02 月山&カネキのVFXワーク
役者たちの演技と一体感のあるVFXを求めて
ここからはショットワークについて紹介したい。アニメーション作業では、カネキの赫子は前作の表現が確かな指針となった。一方、月山については、右腕に巻き付いた状態のため、基本的には月山を演じた松田さんの演技に合わせるかたちでアニメーションを付けていったという。「腕に巻き付いているので、脇を閉めてしまうと赫子を合成した際に松田さんの身体にめり込んでしまうため、撮影の際はガイド造形(下図)を装着した状態でリハーサルをしていただき、そのイメージの下、本番ではガイド造形を外して演技してもらいました」(桑原氏)。グレーディングについては、最初にプレグレーディングとして、川崎拓也氏と平牧和彦氏の両監督、撮影監督の小宮山 充氏、そして桑原氏が立ち会い、ベースのLUTを作成。実写プレートはlogデータとして提供してもらい、当該LUTを当てて制作が進められた。CG・VFXワークについては、前作の実績があるため、CG表現を主にみていた平牧和彦監督のチェックを受けつつ、基本的にはVMTが主体的に画づくりを進めることができたそうだ。そうした中で監督が特にこだわったのが、赫眼とトーカの赫子であった。赫眼については、先述のとおり人間としての感情表現にも対応できるかたちで改良、そしてトーカの赫子については前作以上に美麗に見えるよう細かな調整が重ねられた(後述)。
最も多くの物量が求められた赫眼の表現については、宮城雄太リードコンポジターが中心となり、コンポジットによって作成された。「役者さんたちの感情表現が伝わるルックにしてほしいという監督のリクエストを受けて、眼の虹彩、白目の毛細血管、明るさなどのバランスを静止画ベースで詰めた上で本制作を進めました。最終的に赤色部分の色味を前作よりも抑えた代わりに毛細血管のようなラインを加えることで心情描写にも対応できる赫眼にしています。作業手順としては、まず360度レンダリングした赫眼をCG班に作成してもらい、その素材をNUKEならびにFlameでコンポジットしていきました。2Dベースでは不自然に見えてしまうカットについては、Sphereを読み込んでそれにテクスチャを貼り込むかたちで対応しています。205カット分の赫眼をコンポジターは主に3名2ヶ月で作成する必要があったので大変でした。ですが、テンプレートを用意するなど、できるだけ作業を効率化することでVMT内でつくりきることができました」(宮城氏)。眼の周りの血管については、実際に特殊メイクをした役者の実写プレートに対してコンポジットワークでアニメーションを加えることによって、自然な見た目に仕上げている。
撮影時に用いられた月山・赫子のガイド造形。本文でも述べたとおり、背面の付け根部分とCGアニメーションの整合性に苦慮したという
月山・赫子のCGアニメーション作業例
ブレイクダウン
カネキ・赫子のCGアニメーション作業例
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鱗を表示させると動作が重くなるため、アニメーション作業は鱗なしのローモデルを使用
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鱗が波打つアニメーション作業では鱗の表示が必須だがやはり全表示させると重いため、表示する鱗はローモデルを使用して全体の10~50%に数を抑えて動きを確認。アニメーションのチェック時は通常なら作業しているMayaのプレイブラストで作成するが、鱗を全表示したカネキはそのままだとムービー作成に時間がかかり効率が悪いため、スクリプトを作成しDeadlineを通してサーバマシンで行われた
クライマックスシーンにて、カネキが初めて赫子を見せる象徴的なカットのブレイクダウン
月山に対する赫眼のコンポットワーク作業例。大量に量産しなくてはいけないためテンプレートは極力シンプルな構造に。図はNUKEのものだが、Flameでも同様のテンプレートが用意された