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    UE4によるリアルタイムCGを活用しつつ既成概念を超えた4Kベースの画づくりを実現。

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 237(2018年5月号)からの転載となります

    TEXT_福井隆弘
    EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

    木ドラ25『モブサイコ100』
    www.tv-tokyo.co.jp/mobpsycho100
    Netflix 好評配信中 Blu-ray BOX&DVD BOX 2018年10月3日(水)発売
    出演:濱田龍臣、波岡一喜 /原作:裏少年サンデーコミックス『モブサイコ100』ONE(小学館)/脚本:吉田玲子、国井 桂/監督:坂本浩一/音楽:坂部 剛/VFXスーパーバイザー:小林真吾/VFX制作:東映 ツークン研究所ほか/チーフプロデューサー:大和健太郎/プロデューサー:小林史憲、中野 剛/In association with Netflix/制作:テレビ東京、東映ビデオ/製作著作:ドラマ『モブサイコ100』製作委員会
    ©ONE・小学館/ドラマ「モブサイコ100」製作委員会

    4KサイズのCGキャラクター表現をTVドラマで実現させる

    『モブサイコ100』は、『ワンパンマン』でも知られるONE氏の人気漫画を原作とした実写ドラマ作品である。テレビ東京とNetflixがタッグを組み、世界配信を視野に入れたこれまでになかった革新的な深夜ドラマをつくることをコンセプトに掲げる「木ドラ25」シリーズの第4弾として、今年1月18日から全12話が放送された。そんな本作のVFXをリードしたのが、東映 ツークン研究所(以下、ツークン)だ。「昨夏に、東映ビデオのプロデューサーさんからお話をいただいたのがきっかけです。本作で監督を務められた坂本浩一さんとは以前から複数のプロジェクトでご一緒させていただいたこともあり、トントン拍子で話がまとまりました」と、ツークンの美濃一彦VFXプロデューサーはふり返る。

    左から、小林真吾VFXスーパーバイザー、陳 明欽氏(Miracle Digital Content Company)、美濃一彦VFXプロデューサー、木下 紘氏、栗田泰成氏、藤野香織氏、奥村剛史氏、鄧 小輝氏、田中智也氏、米倉 寛氏、成 澤氏、Jonathan Ludwig氏、冨田有香氏、劉 銘昕氏、 磯村孝太氏、岡田 陸氏、遠藤眞一郎氏(ダブルドットワークス)、三鬼健也氏、森 誉裕氏(GREAT INTERNATIONAL) 以上、東映 ツークン研究所
    www.zukun-lab.com

    フルCGによるエクボのキャラクター表現はもちろんのこと、超能力や破壊エフェクトは深夜枠のTVドラマとしては異例のリッチな表現に仕上がっている。「Netflixによる世界配信を前提にしているため、撮影からポストプロダクションまでの全工程を4Kベースで制作する必要がありました。限られた予算とスケジュールの下、どこにリソースを集中させるべきか協議を重ねた結果、ツークンとしては作品の印象を決定づけるキャラクター『エクボ』のVFXにできるだけ注力することにしました。併せて各話でエクボの登場カット数のコントロールについても早い段階で監督の了承を得ることを心がけました」(美濃氏)。

    日本でも急速に存在感を高めるNetflixであるが、同社向けコンテンツは4Kフォーマットが標準だという。さらに撮影カメラや圧縮コーデックまで細かく定められているとのこと。そうした意味では劇場映画よりもハードルの高い制作が求められたと言えよう。そこで、ツークンが以前から戦略的に取り組んでいるUnreal Engine 4(以下、UE4)によるリアルタイムCGを活用したワークフローが導入された。「いわゆる画づくりに直結する作業は通常のプリレンダーと同様に行い、UE4はレンダラとして利用するワークフローとも言えます。限られた期間でコストパフォーマンスを最大限に高める上で、リアルタイムCGは確かな効果を発揮してくれました」と、小林真吾VFXスーパーバイザーはそのねらいを語る。

    01 プリプロダクション&撮影現場での対応

    実写撮影に先行してモーションキャプチャを実施

    VFX制作の編成は、ツークンがリードプロダクションを務め、外部パートナーとして、エクボのモデル制作をstudio GUFFAWが担当。CG・VFXワークは、国内のGREAT INTERNATIONALに加え、台湾のMiracle Digital Content CompanyやSol VFXが参加。国内外で総勢40名ほどが携わったという。スケジュール的には、昨年10月20日にクランクイン(クランクアップは12月13日)。クランクインの2日後には、第3話と第5話が大きな見せ場となるエクボ完全体(3mという設定のマッチョな人型の状態)のモーションキャプチャ収録を実施。「今回は全話分のシナリオが完成してからの撮影だったので、話数ごとの撮影ではなく、ロケーションごとに撮影していくことができました。シナリオが固まっていたので、VFXシーンについては坂本監督に演出コンテを描いていただきつつ、撮影前にモーションキャプチャを収録し、プリビズを作成することができました。スケジューリングや工程管理もしっかりと行うことができたと思います」(小林氏)。

    ツークン内では、田中智也氏がリーダーとして全体のワークフローを取りまとめ、撮影班とも密にコミュニケーションを重ねながら制作が進められた。今回のワークフローで特筆すべき点は実写撮影に先行するかたちでモーションキャプチャ収録が行われたことだろう。収録時には監督にも立ち会ってもらうことで、精度の高い演技をキャプチャできたそうだが、これをベースにプリビズを作成し、撮影現場で役者さんに見てもらうことで細かい段取りまで詰めることができたという。「モブ役の濱田龍臣さんにもプリビズを入念にチェックしてもらえたことで、CGキャラクターであるエクボとのリアルな芝居を撮影することができました。実際に編集の段階で強引にタイミングを合わせるといったことは行なっていません。ヒットやスウェーなど、微妙な動きのタイミングを調整したくらいですね」と、小林氏。

    撮影現場のリファレンスについて。THETA Sによる360度パノラマ写真を用いることでHDRIの素材となる写真を手早く収集。破壊表現が介在するロケ地では、3DCGで環境を再現するためのリファレンスの撮影が併せて行われた。また、エクボが登場するシーンの撮影では米倉 寛氏が自作したガイド造形が活躍したという。「プリビズなども大切ですが、現場では全てをデジタルデータで用意するよりも、こうしたアナログの造形があると場も和みますし、役者さんもスタッフもイメージの共有を効率的に行えますよね」(美濃氏)。


    モーションキャプチャ向けに、坂本監督が描いた演出コンテの例(第3話で描かれる、モブVSエクボ完全体シーンより)。これを基に収録を行い、プリビズを作成。そして、プリビズをガイドに一連の実写撮影が行われた


    第3話の「モブVSエクボ完全体」シーンのプリビズを、MotionBuilderデータから再現したもの。ロケ地となった五日市会館の簡易的な背景モデルを作成し、キャプチャデータを編集。実写撮影時のリファレンスとして活用された


    3話の「モブVSエクボ完全体」シーンの実写撮影時の様子



    • エクボ完全体の全高を3mと設定し、アングルを調整中



    • エクボの顔をモブが踏みつけるカットの演技や撮影プランを相談中(左より、百瀬キャメラマン、坂本監督、主人公モブ役の濱田龍臣、小林VFX SV)


    リファレンス用フッテージの動画キャプチャ。エクボが介在するシーンでは、ツークンの米倉氏が自作したこれらの造形が撮影ガイドとして活用された

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    02 エクボのキャラクター表現

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    02 エクボのキャラクター表現

    タイトな制作条件の下でも遊び心を忘れない

    エクボは、完全体と霊魂の状態という2パターンで登場する。大半のシーンは霊魂の状態で描かれるため、ライティング以降の工程をUE4によるリアルタイムCGで作成することでコストパフォーマンスが高められた。「事前にフェイシャルが問題なく受け渡せるかなど、様々な検証を行いました。エクボの周りを漂うオーラのようなエフェクトもUE4のパーティクルを利用しています。リアルタイム処理のため、揺らめき具合は毎回変わりますが、表現的に再現性を重視する必要がありませんでしたし、4Kサイズのエフェクトを高速に作成できるメリットは非常に大きかったですね。意図した動きにならない場合も躊躇なく再レンダリングが行えました」(田中氏)。

    完全体エクボについてはプリレンダーで完結(レンダラはArnoldを採用)。リグはHumanIKが用いられた。「揺れものが介在しなかったこともあり特別なことは行なっていません。モーションキャプチャについても同様です。ただ、完全体のエクボは全高3mという設定なのですが、ショットによっては物足りない場合もあったので、アオリの構図では全身をスケールして4、5mに改めるといった調整は適宜行なっています」(田中氏)。一方、霊魂のエクボは造形の大半を顔部分が占めることもあり、CVを務めた大塚明夫氏のフェイシャルキャプチャが活用されている。そのフェイシャルアニメーションは栗田泰成氏がリード。「エクボの声はプレスコ収録だったので、実写撮影に先行するかたちでフェイシャル作成に取り組むことができました。ほぼ表情が出来上がった状態でボディモーションを付けてもらっていたのですが、米倉が担当したカットでは即興でエクボが鼻をほじる芝居が加えられたりと、上手く相乗効果を発揮できたと思います」(栗田氏)。このように遊び心をもった画づくりが実践されていたことが窺える。

    先日、NVIDIAがリアルタイムレイトレーシングの新技術「NVIDIA RTX Technology」を発表するなど、リアルタイムCGによるクオリティの追求が加速していくことはまちがいない。「シリーズものの企画でマスコット的なCGキャラクターを毎回必ず登場させよう、といったアイデアはわりと出てくるのですが、コスト的な問題から見送られがちです。そうした意味でも今回、エクボをつくりきることができて、大きな自信につながりました」(美濃氏)。

    エクボ完全体モデルの変遷



    • 初期のスカルプトモデル(ZBrushで作成)



    • ブラッシュアップした完成形



    • Mayaに読み込んだモデル(メッシュ表示)



    • 同シェーディング表示


    エクボ霊魂モデル



    • 完成形(メッシュ表示)



    • UE4に読み込んだ状態(シェーディング表示)


    監督チェック用のレンダリングイメージ。表情バリエーションが複数用意された


    完成形を用いたフェイシャルテスト




    • エクボ霊魂のボディリグ(Maya)



    • 同セットアップ

    エクボ完全体のモーションキャプチャ収録の様子。ヴァーチャルカメラを使い、収録時にキャメラマンに実写撮影時のカメラアングルを想定しながら撮影してもらうことで、精度の高いプリビズを作成することができたという


    フェイシャルアニメーション作業の例


    ボディアニメーション作業の例



    • Maya上のプレビュー



    • UE4に読み込んだ状態。人魂のトレイルエフェクトはUE4上で付けている。また、通常はこのカットと同じくフェイシャル作成後にボディを付けるという手順だが、スケジュールとの兼ね合いでフェイシャルとボディを同時進行で付けることもあったという


    アニメーションのブラッシュアップ例


    上の3画像は修正前

    下の3画像は修正後。第3話の学校シーンにて、エクボがヒロイン・高嶺ツボミ(与田祐希)を見て「いいケツしてんじゃん~」とセクハラ的な発言をし、モブにお仕置きされるというカットである。主な変更点は次のとおり



    • 当初はエクボがカットの途中からフレームインして、モブに話しかけるという段取りであったが、エクボの性格(オヤジ感)をしっかりと描くべく、ツボミの方を見つつ手でポーズをとりながら入ってくるように変更



    • モブに頭を掴まれた際の表情とポーズを「しまった、やばいこと言っちゃった!」という焦りの表情が読みとれるように強調


    修正前はエクボの変形が小さく、硬質に見えていたため、振り回される際や机の角にぶつかった際の変形を、より漫画的に誇張。併せて、ヒットエフェクトも増やされた

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    03 ショットワーク

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    03 ショットワーク

    4KベースのVFX制作は依然として過渡期

    超能力や破壊表現といったその他のVFXについては通常のプリレンダーベースだったため、4Kベースの制作に苦労したそうだ。外部パートナーのGREAT INTERNATIONALは主に超能力のVFXを担当。「当社では3ds MaxでCG制作を行なっています。表現によっては、意図的にボケた感じを出すために小さめのサイズでレンダリングすることもありましたが、4Kサイズではプレビューすら走らないくらい重い表現も多かったですね(苦笑)。CGだけでなく、AEのレンダリングだけでも1フレーム4~5時間かかるショットもありました」(森 誉裕氏)。データ負荷の重い表現については、できるだけ静止した状態でプレビューを行うといった創意工夫も必須だったとか。

    コンポジット工程においても"4Kの壁"は高かった。ツークン担当VFXのコンポジットワークをリードした遠藤眞一郎氏(ダブルドットワークス)は次のように語る。「After EffectsのCreative Cloud 2018を使い、可能なかぎり標準機能で画づくりを行うようにしました。プラグインについてはParticularやFoamを味付け程度に利用するのに留めています。4Kという高解像度も大きいのですが、他のスタッフや外部パートナーさんとのデータの受け渡しを行う際の余計なエラーを避けることがねらいです」。

    「ビジュアルとしては監督の意向を汲んで、いわゆる特撮作品的な"わかりやすいエフェクト"は避けています。ぱっと見は地味かもしれないけど、シーンが進むにつれて深みを増していくような表現を目指しました」(小林氏)。エクボのルックについてもツークン側から積極的に提案するかたちで制作が進められた。「監督からは『あまりアニメっぽくはしたくない。リアル路線のキモかわいい感じで』というリクエストをいただいていました」(田中氏)。完全体エクボについてはレンダラにArnoldを用いられたが、クランチタイムでは内部のレンダーサーバが不足したため、GCP(Google Coud Platform)の「ZYNC」も併用したという。「GCPのクオリティは確かなものでしたが、意図どおりの画づくりのためにはどうしても何度かリトライする必要があるので、当初の予定よりもコストがふくらんでしまいました(苦笑)。クラウドレンダリングは便利ですが、コスト管理の面では課題も多いです」(田中氏)。「4KベースのVFX制作はまだ過渡期です。今回もファイナルクオリティでのチェックフローについては課題が残りました。そうした意味でもUE4によるリアルタイムCGのさらなる活用と、クオリティの追求を続けていきたいと思います」と、美濃氏は総括してくれた。

    本文で述べたとおり、エクボ完全体はMayaでライティング&レンダリングが施された



    • Arnoldによるライティング設定



    • レンダリングイメージ


    エクボ霊魂Ver.のライティングはUE4上で施された



    • UE4のライティング設定。BackLight、FillLight、KeyLightの3灯。実写プレートに合わせて3D空間上で実際の環境を再現している



    • UE4のレンダリング設定。「エクボの周りに漂うオーラ的なエフェクト表現については、1フレーム目からパーティクルが大量に発生した状態になっている必要があったため、Animationパラメータ中の「WarmUpStartFrame」を24、「DelayBeforeWarmUp」を2秒と入力し、レンダリングを開始する最初のフレームよりも先にパーティクルが発生、拡散するように設定しました」(田中氏)。UE4によるリアルタイムCG処理は、プリレンダーよりもはるかに速くレンダリングが完了するため、効率良く作業を行うことができたという

    エクボ完全体CUTのブレイクダウン



    • 実写プレート



    • 破壊された背景のCG素材を合成



    • エクボ完全体のアニメーション連番を合成



    • エクボのオーラエフェクトを合成



    • カメラ手前の破壊オブジェクトとホコリ素材を合成



    • 一連のコンポジット処理を施した完成形


    エクボ霊魂CUTのブレイクダウン



    • 実写プレート



    • エクボ本体



    • UE4の火花パーティクルにブラー処理を加えて作成したオーラエフェクトを合成



    • オーラエフェクトの色味と明るさを調整するための半透明オーラ素材を追加



    • オーラにランダム感を出すためのゆがみ処理を追加



    • エクボのチャームポイントである赤い頬に発光エフェクトを合成した後、一連のコンポジット処理を施した完成形


    台湾のMiracle Digital Content Companyが担当した、モブの超能力エフェクトCUT(第6話)ブレイクダウン



    • 背景プレート(オリジナルの空)



    • 空を差し替え、素材となるCGオブジェクトを配置



    • 別撮りした役者たちの実写素材を合成



    • モブのオーラのエフェクトを追加(GREAT INTERNATIONALが作成したものを流用)



    • 竜巻のCG素材



    • 竜巻を合成



    • 砂と埃の素材を合成し、雰囲気を高めるために瓦礫を追加



    • 一連のコンポジット処理を施した完成形



    • 月刊CGWORLD + digital video vol.237(2018年5月号)
      第1特集:わいわいバーチャルYouTuber
      第2特集:デジタル作画最前線

      定価:1,512円(税込)
      判型:A4ワイド
      総ページ数:144
      発売日:2018年4月10日