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    株式会社ミニミニの30周年記念CMとして制作された本作は ミニミニマンが、ハリウッド映画風ヒーローとして登場する。 異色のCMがどのように制作されたのか紹介しよう

    綿密な準備とイメージ共有

    今回のVFXアナトミーはTVCMミニミニ『MINIMINI MAN』篇のメイキングを紹介する。賃貸不動産業のTVCMとしては異例のハードSFタッチの映像に、注目した人も多いのではないだろうか。

    本作は映画『GOEMON』や『Last Knights』を制作したKIRIYAPICTURESが監督し、VFX制作はエヌ・デザインが担当している。

    ▲(左)左から福田林太郞コンポジター、岩崎朋之CGIディレクター、川瀬基之エディター/プロダクションマネージャー。
    ▲(右)上段左より阪上和也CGIディレクター、安井智太郎CGクリエイター、早坂 渉コンポジター、福田亘太郎CGクリエイター、下段左より中村明博コンポジター、山本智彬CGクリエイター、井達麻未エフェクトアーティスト、森 智章CGクリエイター(以上、エヌ・デザイン)

    「映画やMVなど、KIRIYA PICTURESが手がけてきた多くの作品に当社が携わらせていただいていた関係で、本作もVFXを担当させていただくことになりました。当時社内のライン状況はかなり詰まっていましたが、内容が魅力的だったのでスタッフのモチベーションは高かったです」とCGディレクターの岩崎朋之氏は語る。

    企画が始まったのが昨年8月。9月上旬のCG打ち合わせを経て、10月下旬に撮影が行われた。3タイプあるCMのうち、Aタイプが12月中旬、1月中旬に残りが納品された。制作に携わったメインスタッフは6名、社内外のサポートメンバーを合わせると約15名ほどのスタッフが関わっている。

    「全部で30カットほどですが、カットごとにシーンが変わるので使い回しが利かず、物量的には20シーン作っているのと同じくらいでした。CM映像の制作期間としては長い方だと思いますが、これくらいの時間をもらわないと難しかったと思います」と岩崎氏。

    また撮影日が少し延びたことでプリビズをつめる時間ができ、制作前に細かい演出チェックを監督と行えたという。

    プリビズでは、モーションキャプチャを使いミニミニマンの演技も演出されており、カメラワークから撮影現場でのグリーンバックの配置位置、レンズ構成までシミュレーションが行われている。

    岩崎氏が以前CMをメインに制作を行なっていた経験から考えると、「こんなのあり?」という内容だったというが、監督とクライアントの信頼関係が非常に強く、制作側の心配は取り越し苦労に終わったという。

    「力強さのある企画書で、『あなたを守る』、『NEED HELP?』というコピーが全て。今までのかわいいミニミニのイメージを変えてほしいというオーダーだったので、思う存分やりました。KIRIYAPICTURESのテイストがすごく出ている作品だと思います」と岩崎氏は語る。

    それでは、TVCM三部作の代表的なショットのメイキングを紹介する。

    01:綿密なプロプロダクション
    制作を支えるコンセプトアートとプリビズ

    本作の撮影では、地面以外の背景はほぼグリーンバックになるとCG打ち合わせの段階でわかっていたそうだが、制作期間を考えると、フル3DCGで背景を制作することは難しく、マット画を中心に効率良く背景を制作していく必要があった。

    そこでどのように映像を構成していけばよいのかを検討するために、詳細なプリビズが作成された。

    また同時に、画づくりの指針となるコンセプトアートも作成されている。このコンセプトアートを担当したのは、INEIの富安健一郎氏だ。

    ▲INEI富安氏が制作したコンセプトアート。映像を作るための情報が詰まっている

    コンセプトアートを制作するにあたっては綿密なミーティングが行われ、舞台となる通りの道幅や賑やかさ、どういう格好の人がどれくらいいるのか、気温や湿度など、監督が求めるスモーキーな未来都市のイメージを実現させるための具体的で細かい内容が決められていった。

    ▲コンセプトアートを制作するために開かれたミーティングでは、コンセプトアートに描かれる要素の細かい設定が話し合われた。実際に実現可能な根拠のあるコンセプトアートであることが大事なのだという

    「この作品を制作するまでコンセプトアートは作品の雰囲気を伝える程度のものだと思っていたのですが、コンセプトアートをつくる目的はそれだけではなく、現場の予算感やスケジュール感をなるべく明確にしていくためにも正確につくらないといけないと教えられました。正確なコンセプトアートをつくることで、現場でスモークを焚かないといけないとか、どのような衣装のエキストラを何人用意しないといけないとか、CGや美術部だけではなく様々な発注を行う演出部も助かったのではないでしょうか」と岩崎氏はコンセプトアートを制作する利点を語る。

    プリビズ制作は、2ヶ月程度の時間を確保できたため、モーションキャプチャを使ってキャラクターの動きが作成されている。効率良く背景を制作するためのカメラワークや、キャラクターの演技内容まで細かく監督とつめることができたことで、現場での撮影だけでなく、本制作においてもキャラクターのアニメーションにプリビズのモーションデータを転用ができるなど、3DCG制作の効率化に非常に役に立っているという。

    ▲実写部分とCG部分に色分けされた絵コンテ


    ▲MOZOOで行われたモーションキャプチャの様子

    ▲モーションキャプチャを基に作成されたプリビズからの抜粋。キャラクターの動きなどは本番のCG制作に利用できるほどつくり込まれている

    ▲本作品のワークフロー。Maya、3ds Max、NUKE、Smoke、After Effectsがメインツールとして使用されている。撮影はRED EPIC 4KHDが用いられ、OCIOを使ってリニアワークフローで作業されている

    ▲OCIOを使うことで、After EffectsでもNUKEでも同じLUTを読み込んで作業できるため効率が良いという。図はAE用のOCIO設定

    ▲NUKE用のOCIO設定。設定が「Cineon」となっているのは、「REDlogFilm」と「Cineon」のガンマカーブが同一なため

    02:キャラクターモデリング
    岡崎能士氏デザインのキャラクターをCG化

    プリビズやコンセプトアートの制作と並行して、登場するキャラクターのモデリングが行われた。

    今回登場するキャラクターはMINIMINI MANと敵キャラクターだが、両キャラクターとも『アフロサムライ』などで知られる漫画家岡崎能士氏がデザインしている。

    ▲岡崎能士氏によるMINIMINI MANの設定画

    ▲(左)イラストを基に制作されたスーツはピクチャーエレメントの協力の下、PhotoScanを使ってデータ化された
    ▲(右)3DCGデータ化されたMINIMINI MAN。このデータを基にモデリングしていく

    ▲MayaでモデリングされたMINIMINI MANのモデル

    ▲レンダリング画像

    MINIMINI MANのスーツは、ライブアクション用に制作されたため、PhotoScanを使ってスーツをデータ化し、そのデータを基にフリーランスの後藤美沙氏がモデリングを行なっている。飛んでいるカットや敵キャラと戦っているアクションカットでは、このCG化されたMINIMINI MANが使用されている。

    ライブアクションで撮影されたカットでも、実写のアクターを消してCGに置き換えているカットもあるという。敵キャラのモデリングはPicapixelsの帆足タケヒコ氏が担当している。

    ▲岡崎能士氏による敵キャラの設定画

    ▲敵キャラのモデルデータ

    ▲敵キャラをレンダリングしたもの

    ▲敵キャラのバストショットのレンダリング画像

    ▲レンダリングはV-Rayを使ってOpenEXRでレンダリングされている。ライティングはIBLを使用して、グリーンバックで撮影されたスーツのMINIMINI MANのルックに合うように調整されている

    「基となるデザインがイラストなので、このままつくってしまうと実写と合わせたときに説得力を出すのが難しい。そこで説得力のある造形が得意な帆足氏に頼みました。イラストにはないディテールや質感のつくり込みを自分でデザインしてモデリングしてもらえるので、話が早く、クライアントチェックでもほとんど問題なかったので助かりました」と岩崎氏。

    プリビズで細かくキャラクターの動きやカメラワークを決めていたため、ディテールのつくり込み加減を上手くコントロールすることができ、デザインの割に工数をかけずに制作できている。MINIMINIMANも敵キャラもリグは自社開発したものを使用し、効率化が図られた。リグはプリビズで使用しているモデルと共通であるため、プリビズで作成したモーションをそのまま本番でも使用することができたのだという。

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    03:背景制作 大量の実景写真を駆使した背景制作

    三部作を通して、背景は全てグリーンバックで撮影されているため、背景にはマット画と写真を描き変えた3Dマット、加えてモデリングされた背景モデルを使ったフル3DCG背景が制作されている。

    マット画や3Dマットの制作には多くの風景写真が利用されているが、これらの写真はスタッフが都内の近未来的な風景に加工できそうな街並みを夜な夜な探し出し、本番撮影に近いアングルで大量に撮影したものだそうだ。撮影された風景ショットは約1,000枚。露出ちがいを入れると約3,000枚はあるという。撮影された写真素材はすぐに仮合成され、問題があるようであれば再び撮影が行われた。

    「当初はニューヨークとかに撮影に行こうという話もありましたが、再撮影などの手間を考えて都内で撮影することになりました。機動力が必要なので、あまり三脚を使わず手持ちのNikon D800で撮影しています」と岩崎氏は語る。

    マット画は全部で4枚制作されており、コンセプトアートも作成しているINEIが担当した。セットの抜けに配置されるマット画はある程度流用が利くので、似たアングルではビルの位置を変えられるようにし、臨機応変なレイアウト変更に対応できるように制作されている。

    一方地上部分の背景はマット画ではなく、写真を3Dモデルにカメラマップして街並みを構成するような写真要素が強い背景となっている。最初は近未来的なビルで構成しようと思っていたそうだが、最終的には表参道的なおしゃれなショーウインドウなどの写真で構成されることとなった。

    ▲(左)高層ビルから撮影した都心の夜景
    ▲(右)街中のショーウインドウなどの写真も利用された

    ▲(左)Mayaで簡易なビルのモデルを作成し、そのモデルに加工した写真を投影している
    ▲(右)Mayaで作成した背景を俯瞰でレンダリングしたもの

    ▲(左)実写プレートに合わせたカメラワークで背景をレンダリングした素材
    ▲(右)レンダリングされた背景の抜けにマット画を合成したもの

    ▲完成した背景に、実写プレートと、看板のCG素材を合成した完成ショット

    フル3DCGで背景が作られている例

    ▲(左)敵キャラが現れるビルのモデルデータの全体像
    ▲(右)カメラワークを付けたシーンデータ

    ▲レンダリングされた素材

    ▲(左)看板が落下するビルのモデルデータの全体
    ▲(右)カメラワークを付けたシーンデータ

    ▲レンダリングされた素材

    ▲ビルのモデルに使われているテクスチャデータ。ディフューズやバンプ、リフレクションなど高解像度のテクスチャが用意されている。実写と比べると3DCG背景は情報量が少なくなりがちなので、高解像度でディテールが描き込まれている

    04:シーンメイキング オープニングカット

    オープニングのカットは、MINIMINI MANの実写プレートに3DCGで作成された屋上、INEIが作成したマット画による背景で構成されている。

    マット画はローダイナミックの状態で仕上げられているので、煙素材や光を加えていくとマット画自体の色彩が濁ってくるが、窓の明かりなど輝度が高い部分の色が1以上になるように調整することで、輝点が濁らず綺麗な夜景を保つように加工されている。

    煙素材やレンズフレアを足しながら雰囲気を出しつつ、実写感を足すためにRGBの各チャンネルをずらしたり、画面の隅の明るさを落とすなど、実在感のある画づくりに注力したという。

    ▲(左)MINIMINI MANの実写プレート
    ▲(右)モデリングされた屋上。プリビズを参考にカメラから見える範囲がモデリングされている

    ▲(左)輝度調整の例。オリジナルのマット素材では窓明かりなど輝度が高い部分でも各チャンネルの値が1以下になっている
    ▲(右)輝度の高い部分の各チャンネルが1以上になるように調整した状態

    ▲完成した背景のマット画。霞がかかっている部分でも窓明かりが明瞭になり、ディテールの表現力を落とすことなく合成されている

    ▲(左)実写のカメラワークに合わせたシーンデータ
    ▲(右)レンダリングされた屋上のCG素材

    ▲マット画、CG素材、実写プレートを合成した完成ショット

    着地ショット

    屋上から飛び降りて着地したMINIMINI MANが、爆発するビルを見上げるというカット。

    背景はNUKE内に構築した3Dモデルに建物などの写真を投影して構築されている。コンポジターの福田林太郞氏によれば、背景は写真ベースであるため、スモークを焚いたり、看板のLEDが動いていたりするような、なるべく動く要素を画面に足すことで活きた街であることを強調しているという。

    爆発は3ds MaxでthinkingParticles とFumeFXを使って作成されている。

    ▲(左)実写プレート
    ▲(右)NUKE内に再構築したモデルに加工した写真を投影

    ▲(左)NUKEのカメラから見たシーンの状態
    ▲(右)爆発素材。FumeFXで生成した煙にXYZ各方向からそれぞれ異なる色のライトを照射して陰影調整用のマスクを作成している

    ▲完成ショット

    群衆の中から飛び出すMINIMINI MAN

    落ちてきた看板を支え、敵キャラに向かって飛び立つMINIMINIMANのカット。

    このカットでは画面内に密集した群衆が配置されることになるため、どのようにエキストラの人たちを配置して、どのように分割して撮影するのが一番効率的なのかをプリビズから分析し、カメラの位置やレンズの構成、エキストラの配置を細かくプランニングした上で撮影に臨んでいる。

    エキストラはいくつかのグループに分けて、真上、少し角度をつけたもの、さらに横にしたショットといったように、カメラの撮影角度を変えたものを円周上に配置して撮影された。また隙間を埋めるために、PhotoScanでエキストラの人たちのデジタルダブルを作成して配置している。

    ミニミニの看板は、美術部が作成したラフデザインを基にモデリングしたものが使われている。看板は社名ロゴを加工して作成しているためCM制作上最も気を遣う作業となるが、クライアントが非常に柔軟で自由に表現することができたという。

    ▲(左)群衆を分割して撮影するためのエキストラの配置を記したプランニングシート
    ▲(右)エキストラを撮影する際のカメラの位置や角度を記したプランニングシート

    ▲分割撮影されたエキストラの実写プレート

    ▲エキストラのデジタルダブル

    ▲(右)合成された群衆プレート

    ▲(左)看板のモデリングデータ
    ▲(右)看板の鉄骨用マスク素材

    ▲(左)ネオン管用マスク素材
    ▲(右)マスタービューティ素材

    ▲(左)実写プレートに看板を合成したもの
    ▲(右)MINIMINI MANのCG素材

    ▲完成ショット

    MINIMINI MAN vs.敵キャラ

    CM三部作のラストを飾るMINIMINI MANと敵キャラとの対決は、MINIMINI MANを含めフル3DCGで作成されている。

    屋上のルック調整は冒頭の屋上カットで検証済みなのでそんなに困ったことはなかったそうだ。通常CM制作では、映像を各要素に分けて納品してInfernoで組み直して代理店とクライアントでつめるということが行われるが、本作に関しては、フルコンポジットまでエヌ・デザインで行い納品しているという。いかに監督とエヌ・デザインがクライアントから信頼されていたかがわかる作品だ。

    ▲(左)対決カットのMayaによるシーンデータ。背後にビルの3Dモデルが足されているのがわかる
    ▲(右)背景マット素材

    ▲(左)レンダリングされた屋上のCG素材
    ▲(右)キャラクターのCG素材

    ▲完成ショット。キャラクターなどのCG素材では全編通してIBLを使ったライティングが施されている。夜景の写真素材を撮影する際にHDRも撮影されているが、結局グリーンバックで撮影したHDRを使ったIBLが自然に馴染んだという

    TEXT_大河原 浩一(ビットプランクス)

    Information
    TVCM 株式会社ミニミニ『MINIMINI MAN』篇 公開中
    監督:KIRIYA PICTURES/VFX制作:エヌ・デザイン
    ©minimini.inc
    minimini.jp/tokushu/cm