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日本の恐竜VFX最新形がここにある! NHKスペシャル『恐竜超世界』

日本の恐竜VFX最新形がここにある! NHKスペシャル『恐竜超世界』

<2>撮影現場での対応&キャラクターアニメーション

CGアニメーターが撮影現場に立ち会うメリット

これまでと同様に、本プロジェクトでも可能なかぎり実写で表現するという方針が採られており、大半のVFXカットは実写合成で仕上げられている。一連の撮影は、2018年7月にニュージーランド(以下、NZ)の南島(10日間)にて、11月にNZの北島(約1ヶ月間)にて実施。さらに2019年1月には、北海道で5日間の追加撮影が行われた。当然ながら、撮影現場における適切なVFX面の監修とリファレンス収集が鍵を握るわけだが、NZロケには松永氏と日髙公平氏に加え、リードアニメーターを務めた小川光悦氏(MORIE)氏も同行。アニメーターの立場から撮影手法に関するアイデア出しや提案を行なったという。

「MORIE代表取締役の森江(康太)さんが20代の頃にロケ撮影に同行された機会 があったそうですが、そのときの経験が今でも役立っていると話してくれたことがきっかけでした。そうした体験をMORIEの中心メンバーである小川さんにも体験してもらい、実写撮影がどのように行われているのか、現場におけるVFXスタッフの役割などを身をもって知ってもらうことは有意義だと考えました。実際、小川 さんに立ち会えてもらえたからこそ実現できた表現が多くありました」(松永氏)。

さらに、ARアプリ「AR Finder」を初導入。「これは恐竜のキャラクターモデルを実寸で現実世界に配置してその見え方を確認するためのアプリになります。監督やカメラマンたちと、より円滑にコミュニケーションを行えないかと、フリーランスでアプリ開発やカメラマンとしても活躍されている倉田良太さんに開発していただきました。リアルタイムで3Dオブジェクトを読み込み、恐竜の見え方を即座に確認できるので、アングルを決める際にとても役立ちました」(松永氏)。

古代生物たちのリギングならびにアニメーション制作は、MORIEが一手に引き受けた(2カット登場する蚊のアニメーションとレンダリングについては、LiNDAが担当している。MORIEは松永氏がVFXスーパーバイザーを務めてきた一連の案件のキャラクターアニメーションを継続して手がけてきているため、NHKとの連携も非常にスムーズだったそうだが、物量的には550カットに達しており、MORIEに とって1案件としては過去最大のボリュームだったという。そんな大ボリュームのアニメーション制作を、アニメーター5名、リガー1名で完遂したというから驚きである。

「アニメーション制作では、大きなサイズの生物はしっかりとスケール感を出して格好良く描くことを心がけました。また、番組全体としては従来以上にドラマティックに描くことが求められていたのですが、いつもと同じく、しっかりとリファレンスを収集した上で、魅力的な動きを追求しました。過去最大の物量でしたが、チームワークによってやりきれたことは自信につながりました」(小川氏)。

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本プロジェクトでは、イメージングレーザースキャナ「Leica BLK360」を導入。軽量かつコンパクトでありながら、良好なデータを得ることができたため重宝したそうだ。「撮影現場では、BLK360とiPadのReCapアプリを使用しました。スキャンしたデータは、その場でWi-Fiで接続されたiPadへダウンロード。レーザースキャンした際に撮影した360度のパノラマ画像と、これまでスキャンしてきた際のパノラマ画像とを比較しながら、それぞれの同じ地点を指定することで簡単にデータを統合していくことができました」(日髙氏)。芝生の地形を取得するなど比較が難しいケースでは、バッグや三脚を立てるなどして地点を指定しやすいよう工夫したという。<A>BLK360によるリアリティキャプチャの様子。モササウルスの先祖が登る木のデータが取得された/<B>Autodesk ReCapで取得したスキャンデータ(ポイントクラウド)

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<A>新たに導入したiOSアプリ「AR Finder」を使い、監督と松永氏がアングルを確認する様子。このアプリを使えば、各種CGモデルをARによって現実世界に配置して、カメラからの見え方を確認することができる。松永氏の知り合いで、フリーランスで撮影やアプリ開発などを行なっている倉田氏が開発。App Storeで販売中である/<B>AR Finderで撮影した画像の例。実物大の恐竜をiPhoneの位置や向きを動かしながら確認できるため、監督やカメラマンとカメラポジションを探る際に重宝したという

ロケ地にて、「AR Finder」を使い本編カットの動きをテストしたムービー

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デイノケイルス<A>と大型の海棲爬虫類であるモササウルス<B>のキャラクターリグ。MORIEの田島氏によって、Advanced Skeltonで作成された

Character Animation 01
デイノケイルスVSタルボサウルス

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デイノケイルスとタルボサウルスが戦うシーンの演出コンテ。ロケ前に絵コンテにて最低限の演技内容の指示があった。アニメーションにおけるポイントは次の5点。
1. デイノケイルスは手を使って戦う
2. 噛まれて倒されるなど、派手なアクションがある
3. 敵のタルボサウルスは目をひっかかれて逃げていく
4.カットの最後で主人公のデイノケイルスは死んでしまう
5. 60秒のワンカットで描く


  • プリビズ<1>

  • ガイドムービー<1>

  • プリビズ<2>

  • ガイドムービー<2>

  • プリビズ<3>

  • ガイドムービー<3>

  • プリビズ<4>

  • ガイドムービー<4>

(左列)ロケ前に作成されたプリビズ。「演出確認の叩き台にはなりましたが、実際にロケ地が決まると様々な制約があったため、実写プレートに合わせて演技を変更する必要がありました」(小川氏)/(右列)ガイドムービーの例(第1集のハイライトとなる、デイノケイルスとタルボサウルスが戦うシーン)。別シーンの撮影が進められている間に、小川氏はこのカットの演技プランを考案。それを監督をはじめとするスタッフたちと何度か実演&協議しながらステージングとカメラワークを確認した後、実際に監督と小川氏が演技した様子を撮影したものである(恐竜たちの巨大さがよくわかる)。最終的な演技内容は、この段階でほぼ決まっていたとのこと

アニメーション作業の例。尻尾の動きについては、シミュレーションで作成した動きを手付けのコントローラで調整できるよう、シーン内で簡単なリグが組まれた。「スケジュール的に60秒のアニメーションを2体分、全て手付けで動かすのは厳しいものがありました。ですが、見せ場なのでシミュレーションに全てまかせてしまい格好良いポーズが作れないというのも嫌だったので、この手法を採りました」(小川氏)

デイノケイルスがタルボサウルスの目を引っ掻く表現を印象的にするべく、腕にストレッチをかけて迫力を高めている。基本的にはリアルな動きが求められた案件のため、異例だという

派手な動きの多いカットのため、図中の腹部のようにメッシュが破綻したり、汚く変形してまうことが多々あった。そのような場合は、アニメーションシーン内でデルタマッシュやブレンドシェイプを加えて意図した変形になるよう丁寧に調整された

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完成シーン。ダイナミックかつ臨場感あふれるシーンに仕上げられた

Character Animation 02
モササウルVSティラノサウルス

  • レイアウト<1>

  • アニメーション<1>

  • レイアウト<2>

  • アニメーション<2>

  • レイアウト<3>

  • アニメーション<3>

  • レイアウト<4>

  • アニメーション<4>

第2集の見せ場となる、波打ち際におけるモササウルスとティラノサウルスの戦闘シーンより。(左列)撮影された背景素材に、簡易モデルを配置したレイアウトデータ。これを基に、指示書の内容に沿ってアニメーション作業を進めていく/(右列)アニメーション作業UI。レイアウトに比べてカメラを大幅に変更し、2体を激しく絡み合わせることで、より臨場感と迫力のある演出が追求された

完成シーン

  • <1>304フレーム目

  • <2>538フレーム目

  • <3>619フレーム目

  • <4>1,074フレーム目



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<3>エフェクト、ライティング&コンポジット

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