現実世界としての物理的なリアリティとストーリー的に必須のビジュアル演出を自然なかたちで一体化させたVFXワーク。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 254(2019年10月号)からの転載となります。

TEXT_福井隆弘
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
©石田スイ/集英社 ©2019「東京喰種【S】」製作委員会

映画『東京喰種 トーキョーグール【S】』好評上映中
原作:石田スイ「東京喰種トーキョーグール」 (集英社ヤングジャンプ コミックス刊)/監督:川崎拓也、平牧和彦/脚本:御笠ノ忠次/撮影:小宮山 充/照明:保坂 温/美術:小泉博康/アクション監督:横山 誠/VFXスーパーバイザ&VFXプロデューサー:桑原雅志/特殊スタイリスト:百武 朋/編集:武田 晃リードVFXプロダクション:ビジュアルマントウキョー/制作プロダクション:geek sight/企画・配給:松竹
tokyoghoul.jp

前作における確かな経験の下、ワンストップでつくりきる

全世界発行部数が累計4,400万部を超える人気コミック「東京喰種トーキョーグール」シリーズ。その待望の実写映画化として2017年7月から世界公開されたのが映画『東京喰種 トーキョーグール』である。同作は国内での興行収入11億円を達成した(※日本映画製作者連盟調べ)。そして2019年7月19日、待望の続編『東京喰種 トーキョーグール【S】』(以下、【S】)が公開された。今回の舞台は、原作の中でも特に高い人気を誇る〈月山編〉の〈喰種レストラン〉である。月山 習(松田翔太)は、美食家〈グルメ〉と呼ばれる史上最悪の喰種。半喰種であるカネキこと金木 研(窪田正孝)の香りに魅了された月山は、ただならぬ執着を見せ、カネキを喰らうためにはどんなことも厭わない。そんな宿敵月山とカネキたちとの壮絶なバトルアクションを描いたのが【S】だが、一連のVFXワークは前作からひき続き、桑原雅志VFXスーパーバイザー兼VFXプロデューサーと、桑原氏が代表を務めるビジュアルマントウキョー(以下、VMT)がリードした。

大熊一弘CGスーパーバイザー、槇野貴紘PM、桑原雅志VFXスーパーバイザー、八尋裕司FXスーパーバイザー、宮城雄太リードコンポジター、李 金迪CGデザイナー、荻原直樹CGデザイナー、伊集朝用FXデザイナー、余 祉儀VFXコンポジター。以上、ビジュアルマントウキョー
visualman.tokyo



「2018年の年明けくらいから【S】のお話をいただいていたのですが、実際にプロジェクトが動き出したのは夏でした。その後、10月1日クランクイン10月31日にクランクアップ、11月からポスプロ作業に入り2019年4月末に納品というながれでしたが、今回も前作と同様にデザイン画やコンセプトアートを描くといったプリプロから本制作までを一括して担当させていただきました」(桑原氏)。ワークフロー面で前作からの変更としては、今回は外部パートナーへの協力依頼はアセット制作やアニメーション作業など、特定の作業に限定するかたちにし、一連の制作はできるだけVMT内で完結させるという方針が採られた(フリーランスが参加する場合も基本的にはVMT内に席を設けていたという)。これにより、限られた期間内で462ショットという、前作の325ショットを上回る物量をハイクオリティに仕上げるに至ったそうだ。なおVFXの内訳としては、喰種が捕食や戦闘を行う際に目が赤くなる赫眼(かくがん)の表現が205、喰種の身体から出現する捕食器官、赫子(かぐね)関連のものが142、そのほかはバレ消しなどのインビジブルエフェクトだという。

01 月山の赫子と亜門のクインケ「クラ」

コンセプトモデルを作成して仕上がりを的確に見定める

まずは、【S】で新規に登場する月山の赫子と亜門のクインケ「クラ」のデザインならびにアセット制作から着手した。先述のとおり、デザインから一括してVMTが手がけている。「1作目と同様に、イラストを元にデザインを起こすのではなく、最初から3Dでコンセプトモデルを作成しながらデザインを詰めていきました。その精度をさらに高めるべく、月山の赫子のコンセプトモデルについては、クリチャーデザインやキャラクターのデザインを得意とする、Villardの岡田(恵太)さんにお願いしました」(桑原氏)。コンセプトモデルにて監督とのコンセンサスがとれた後、本番用モデルの制作は関 隆史氏が担当。そして、リグ&セットアップについては錦織洋介氏が手がけた。関氏と錦織氏はこれまでに何度も協業してきたこともあり、密に相談しながら関節部分の動きなども計算に入れつつつくり上げたという。「月山の赫子は演技に応じて、〈1〉通常モード 、〈2〉攻撃モード、〈3〉ディフェンスモード、〈4〉ハンマーモード(撮影現場にて、月山を演じた松田翔太氏の提案が採用されたもの)、〈5〉ロングモードという5種類のアセットを用意して、リグもそれぞれ組んでいます。変形の表現が必要なところは専用のリグも組んで対応しています」とは、大熊一弘CGスーパーバイザー。リグはまず、一番長いモデルを基準として作成。変形しないものに関してはそのままジョイントを入れて作成された。

ルックデヴは、前作からひき続き柳谷真宏氏が担当。喰種たちの赫子は特性によってデザインやルックは様々だが、共通してグロテスクさの中にも美しさ、スタイリッシュさ、そして痛々しさを込めることを常に意識したという。カネキとトーカこと霧嶋薫香(山本舞香)の赫子アセットは前作のものを継承しているが、新規に作成された月山の赫子については、外側はツルっとした硬質な質感であるのに対して内側は肉感と痛々しさを感じる裂け目のあるデザインに仕上げられた。本制作を進めていく際は、大熊氏が必要に応じて適宜調整したという。余談だが、赫子は捕食器官ということでリギングの際は生物っぽさの隠し味として脈打つような動きも付けられるように仕込んだそうだが、最終的には激しいアクション描写の中で視認させるのが難しかったため、見送られた。

亜門のクインケ「クラ」は、森田悠揮氏のユニットTHINGSが担当。デザインとアートディレクションを森田氏が、モデル制作を深山大輝氏が手がけている。ミリタリー的な外装をベースとしつつ、捕獲した喰種から摘出した赫包を加工した武器という設定に基づき、内側には臓器のようなグロテスクなデザインが施された。

岡田惠太氏(Villard)が手がけた、月山・赫子コンセプトモデル


月山・赫子の完成モデル



  • ベースとなった形状



  • 通常モード



  • 攻撃モード



  • ハンマーモード

  • 月山の赫子、全5バリエーションを表にまとめたもの



月山の赫子リグ&セットアップ

役者の動きをトラッキングしたジョイントモデルを用意し、コントローラを背中の赫子付け根部分と腕にコンストレインさせる

役者の演技に合わせて赫子が制御される


本制作を進めるにあたり、アクションに合わせた振動、巻き具合や不必要に生じた隙間など、全体的な見映えの調整が必要になった。そこで大きな動きから部分的なスケール調整などにも対応できるよう3段階のコントローラが用意された


同一カット内で形態モードが変形するリグは、「アタックモード←→ハンマーモード」のバージョンのみ作成された。Transformコントローラでスムーズに変形が制御される



  • 森田悠揮氏&深山大輝氏(THINGS)がデザインとモデル制作を手がけた、亜門鋼太朗(鈴木伸之)のクインケ「クラ」初期デザイン。A~Cの3案が作成された



クラ完成モデル。A案をブラッシュアップ


劇中のクラを手にした亜門のアクションカット【上】と、撮影時に用いられたガイド造形【下】

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02 月山&カネキのVFXワーク

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02 月山&カネキのVFXワーク

役者たちの演技と一体感のあるVFXを求めて

ここからはショットワークについて紹介したい。アニメーション作業では、カネキの赫子は前作の表現が確かな指針となった。一方、月山については、右腕に巻き付いた状態のため、基本的には月山を演じた松田さんの演技に合わせるかたちでアニメーションを付けていったという。「腕に巻き付いているので、脇を閉めてしまうと赫子を合成した際に松田さんの身体にめり込んでしまうため、撮影の際はガイド造形(下図)を装着した状態でリハーサルをしていただき、そのイメージの下、本番ではガイド造形を外して演技してもらいました」(桑原氏)。グレーディングについては、最初にプレグレーディングとして、川崎拓也氏と平牧和彦氏の両監督、撮影監督の小宮山 充氏、そして桑原氏が立ち会い、ベースのLUTを作成。実写プレートはlogデータとして提供してもらい、当該LUTを当てて制作が進められた。CG・VFXワークについては、前作の実績があるため、CG表現を主にみていた平牧和彦監督のチェックを受けつつ、基本的にはVMTが主体的に画づくりを進めることができたそうだ。そうした中で監督が特にこだわったのが、赫眼とトーカの赫子であった。赫眼については、先述のとおり人間としての感情表現にも対応できるかたちで改良、そしてトーカの赫子については前作以上に美麗に見えるよう細かな調整が重ねられた(後述)。

最も多くの物量が求められた赫眼の表現については、宮城雄太リードコンポジターが中心となり、コンポジットによって作成された。「役者さんたちの感情表現が伝わるルックにしてほしいという監督のリクエストを受けて、眼の虹彩、白目の毛細血管、明るさなどのバランスを静止画ベースで詰めた上で本制作を進めました。最終的に赤色部分の色味を前作よりも抑えた代わりに毛細血管のようなラインを加えることで心情描写にも対応できる赫眼にしています。作業手順としては、まず360度レンダリングした赫眼をCG班に作成してもらい、その素材をNUKEならびにFlameでコンポジットしていきました。2Dベースでは不自然に見えてしまうカットについては、Sphereを読み込んでそれにテクスチャを貼り込むかたちで対応しています。205カット分の赫眼をコンポジターは主に3名2ヶ月で作成する必要があったので大変でした。ですが、テンプレートを用意するなど、できるだけ作業を効率化することでVMT内でつくりきることができました」(宮城氏)。眼の周りの血管については、実際に特殊メイクをした役者の実写プレートに対してコンポジットワークでアニメーションを加えることによって、自然な見た目に仕上げている。

撮影時に用いられた月山・赫子のガイド造形。本文でも述べたとおり、背面の付け根部分とCGアニメーションの整合性に苦慮したという


月山・赫子のCGアニメーション作業例


ブレイクダウン



  • 実写プレートにレンダリング素材を合成した状態



  • 赫子の色味を調整



  • 実写プレートとのなじみ具合を調整



  • グレーディング処理を施した完成形


カネキ・赫子のCGアニメーション作業例



  • 鱗を表示させると動作が重くなるため、アニメーション作業は鱗なしのローモデルを使用



  • 鱗が波打つアニメーション作業では鱗の表示が必須だがやはり全表示させると重いため、表示する鱗はローモデルを使用して全体の10~50%に数を抑えて動きを確認。アニメーションのチェック時は通常なら作業しているMayaのプレイブラストで作成するが、鱗を全表示したカネキはそのままだとムービー作成に時間がかかり効率が悪いため、スクリプトを作成しDeadlineを通してサーバマシンで行われた



  • 本番用のハイモデル。レンダリング用にAlembicデータとして出力。Alembicの出力はチェックムービー作成と同様にサーバマシンで行われた



  • アニメーション作業途中時の桑原氏による修正指示の例


クライマックスシーンにて、カネキが初めて赫子を見せる象徴的なカットのブレイクダウン



  • 実写プレートにレンダリング素材を合成した状態



  • 赫子の色味を調整



  • 実写プレートとのなじみ具合を調整



  • グレーディング処理を施した完成形


月山に対する赫眼のコンポットワーク作業例。大量に量産しなくてはいけないためテンプレートは極力シンプルな構造に。図はNUKEのものだが、Flameでも同様のテンプレートが用意された

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03 トーカのVFXワーク

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03 トーカのVFXワーク

"綺麗"を構成するビジュアル要素を求めて

前作のクオリティを保ちつつ、新キャラクター月山の赫子をどのようにつくるのか、そして劇中で「綺麗」と言われるトーカの赫子をどのように表現するのかという2点が本作VFXにおける大きなテーマになったと桑原氏は語る。「トーカの赫子については、落としどころに悩みました。グロテスクさの中の美しさに加えて、"綺麗さ"が求められたわけですが、単純に綺麗な見た目にすると画としてのリアリティが損なわれてしまうため、ファンタジーな印象に陥らないように注意しながら監督たちが求めるビジュアルを模索していきました」(桑原氏)。特にクライマックスシーンの後半に登場する、トーカの赫子を見た西野貴未(木竜麻生)が思わず「綺麗」と口にするという要のカットについては、柳谷氏がリードしたルックデヴをふまえつつ、本カットを担当した斉藤 寛コンポジターが綺麗の象徴となる素材を巧みに組み合わせるという2.5D的なアプローチでグロテスクさと美しさ、そして綺麗さを兼ね備えたビジュアルに仕上げたという。「このカットでは、ガラスのような質感の透明な赫子の素材も追加することで環境光に合わせた反射の表現や、キラキラと輝く表現によって綺麗という印象を高めました。HDRIだけでは表現しきれないところもあるので、背景となる教会をモデリングして3D空間の中で実際と同じ場所にライトを配置して環境を再現しました。クライマックスの舞台となる教会はかなり暗いシーンのため、透過の表現や馴染ませが非常に難しかったのですが、なんとかリクエストに応えることができたと思います」(桑原氏)。レンダーパスについては、Lighting、GI、Reflection、Refraction、Specular、Depthなどをベースに、カットバイでOcculusionやPositionpassを追加。そして、トーカの赫子の血管部分を後処理で発光させるためのSelfIlluminationも出したりしたそうだ。透過表現も多用しているため、必然的にレンダリング負荷も重くなったという。最大で1フレームのレンダリングに1時間半要したそうだが、クランチタイムにはレンタルPCも含めた20台ほどのレンダーサーバを構築。これに伴い、スタジオの電源(W)が上限ギリギリに達したため、制作中は冷蔵庫が使えなくなったそうだ。

「フリーランスの方にも常駐していただきつつ、同じフロア内で意見を出し合いながら少数精鋭でつくりきることができました。監督にも週1~2回のペースで来ていただけたので、担当スタッフが直接チェックバックを聞くことができ、適確にブラッシュアップすることができました。昨年、編集室もオープンさせたことでフィニッシングまで対応できるようにもなったので、今後もデザインから実制作まで一括して担当させていただける案件を増やしていきたいです」と、桑原氏が今後の展望を語ってくれた。

クライマックスの教会シーンに登場するトーカのカットより



  • 赫子アニメーション作業の例/ブレイクダウン



  • 実写プレートにレンダリング素材を合成した状態



  • 赫子の色味を調整



  • グレーディング処理を施した完成形


トーカの赫子から発生するRc細胞のエフェクト作業例。Houdiniを使い、Fluidのシミュレーションで流体のやわらかな動きを作成、そのvelocityでパーティクルを動かす手法が採られた。「緩急はできるだけシミュレーションキャッシュ後のポスト処理で行うことで、リテイクにも対応しやすいように配慮しました」(八尋裕司FXスーパーバイザー)

トーカが矢のように赫子を放った際に発生するRc細胞のエフェクト作業例。今回のトーカの赫子エフェクト表現では、全体を通して「美しさ」が求められたため、見た目が重くならないよう、ライティングの影響を受けるマテリアルを使った素材など、数種類の素材を出すことで、コンポジット作業時に調整しやすいようにされた


トーカの赫子を見た貴未が「綺麗」と口にするカットのブレイクダウン

実写プレートに赫子CGを合成しただけの状態



  • Rc細胞のエフェクト素材や環境光を追加



  • リライティングした陽炎用の赫子を重ね、Houdiniから出力したベクター素材でディストーションを追加



  • ディストーション用のベクター素材



  • グレーディング処理を施した完成形


桑原氏がまとめたトーカの赫子の画づくりの方針をまとめた表



  • 2Dベースで作成した本カットVFXのデザイン画



  • 担当アーティストに対する修正指示の例



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.254(2019年10月号)
    第1特集:映画『天気の子』
    第2特集:デザインビジュアライゼーションの今
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2019年9月10日