>   >  VFXアナトミー:実写の浅草に作画キャラクターを融合させる、TVアニメ『さらざんまい』"つながるPV"完全版
実写の浅草に作画キャラクターを融合させる、TVアニメ『さらざんまい』

実写の浅草に作画キャラクターを融合させる、TVアニメ『さらざんまい』"つながるPV"完全版

02 撮影&3DCGワーク

ドキュメンタリータッチの実景に作画キャラが佇むインパクト

動画撮影は、田島氏が個人で所有しているCannon EOS 5D Mark IIIを使用。有志が開発・提供している「Magic Lantern」(キヤノンの一眼レフで動作するファームウェア拡張ソフト)を利用することで、RAWフォーマットによる動画撮影を行なったという。「当然ながら、動作保障はされていないので何かあっても全て自己責任ですし、データサイズの制限もあるのですが、RAWデータで撮影できるのでカラコレの自由度、表現幅が広がるメリットは大きいですね」。今回は、目にしたままの実景をカメラに収めるというねらいから、被写界深度の浅いドキュメンタリー的なルックに。また、作画との一体感を演出する(見た目としてのインパクトを高める)上では、三脚は使わずに手持ちで撮影することで、自然な手ブレによる臨場感をねらったという。

作画のキャラクターを合成する際には、デジタルアーティストとしての知見が活用されている。「奥行き感が出るようにプレーンに貼るだけではなく、作画を貼るオブジェクトを少し立体的にモデリング(メッシュで加工)しています。こうすることでライティング、レンダリングを施した際にリアリティを高めることができるのです」。

ナイトシーンもいくつか登場するが、それらはISO 1000などの高感度で撮影。屋形船のカットでは多少ノイズが出たものの、Neat Video v4 Proによるデノイズを施しつつ、味として成立させている。もちろん、作画素材に対してノイズやグレインを加えるといった馴染ませる処理も各カットごとに施されている。「3DCGワークは、長年愛用しているSoftimage 2015で行いました。レンダラはmental rayです。特に複雑な作業は行なっていませんが、陶器店の前を歩く一稀の接地と落ち影の調整は地味に大変でした(苦笑)。基本的には3Dの方で作画を基に影用のキャラクターの素材を作成して影素材を出しています。画面の端の方はレンズの歪みもあって馴染ませるのが難しいですし、作画自体の足もしっかりと接地して見えるようにAfter Effects(以下、AE)のメッシュワープなどを使って1コマごとに調整しています」。余談だが、Softimage 2015はWindows 10環境でも問題なく動作しているとのこと。「すでに開発終了しているので、いつかは使えなくなるわけですが、使い慣れているのでいけるところまでいくつもりです(笑)。ただ、知人からはBlenderを薦められているので機会があれば試そうと思っています」。

撮影したRAWデータの現像例。田島氏は通常、Adobeが開発・提唱するDNG形式に変換するかたちでRAW現像を行なっているとのこと。「パラメータの調整項目がわかりやすく、直感的にカラコレが行えるので愛用しています」

中盤に登場するコインロッカー前に立つ悠のバストショットに対する立体加工処理の例。作画素材をSoftimageに読み込み、メッシュでカメラからの距離に応じて若干の奥行きを加えることで立体感を演出。コインロッカーへの映り込みについても同様にメッシュを貼って3次元情報を加えることでリアルな映り込みが実現された

クライアントから提供されたモブキャラクターのピクトグラム素材に対する立体加工の例。こちらもメッシュで表現

雷門前のロングショットに対するモブ表現の例。約200体のモブが登場するカットだが、実写素材中の通行人をマスクする目的も兼ねて、丁寧にレイアウト&合成されている

PV中に登場するモブは全て幾原作品特有のピクトグラムで表現されている(後述)。図は後半に登場する上手から下手へと移動する屋形船のカットだが、乗船する客が全てピクトグラムに置き換えられた。2~3秒の短いカットだが、実写プレートを加工して船内と水面用のHDRIを作成し、Softimage上でしっかりとライティングされている

次ページ:
03 コンポジットワーク

その他の連載