15周年を迎えた『牙狼〈GARO〉』シリーズ。最新作では世界観を一新、そこに求められたVFXの制作舞台裏にせまる。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 264(2020年8月号)からの転載となります。
TEXT_福井隆弘
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
© 2020「VERSUS ROAD」雨宮慶太/東北新社
TVシリーズ『GARO -VERSUS ROAD-』
エグゼクティブ・プロデューサー:二宮清隆/企画:田中 文/監督:綾部真弥、永江二朗、田口 桂/脚本:江良 至、平松正樹、和田清人、内田裕基/音楽:栗山善親、寺田志保/VFXスーパーバイザー:中川茂之、西田 裕/CGスーパーバイザー:佐藤信吾
特別協力:サンセイアールアンドディ/制作:東北新社/制作協力:ファインエンターテイメント/オムニバス・ジャパン/製作:東北新社
garo-project.jp/VERSUS_ROAD
© 2020「VERSUS ROAD」雨宮慶太/東北新社
シリーズ15周年の節目に新たなGAROを創り出す
映画、ドラマ、スピンオフ、アニメと様々な媒体へ展開され続けている『牙狼〈GARO〉』シリーズ。2020年、15周年記念作品として、これまでの牙狼とは異なる世界観をコンセプトに『GARO -VERSUS ROAD-』(以下、GARO VR)が制作されることとなった。ごく普通の青年たちの下に突如VRグラスが届き、巨大なゲームフィールドに大勢のプレイヤーが集められる。そしてそのゲームでの勝者は現実世界でも幸運が舞い込み、プレイヤー達はゲームに没頭していくというストーリーだ。
〈上段〉左から、中川茂之VFXスーパーバイザー、西田 裕VFXスーパーバイザー、佐藤信吾CGスーパーバイザー/〈下段〉左から、戸倉 良カラリスト、岡本義典オンラインエディター、小林英樹ポスプロコーディネーター。以
上、オムニバス・ジャパン
www.omnibusjp.com
VFXをリードするのは、これまでの牙狼シリーズ同様、オムニバス・ジャパン(以下、OJ)だ。ポスプロコーディネーターを務めた小林英樹氏が企画の経緯を語ってくれた。「ずっと雨宮慶太さんの世界観でやってきた牙狼シリーズですが、今回ファンタジー色を排除した新しい世界観でやるということを、1年ほど前から耳にしていました。綾部真弥チーフ監督の下、『GARO VR』のビジュアルを模索していくことになりました。監督からは、よりスタイリッシュな作品にしたいという要望があり、いったんスタッフ全員、今までの牙狼を忘れて再構築していこう、と」。今までの牙狼のイメージを捨て、新しいものをつくる覚悟を全員で共有したのだ。現場に立ち会えるタイミングや仕上げの段取りによって、1~2話と9~12話を中川茂之VFXスーパーバイザー、3~8話を西田 裕VFXスーパーバイザーが担当する体制が組まれた。
時節柄コロナ禍の下での進行となったため、CG・VFX制作はリモートワークでつくりきったそうだ。「緊急事態宣言の前にすでにリモートワークの準備を済ませていたので、比較的スムーズに切り替えることができました。リモートデスクトップソフトは遅延の少なさと導入のしやすさからParsecを採用しました。細かい画面の色味や重いシミュレーションなど不安要素はありましたが上手くやれたと思います」(小林氏)。正確な色を確認する必要上、グレーディングとオンライン編集は従来どおりスタジオで作業が行われたが、OJにとって初のリモートワーク主体でつくり上げたプロジェクトになった。表現としてもワークスタイルとしても、まさに初めての試みを完遂したプロジェクトである。
<1>アセット制作&撮影現場における対応
クラウドストレージによるシームレスな環境を構築
全12話、総カット数650、そのうちCGが含まれるカットは1/3ほど。極端にCGが多いのが12話(最終話)で、全138カット中、70カット以上がフルCGで作成された(後述)。撮影は1月11日(土)にクランクイン、3月20日(金)クランクアップ。緊急事態宣言が出る前に撮り終えることができたそうだが、ギリギリのタイミングだった。メインカメラはPanasonic EVA1、一部シーンではDJI Osmoやドローンによる撮影も行われているが、実写素材は4K/24pで撮影し、フルHDで納品された。VFXシーンの撮影にはVFXスーパーバイザーが必ず立ち会ったという。
CGスタッフが制作に着手しはじめたのは1月下旬で、最終納品は6月中旬という、かなり濃密なプロジェクトになったがアセット制作とフルCG等の実写プレートが介在しないカットに先行して取り組むことで対応できたそうだ。VFXサイドのテーマは、GAROをいかに象徴的に見せられるかということ。GAROが空中に浮かぶシーンなどは比較的楽に馴染ませることができたため、極端に気を遣ってリファンレスを収集し、CG環境をつくり込む必要はなかったそうだ。VFXスタッフは協力会社も含めて約60名ほど。外部パートナーには各社が得意とする表現や作業をお願いしつつ、コロナ禍への対応として対面での打ち合わせを避け、Skypeをメインに電話やメールにてコミュニケーションをとっていたそうだ。限られた企画でクオリティを追求するにあたっては、従来までの牙狼シリーズにも参加していた外部パートナーに多数参加してもらったそうだが、「制作を依頼する際、まず最初に『これまでの牙狼は忘れてください』とお伝えしました。本作ではVRやデスゲームなど、モダンな設定が多く、ビジュアルとしては近未来的な表現が指針となったのでリファレンスをしっかりと集めて、イメージの共有を図ることにしました」(中川氏)。プロジェクトの進行管理にはスプレッドシートを使用、ファイル共有にはクラウドストレージとして映像制作現場での導入も多いJECTORが利用された。社外を含めた全てのVFXスタッフがログインできる環境を整えることで、容易にチェックや情報の共有が行えたそうだ。なおDCCツールは、MayaとV-Rayをベースに、特別なエフェクト表現にはHoudiniを併用。コンポジットはNukeとAfter Effects、エディットにはDaVinci Resolveを使用。レンダリングは基本的にV-Rayで統一し、Houdiniで作成したものはAlembic形式でMayaに読み込みV-Rayでレンダリング(一部の簡単な表現についてはMantraによるレンダリングも利用)しているとのこと。
決定デザイン(左)を基に3DCG制作用に描き起こした三面図(右)。今回は実写のスーツは制作されなかったため、デザインの最終的な詰めはOJに一任されたという
今回、ストーリーの内容や撮影期間などの都合もあり、大がかりな仕込みが必要な実写合成カットはほとんどなかった。グリーンバックのセッティングの手間を簡略化するねらいから、多くの合成カットはカメラ固定、空舞台を撮影するアプローチで作成された。11話に登場する合成カットのブレイクダウン
プレイヤーがホラーに襲撃されるカット
ロケ現場で撮影したホラースーツのリファレンス写真
現場で撮影したHDRI用素材の例。スーツの装着、移動、撮影など何かと時間のかかるスーツによるリファレンス撮影は可能な限り省略して効率的な撮影が心がけられた
[[SplitPage]]<2>一新されたGAROのビジュアル演出
OJがポスプロ工程を一手に引き受ける
VFX制作におけるチャレンジは、1.全話を通したGAROの新たな画づくり、2.フルCGアニメーションを中心とする最終話に大別された。本項では前者について解説する。特筆すべきCG表現として、「ホラーの瞬間移動」とスタッフ間では通称・アンデッド化と呼ばれていた「黒オーラ」が挙げられる。ホラーの瞬間移動は、高速で動くということではなく、謎の力が働いて空間転移するというコンセプトの下、画づくりが行われており、オンライン編集では残像効果などが追加された。8話に登場する「黒オーラ」は、魔剣を99.9秒以上持ち続けた者がアンデッド化する表現だが、「松井冬子氏の日本画作品のような、綺麗だけどグロい感じを出したい」という監督からのリクエストを受け、画づくりが行われた。具体的にはプレイヤーの胸部が裂け曼珠沙華が花開くといった表現のため、瞬間的に内蔵や骨のようなオブジェクトも描かれるというもの。また、漂う妖気には髪の毛のような質感や水墨画テイストを加えることで、日本画的な和のテイストも込められており、特に印象的なVFXに仕上がっている。なお、煙の表現だけは従来の牙狼のテイストをふまえたものになっているが、これまでのシリーズとの橋渡し的な役割になればという思いを込めたそうだ。
本作の色味については、ポスプロ工程で利用できるダイナミックレンジを広く確保するねらいから、映画撮影と同様のLog収録で実写撮影が行われた。CG・VFX作業やチェック時はLUTを適用して書き出し、最終納品はLUTを外したものをパブリッシュ。その恩恵を大きく受けたグレーディングは、プロデューサー陣や監督、カメラマンといくつもイメージを検証。最終的に男らしい硬派なイメージへと落とし込まれた。カラリストの戸倉 良氏が仕上げについてふり返る。「実写の中にどうCGが入っていくか、全体を俯瞰で捉えつつ注意しながら作業を進めました。スケジュール的に監督にリモート環境でパーツごとにチェックしていただくこともあったので、作品全体で色味にバラツキが生じないよう、フィニッシング段階のグレーディングやエディットなど、バランスを見ながら整えました」。オンライン編集では、岡本義典オンラインエディターがカメラFIXのショットに動きを付け、回想シーンにビジュアル加工を施すなど、これまで培ってきたスキルを存分に発揮し仕上げた。「目指したのは、これまでのものよりもワンランク上、です。深夜の特撮ドラマのクオリティという既成概念を超えることと、CGと実写との一体感を高めることに注力しました。過去シリーズのイメージを良い意味で一新できたと思います」(西田氏)。
ホラーの瞬間移動のブレイクダウン
黒オーラのエフェクトはHoudiniで作成された
pyrosolver(DOP)を使用した黒オーラのシミュレーション
「黒オーラの中に髪の毛のようなラインがほしい」という監督からのリクエストに応えるために、volumetra(il SOP)が用いられた
黒オーラのブレイクダウン
グレーディングが施された完成形
オンライン編集における加工例。10話にて、ゲームの主催者・葉霧宵刹(丸山智己)が初めて主人公・空遠世那(松大航也)の前に姿を現すシーン。葉霧の出現により時空が歪み、両者を除く人間の時間が止まってしまう。時間停止の表現としてあらかじめVFXチームによって周囲の人物の静止画化が施された。オンラインではさらなる演出向上をねらい、After Effectsで時間が「凍る」イメージで氷のテクスチャ素材を重ね、細雪のようなちり素材を追加した
AEによる加工
グレーディング例。10話より、ゲーム内のラストシーンに出てくる引き画のカット。グレーディングにあたっては「スタイリッシュな雰囲気。最終話まで登場するシーンのため印象的な画に仕上げる。そして、感情の揺れ動く様を、ドラマの邪魔をしないように配慮しつつもビジュアル的なインパクトをもたせる。そういったことを意識しながら作業しました」(戸倉氏)
DaVinci Resolveのノードツリー。シンプルなノード構造で力強くストレートな画づくりが施された。02のCompoundされたノードに基本的なデータが収納されており、ベースの環境に対して03を、04と05はプラスアルファなプライマリ効果を加える工程である。01は全篇にわたり画角周辺にレンズボケ効果を入れるためのビネットである
グレーディング例。10話で空遠の感情が揺れ動く心情描写の難しいシーン。監督からの「時間が途中で止まる様を描きたい」というリクエストに応えるべく、戸倉氏と岡本氏が連携。シンプルな雑踏の1シーンを、時間が止まる前後で雰囲気をガラッと変えたいが、バランスを崩すことは避けたい。プリ段階の方向性からエフェクトを作成し、シーンとして映えるかを両者で協議しながら画づくりが施された
時間が止まった後のグレーディング
DaVinci Resolveのノードツリー。シーンの切り替えをシンプルにするため、階層をつくらずストレートなノード構造で、複合ノードもゼロからつくり直した。05だけシーン替わりでキーフレームでデータの乗り換えを行なっている
11話のゲーム内シーンに登場する空遠のアップカット(上図がグレーディング前、下図がグレーディング後)。撮影時のフィルタをどこまで活かすか、邪魔になるくらい力強く入っている効果をどうするか。感情が大きく動くだけでなく、12話にも引き継がれていくシーンのため、とにかく力強いビジュアルに仕上げるべきと、戸倉氏は考えた。「青の力強さに入れ替わることで、ストーリー展開としても自然で飽きないように見せられると考えました。元素材からこのようなトーンにもってくることはそう簡単ではありませんが、カメラマンや監督にも評価していただけました」(戸倉氏)
[[SplitPage]]<3>半分以上がVFXカット!~最終話~
フルCGで仕上げられた異空間でのラストバトル
最後のエピソードとなる12話では、全138カット中、VFXショットは70以上に達した。なかでもフル3DCGで作成されたラストバトルは約3分半にわたってくり広げられる。異空間でのアクションシーンということで、背景にも非常にこだわっている。「ラストバトルのアクションは、新たな戦闘描写としてプロレス技が織り込まれていました。そのため移動範囲などとの兼ね合いでエンバイロンメントは体育館くらいのサイズに決まりました。ただし、背景の見え方が単調になることを避けるべく、エンバイロンメントに動きのギミックを加えることにしました。壁や柱のモジュールを用意して、カットごとにランダムに配置しています。立ち位置の整合性はカットが変わればまずわからないので、カットバイで見映えを追求しています」(中川氏)。ガラス張りの吹き抜けを組み合わせ、近代的でソリッドなイメージの背景を用意した。なお、このシーンは反射や屈折が多いため、レンダリングは1フレームにつき30~40分を要したそうだ。キャラクターアニメーションについては、まずアクションチームがアクションVコンを作成。アニメーターはそれをトレースするのではなく、参考にしながら全て手付けで動きを付けていった(リグはHuman IKを使用)。
最後にCGスーパーバイザーの佐藤信吾氏とVFXスーパーバイザーの中川茂之氏が本プロジェクトをふり返ってくれた。「今回は監督を務められた方々が自分たちと同世代ということもあって、自分たちの提案を積極的に採用してもらえるなど同じ目線で新たなビジュアルを創り上げていくことができました。これまでのシリーズは特撮としての魅力がありましたが、本作はヒューマンドラマに重きを置くことで、また新たな魅力を引き出せたと思います」(佐藤氏)。「デザイン、エフェクト、世界観、全てにおいて新たなGAROをつくることがメインテーマでした。一筋縄ではいきませんでしたが、過去シリーズでも中心的な役割を担ってきた方々に参加してもらえたことで、チーム一丸となって新たな表現をつくれたかなと思っています」(中川氏)。
最後の敵が誕生するエフェクト、通称・ダークメタルの表現はHoudiniで作成された
GAROが破裂してダークメタルが飛び散る表現にはFlipsolver(DOP)を使用。4つのバリエーションが用意された
【4つのバリエーション】をマージした状態
ダークメタルのブレイクダウン
グレーディングが施された完成形
Mayaで制作した「無限回廊」こと、ラストバトルシーンのエンバイロンメント
カメラ1
カメラ2
カメラ3
パースペクティブ
無限回廊のリファレンスとなったビル内観
ラストバトルのアニメーションは、アクションVコンを参考にしつつ全てキーフレームで作成された。カメラアングルもアクション部のガイドをベースにブラッシュアップ
アクションVコン
アニマティクス
3DCGとしての完成形