03 エフェクト、ライティング&コンポジット
ノウハウを着実に蓄積できるプロシージャルなアプローチを徹底重厚なドラマパートが中心となる本作だが、フルCGで作成されたオープニングシーン、死神たちの特殊能力といったエフェクト表現も確かな進化をみせている。オープニングの雲などのボリュームエフェクトは、土井CGディレクターが作成したイメージボードをリファレンスとして作業が進められた。手前のしっかり見える、かつ動きも見せたい雲の動きはHoudiniで、画面奥の雲海はVueを活用したとのこと。「広大なシーンであることから、自ずとボリュームのデータ量が膨大になったためシーンを分割したり、同じシーン内でもエリアで分けるといった工夫をしました」(松井孝洋エフェクトSV)。HoudiniからOpenVDB形式で書き出したボリュームをMayaで読み込み、V-Rayのボリュームグリッドでレンダリング。1パーツ(要素)あたりのレンダリングは、1フレーム30分以内を目安に長くても1時間以内に収め、1ショット全体としても12時間以内で納まるように調整したという。
ライティングとコンポジットについては、齋藤和丈ライティング&コンポジットSVを中心とするチーム(ライティング6名、コンポジット8名)が担当。フルCGの死神たちと実写素材を自然な見た目に合成するにあたっては、Maya上に実写のライティングや環境を完全に再現することが目指された。「シーンやショット単位で物理的に正確な環境を構築していく。まずはこの作業に時間を費やしました」(齋藤氏)。撮影現場におけるHDRIの収集については、全天球画像が撮影できるRICOH THEATA Sが利用された。13段階のブラケット撮影を行い(デフォルトでは不可能のためSDKで拡張)、IBLのドームライトとして使用。その際HDRの太陽や光源は消し、V-Rayライトを置き換えて調整しやすいようにしたとのこと。ショット単位でHDRを撮り、光源を差し替えて、ここまでしっかり構築したのは初めてだったという。徹底して現場と同じ環境を構築したおかげもあり、馴染ませる作業は極端に減ったそうだ。「従来は、コンポジット工程で実写とCGを馴染ませるというアプローチのため、作業時間比でおおよそライティング:コンポジット=3:7でしたが、今回は7:3と真逆になりました。相応のR&Dが必要ですが、効率性は確実に向上しています」(齋藤氏)。After Effects(以下、AE)でOpenEXRマルチチャンネルを扱うと読み込みに非常に時間がかかるのだが、DFでは各アーティストのローカルマシンに自動で、各エレメントを連番でバラして保存し、それをプロキシとして読み込むようになっている。さらにQTでのチェック時もLUTを充てた状態で自動で吐き出されるようなしくみを構築しているとのこと。細かな単純作業はできるだけ自動化させ、アーティスティックな作業により専念できるというわけだ。
オープニングシークエンス向けのHoudiniで作成した雲素材。これを1ユニットとして多数レイアウトされた
Mayaへ読み込み、VRayVolumeGridによるレンダリング設定
リュークのバニシング表現。3ds Max上でFumeFXによるシミュレーション
Mayaへ読み込み、VRayVolumeGridによるレンダリング設定
完成したショット
撮影現場で収集したHDRIの加工例。後半に登場する護送車内のリュークのショット用HDRI
HDRIから光源を抜いた素材
抜き出した光源
MayaにおけるライトのIntensity調整例。NUKEから2Dで輝度情報を抜き出してMayaに移植し、ライトのIntensityアニメーションに適応させる
当該ショットのブレイクダウン
クリーンアップした背景素材のプロジェクションマップ。後半に登場する駅ロッカー前に立つアーマを捉えたショット。下段のロッカーを開けた男が見上げるとアーマ立っているという設定のため、若干のティルトアップを伴うのだが、大判(高解像度)で別撮りした空舞台をNUKE上でプロジェクションマップするかたちで作成された
当該ショットのライティング設定
実写プレート(ガイドのマケットあり)と完成形の比較。FGとBGが見事に合致していることがわかる