<2>妖怪獣VS大魔神
全高300メートルの妖怪獣と飛翔する大魔神を成り立たせる
クライマックスの妖怪獣VS大魔神シーンは、VFXの物量も品質も素晴らしく、ダイナミックで見応えのあるシーンだ。実写撮影は、KADOKAWA大映スタジオ内で最も面積の広い「STAGE G」で行われたが、大きさが300メートルもある妖怪獣が暴れ回るような広大なシーンをつくり上げるため、セットエクステンションを多数用意した。妖怪獣は、まずは正確な大きさのモデルをフォトグラメトリーから作成したバーチャルセットに置いてレイアウトを検討し、カットバイで調整していった。ライトの配置も難しく、セットのライティングとマッチングさせつつ、奥行きをつくるのに苦労したという。臨場感にもこだわり、3DCG・撮影・Nukeでそれぞれ多種多様な煙や火の粉を何度も重ねてコンポジット上でボリュームアップをくり返し、最後まで調整した。その甲斐があって、とてもセットとは思えないリッチな画面に仕上がっている。
大魔神が飛翔して妖怪獣に斬りつけるシーンは作品の大きな見どころのひとつ。特に苦労したのは刀が伸びるカットだ。「このカットは凄まじくコストが高かったです。コンテ通りにつくった後で、アセットを直しながらつくり込みました」と、小俣隆文VFXディレクター。クライマックスシーンを含めた背景アセットを全て担当した伊藤裕佑氏がふり返る。「いつもはスタッフが隣に座っているので質問があるたびに声をかけてもらえば良かったのですが、リモートワークではそうはいかないのでしくみとルールづくりが必要になっています」。リーダーが基本的な配置やつくり方のルールを決め、作業者が考え込まずに作業できるレールを敷くことが大事だと語った。
一連のクライマックスシーンは、状況を説明するような引きのカットを排除したバストショットの連続で成り立っているが、三池監督の優れた演出力により見応えある映像に仕上がっている。監督が描いた人物配置の図面を現場で共有・理解した上で撮影され、各カットの演者の目線位置が正確なため、自然に鑑賞できる。実際に映画館で観てみると、ダイナミックな演出で目が離せない。
グレーディングはまずオフライン作業でプレグレーディングして方向性を決め、VFX作業後に本グレーディングが施された。作業はカメラマンにまかせっきりにはせず、VFXが介在するシーンのグレーディング作業には必ず太田垣氏も立ち会い、相談しながら進めたという。「グレーディングに立ち会わないVFXスーパーバイザーが多い印象ですが、すごく重要な作業なので、カメラマンとお互いの意志を尊重しつつもゆずれない部分ははっきりとその理由を伝えることを心がけています」(太田垣氏)。
武神の飛行シーンにおける背景セット
Nukeによる飛行シーンのコンポジット作業
▲合成に使用した全ノード
飛翔シーンのブレイクダウン
▲ドローンによる実写プレート
▲大魔神と切断エフェクトを合成した完成ショット
ディスプレイスメントマップによる表現
劇中、妖怪獣(第一形態)のモデルは真っ二つになるが、断面を考慮してつくられていないため、武神が妖怪獣を切る角度に合わせてモデルを切断してプレーンで断面を塞ぎ、ディスプレイスメントマップで内部を表現してい る
▲モデルを切断
▲内部表現用に用意したディスプレイスメントマップ
コンポジット作業
妖怪獣(第一形態)が真っ二つになるシーンのコンポジット作業
▲火の粉と煙の汎用素材を合成
コンポジットのブレイクダウン
▲【beauty、CG+glow、glow2】の素材と火の粉のFX素材を合成
▲完成ショット
妖怪獣ロングショットのMayaシーン
▲全高300メートルという設定の妖怪獣(第一形態)ロングショットのMayaシーン。画面手前の明るいオブジェクトはフォトグラメトリーで立体化した撮影スタジオ。その先に背景が地続きに広がるようにシーンを構築した。ビルのない平地部分にはMASHで瓦礫を敷き詰めた
コンポジット作業の様子
▲コンポジットの全体像。込み入ったノード構成となった
▲3D空間上で適切な位置に建物や炎、煙を配置
▲妖怪獣と人物の間にも炎や煙を配置した
ブレイクダウン