>   >  VFXアナトミー:シリーズ15周年、新たなGAROを生み出したVFX制作の舞台裏 TVシリーズ『GARO -VERSUS ROAD-』
シリーズ15周年、新たなGAROを生み出したVFX制作の舞台裏 TVシリーズ『GARO -VERSUS ROAD-』

シリーズ15周年、新たなGAROを生み出したVFX制作の舞台裏 TVシリーズ『GARO -VERSUS ROAD-』

<2>一新されたGAROのビジュアル演出

OJがポスプロ工程を一手に引き受ける

VFX制作におけるチャレンジは、1.全話を通したGAROの新たな画づくり、2.フルCGアニメーションを中心とする最終話に大別された。本項では前者について解説する。特筆すべきCG表現として、「ホラーの瞬間移動」とスタッフ間では通称・アンデッド化と呼ばれていた「黒オーラ」が挙げられる。ホラーの瞬間移動は、高速で動くということではなく、謎の力が働いて空間転移するというコンセプトの下、画づくりが行われており、オンライン編集では残像効果などが追加された。8話に登場する「黒オーラ」は、魔剣を99.9秒以上持ち続けた者がアンデッド化する表現だが、「松井冬子氏の日本画作品のような、綺麗だけどグロい感じを出したい」という監督からのリクエストを受け、画づくりが行われた。具体的にはプレイヤーの胸部が裂け曼珠沙華が花開くといった表現のため、瞬間的に内蔵や骨のようなオブジェクトも描かれるというもの。また、漂う妖気には髪の毛のような質感や水墨画テイストを加えることで、日本画的な和のテイストも込められており、特に印象的なVFXに仕上がっている。なお、煙の表現だけは従来の牙狼のテイストをふまえたものになっているが、これまでのシリーズとの橋渡し的な役割になればという思いを込めたそうだ。

本作の色味については、ポスプロ工程で利用できるダイナミックレンジを広く確保するねらいから、映画撮影と同様のLog収録で実写撮影が行われた。CG・VFX作業やチェック時はLUTを適用して書き出し、最終納品はLUTを外したものをパブリッシュ。その恩恵を大きく受けたグレーディングは、プロデューサー陣や監督、カメラマンといくつもイメージを検証。最終的に男らしい硬派なイメージへと落とし込まれた。カラリストの戸倉 良氏が仕上げについてふり返る。「実写の中にどうCGが入っていくか、全体を俯瞰で捉えつつ注意しながら作業を進めました。スケジュール的に監督にリモート環境でパーツごとにチェックしていただくこともあったので、作品全体で色味にバラツキが生じないよう、フィニッシング段階のグレーディングやエディットなど、バランスを見ながら整えました」。オンライン編集では、岡本義典オンラインエディターがカメラFIXのショットに動きを付け、回想シーンにビジュアル加工を施すなど、これまで培ってきたスキルを存分に発揮し仕上げた。「目指したのは、これまでのものよりもワンランク上、です。深夜の特撮ドラマのクオリティという既成概念を超えることと、CGと実写との一体感を高めることに注力しました。過去シリーズのイメージを良い意味で一新できたと思います」(西田氏)。

ホラーの瞬間移動のブレイクダウン



  • 実物スーツのリファレンス



  • アニマティクス



  • 3DCG工程としての最終形



  • グレーディングが施された完成形


黒オーラのエフェクトはHoudiniで作成された

pyrosolver(DOP)を使用した黒オーラのシミュレーション

「黒オーラの中に髪の毛のようなラインがほしい」という監督からのリクエストに応えるために、volumetra(il SOP)が用いられた


黒オーラのブレイクダウン



  • 実写プレート



  • 実写の土煙素材を合成



  • Houdiniで作成した黒オーラを合成



  • 質感を調整し、ビネット効果を適用

グレーディングが施された完成形


オンライン編集における加工例。10話にて、ゲームの主催者・葉霧宵刹(丸山智己)が初めて主人公・空遠世那(松大航也)の前に姿を現すシーン。葉霧の出現により時空が歪み、両者を除く人間の時間が止まってしまう。時間停止の表現としてあらかじめVFXチームによって周囲の人物の静止画化が施された。オンラインではさらなる演出向上をねらい、After Effectsで時間が「凍る」イメージで氷のテクスチャ素材を重ね、細雪のようなちり素材を追加した

AEによる加工



  • オンライン効果を入れる前の実写プレート(プリグレーディング済み)



  • 一連の処理が施された完成形


グレーディング例。10話より、ゲーム内のラストシーンに出てくる引き画のカット。グレーディングにあたっては「スタイリッシュな雰囲気。最終話まで登場するシーンのため印象的な画に仕上げる。そして、感情の揺れ動く様を、ドラマの邪魔をしないように配慮しつつもビジュアル的なインパクトをもたせる。そういったことを意識しながら作業しました」(戸倉氏)



  • グレーディング前。オリジナルの画がもつ色の方向性を損なわないように配慮



  • グレーディング後。単調な赤にならないように発色を強調、黄色方向にグラデーションを付け、明暗が際立つように仕上げられた

DaVinci Resolveのノードツリー。シンプルなノード構造で力強くストレートな画づくりが施された。02のCompoundされたノードに基本的なデータが収納されており、ベースの環境に対して03を、04と05はプラスアルファなプライマリ効果を加える工程である。01は全篇にわたり画角周辺にレンズボケ効果を入れるためのビネットである


グレーディング例。10話で空遠の感情が揺れ動く心情描写の難しいシーン。監督からの「時間が途中で止まる様を描きたい」というリクエストに応えるべく、戸倉氏と岡本氏が連携。シンプルな雑踏の1シーンを、時間が止まる前後で雰囲気をガラッと変えたいが、バランスを崩すことは避けたい。プリ段階の方向性からエフェクトを作成し、シーンとして映えるかを両者で協議しながら画づくりが施された



  • グレーディング前



  • 時間が止まる前のグレーディング

時間が止まった後のグレーディング

DaVinci Resolveのノードツリー。シーンの切り替えをシンプルにするため、階層をつくらずストレートなノード構造で、複合ノードもゼロからつくり直した。05だけシーン替わりでキーフレームでデータの乗り換えを行なっている


11話のゲーム内シーンに登場する空遠のアップカット(上図がグレーディング前、下図がグレーディング後)。撮影時のフィルタをどこまで活かすか、邪魔になるくらい力強く入っている効果をどうするか。感情が大きく動くだけでなく、12話にも引き継がれていくシーンのため、とにかく力強いビジュアルに仕上げるべきと、戸倉氏は考えた。「青の力強さに入れ替わることで、ストーリー展開としても自然で飽きないように見せられると考えました。元素材からこのようなトーンにもってくることはそう簡単ではありませんが、カメラマンや監督にも評価していただけました」(戸倉氏)

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<3>半分以上がVFXカット!~最終話~

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