2019年7月7日に第1集、7月14日(日)に第2集が放送されたNHKスペシャル『恐竜超世界』。本番組は、NHKスペシャル『生命大躍進』(2015)を皮切りに古代生物たちのフォトリアルなVFXを追い求め続けてきた集大成に位置づけられる大型案件だ。月刊誌(本誌252号)では掲載しきれなかったメイキング画像を加えつつ、VFX制作の舞台裏を紹介しよう。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 252(2019年8月号)からの転載となります。
TEXT_福井隆弘 / Takahiro Fukui
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
【恐竜CG】食うか食われるか、史上最強の恐竜はこれだ!【NHK恐竜超世界2019】Japanese dinosaurs CG
NHK『恐竜超世界』公式サイト
第1集「見えてきた!ホントの恐竜」
2019年7月7日(日) [総合・BS4K] 午後9時00分〜9時49分
【再】2019年9月17日(火) [BS4K] 午後3時45分〜4時34分
第2集「史上最強!海のモンスター」
2019年7月14日(日) [総合・BS4K] 午後9時00分〜9時49分
【再】2019年9月24日(火) [BS4K] 午後3時45分〜4時34分
© NHK
<Keynotes>
4KかつフォトリアルなVFXで
古代生物たちを"活写"する
6,600万年前、隕石の衝突によって恐竜など地球上の生物の多くが姿を消すこ ととなった。これまで発見された古代生物の化石は1,000種にものぼるが、そ れは古代生物全体の1%にすぎないという。しかしこの10年、残る99%の部分 の発見が相次ぎ、彼らがどのように暮らして生活をしていたのかが明らかになっ てきた。そうした古代生物たちの生き様をフォトリアルなCG・VFXで再現した のが、NHKスペシャル『恐竜超世界』だ。第1集では、デイノケイルスを中心とす る陸に暮らす生物たち、第2集ではモササウルスをはじめとする海に暮らす生物 たちがドラマティックに描かれる。
そんな本作のVFXを手がけたのは、NHK/松永孝治VFXスーパーバイザーを中心としたチームだ。『生命大躍進』(2015)やスーパープレミアム スペシャル時代 劇『荒神』(2018)など、フォトリアルな生物表現に定評ある同チームにとって、本作は近年力を注いできた恐竜VFXの集大成的なプロジェクトとなったとい う。NHKスペシャルの番組尺は49分とのことだが、『恐竜超世界』では番組中30 分にもおよぶVFXカットが登場。さらに4K完パケということで難易度として も過去最大に達した。
VFXチームの編成としては、松永氏が率いるNHK内部のチームと、キャラク
ターアニメーションを担当したMORIE、ショットワークはNHKアート、NHKテ
クノロジーズ、東映アニメーション、D・A・G、白組、505事務所、グリオグルー
ヴ LiNDAチームといったプロダクション、モデル制作はNHK内部チーム、多く
のフリーランスたちとのコラボレーションで成り立っている。VFXショット数
は1、2話トータルで約640(うち新規が600)。制作期間としては、2018年6月
〜2019年7月頭までの長期にわたった。
「番組を観た人たちに今まで以上に感情移入してもらおうと、ドラマの脚本家の
方の意見を参考にしながら、主人公となるキャラクターを設定しました。画づ
くりとしてもしっかりとドラマを描くべく、説明的なカットにならないようにす
ることを心がけました。また、巨大生物についてはスケール感を効果的に伝える
ことにもこだわりました。VFX自体の表現力はもちろんですが、カット割りや恐
竜たちの微妙な仕草などにもぜひ注目していただきたいです」(松永氏)。
〈前列〉左から、松永孝治VFXスーパーバイザー、山本久美子氏、新井 翼氏、松元 遼氏、王 瞳氏、戸梶雅章氏/〈後列〉左から、吉田 慶氏、北川茂臣氏、加藤晴規氏、加藤久典氏、吉川辰平氏、渡部辰宏氏、林 健太郎氏、遠藤龍一氏、石川善一郎氏、日髙公平氏。以上、NHK VFXチーム
〈前列〉左から、的場一樹氏、菅原愁也氏/〈後列〉左から、田島誠人氏、丹原 亮氏、小川光悦氏、東 孝太郎氏。以上、MORIE
PHOTO by Mitsuru Hirota
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〈前列〉左から、浅山文秋氏、三浦貴大氏、茅野 諒氏/〈後列〉左から、今西梨恵氏、吉田秀一氏、小林和彦氏。以上、NHKアート VFXチーム
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山田茂人氏(NHKテクノロジーズ)
image courtesy by NHK Technologies, Inc.
<1>プリプロ&恐竜アセット制作
カラフルさと体毛の表現がポイント
『恐竜超世界』では、第1集と第2集合わせて約640ものVFXショットが登場。さらに古代生物たちのキャラクターアセットとしては42体が登場、うち22体が体毛が生えたキャラクターであった。このように種類/体数としても大ボリュームだったことから、2Dアートの段階で色味やデザインの演出チェックや監修のコンセンサスをできるだけとった上で、モデリングに着手することを心がけたそうだ。「『恐竜超世界』には、カラフルな恐竜が多く登場するのですが、デザイン設定の色味をそのままモデルに適用すると派手になりすぎてしまい、かえってリアリティが損なわれてしまう懸念がありました。そこで監修していただいた先生方のアドバイスを受けながら、地味な毛色を加えたりしつつバランスを整えていきました」(松永氏)。第1集の主人公、デイノケイルスのニコは特にカラフルだったため、試行錯誤をくり返したそうだ。
キャラクターアセットの制作にはMaya、ZBrush、Mudbox、MARI、Substance Designerが用いられた。ルックデヴ用に複数の環境のライトを用意して、最終的な質感を常に確かめながらモデリングやテクスチャリング、毛や翼の作業等が進められた。「ZBrushから書き出したCavityマップに対して、Substance DesignerのFloodFill to Randomノードで鱗のマスクを取りました。seed値を変えるだけで複数のパターンを手早く作成することができました」とは、NHKチームの遠藤龍一氏。
毛並みや翼のファー表現にはPregrine Labsの「Yeti」が用いられた。Yetiはノードベースであり、毛の見た目を制御するパラメータの調整やパターン出しを簡単に行うことができたという。また、一度作成したノードツリーを別のキャラクターにも使いまわすことができたため、効率的に複数のキャラクターの毛の生成作業を進めることができたそうだ。
トロオドン(中生代白亜紀後期に生息していた羽毛恐竜)のデザイン設定
タルボサウルス(中生代白亜紀後期に生息していた肉食恐竜)のデザイン設定
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<C>
- タルボサウルスの制作過程を図示したもの。<A>まず大きな形状をつくる。ZBrushで作業し、Mayaで確認しながら作業を進めた/<B>仮のテクスチャを入れ、毛も一度生やし、全体の雰囲気を見る。SSS、陰影、スペキュラ等見ながら、MARI、ZBrushを行き来しながら詰めていく/<C>完成モデル
デイノケイルス(中生代白亜紀末期に生息していた巨大な両腕をもつ恐竜)の羽毛表現例。本文でふれたとおり、今回はYetiが用いられた。<A>頭部まわりの毛のMaya上での表示/<B><A>のレンダリングイメージ
身体全体のYetiノードグラフを表示したもの。細い毛や硬い毛、部位によって異なる毛など、複数種類の毛を生やしている。ノードベースのおかげで視覚的にわかりやすく編集でき、それらを組み合わせることで微妙で複雑な表現が実現できたという。トサカや翼についてもYetiのフェザーで作成。板状ポリゴンとテクスチャで表現するよりもリアルな表現に仕上げられると実感したそうだ
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<E>
- タルボサウルスのテクスチャ作業を図示したもの。本プロジェクトでは、できるだけ効率良く作業を進めるにあたりSubstance Designer(SD)を導入。一体成型UDIMの問題でSubstance Painterは利用できなかったため、MARIとSDを組み合わせて作業が進められた。<A>ZBrushから書き出したCavityマップを基に、FloodFill to Randomノードで鱗のマスクを取得。FloodFill to Randomのseed値を変えるだけで複数パターンが簡単に用意できる/<B>MARIにその画像を読み込み、白黒マスクとして用いることで鱗のムラを表現/<C><B>を使い色分けされた鱗/ D このマスクを使って模様を付けると、seed値の異なるマスクを左右に適用することで効率的に左右非対称の模様をつけることも可能/<E>タルボサウルスのテクスチャ作成のために構築されたMARIのネットワーク。NHK内ではMARIをノードベースで使用している。ノードベースの方が、レイヤーよりもマスクの使い回し、編集を手軽に行えるという。監修等によっては大きな修正が求められることもあるため、可能な限りプロシージャルにし、形状、UV等変更しても戻りやすく設計されている
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<2>撮影現場での対応&キャラクターアニメーション
〜ショットワーク〜
<2>撮影現場での対応&キャラクターアニメーション
CGアニメーターが撮影現場に立ち会うメリット
これまでと同様に、本プロジェクトでも可能なかぎり実写で表現するという方針が採られており、大半のVFXカットは実写合成で仕上げられている。一連の撮影は、2018年7月にニュージーランド(以下、NZ)の南島(10日間)にて、11月にNZの北島(約1ヶ月間)にて実施。さらに2019年1月には、北海道で5日間の追加撮影が行われた。当然ながら、撮影現場における適切なVFX面の監修とリファレンス収集が鍵を握るわけだが、NZロケには松永氏と日髙公平氏に加え、リードアニメーターを務めた小川光悦氏(MORIE)氏も同行。アニメーターの立場から撮影手法に関するアイデア出しや提案を行なったという。
「MORIE代表取締役の森江(康太)さんが20代の頃にロケ撮影に同行された機会 があったそうですが、そのときの経験が今でも役立っていると話してくれたことがきっかけでした。そうした体験をMORIEの中心メンバーである小川さんにも体験してもらい、実写撮影がどのように行われているのか、現場におけるVFXスタッフの役割などを身をもって知ってもらうことは有意義だと考えました。実際、小川 さんに立ち会えてもらえたからこそ実現できた表現が多くありました」(松永氏)。
さらに、ARアプリ「AR Finder」を初導入。「これは恐竜のキャラクターモデルを実寸で現実世界に配置してその見え方を確認するためのアプリになります。監督やカメラマンたちと、より円滑にコミュニケーションを行えないかと、フリーランスでアプリ開発やカメラマンとしても活躍されている倉田良太さんに開発していただきました。リアルタイムで3Dオブジェクトを読み込み、恐竜の見え方を即座に確認できるので、アングルを決める際にとても役立ちました」(松永氏)。
古代生物たちのリギングならびにアニメーション制作は、MORIEが一手に引き受けた(2カット登場する蚊のアニメーションとレンダリングについては、LiNDAが担当している。MORIEは松永氏がVFXスーパーバイザーを務めてきた一連の案件のキャラクターアニメーションを継続して手がけてきているため、NHKとの連携も非常にスムーズだったそうだが、物量的には550カットに達しており、MORIEに とって1案件としては過去最大のボリュームだったという。そんな大ボリュームのアニメーション制作を、アニメーター5名、リガー1名で完遂したというから驚きである。
「アニメーション制作では、大きなサイズの生物はしっかりとスケール感を出して格好良く描くことを心がけました。また、番組全体としては従来以上にドラマティックに描くことが求められていたのですが、いつもと同じく、しっかりとリファレンスを収集した上で、魅力的な動きを追求しました。過去最大の物量でしたが、チームワークによってやりきれたことは自信につながりました」(小川氏)。
本プロジェクトでは、イメージングレーザースキャナ「Leica BLK360」を導入。軽量かつコンパクトでありながら、良好なデータを得ることができたため重宝したそうだ。「撮影現場では、BLK360とiPadのReCapアプリを使用しました。スキャンしたデータは、その場でWi-Fiで接続されたiPadへダウンロード。レーザースキャンした際に撮影した360度のパノラマ画像と、これまでスキャンしてきた際のパノラマ画像とを比較しながら、それぞれの同じ地点を指定することで簡単にデータを統合していくことができました」(日髙氏)。芝生の地形を取得するなど比較が難しいケースでは、バッグや三脚を立てるなどして地点を指定しやすいよう工夫したという。<A>BLK360によるリアリティキャプチャの様子。モササウルスの先祖が登る木のデータが取得された/<B>Autodesk ReCapで取得したスキャンデータ(ポイントクラウド)
<A>新たに導入したiOSアプリ「AR Finder」を使い、監督と松永氏がアングルを確認する様子。このアプリを使えば、各種CGモデルをARによって現実世界に配置して、カメラからの見え方を確認することができる。松永氏の知り合いで、フリーランスで撮影やアプリ開発などを行なっている倉田氏が開発。App Storeで販売中である/<B>AR Finderで撮影した画像の例。実物大の恐竜をiPhoneの位置や向きを動かしながら確認できるため、監督やカメラマンとカメラポジションを探る際に重宝したという
ロケ地にて、「AR Finder」を使い本編カットの動きをテストしたムービー
デイノケイルス<A>と大型の海棲爬虫類であるモササウルス<B>のキャラクターリグ。MORIEの田島氏によって、Advanced Skeltonで作成された
Character Animation 01
デイノケイルスVSタルボサウルス
デイノケイルスとタルボサウルスが戦うシーンの演出コンテ。ロケ前に絵コンテにて最低限の演技内容の指示があった。アニメーションにおけるポイントは次の5点。
1. デイノケイルスは手を使って戦う
2. 噛まれて倒されるなど、派手なアクションがある
3. 敵のタルボサウルスは目をひっかかれて逃げていく
4.カットの最後で主人公のデイノケイルスは死んでしまう
5. 60秒のワンカットで描く
(左列)ロケ前に作成されたプリビズ。「演出確認の叩き台にはなりましたが、実際にロケ地が決まると様々な制約があったため、実写プレートに合わせて演技を変更する必要がありました」(小川氏)/(右列)ガイドムービーの例(第1集のハイライトとなる、デイノケイルスとタルボサウルスが戦うシーン)。別シーンの撮影が進められている間に、小川氏はこのカットの演技プランを考案。それを監督をはじめとするスタッフたちと何度か実演&協議しながらステージングとカメラワークを確認した後、実際に監督と小川氏が演技した様子を撮影したものである(恐竜たちの巨大さがよくわかる)。最終的な演技内容は、この段階でほぼ決まっていたとのこと
アニメーション作業の例。尻尾の動きについては、シミュレーションで作成した動きを手付けのコントローラで調整できるよう、シーン内で簡単なリグが組まれた。「スケジュール的に60秒のアニメーションを2体分、全て手付けで動かすのは厳しいものがありました。ですが、見せ場なのでシミュレーションに全てまかせてしまい格好良いポーズが作れないというのも嫌だったので、この手法を採りました」(小川氏)
デイノケイルスがタルボサウルスの目を引っ掻く表現を印象的にするべく、腕にストレッチをかけて迫力を高めている。基本的にはリアルな動きが求められた案件のため、異例だという
派手な動きの多いカットのため、図中の腹部のようにメッシュが破綻したり、汚く変形してまうことが多々あった。そのような場合は、アニメーションシーン内でデルタマッシュやブレンドシェイプを加えて意図した変形になるよう丁寧に調整された
<5>
完成シーン。ダイナミックかつ臨場感あふれるシーンに仕上げられた
Character Animation 02
モササウルVSティラノサウルス
第2集の見せ場となる、波打ち際におけるモササウルスとティラノサウルスの戦闘シーンより。(左列)撮影された背景素材に、簡易モデルを配置したレイアウトデータ。これを基に、指示書の内容に沿ってアニメーション作業を進めていく/(右列)アニメーション作業UI。レイアウトに比べてカメラを大幅に変更し、2体を激しく絡み合わせることで、より臨場感と迫力のある演出が追求された
完成シーン
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<3>エフェクト、ライティング&コンポジット
Deep Compositingをはじめ、技術面でも積極的にチャレンジ
NHKのVFXチームは、新しいツールやテクノロジーを積極的に採り入れてきたこと
でも知られている。そうした取り組みの一環としてのコンポジットワークでは、DeepImageファイルフォーマットによるDeep Compositingを導入。リードコンポジターを務めた加藤晴規氏がそのねらいを次のように語ってくれた。
「データ量が膨大になるため、当初は見送ろうと思っていましが、Hairを使用したアセットが多数あり細かい毛に対して被写界深度を適用するのに通常のZDeforcusだと厳しいと感じました。そこでDeepを使用してpgBokehで試したところ綺麗に被写界深度を適用することができました。またDeepを使用するとなれば今まで悩んでいたエフェクトのマットアウトずれや、CGキャラクターの合成用にマスク素材をレンダリングする必要がないと考え、導入を検討しましたDeepImageファイルは1ピクセルごとにデプス情報を含む複数のサンプルを持つことができるのですが、データが非常に重くなります。パイプラインにのせるためには、サンプルの精度をなるべく保持しつつ、ファイルサイズを運用レベルに納める必要がありました。そこでライティングSVの渡部辰宏さんとDeepImageファイルのサンプルの精度とファイルサイズをくり返し検証し、導入することに決めました。データやNUKEでの取り扱いが非常に重くなるというデメリットもあるのですが、今までコストを費やしていたところがDeepCompositingで解消することができたので、より効率的かつノードツリーもシンプルになりました」。
Deep Compositingの採用に伴い、被写界深度の表現にはPeregrine Labs「Bokeh」を使用。カメラデータがあればレンズの焦点距離と実際の被写体までの距離を考慮して、DOFを正確に表現できるほか、手前と奥とでボケ幅も調 整できるためクオリティ面では申し分なかったようだ。ビューポート上の表示やレンダリングが非常に重たくなるのが難点のため、今後の改善に期待したいという。
CGエフェクトについては、今回もHoudiniベースで開発された。白波などの流体表現はOcean Toolsを活用、古代生物たちの接地や地面を構成する要素とのインタラクションについては、Vellumによるシミュレーションが用いられた。「表現と同様に、技術面でも新たなチャレンジを実践できました。Deep Compositingが好例ですが、自分たちの知見を外部パートナーさんを通じて日本のCG・VFX現場にも広めていければと思っています。恐竜VFXについては、ひとつの節目をむかえることができましたが、今後も新しい表現に積極的にチャレンジしていきたいです」と、松永氏は今後の展望を語ってくれた。
デイノケイルスの子供が、餌(葉付きの小枝)を取り合うカット。葉付きの小枝をCGでつくることも検討されたが、難易度や全体の作業量を考慮し、松永氏と小川氏が撮影現場で演技することに。「何も準備をしていなかったので軍手をはめたまま撮影し、その動きに合わせてアニメーションをトレース、合成時にマスクをきってカラ画を合成しています」(松永氏)。<A>実写プレートにCG素材を重ねただけの状態。バレものが確認できる/<B>NUKEによるマスクワーク/<C>マスクを適用してカラ画を合成/<D>一連のコンポジット処理が施された完成形
イメージプレーンを配置したライティングのMayaシーン
ライティング調整作業中の画面。レンダーセッティングやレンダーレイヤーの設定はインハウスツールで実行している。従来まではLegacy Render Layerを用いていたが、本プロジェクトからRender Setupに対応できるようツールの改修が行われた
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<C>
- トロオドンの子供が歩く際、地面に落ちている小さな葉っぱとのインタラクションは、HoudiniのCloth設定にあるVellumが用いられた。葉っぱ以外にも雑草など草のシミュレーションではHair設定のVellumを使用。草 のメッシュとスケルトンを用意し、スケルトンに対してVellumのシミュレーションを行い、Pointdeformでメッシュに対して動きを適用している。<A>ロケ地にてグリーンの板の上にインタラクション用の葉や小枝を乗せて撮影。CG作業時にテクスチャ素材として利用する/<B>Houdini作業UI/<C>完成形
海面近くを飛ぶ翼竜をモササウルスが捕食するカットにおける流体エフェクトの作業過程を図示したもの。<A>OceanToolsをベースに作成したHoudiniネットワーク。各カットごとに求められる細かな調整に対応するにあたっては最終的には7〜8割くらい改変している/<B>今回、作業時間を短縮するためにレンダーファーム管理ソフトウェアQube!による分散シミュレーションを導入。図の左側は、4台のマシンで分散して作成したFlipのキャッシュ。図の右側は、分散シミュレーション
を組んでいるネットワークの様子/<C>当初はMantraでディスプレイスメントで作成した海面をレンダリングしていたが、レンダリング時間が想定を大幅に超えてしまったという。そこでキャラクターと同じくArnoldでレンダリングすることに。「海面のメッシュはショットによってMayaへ渡す必要があるため、ディスプレイスメントはなしで直接メッシュを凹凸させてAlembicを作成しています。データが重くなりすぎないよう、カメラからの距離によってポリゴンの量を調整しました。また、シミュレーションで作成した海面とシミュレーションしていない海面をシームレスに繋いでレンダリングの屈折や反射に影響が出ないように配慮しています」(吉田 慶氏)/ <D>完成形
DeepCompositing作業の例。第1集に登場する、雪が降る雪原をパキリノサウルスの群れが移動するカット。<A>NUKEのDeepPosition XYZ.Gizmo。それぞれの素材をDeepMergeした後、DeepからWorldSpace、ScreenSpaceのXYZのFalloffマスクを生成。ピクセルごとの透明度が考慮されるため、毛やボリュームなどのアンチエイリアスなども問題なくマスクを作成できる。Hazeや色調整のマスク生成などに使用された。(参考)「Deep image compositing in a modern visual effects pipeline」 /<B>DeepPositionXYZ.Gizmoによるマスクの生成/<C>DofCalc.Gizmo。データベースに登録されている撮影時のカメラデータ(focal、focal distance、fstop)をショット変数でフックして読み込まれたカメラを利用して、pgBokehを利用する際に被写界深度を視覚化するためのGizmo。Nukepediaで公開されているDofCalc v1.0を若干改良したものであり、許容錯乱円の計算などが追加している。(参考)「DofCalc v1.0」 /<D>DofCalc.GizmoのView上での表示。緑がfocal distance、青が前方被写界深度、赤が後方被写界深度、黄色が過焦点距離を示している。パンフォーカス時の前方被写界深度(過焦点距離/2)などを把握できる
Breakdown 01
雪原を進むパキリノサウルスの群れ
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<C>CG素材のAOV。今回はキーライトとドームライト(環境光)を個別に調整できるようLightGroupを使用してAOVを出力している
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<D>CG素材に色調整と奥の霞みを追加した後、足元の雪エフェクト素材をDeepMergeで合成。前後関係が複雑なカットでもDeepMergeで破綻なく合成することができる
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<E><D>をDeepToPointsで3D上に表示した状態。DeepToPointsは各ピクセルのDeepサンプルをポイントクラウドとして3Dビュー上に表示することができるノード。Deepの位置関係を確認する際に役立つという
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<F>NUKEのパーティクルで作成した雪(3Dビュー)。NUKEのScanlineRenderはDeepを出力できるため、雪パーティクルはDeepHoldoutを使用してCGキャラクターでマットアウトしている。なお雪のパーティクルは、デフォルトでツールセットに入っている「P_SnowRain」をカスタマイズして使用。パーティクルノードにて、エミッタのポジションを各ショットのカメラからある程度自動で配置できるよう設定している
Breakdown 02
モササウルVSティラノサウルス
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<E><B>〜<D>の素材をDeeprecolorした後、DeepMergeした状態
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<F>BGと合成し、レンズに付着した水滴、Chromatic Abberation、グレインなどを追加したコンポジットとしての完成形
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