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    フォトリアルな画づくりで知られる、LiNDA。新たな中核事業として推進する自主プロジェクト「デジタル動物プロダクション」の実像にせまる。

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 242(2018年10月号)からの転載となります。

    TEXT_福井隆弘
    EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

    © Mitsui Fudosan Co., Ltd. © Griot Groove inc.

    LiNDA ZOO
    株式会社グリオグルーヴ リンダチームのオリジナルプロジェクト。2018年8月現在、約20種の動物や古代生物から成るデジタル動物プロダクションを構築する。今後さらにクオリティに磨きをかけ、動物のみならず、恐竜、魚類、昆虫なども仲間に加えていく予定。
    www.studiolinda.com/lindazoo

    やりたいことに注力することでビジネスとしての優位性を高める

    2003年の創立以来、ハイクオリティなCG・VFXに定評あるLiNDA(リンダ)。現在は、株式会社グリオグルーヴLiNDAチームとして活動しているが、その名前の由来は、共同創業者の林田宏之氏の名字の音読みに由来することは多くの人が知るところだろう。

    そんなLiNDAに2015年8月3日、林田氏の急逝という悲劇がおとずれた。「林田さんの存在は本当に大きなものでした。突然メインエンジンを失って、事業としても苦境に直面したのですが、いつまでも悲しみに暮れているわけにはいきません。そこで新たな柱を確立させようと、『これからやっていきたいこと』について社内で話し合いの場を設けました。そこからアーティストたちのモチベーションが高く、将来性の見込めるビジネスとして、デジタル動物プロダクションと、Houdiniによるエフェクト制作という2つの路線にたどりつきました」と、プロデューサーの桑原大介氏はふり返る。それが、「LiNDA ZOO」(動物&ハードサーフェスのフォトリアル表現)と、「Houdini Bros.」(3DCGエフェクト)だ。


    【写真・左から】パベル・スミルノフ氏、飯田泰弘氏、熊谷英夫氏、井上 順氏、橋本真作氏、北田清延氏、木村淳也氏、桑原大介氏。以上、グリオグルーヴ LiNDAチーム

    今回紹介する「LiNDA ZOO」は、アートディレクターの井上 順氏、アニメーションならびにショットワークを全般的に手がける橋本真作氏、そしてモデラーの飯田泰弘氏の3名を中心とするプロジェクト。一方の「Houdini Bros.」は、セミナー講師なども精力的に務めているパベル・スミルノフ氏がリードする3DCGエフェクトのスペシャリスト集団であり、国内外の映画案件などを多数てがけている。どちらも基本的にはアーティスト主導の自主プロジェクトとして、案件の合間、隙間をぬって、新たなアセットの作成やR&Dに取り組むかたちで展開中だという。そう聞くと、目先の納期に追われてしまい、なかなかペースが上がらないのではないかと懸念するかもしれないが、それは杞憂だ。「どちらもメンバーがやりたいことに取り組んでいるので、むしろ商業制作を通じて創りたいものがつくれる、新たなツールやワークフローを試せるといった具合に、とても良いかたちで活動できています」(井上氏)。少数精鋭というLiNDAの特色を保ちつつ、CG表現の高度化、複雑化にキャッチアップする上でも効果的なのだという。

    01「LiNDA ZOO」とは

    役者としてのキャラクター性を確立させることが目標

    所属アーティスト自身の希望と、社内投票による支持をあつめてスタートした「LiNDA ZOO」。レンダラやFur/Hair関連技術の進化も追い風となって、現在、約20種類のデジタル動物がスタンバイしている。柔らかな毛並みが魅力の哺乳類から硬質な甲殻類まで、いずれも実写作品にも対応できるフォトリアリスティックなキャラクターに仕上げられている。公式サイトには、カルノタウルス、蚊、狼、虎、ザリガニ、ティラノサウルスという6種類の動物のサンプル静止画/動画が掲載されているのだが、実は「ISS(国際宇宙ステーション)」などのハードサーフェス系の作品も制作済みだという。「活動ペースが鈍化しないように月イチで定例ミーティングを行なっています。メンバーの自主性を尊重していますが、つくるからにはリファレンスを探すところからしっかりと取り組んでいます。カルノタウルスは静止画ということもあり、僕だけで作業を完結していますが、ZBrushMARIの勉強も兼ねて制作しました。質感、見せ方など今後の課題も見つけることができました」(井上氏)。

    甲殻類好きの飯田氏の場合は、デスクトップPCの壁紙にしようと、以前に作成したザリガニのアセットを使い、逆光気味のシーンを作成してみたところ、『スーパーカーみたいで格好良い!』と、社内で評判が良かったことから井上氏と橋本氏の協力を得て、サンプルムービーもつくったのだとか。上述したISSの場合も、宇宙もののハリウッド映画を観てつくりたくなったといった具合に、自由な発想、環境の中で良質な創作活動を実践できていることが窺える。

    もちろん商業案件に導入する上では、クライアントのニーズを汲んだかたちで適宜ブラッシュアップが行われている。「突き詰めてつくっていけるのがとても楽しいです。1体つくると、さらなる改良に向けた課題も見つかり、次回はより高度な表現にチャレンジできます。先日担当させていただいた『三井のオフィス』案件ではmGearYetiなど、新たなツールを取り入れることができました(後述)。個人的には恐竜をさらに増やしていきたいですね。ツノの表現や皮膚感をさらに追求していければ」(井上氏)。今後の展望として、「オーダーをいただいてからつくることもあるとは思いますが、動物好きの新たなメンバーにも参加してもらいながら、クオリティの高い動物たちをLiNDA ZOO内でたくさん飼育している状態にできればと思っています。芸能プロダクションのように所属する役者を増やして、彼らの出演実績や評判を受けて新たなお仕事をいただくことが目標です」(桑原氏)。プロモーション映像も制作中であり、年内の公開を目指しているとのこと。


    井上氏が作成した「LiNDA ZOO」全体マップ。すでに一定のクオリティに達している動物たちはアイコンで表示されており、今後制作予定のもの、あるいはアーティストたちが習作として取り組んでみたい動物については「?」マークで表示されている。「ある程度、動物がそろった段階でこのマップも公開したいと思っています」(井上氏)


    井上氏が制作をリードした、カルノタウルス。いきなり動物ではなく恐竜ということからは、「LiNDA ZOO」がアーティストたちのモチベーションありきで展開中のプロジェクトであることが存分に伝わってくる



    • イメージラフ



    • リファレンス(動物写真、爬虫類写真など)を基にZBrushでスカルプト



    • 顔の鱗などディテールアップを施す



    • ポージングや質感調整を施した最終レンダリングイメージ


    「LiNDA ZOO」始動からほどなくして出来上がった虎。某映画案件向けに作成したアセットをリファインするかたちで仕上げられた(橋本氏がリード)



    • Yetiによるグルーミング



    • Yetiのノードエディタを表示したもの


    アニメーションを付けた上で、コンポジット処理を施した完成形


    スタンバイ済みのザリガニ。こちらも某映画案件向けに作成したアセットだが、飯田氏が自身のデスクトップPC用の壁紙にしようと自主的にリファインをしたものが好評だったことから、動画サンプルまで作成したそうだ



    • 完成モデル(メッシュ表示)



    • 同シェーディング表示


    公式サイトで披露されているサンプル動画のキャプチャ

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    02 ツボを押さえた、3DCGベースのグラフィックデザイン

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    02 ツボを押さえた、3DCGベースのグラフィックデザイン

    新たな技法を採り入れてさらなる高みを目指す

    続いては、最近の事例として、三井のオフィス「COLORFUL WORK PROJECT」ポスターグラフィック制作を紹介しよう。ビジュアルコンセプトは「出勤するビジネスマンたち」。実作業はスタンバイ中の動物アセットをベースに加工調整するかたちで進められた。リグ&セットアップは、橋本氏が自主的に検証を重ねていたmGearを採用。「従来はAdvanced Skeletonを利用していたのですが、より高いコストパフォーマンスが期待できると判断して、mGearに切り替えました」。そして、大小様々な動物が登場するため、熊谷英夫スーパーバイザーと北田清延ディレクターが助っ人として参加。熊谷氏は、ライオン、ゾウガメ、キリン、フラミンゴなどを担当。北田氏は、白熊、バイソン、狐、ゴリラ、ペンギンなどを担当した。種類も頭数も多いため、質感を高める上では写真素材も併用することで作業効率を高めたという。同様に、背景についても写真をベースにしているが、レイアウトを組む上ではリファレンスとなる背景セットが3DCGでしっかりと構築された。そしてカメラを趣味とする橋本氏が本番用の写真撮影を担当、早朝5時頃に東京駅付近で撮影したものをブラッシュアップしている。

    動物には毛並みの表現がつきもの。LiNDAでは、これまでMayaプラグインのShave and a Haircutを使っていたというが、様々な検証の結果、現在はYetiをメインツールに採用している。「将来的には、Houdini Bros.と連携するという意味でもHoudiniに集約できればと思っているのですが、当面は、品質も良くコントロールもしやすいYetiを使用しています」と、熊谷氏。レンダラは、MayaではRedshift3ds MaxではV-Rayを採用。Redshiftは以前に手がけたライド系アトラクション用のCGアニメーション制作で導入してみたところ、確かな成果を上げることができたことから今ではメインレンダラとして常用しているそうだ。「Redshift向けにGeForce GTX 1080 Tiの2枚挿しマシン×3台、1080の2枚挿し×11台で構成された専用サーバで運用しています。今回のプロジェクトでは、キャラクターのみのレンダリングということで1フレーム3分くらいで済みました」(橋本氏)。

    「自主プロジェクトであるLiNDA ZOOを、実際の案件につなげることができて本当に感謝しています。動物の種類が多く、さらに大判サイズに対応できる高解像度が求められたりと苦労もしましたが、そうした意味でも良い経験になりました。LiNDAとしては今後もフォトリアルなCG・VFXを追求していきますが、熊谷は英語コミュニケーションにも対応できるので、彼を通して海外案件も積極的に手がけていきたいですね」(桑原氏)。

    チーター(井上氏が担当)



    • ポージングを調整の上、影素材等もまとめてAlembic形式で書き出す



    • 最終のレンダリングイメージ

    サイ(橋本氏が担当)



    • mGearによるリグのセットアップ。「グラフィック制作では、望遠レンズで正面から撮影するポージングのみということだったので、必要最低限のセットアップに止めて作業効率を高めました」(橋本氏)



    • 最終のポージング

    キツネ(北田氏が担当)



    • 3ds Maxで作成したキャラクターモデルの毛は、標準のHair&Furを使用。「印刷物ということでアップに堪えられるよう、毛の本数をベースモデルから2~3倍まで増やし、より自然に見えるように調整しました」(北田氏)



    • Mayaで作成された動物たちとライティングを合わせるため、他のモデルを読み込み環境を合わせた上でレンダリング

    雌ライオン(熊谷氏が担当)



    • Shave and a Haircutで毛並みのながれを調整の上、ポージング。Redshiftプロキシで書き出す



    • Photoshopによる最終的なレタッチ作業の例

    クマ(飯田氏が担当)



    • ポージングの上、Alembic形式で書き出す



    • レイアウトシーンに読み込み、影等の素材とまとめてRedshiftでレンダリング


    動物たちのCG素材をレイアウトシーンに読み込み、レンダリング


    レンズ感やアングル、道路のリファレンスとして作成された背景セット。これをガイドにロケハンを行い、背景の写真撮影が実施された(橋本氏が担当)


    ラフモデルをOBJ形式でレイアウトシーンに読み込みポージング


    Photoshopで最終調整を行う(井上氏が担当)



    • レイアウト。ライティングを調整



    • 毛を生成したAlembicファイルに差し替えた後、Redshiftでレンダリング。さらにカラコレを施しつつ道路の質感もブラッシュアップ



    • 空気間を演出する足元の煙や右上から射し込むレイ素材を合成



    • 各動物モデルのレンダリングイメージを1体ずつ読み込み、各々に足元の煙や照り返しの素材を重ねた上で最終的な調整を行う


    完成したポスターグラフィック



    • 月刊CGWORLD + digital video vol.242(2018年10月号)
      第1特集:UE4プロフェッショナルへの道
      第2特集:デジタルアーティスト×インタラクティブアート
      定価:1,512円(税込)
      判型:A4ワイド
      総ページ数:128
      発売日:2018年9月10日