔シーンのブレイクダウン

▲ドローンによる実写プレート



  • ▲プレーブラストを合成したプリビズ画像。プリビズで背景3DCGとマットペイントが必要な範囲を決めた



  • ▲壊れたビルと瓦礫の3DCG素材



  • ▲プレートに3DCG素材とマットペイントを足したもの



  • ▲Nuke内のカメラで撮影した背景に妖怪獣・炎・煙を合成

▲大魔神と切断エフェクトを合成した完成ショット

ディスプレイスメントマップによる表現

劇中、妖怪獣(第一形態)のモデルは真っ二つになるが、断面を考慮してつくられていないため、武神が妖怪獣を切る角度に合わせてモデルを切断してプレーンで断面を塞ぎ、ディスプレイスメントマップで内部を表現してい る

▲モデルを切断

▲内部表現用に用意したディスプレイスメントマップ

コンポジット作業

妖怪獣(第一形態)が真っ二つになるシーンのコンポジット作業



  • ▲背景を合成。空はHDRI、奥背景はマットペイント、照り返しのある中近景は3DCGで、煙や炎を合成した



  • ▲カラコレやLuminance keyを使って発光部分を調整

▲火の粉と煙の汎用素材を合成

コンポジットのブレイクダウン



  • ▲断面の発光がない状態で妖怪獣を合成



  • ▲左から、断面のbeauty、beautyにカラコレとグローを施し燃えているようにしたもの、beautyを加工した熱が強い中心部分

▲【beauty、CG+glow、glow2】の素材と火の粉のFX素材を合成

▲完成ショット

妖怪獣ロングショットのMayaシーン

▲全高300メートルという設定の妖怪獣(第一形態)ロングショットのMayaシーン。画面手前の明るいオブジェクトはフォトグラメトリーで立体化した撮影スタジオ。その先に背景が地続きに広がるようにシーンを構築した。ビルのない平地部分にはMASHで瓦礫を敷き詰めた

コンポジット作業の様子

▲コンポジットの全体像。込み入ったノード構成となった

▲3D空間上で適切な位置に建物や炎、煙を配置

▲妖怪獣と人物の間にも炎や煙を配置した

ブレイクダウン



  • ▲空と奥の建物



  • ▲妖怪獣と中間の建物



  • ▲妖怪獣のオーラ



  • ▲手前の雲



  • ▲中間の建物に煙、炎、火の粉



  • ▲前景を加えた完成ショット

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<3>八百八狸の群衆表現

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<3>八百八狸の群衆表現

ニューノーマル時代のワークフローを模索

八百八狸の群衆表現では、808に近い数の狸をレイアウト。毛並みにはXGenを使っているためレンダリングコストは相応に重くなるが、ArnoldのStandInを活用してレンダリング直前までジオメトリデータのロードを保留しておくことで作業中のシーンを軽量化、オペレーションをしやすくした。

妖怪獣の第一形態、顔や体のオーラをはじめとしたエフェクトは、妖怪獣の巨大なスケール感をエフェクトで伝えるため、何度もそのスピードを修正した。本作ではエフェクトが多く、エフェクトをリードした春原樹氏もコミュニケーションに悩んだという。「初参加の人が多かったのですが、すぐにリモートになってしまいワークフローの変更を余儀なくされました。ひとつのカットで複数のエフェクトを使うときは、データを共有するのもラグが出たりして大変でしたね。今後、スタッフ間でもっと気軽に話せる環境づくりを意識したいです」。コミュニケーションの問題はコンポジットにも当てはまる。「隣の人が見えないというのが想像以上に影響しました。普段、ふと側を通ったときや雑談の中で気がつくことが多いのです」と、コンポジットスーパーバイザーを務めた中野悟郎氏。

妖怪獣の第二形態が崩れ、中から木が生えてくるシーンのエフェクトも印象深い。妖怪獣の体は意外に細いため、カットバイで中から生えてくる木を調節。崩壊は内側と外側を分けてつくり込んでいる。また、海外のスタジオへ発注したカットについては、想定していたテイストと異なるものが上がってきたりと調整に苦労したが、監督はかえって日本人らしくない部分を面白がり採用したこともあった。「監督は『こうしないといけない』というのがない人なので、その点は救われました」(太田垣氏)。

本作ではクライマックスだけではなく、随所にVFXがふんだんに使われている。「時間がない中、監督が思い描くことにわれわれがどうやって近づくか。監督も、できるかできないかのギリギリの線をねらってくる。やってもやっても終わらない物量の中、みんな本当にがんばってくれたと思います」と、太田 垣氏はふり返る。一方、今後入ってくるだろう新人に対しては、環境的な不安があるという。「新人には今まで1から10まで教えられたのですが、リモート主体だと教える機会が少なくなるので、スキルの差が出てしまわないか心配です。どうやってこの状況を切り抜けていくか、答えは出ていませんが、こういう世の中だから、それに合わせて環境をつくり上げていくつもりです」と将来の展望を語った。

群衆表現

▲群衆表現はシーンが重くなるのを避けるため、ArnoldのStandInを使用した。ダミーオブジェクトを使い、配置を確定してからStandInに置き換えている。また、レンダリングはコスト低減のため島ごとに行なった

コンポジット作業の様子



  • ▲実写撮影プレートの炎の照り返しに合わせて、CGの照り返しを調整



  • ▲NukeXのParticleで火の粉を作成

▲火の粉、汎用素材の煙を合成

群衆シーンの各種合成素材



  • ▲奥の狸と岩のbeauty素材。狸と岩を左右に分けてレンダリングした



  • ▲中間にいる狸と岩のbeauty素材

▲手前の狸と岩のbeauty素材

▲狸のAOV。炎の照り返しの強弱調整をNukeで行うためにPer Light AOVで出力した

大魔神の真俯瞰カットの3DCG作業

▲肩に乗る渡辺ケイと渡辺ダイはデジタルダブルを使用している

当該カットのコンポジット作業

▲ノード全体図



  • ▲奥群衆はカット専用の砂煙や影を調節し、妖怪たちが自然に動いているように見せた



  • ▲臨場感を出すため、パーティクルなどで火の粉を足した

コンポジットのブレイクダウン



  • ▲影を含むBG



  • ▲群衆



  • ▲武神、渡辺ケイ、渡辺ダイ、スネコスリ



  • ▲煙や火の粉を足した完成ショット

妖怪獣が崩れ去るカット

妖怪獣(第二形態)が崩れ去るカットのMayaでの作業



  • ▲最後にMayaでテクスチャを貼り直すことを念頭に、テクスチャごとにグループを作成(グループごとに色分け)



  • ▲破壊のシミュレーションはまとめてできなかったため、4つに分けて行なった

▲破壊シミュレーションの作業の様子

Position Passによる調整

▲炎の照り返し具合はNukeXのPosition Passで調整した

ブレイクダウン

本カットのコンポジットのブレイクダウン



  • ▲奥の妖怪獣レイヤーのbeauty



  • ▲手前の妖怪獣レイヤーのbeauty

▲手前の妖怪獣レイヤーのPer Light AOV



  • ▲手前の妖怪獣レイヤーの炎の照り返し素材



  • ▲枝、妖怪獣、炎の照り返しを合成したもの

▲完成ショット



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.278(2021年10月号)
    特集:『機界戦隊ゼンカイジャー』&『仮面ライダーセイバー』
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2021年9月10日