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    10年前の実写版『DEATH NOTE』2部作のVFXを手がけたデジタル・フロンティアが、フルCGによる死神をはじめ、確かな進化を遂げたVFXを実現。その舞台裏にせまる。

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 220(2016年12月号)からの転載となります

    TEXT_福井隆弘
    EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
    ©大場つぐみ・小畑健/集英社 ©2016「DEATH NOTE」FILM PARTNERS

    映画『DEATH NOTELight up the NEW world』
    大ヒット公開中
    原作:大場つぐみ・小畑 健(集英社ジャンプコミックス刊)/監督:佐藤信介/脚本:真野勝成/企画・プロデュース:佐藤貴博/撮影監督:河津太郎/GAFFER:小林 仁/特撮監督:神谷 誠/CGプロデューサー:豊嶋勇作/CGディレクター:土井 淳/制作プロダクション:日活・ジャンゴフィルム/配給:ワーナー・ブラザース映画
    www.deathnote2016.com
    デジタル・フロンティア公式サイトにて独占CGメイキング記事を公開中!
    www.dfx.co.jp/cgmaking

    名実ともに確かな進化を成し遂げた死神たちのVFX

    2006年に公開され、トータルで興収80億というヒットを成し遂げた『DEATH NOTE』2部作。そして10年が経ち、正統なる続編『DEATH NOTE Light up the NEW world(以下、デスノートLNW)』が公開された。本作のVFXは、10年前の2部作、そして昨秋に放送されたTVドラマ版と同じく、デジタル・フロンティア(以下、DF)がリード、死神のデザイン、アートワークからショットワークまで一括して担当している。また、本作の佐藤信介監督とDFは、実写版『GANTZ』2部作(2011)から現在まで、コンスタントにタッグを組んでおり、良好なパートナーシップを育んできている。さらに、土井 淳CGディレクターをはじめとする中核スタッフの多くが、10年前の実写映画シリーズにも参加していたということで、表現としても技法としても「進化したVFXの実現」がテーマとなったという。本作にかける思いには並々ならぬものがあったようだ。当初、佐藤信介監督はリューク等死神は、できるだけリアルにしたかったので造形を作るつもりだったとか。しかし、「フルCGで死神たちをリデザインし、役者と対等に演技をさせるという意味でも存在感、実在感にこだわりクオリティの高いものを見てもらい、CGでいけるなと納得してもらうことができました」と、土井氏。


    左から、土井淳CGディレクター、鈴木伸広CGプロデューサー。共にデジタル・フロンティア

    当然ながら技法としても確かな進化を遂げている。撮影現場で収集したHDRIに基づくIBL(レンダラはV-Ray)が徹底された。プリプロ段階からしっかりワークフローを確立しており、死神の合成もHDRを使用しショットによってクオリティのばらつきもほぼなく仕上げられている。最終のルックに関しても河津太郎撮影監督が監修したLUTを提供してもらい、それに合わせながらだったので比較的トラブルはなかったそうだ。「10年という年月の経過に負けない、確かなCGキャラクター表現の進化を実現できたと思います。ですが、筋肉の表現(Muscleシミュレーション)の追求や、同等のクオリティでより多くのショットを量産していくためにはさらなる改善が必要です」(土井氏)。チャレンジをくり返し、追求し、積み重ね、今後さらにクオリティを上げていきたいというデジタル・フロンティアの新たなVFXワークにも期待は高まる。


    左から、松井孝洋エフェクトSV、森田健介リギングSV、亀川武志アニメーションSV、齋藤和丈ライティング&コンポジットSV、石山健作フェイシャルSV、宮尾周司キャラクターSV。以上、デジタル・フロンティア

    01 死神キャラクターモデルの制作

    大胆なリニューアルも施された死神のアセット&セットアップ

    本プロジェクトは、2015年秋からスタート。今回の死神は、フルCGで制作するということもあり、リデザインから実制作までDFが一括して手がけている。まずはコンセプトワークに約2ヶ月を費やした。それと並行するかたちで10月からアセット制作を開始。2016年1月には完成していたという(死神のほかに、プロップや背景セットも制作)。当初は、デスノートは6冊存在するという漫画原作の設定に合わせて6種類の死神を、さらには全死神の頂点に立つ死神大王も登場させてほしいといったリクエストが監督や原作者サイドから上がったそうだが、定められたバジェットやスケジュールの中で最大限のクオリティを実現させるにあたり、リュークをはじめとする3体にしぼられたという。リュークの場合はその強烈なイメージは残しつつ、よりダークな印象に、アーマは原作に登場する死神シドウをベースに、女神としてリニューアル。母性を感じさせるデザインに改めるように心がけたとのこと。

    基本的にはZBrushで作成した上でリトポ、Mayaで最終的な調整が施された。死神キャラクターモデルの制作は、宮尾周司キャラクターSVをはじめとする4名で制作、そのセットアップは森田健介リギングSVをはじめとする3名が担当した。最終的にリュークは39万ポリゴンに達し、Hairについては髪の毛1,760本、肩の毛3,000本、両肩のモデルの羽500本、顔のうぶ毛5,400本、合計すると1万600本というから驚きだ。「nHairで使用するカーブが多く、Hairの根元が動きやすいので、柔らかさの調整をするために、インプットとアウトプットをブレンドできるインハウスツール『DF curveDeformer』を活用しました」(森田氏)。Clothについては、nClothを採用。リュークの場合は、スカート、腕の布が最大5層と、多層になっているため、そのセットアップは自ずと難しい調整が求められた。

    DFではキャラクターアニメーションはMotion Builder(以下、MB)ベースで作成するワークフローが構築されているため、MB用のセットアップLDセットアップ)、とMaya用(HDセットアップ)という2種類のリグを各キャラクターモデルごとに用意。セットアップ時に土井CGディレクターに言われていたこととして、今までは鎖骨が歪みがちだったので、今回はそれがないよう、鎖骨の位置が見直された。「ちゃんと鎖骨の位置にセットするとMBで不具合が出るのでアニメーターから若干クレームがきましたが(苦笑)。あと、肩を動かすことによってお腹の筋肉も動くように設定しました。けっこう体型がゴツゴツしているので、身体がグニャグニャしないように補助骨を多数加えています」(森田氏)。



    リュークの完成モデル(レンダリングイメージ)。様々なシーンでの見映えに統一感を保つ上では、フラットなシェーディングに加えて実写撮影の現場で収集したHDRI(昼光と屋内)環境下でのルックが同時並行で確認された


    リュークの完成モデル(メッシュ表示)


    リュークの服がどのようなシルエットで見えるかを検証する際には、UV情報からパターンを型取り、実際に衣装の試作も行われた。「腕を広げたときの布のシルエットをここで調整し、写真のような見た目になるよう Clothシミュレーション時に反映させました」(森田氏)


    MB用のLDセットアップ。「MB_Character_Solver」が用いられた

    Maya用のHDセットアップ。「Slide Components」を使い、皮膚が骨の上を滑る表現が追加された

    画像左、リュークのうぶ毛のHair設定。「うぶ毛が約5,400本と多かったので、リュークのアセットには入れ込まず別アセット化し、必要時に読み込んで使用する仕様にしました」(森田氏)。図中の左側がうぶ毛のアセット(緑色メッシュ)とリュークのアセットである。うぶ毛はメッシュから生えており、メッシュを動かすとうぶ毛がついてくる仕様となっている。そして、うぶ毛のメッシュと同じメッシュをリュークのアセットにあらかじめ仕込んでおき(図中・右側の白色メッシュ)、シーン構築時に、リュークのメッシュとうぶ毛のメッシュをOutMesh/InMeshでコネクションさせている。アップなど、うぶ毛が必要なCUTをShotgunに情報を登録しておき、シーン構築時に自動で上記処理が行われる仕様になっている。画像右:シーン構築ツールでうぶ毛のアセットとリュークのアセットを読み込んだ状態

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    02 キャラクターアニメーション&フェイシャル

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    02 キャラクターアニメーション&フェイシャル

    キャストたちの迫真の演技と互角にわたりあえるフルCGの死神たち

    フェイシャルキャプチャならびにフェイシャルアニメーションは、石山健作SVをはじめとする6名のチームが担当。そして全体的なアニメーション制作は、亀川武志SVをはじめとする5名が担当したという。リュークのフェイシャルアニメーションを付ける際は、柔らかな生命を感じられる動きを追求したという。「あまり見えませんし、そもそもキャプチャすることができないため従来は省略されることが多かったのですが、本作では首周りの動きにもこだわりました。首筋や喉ぼとけの動きをしっかりと付けるといった具合に、よりいっそうのリアリティを求めていきました」(石山氏)。首から上はフェイシャルのチームによってリグからアニメーションまで一括して担当。表情と首の筋肉は繋がっているので、リグのチームと担当を切り離すことで、よりスムーズにクオリティを上げられたとのこと。フェイシャルアニメーションのチェックに関しても極力軽くレンダリングを行い、最終形に極力近いクオリティでチェック。レンダリングしないとディテールまで確認できないため、確実にクオリティの底上げになったという。ただし、その代償としてレンダリングコストが急増してしまった。ハイディテールのCGキャラクター表現においては不可避のため、悩ましい課題だと思う。「本作の死神たちはアクロバティックな動きよりも、長台詞など"演技力"が求められる表現が大半でした。そこでフェイシャルチームとしてもブラッシュアップをくり返しました。アクターさんたちに演じていただいたリファレンス動画も重宝しました。例えばリュークがリンゴをかじる演技では、10年前はパクっとひとくちで済ませていたものを、しっかりとほおばる動きを施しました。何かと苦労はしましたが、死神たちのフェイシャル表現を着実に進化させることができたと自負しています」(石山氏)。

    キャラクターアニメーションについて。DFでは数年前からアニマティクスで使用するモデルを使い、モーションキャプチャ時にリアルタイムで簡易的なCGアニメーションが確認できるシステムを構築している。上述のとおり、確かな演技力が求められたが、例えばアーマについては女性らしくしたいという監督からのリクエストを受け、特に指先の細かい動きに注意しながらのアニメーションを付けたという。指先が他のキャラに比べ長く、キャプチャを流し込んだだけでは良い感じにはならず、綺麗なシルエットになるように細かく調整がくり返された。そうした努力の好例が、マスカットをしなやかに食するカット(亀川氏自身もお気に入りだとか)。その後に、部屋を出て行く竜崎(池松壮亮)を見送る際の寂しげなアーマの表情も名演である。「アーマはあまり大きな動きがないので、微妙な演技で感情を伝えられるよう注意しました」(亀川氏)。


    リュークのフェイシャルリグ。(図中・左)フェイシャル作業用のハードウェア表示/(図中・右)フェイシャルコントローラ


    Mayaによるフェイシャルアニメーションのブラッシュアップ例。(図中・左上)Shotカメラ/(図中・右上)パフォーマンスキャプチャにおけるHMDからアクターの表情をとらえた動画とフェイシャルコントローラ/(図中・下)アニメーションカーブ編集画面。リアリティと感情表現を高めるべくブラッシュアップがくり返された


    アニメーション作業フローを図示したもの。実写素材/MOCAP収録時の動画。役者の頭の位置を、スタッフの拳で仮配置していることがわかる(実際のリュークの大きさを考慮した高さになっている)。上手・奥のスクリーンには、リアルタイムでアニマティクス用キャラモデルにモーションを流し込んだものが見られるようになっている/アニマティクスのチェックムービー。このカットは実写素材のマスクとCGのマスクの切り替えを行なっているが、違和感が生じないよう動きが調整された/アニメーションのチェックムービー。さらに動きや接地がブラッシュアップされた。「手首の角度や腕を含めた全体的なポーズをブラッシュアップしています。肩の羽やスカート部分は半透明にして身体のライン自体もおかしくないかチェックしてます」(亀川氏)


    MOCAPデータをキャラモデルに流し込む「アクターインプット作業」等の効率化のために開発されたインハウスツール「ActorInputManager」UI。最初のシーン構築(MOCAPデータの読み込み・アセットのインポートなど)から管理まで、このツールで行われる


    フルCGキャラクターである死神が介在するシーンの撮影例。実写撮影時のアクターの配置に合せて、CGキャラを配置する。図は本文でも触れたアーマと竜崎の会話シーン。「このショットでは目線合せも気を配りつつ、マスカットの受け渡しがポイントです。アーマの指から離れるまではCGで、竜崎の手に完全に渡ると実写素材に切り替わるので、自然な動きに見えるように調整しています」(亀川氏)


    MBによる作業例。ショットワーク班に作成してもらったカメラをインポートし、実写素材を貼り付けて作業を進める。「このショットのリュークは、クルマの上に乗っているところからスタートなので、アタリ用のクルマ込みで背景を読み込み、接地を調整しています。リュークの飛行アニメーションは、全体移動用のコントローラを別途用意して制御しました。ポーズと組み合わせつつ、移動と分離しないように調整しています」(亀川氏)


    アーマの指やポーズについて、特に女性らしさに注意が払われたショットの例(その出来映えはぜひ劇場で確かめてもらいたい)


    序盤の見せ場となる繁華街におけるデスノートによる大量殺人のシーンより。クルマ、轢かれるモブなども3DCGのため、アニメーションが施されている


    「オープニングはフルCGですが、土井CGディレクターが作成した仮のMayaシーンをベースにMotionBuilderへコンバートし、それぞれのノートのアニメーション、カメラの調整を行いました。スケマティックで選択中のノードが各ノートの移動調整用コントローラです」(亀川氏)。カメラビューの黄色ラインは、各コントローラの軌道である

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    03 エフェクト、ライティング&コンポジット

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    03 エフェクト、ライティング&コンポジット

    ノウハウを着実に蓄積できるプロシージャルなアプローチを徹底

    重厚なドラマパートが中心となる本作だが、フルCGで作成されたオープニングシーン、死神たちの特殊能力といったエフェクト表現も確かな進化をみせている。オープニングの雲などのボリュームエフェクトは、土井CGディレクターが作成したイメージボードをリファレンスとして作業が進められた。手前のしっかり見える、かつ動きも見せたい雲の動きはHoudiniで、画面奥の雲海はVueを活用したとのこと。「広大なシーンであることから、自ずとボリュームのデータ量が膨大になったためシーンを分割したり、同じシーン内でもエリアで分けるといった工夫をしました」(松井孝洋エフェクトSV)。HoudiniからOpenVDB形式で書き出したボリュームをMayaで読み込み、V-Rayのボリュームグリッドでレンダリング。1パーツ(要素)あたりのレンダリングは、1フレーム30分以内を目安に長くても1時間以内に収め、1ショット全体としても12時間以内で納まるように調整したという。

    ライティングとコンポジットについては、齋藤和丈ライティング&コンポジットSVを中心とするチーム(ライティング6名、コンポジット8名)が担当。フルCGの死神たちと実写素材を自然な見た目に合成するにあたっては、Maya上に実写のライティングや環境を完全に再現することが目指された。「シーンやショット単位で物理的に正確な環境を構築していく。まずはこの作業に時間を費やしました」(齋藤氏)。撮影現場におけるHDRIの収集については、全天球画像が撮影できるRICOH THEATA Sが利用された。13段階のブラケット撮影を行い(デフォルトでは不可能のためSDKで拡張)、IBLのドームライトとして使用。その際HDRの太陽や光源は消し、V-Rayライトを置き換えて調整しやすいようにしたとのこと。ショット単位でHDRを撮り、光源を差し替えて、ここまでしっかり構築したのは初めてだったという。徹底して現場と同じ環境を構築したおかげもあり、馴染ませる作業は極端に減ったそうだ。「従来は、コンポジット工程で実写とCGを馴染ませるというアプローチのため、作業時間比でおおよそライティング:コンポジット=3:7でしたが、今回は7:3と真逆になりました。相応のR&Dが必要ですが、効率性は確実に向上しています」(齋藤氏)。After Effects(以下、AE)でOpenEXRマルチチャンネルを扱うと読み込みに非常に時間がかかるのだが、DFでは各アーティストのローカルマシンに自動で、各エレメントを連番でバラして保存し、それをプロキシとして読み込むようになっている。さらにQTでのチェック時もLUTを充てた状態で自動で吐き出されるようなしくみを構築しているとのこと。細かな単純作業はできるだけ自動化させ、アーティスティックな作業により専念できるというわけだ。


    オープニングシークエンス向けのHoudiniで作成した雲素材。これを1ユニットとして多数レイアウトされた


    Mayaへ読み込み、VRayVolumeGridによるレンダリング設定


    • イメージボード


    • 完成ショット


    リュークのバニシング表現。3ds Max上でFumeFXによるシミュレーション


    Mayaへ読み込み、VRayVolumeGridによるレンダリング設定

    完成したショット


    撮影現場で収集したHDRIの加工例。後半に登場する護送車内のリュークのショット用HDRI


    HDRIから光源を抜いた素材

    抜き出した光源


    MayaにおけるライトのIntensity調整例。NUKEから2Dで輝度情報を抜き出してMayaに移植し、ライトのIntensityアニメーションに適応させる

    当該ショットのブレイクダウン


    • マケットを撮影したリファレンス


    • 実写プレートにCGキャラクターを素乗せした状態


    • Additional Light等の各種パスを加えた状態


    • キャラクターのルックを調整


    • フォーカス、モーションブラー、各種ノイズを合成


    • LUTを適用した完成形


    クリーンアップした背景素材のプロジェクションマップ。後半に登場する駅ロッカー前に立つアーマを捉えたショット。下段のロッカーを開けた男が見上げるとアーマ立っているという設定のため、若干のティルトアップを伴うのだが、大判(高解像度)で別撮りした空舞台をNUKE上でプロジェクションマップするかたちで作成された


    当該ショットのライティング設定

    実写プレート(ガイドのマケットあり)と完成形の比較。FGとBGが見事に合致していることがわかる



    • 月刊CGWORLD + digital video vol.220(2016年12月号)
      第1特集:VRバラエティ
      第2特集:3DCGで描くイケメンキャラクター

      定価:1,512円(税込)
      判型:A4ワイド
      総ページ数:144
      発売日:2016年11月10日
      ASIN:B01LXZ3M32