ドキュメンタリータッチで撮影された浅草に作画キャラクターたちが自然なかたちで共存する。見返すほどに深みを増す意欲作の舞台裏。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 245(2019年1月号)からの転載となります。

TEXT_福井隆弘 / Takahiro Fukui
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

TVアニメ『さらざんまい』2019年4月よりフジテレビ"ノイタミナ"ほかにて放送開始
sarazanmai.com
監督:幾原邦彦/チーフディレクター:武内宣之/シリーズ構成:幾原邦彦、内海照子/キャラクター原案:ミギー/キャラクターデザイン・総作画監督:石川佳代子/コンセプトデザイン:柴田勝紀、松嶌舞夢/美術監督:藤井綾香 スタジオPablo/音楽:橋本由香利/原作:イクニラッパー/制作:MAPPA、ラパントラック
© イクニラッパー/シリコマンダーズ

現実の浅草に作画キャラを"存在"させる

『少女革命ウテナ』(1997)や『輪るピングドラム』(2011)など、その独創的なアニメーション表現から熱狂的なファンが多い幾原邦彦監督の新作オリジナルTVアニメ『さらざんまい』が2019年4月からフジテレビ「ノイタミナ」で放送予定だ。今回紹介する『さらざんまい』"つながるPV"完全版は、10月4日(木)に公開された第一弾を皮切りに5週にわたって公開されたティザーPVをひとつにまとめた(5週目に公開された)ものである。作画のキャラクターたちが現実の浅草の街中に自然なかたちで存在する様が魅力の本作。プロの映像制作者であれば、このビジュアルを実現する上ではインビジブルエフェクトが随所にわたって施されていることに気づくはずだ。

  • 田島太雄氏(ディレクター、映像作家)
    taotajima.jp

そんな本作を手がけたのは、ディレクター・映像作家として活躍する田島太雄(たじま たお)氏である。田島氏の作風として、実写の中に"異質なもの"を融合させた表現が挙げられるが、今回は作画と実写の融合にチャレンジした。「昔から実写合成が好きで、仕事でもオリジナルでも、そうした作品をコンスタントに発表しています。以前からアニメと実写の合成にも挑戦してみたいと思っていたのですが、自分の作風が今回の企画に合うだろうとオファーをいただけました。ノイタミナという全国規模の放送枠向けの映像をつくる機会はそうそうありませんし、いろいろな意味でラッキーでしたね」。

デジタルアーティストとしてキャリアをスタートさせた田島氏は、様々な実写合成に取り組んできた結果、企画、演出、撮影、そしてCG・VFXまでの全作業を自身で手がけることが多いという。実際に本作も実写に合成する作画やロゴ等のグラフィック素材の制作、そしてサウンドデザイン以外は自ら担当しているとのこと。「約2分のPVに対して制作期間は3ヶ月以上と、比較的ゆとりのあるスケジュールをいただけたことも大きかったのですが、つくりながらまとめていく感じだったので作業を自己完結させた方が何かと都合が良かったのです。歴史のある浅草や合羽橋、隅田川の風景と、作画キャラクターのコントラストをどうやって描くのか。アーティストとしてはとてもやりがいのある仕事で、最初から最後まで楽しみながらつくらせてもらいました」。

01 制作のながれ

つくりながら考えるそれを可能にした自己完結

田島氏にオファーが舞い込んだのは今年の7月頃のこと。Rayons ft.Predawn『Waxing Moon』PV(2015)やオリジナル短編『Night Stroll』(2013)といった田島氏の監督作品を目にしたノイタミナの岡安由夏プロデューサー(フジテレビ)から声がかかり、それを快諾。後日、幾原監督と岡安プロデューサーからオリエンテーションを受けた際には、浅草の古い街並みと、隅田川を挟んで東京スカイツリーなどの近代的な建築物が織り成すコントラストをしっかりと映像で捉えてほしいとのリクエストを受けたという。逆に言えば、それ以外の表現については、田島氏にほぼ一任してもらえたそうだ。

田島氏による2013年のオリジナル短編『Night Stroll』

「今回制作するPVに関する文字資料、本編に登場するロケーションが図示された地図、そして3話分のビデオコンテを提供していただき、それらを確認しながらロケハンを始めました。本編で表現された場所などがマークされた地図をいただいていたのでそこを中心に、下町・古い街並みと、近代的なもののコントラストを意識しながらいろいろと巡りました。絵コンテなどの具体的な指示はなかったので、PVに登場するキャラクターたちのラフを台詞順に並べていき、ラフの構図に合いそうな実景を撮ってみては仮合成してみる、それをくり返しながら時間のゆるすかぎりブラッシュアップしました」。

7月にオリエンを受けた後、8月から撮影、合成、編集に着手。制作のピークは9月だったという。"つながる"PVに登場する作画キャラクターたちは、全て本編向けに描かれたものを流用している。そこでまずは、見繕った作画を合成することを念頭にロケハンを実施。どのキャラクターを、どの順番で登場させればPVのストーリーが成立するのか、観ていて気持ちの良い構成になるのか、そんなことを考えながら試しに本編と同じアングルで撮ってみる、実写と合成してみる、カットを追加してみる、削ってみるといった試行錯誤がくり返された。「最終的に20回以上は撮影に出かけましたね。全編屋外ロケということもあり、同じロケーションでも撮影する時間帯や天候によって印象が変わるので、偶然撮れた良いフッテージに差し替えるといったこともしています。デジイチで撮影したRAW動画(後述)なので、ロケハンと本番撮影の明確な区分けもありませんでした。ロケハンのつもりで撮影してたものでも、良かったらそのまま採用。イマイチだったら撮り直す。トライ&エラーを効率良く行えたのも、実作業を自分ひとりで完結することの利点ですね」。

『さらざんまい』本編のキャラクターデザイン決定稿

矢逆一稀(CV:村瀬 歩)

陣内燕太(CV:堀江 瞬)

久慈 悠(CV:内山昂輝)

ビデオコンテの動画キャプチャより。まずは本作のオリエン資料(字コンテなど)、ロケハン時に撮影した実写プレート、そしてクライアントから提供された本編3話分の絵コンテを組み合わせながら方向性が模索された

田島氏が愛用するデジイチ動画撮影の機材一式。Canon EOS 5D Mark IIIに「Magic Lantern」を入れ、RAWデータの連番として撮影している。「レンズは主にEF24-105mm F4L IS II USMとEF70-200mm F2.8L IS II USMの2本を撮影状況に合わせて使い分けました」

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02 撮影&3DCGワーク

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02 撮影&3DCGワーク

ドキュメンタリータッチの実景に作画キャラが佇むインパクト

動画撮影は、田島氏が個人で所有しているCannon EOS 5D Mark IIIを使用。有志が開発・提供している「Magic Lantern」(キヤノンの一眼レフで動作するファームウェア拡張ソフト)を利用することで、RAWフォーマットによる動画撮影を行なったという。「当然ながら、動作保障はされていないので何かあっても全て自己責任ですし、データサイズの制限もあるのですが、RAWデータで撮影できるのでカラコレの自由度、表現幅が広がるメリットは大きいですね」。今回は、目にしたままの実景をカメラに収めるというねらいから、被写界深度の浅いドキュメンタリー的なルックに。また、作画との一体感を演出する(見た目としてのインパクトを高める)上では、三脚は使わずに手持ちで撮影することで、自然な手ブレによる臨場感をねらったという。

作画のキャラクターを合成する際には、デジタルアーティストとしての知見が活用されている。「奥行き感が出るようにプレーンに貼るだけではなく、作画を貼るオブジェクトを少し立体的にモデリング(メッシュで加工)しています。こうすることでライティング、レンダリングを施した際にリアリティを高めることができるのです」。

ナイトシーンもいくつか登場するが、それらはISO 1000などの高感度で撮影。屋形船のカットでは多少ノイズが出たものの、Neat Video v4 Proによるデノイズを施しつつ、味として成立させている。もちろん、作画素材に対してノイズやグレインを加えるといった馴染ませる処理も各カットごとに施されている。「3DCGワークは、長年愛用しているSoftimage 2015で行いました。レンダラはmental rayです。特に複雑な作業は行なっていませんが、陶器店の前を歩く一稀の接地と落ち影の調整は地味に大変でした(苦笑)。基本的には3Dの方で作画を基に影用のキャラクターの素材を作成して影素材を出しています。画面の端の方はレンズの歪みもあって馴染ませるのが難しいですし、作画自体の足もしっかりと接地して見えるようにAfter Effects(以下、AE)のメッシュワープなどを使って1コマごとに調整しています」。余談だが、Softimage 2015はWindows 10環境でも問題なく動作しているとのこと。「すでに開発終了しているので、いつかは使えなくなるわけですが、使い慣れているのでいけるところまでいくつもりです(笑)。ただ、知人からはBlenderを薦められているので機会があれば試そうと思っています」。

撮影したRAWデータの現像例。田島氏は通常、Adobeが開発・提唱するDNG形式に変換するかたちでRAW現像を行なっているとのこと。「パラメータの調整項目がわかりやすく、直感的にカラコレが行えるので愛用しています」

中盤に登場するコインロッカー前に立つ悠のバストショットに対する立体加工処理の例。作画素材をSoftimageに読み込み、メッシュでカメラからの距離に応じて若干の奥行きを加えることで立体感を演出。コインロッカーへの映り込みについても同様にメッシュを貼って3次元情報を加えることでリアルな映り込みが実現された

クライアントから提供されたモブキャラクターのピクトグラム素材に対する立体加工の例。こちらもメッシュで表現

雷門前のロングショットに対するモブ表現の例。約200体のモブが登場するカットだが、実写素材中の通行人をマスクする目的も兼ねて、丁寧にレイアウト&合成されている

PV中に登場するモブは全て幾原作品特有のピクトグラムで表現されている(後述)。図は後半に登場する上手から下手へと移動する屋形船のカットだが、乗船する客が全てピクトグラムに置き換えられた。2~3秒の短いカットだが、実写プレートを加工して船内と水面用のHDRIを作成し、Softimage上でしっかりとライティングされている

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03 コンポジットワーク

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03 コンポジットワーク

さりげない手間暇の積み重ねそれが一体感を導き出す

先述のとおり、"つながるPV"完全版の総尺は約2分。約60カットで構成されている。全編手持ち撮影のためカメラトラッキングが必須だが、AE標準の3DカメラトラッカーとMochaを併用。かなりの物量のため、相応に時間を費やしたそうだ。また、実景の中には街中ほど通行人やクルマ等の乗り物も映り込むが、「幾原さんの過去作にも使われていた独特のモブ表現が今回も本編に登場することを知って『実写とCGで試してみても良いですか?』と提案してみたところ、無事OKをいただけました。基本方針としては、撮影時に映り込んだ人物をマスクするかたちでピクトグラムを上から合成しています。その上で見切れてしまうところは手作業で消し込みました」。屋形船のカットでは、乗船客をピクトグラムに置き換えているが、その際にはSoftimage上で屋形船内部の形状をモデリングして、ピクトグラム素材を配置、そこへ実写プレートを加工したHDRIでライティングという手の込んだ処理が施された。

本作特有のコンポジット技法として、作画キャラと実写プレートを合成する際に、作画に透明度をもたせつつ、背景に対しては作画の輪郭に合わせたぼかし処理を施すことで一体感を高めている。3DCGキャラクターの場合は、環境を作成し、HDRIでライティングするのがセオリーだが、作画の場合はほんの少しの加工に止めるのがポイントなのだという。影の表現についても田島氏独自のこだわりが見られた。キャラクターに落ちる影はキャラクターの印象を変えないようにパッキリと落とし、地面に落ちる影はソフトシャドウっぽくと、変化を付けている。これもまた実写と作画という異質のものを自然な見た目に馴染ませるための創意工夫だ。「好きな映画に『ブレードランナー』(1982)があるのですが、現実の世界に異質なものを融合して新たなビジュアルを創り出すということが昔から好きなんです。今後も取り組んでいくと思います。今回はティザーということで静的な画づくりが求められましたが、作画と実写の融合に改めてチャレンジする機会があったら次回はもっとカメラを動かしてみたいですね」。

ショットのコンディションに応じてCG・VFXのアプローチが使い分けられた本作。カメラトラッキングの場合は、空抜けなどトラックポイントが少なくなる見上げたアングルでは図のように三脚をキャラクターに見立ててトラックポイントを作るといったことも行われた(AE標準の3D カメラトラッカーを使用)。ただし、このカットのように作画キャラから見切れてしまう場合はバレ消し作業も必要になるため、基本的には実景の中にトラックポイントを見つけることを心がけたという


アップショットのブレイクダウン例



  • 元の作画



  • 実写プレートの環境に合わせて、落ち影やハイライト処理を加える



  • 作画キャラに若干の透明度をもたせて実写プレートとの馴染みを高める



  • 作画キャラに透明度をもたせただけでは単純に透けてしまうため、実写プレートに対しても作画キャラのシルエットに合わせてぼかし等の加工を施す



  • 一連の合成処理を加え、全体としての見た目を整える



  • 完成形


画面の構成要素が複雑なロングショットのCG・VFXワークのながれを図解したもの



  • 3D カメラトラッカーによるトラッキング



  • クライアントから提供されたアの看板素材に立体加工を施す。劣化度合いの異なる10以上のバリエーションが用意された



  • 実写プレートをSoftimageに読み込み、街角を立体化させた上でレイアウトし直す



  • 看板やモブピクトの環境に合わせたGIレンダリングと前後感のマスク処理



  • モブピクトの落とす影とガラスへの映り込みを作成



  • 【画像左】を実写プレートに合成



  • 作画キャラが落とす影なども再現



  • 一連のコンポジットワークが施された完成形。このカットは歩行する作画キャラと実写の接地など、特に難しいショットだったというが、自然な見た目に仕上がっている



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.244(2018年12月号)
    第1特集:このアニメ、新感覚!
    第2特集:デジタルアートで世界を描く
    定価:1,512 円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2018年12月10日