記事の目次

    実現不可能と言われた超大作エンターテインメントが待望の映画化。それを支えたプロフェッショナルに徹したVFXワークを紐解く。

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 249(2019年5月号)からの転載となります。

    TEXT_福井隆弘
    EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

    映画『キングダム』4月19日(金)ロードショー
    原作:原 泰久「キングダム」(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)/監督:佐藤信介/脚本:黒岩 勉、佐藤信介、原 泰久/撮影監督:河津太郎/美術監督:斎藤岩男/録音:横野一氏工/アクション監督:下村勇二/VFXスーパーバイザー:神谷 誠、小坂一順/編集:今井 剛/テクニカルプロデューサー:大屋哲男/DIプロデューサー/カラーグレーダー:齋藤精二/制作プロダクション:CREDEUS/配給:東宝、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/VFX制作:Spade&Co.、白組、DIGITAL-ATOM LABOほか
    kingdom-the-movie.jp
    ©原泰久/集英社
    ©2019映画「キングダム」製作委員会

    トリックプレイは用いずに、着実にクオリティを高めていく

    中国春秋戦国時代を舞台に大将軍になるという夢を抱く戦災孤児の少年・信(山﨑賢人)と、中華統一を目指す若き王・嬴政(吉沢 亮)の物語を描く漫画「キングダム」(原 泰久/集英社)。2006年1月より「週刊ヤングジャンプ」にて連載を開始し、現在までに単行本は53巻まで刊行。累計発行部数3,800万部超(2019年1月現在)を記録するというヒット作であるが、その壮大なスケールから映画化は不可能と言われてきた。そんな大作を、『GANTZ』シリーズ(2011)や『アイアムアヒーロー』(2016)をヒットさせたことでも知られる佐藤信介監督が待望の実写映画化したのが本作だ。

    リードVFXスタジオを務めたのは、Spade&Co.(スペード・アンド・カンパニー)。昨年公開され、興収37億を達成した大ヒット作『銀魂2 掟は破るためにこそある』でもリードVFXスタジオを務めた同社だが、本企画が舞い込んだのは2017年の秋だったという。「最初に佐藤監督から、この作品では大スケールの人間ドラマを描きたいとお聞きしました。佐藤組には、"できることを確実にやっていこう"という制作スタイルが確立されていることもあり、すでに中国で大規模な撮影を行うことが決まっていました。そこに求められるVFXは特定のカットをつくり込むのではなく、作品全体のリアリティを高めていくものであるという方針で制作を進めました」と、Spade&Co.代表取締役であり、本作のVFXスーパーバイザーのひとりを務めた小坂一順氏はふり返る。

    <前列>左から、芝 那々子コンポジター、田中志野コンポジター、上田春寧コンポジター、越智 瞳マットペインター/<後列>左から、山田昭仁デジタルアーティスト、大場勇作VFXスーパーバイザー補、森本匡祐コンポジター、富永 稔コンポジター、白石哲也VFXディレクター、木川裕太CGディレクター、浅川翔太コンポジター、小坂一順VFXスーパーバイザー、藤井 翼プロダクションマネージャー
    Spade&Co. www.spade-co.jp

    例えば、劇中にはランカイという巨漢のキャラクターのアクションシーンも登場する。プリプロ段階ではランカイをフルCGで描くという案も出たそうだが却下。最終的に2mを超える高身長のアクターが特殊な装置に乗り、さらに上からワイヤーで吊った状態で演技をしてもらい、そのフッテージにコンポジット処理を施すことでリアルなアクションに仕上げられた(「02 王都「咸陽」~Spade&Co.~」にて解説)。なお本作では、神谷 誠氏と小坂氏によるVFXスーパーバイザー2名体制が採られているが、長年にわたり佐藤監督作品に携わり、その流儀を熟知する神谷氏が現場への立ち会いや特撮まわりを監修。そして、小坂氏がプリプロとポスプロをみていくという要領で役割分担をしたという。

    左から、羽原直栄プロデューサー、佐々木悟VFXディレクター、小林晋悟コンポジットSV 白組
    shirogumi.com

    左から、外塚勇己VFXディレクター、吹谷 健コンポジットSV、齋藤寧々FXアーティスト、増田真理デジタルアーティスト(フリーランス) DIGITAL-ATOM LABO(CREDEUS)
    www.credeus.com

    01 プリプロ&実写撮影

    実写素材をフル活用しつつCGならではの表現に注力

    本作の撮影は、2018年4月8日(日)クランクイン。まずは20日間にわたって中国で大規模な撮影を実施。その後、6月13日(水)のクランクアップまでは、東映撮影所のスタジオ内に組まれた王宮セットや国内各地の ロケーションにて撮影が行われた。中国ロケの目的は、言うまでもなく壮大なスケールの映像を撮ること。本作の主な舞台となる王都・咸陽(かんよう)の屋外シーンは、中国浙江省の象山影視城にある春秋戦国時代の宮殿を再現した巨大なオープンセットで撮影。王騎(大沢たかお)の騎馬隊をはじめとする馬群の撮影は、象山影視城からクルマで30分ほどのところに位置する象山平原で実施された。「CG・VFXチームに実写プレートのDPXデータが届いたのは8月上旬でした。ポスプロ作業が本格的にスタートしたのは9月からで、2018年末までにひと通りの制作を済ませた後、2019年初頭から2月中旬まで修正作業を行なっていました。プリプロ段階で実写で撮影するもの、CGで作成するものをしっかりと見極めた上で撮影に臨むことができました」(小坂氏)。「本作クライマックスの舞台となる咸陽宮や、山の王の宮殿などの内観シーンについては東映撮影所の一番広いスタジオに建てられたセットで撮影していただき、その実写プレートにセットエクステンションを施しました。作品的にアクションシーンでは、血飛沫や破片、土煙などの表現も数多く求められたのですが、それらについては神谷VFXスーパーバイザーに監修していただき、全て実写素材で対応することができました」と、Spade&Co.の白石哲也VFXディレクターはふり返る。また、本作では粒子感の強いルックに仕上げ られたため、CG・VFX作業の際にはデノイズ処理が求められたそうだが、ノイズリダクションツールとして定評あるNeat Videoを重宝したそうだ。

    VFX制作の編成について。Spade&Co.が、メイン舞台となる咸陽シーンのVFXを担当。馬群のVFXと山の民シーンを白組。タイトルバック前の時代背景を解説するモーショングラフィックスや8万人の兵士たちを見せるショット、嬴政の暗殺をたくらむムタの戦闘シーンといった劇中でもケレン味のあるVFXを、制作プロダクションCREDEUSのVFXチームであるDIGITAL-ATOM LABOが担当している。そのほかにもロトやキーイング作業を手がけたANNEX DIGITALなど、数社がVFX制作に参加している。

    王都「咸陽」美術資料の例

    咸陽の街の全体図。6km四方もの広大な街並みという設定だ。「美術監督を務めた斎藤岩男さんが作成されたものですが、この全体図があったおかげで各シークエンスにおいて背景に何が見えてくるのかを明確にすることができました」(木川裕太CGディレクター)

    クライマックスの舞台となる「咸陽宮」(政治などを行う宮場)の断面図(斎藤氏が作成)。CGでモデリングする際に悩まないよう、デザイン画に描かれている建物は全てロケ地に実在する建物が参考になっている

    Spade&Co.内で担当モデラー向けに作成した王宮デザイン指示書の一部。どこのロケ地のどの建物なのか、参考にしていい部分、逆に参考にしてはいけない部分が明記されている

    通称ドローンカットと呼ばれた「咸陽」マスターショットのデザイン画。Spade&Co.が作成したプリビズをアタリとして、それをブラッシュアップする要領で斎藤氏が描いたもの


    「咸陽」外観シーンの撮影は、中国浙江省にある「象山影視城」の広大なオープンセットで行われた。そのスケールの大きさも相まって、最終的にリファンレンス写真は約75,000枚に達したそうだ




    • 3DレーザースキャナFAROによるリアリティキャプチャの様子。写真・中央にある三脚に置かれているのがFARO機材



    • パーツごとのサイズを計測する様子。建物の大きさから手すりの高さや厚みなど細かい部分も計測された


    中盤に登場する成蟜(本郷奏多)が飼い慣らす巨漢・ランカイが、ある兵士の頭を潰すカット向けに撮影された血飛沫素材と完成カット


    本作では、神谷VFXスーパーバイザーが中心となり、血飛沫や破片、土煙など多種多様な実写素材が撮影されている。図はクライマックスで描かれる王騎(大沢たかお)が、敵兵を長刀で吹き飛ばすカット向け実写素材の一部と完成形



    • 黒布の破片素材



    • 吹き飛ばされる敵兵素材



    • 土煙素材



    • コンポジット処理が施された完成形

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    02 王都「咸陽」~Spade&Co.~

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    02 王都「咸陽」~Spade&Co.~

    リアリティを高める要素とは? 積極的に画づくりを提案

    先述のとおり、Spade&Co.は咸陽シーンのVFXワークをリード。その中でも特筆すべきなのが、咸陽の街並み、王宮の内観、そして信たちと巨漢ランカイの戦闘シーンである。咸陽の街並みについては、美術監督を務めた斎藤岩男氏が、6km×6kmという広大な街全体の図面や街を構成する建造物の位置や、高低差を図示した断面図といったデザイン画を数多く作成。それらの資料を基にアセットとプリビズを作成したという。「今回は、ロケ撮影でもスタジオ撮影でも、必要なシーンについてはFAROによる撮影現場のリアリティキャプチャを徹底してもらいました。実際のロケ地の三次元データを基にしてアセットを作成することができたので、比率や形状に迷うことなく精度の高いモデルを短時間で制作することができました。ショットワークでは非常に膨大な物量のシーンデータを扱うことにはなりましたが、遠景はローポリに収めたりVrayProxyを使用することでシーンの最適化を行いました」と、木川氏はふり返る。ショットによっては実写プレートのライティングがイマイチだったため、より印象的な画になるようフルCGで作り直すなど、こちらから画づくりを提案する要領で作業を進めたところ、佐藤監督にも歓迎してもらえたそうだ。

    ランカイのようなクリーチャー的なVFXでは、3DCGによるパーツの追加、差し替えが一般的だが、それはあえて用いずに特殊メイクと特機によって撮影されたプレートに対してコンポジットワークを駆使することでリアリティと不気味さが高められた。「主には顔のサイズ調整や衣装に対する不自然なシワのレタッチを行いました。激しいアクションが伴うのでフレーム単位で細かくバレ消しやレタッチを施す必要がありましたが、こちらから積極的に提案することを心がけることで、指針となったショットがOKになった後は効率的に量産することができました」とは、ランカイのコンポジットワークを手がけた芝 那々子氏。特殊造形で作られたランカイの指先をNUKEのWarperによる動かしや血で汚す表現の追加といった、細かい処理も施されているのでぜひ劇場で確かめてほしい。「今回はフルCGのキャラクターアニメーションといった、派手なVFXは登場しませんが、咸陽宮の景観シーンではこちらから提案させていただいたフルCGショットを採用していただけるなど、本作の世界観を高めるVFXワークを着実に実践することができたと思います」(白石氏)。

    王宮モデル。手前側はそれなりに見えてくるので比較的つくり込まれた一方、奧側の後宮はローポリに収めつつテクスチャでディテールを足している。「後宮に生えている樹木などはVRayProxy化してスキャッタしています。見えるアングルが限られていたので、見えてくる部分に重点を置いて制作しました」(木川氏)


    咸陽シーンを構成する建物アセットの例

    咸陽宮で使用している王宮建物モデル

    咸陽の街並みで使用している民家モデル。外観シーンのアセットは、FAROによるスキャンデータやフォトグラメトリーによって作成したメッシュをアタリにしてMayaで作成している。民家モデルについては似通ったパーツが多数あったため、最初の段階では壁や窓、手すりなどをパーツごとに作成、その後キットバッシュで建物を組み立てていくというアプローチが採られた。これにより、担当アーティストごとのテイストやクオリティのバラツキをなくしつつ、短期間で多くのアセットを作成することができたという


    Substance Painterによる3Dペインティング作業の例。事前にスマートマテリアルとして各質感をプリセット化し、それぞれの建物に割り当てていくことで作業時間を短縮、担当アーティストごとのテイストのバラツキを抑えたという。寄りで映る建物に関しては、さらにディテールをペイント。UVについては質感ごとにUDIMタイルを分けてある


    通称ドローンカットのMayaシーンファイル。実写プレートはドローンによる空撮で撮影されたが、王宮のCGモデルを入れた際の見え方が良くなかったため、完成したショットでは途中からCGのカメラワークに切り替え、印象的な画になるよう調整された


    ドローンカットのブレイクダウン



    • 実写プレート(CG側でカメラワークを修正した状態)



    • マットペイント素材



    • 王宮CG素材。Maya上でV-RayでレンダリングしたものをDeepEXR形式で出力



    • Houdiniで作成したフォグ素材(ディープコンポジットによるホールドアウト後)。フォグ素材についてもDeepEXR形式で出力し、NUKE側でディープコンポジットが行われた



    • 各要素を合成し、馴染ませた状態



    • Goboマスク。コンポジットシーン上で動きを調整できるよう、PointPositionパスを用いてNUKEにて上から低周波ノイズを投影し作成された

    ViewLUTを当てた完成形


    王宮内シーンのコンポジット作業例



    • NUKEの作業UI。実写素材はグリーンバックで撮影されたため、3DCGで作成した抜けの内観やスモーク素材を合成する等のコンポジットワークが施された



    • Mayaから書き出された各種レンダーパス


    ブレイクダウン



    • 実写プレート



    • 【左画像】をキーイングした状態



    • 3DCGで作成した王宮内観



    • CG素材を合成



    • NUKE上で、各種パスの調整、カラーコレクション、デフォーカス等を調整



    • 空気感を演出するスモークの実写素材、レンズフレア等のレンズ効果を加えた完成形


    後半に登場するランカイとの戦闘シーンのNUKE作業例。特殊メイクを施したランカイの演技のリアリティを高めるべく、頭部のサイズ変更や不自然なシワのレタッチなど細かなコンポジットワークが施された

    ブレイクダウン



    • 実写プレート



    • 下手・上部の背景に映り込んだバレ消し



    • ランカイ全身のマスクを作成し、全体のサイズ感を調整



    • 【実写プレート】と【下手・上部の背景に映り込んだバレ消し】を合成



    • ランカイの質感を調整、不自然な衣装のシワ(肩まわりなど)や凹みをレタッチ



    • 身体のバランス、顔のサイズを調整



    • ランカイが吐く息の実写素材



    • 各種素材を合成、手前の人物素材を戻した後、全体的なルックや馴染みを調整した完成形

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    03 馬群&山の民 ~白組~

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    03 馬群&山の民 ~白組~

    着実に成果が得られる手法で大ボリュームに対応

    お気づきの読者もいると思うが、Spade&Co.と白組は近年、コンスタントにコラボレーションしている。「一般的に協力プロダクションの立場では、プリプロ段階から制作に携わることは珍しいと思うのですが、今回は撮影部や美術部との打ち合わせを事前にしっかりと行うことができました。自分たちのチームが佐藤監督作品のVFXを担当するのは3本目になりましたが、より効率的に制作を進めることができたと思います」とは、白組の羽原直栄プロデューサー。白組が担当した馬群と山の民シーンを合わせたVFXショット数は約150。「馬と兵士のアセット制作では、王騎軍は5名、山の民は7~8名の役者さんにそれぞれの衣装を着ていただき、ピクチャーエレメントさんのフォトグラメトリー専用スタジオで3Dスキャンを実施しました。馬については、クレデウスさんから提供されたモデルに対して、こちらでディテールを追加したりマテリアルを調整したものを使いました」と、一連の3DCGワークをリードした佐々木 悟VFXディレクターはふり返る。馬と兵士のリグはMotionBuilderで揺れものを含めて作成。MBで作成したアニメーションデータをFBX形式で書き出し、それを3ds Maxに読み込みキャッシュを取得。そのデータをVRayProxyで書き出し、MultiScatterで数を増やしているとのこと。頭数を増やす際はV-Rayのマテリアルでランダムに色が変わるように設定することで、ループ感が出ないように配慮された。

    山の民シーンについて。予告編にも登場する岩城の景観ショットの制作では、山の民のコンセプチュアルデザインを手がけた田島光二氏が描いたイメージボードが指針となった。「役者さんの撮影は千葉県鋸南町(きょなんまち)で行いましたが、そちらのプレートは最終的に役者さんの周囲しか使っていません。奧の背景については、本作のスチール隊が中国の黄山(こうざん)で撮影した大量の写真素材からパースやライティングが合っているもの、なおかつ解像度も十分なものを選んで使用してマットペイントを作成。それらをNUKEによるコンポジット作業で加工、合成しています」(小林晋悟コンポジットSV)。山の民の王宮内観についても田島氏が描いたイメージボードを基に建てられたスタジオセットで撮影。そこへセットエクステンションが施された。「宮殿の柱はスタジオセット用の3Dモデルを美術部から提供してもらえたのでそちらを基に加工しています。ただ、イメージボードでは天井までの高さが30~40mもあったので、スタジオセットのFAROXメッシュから得た三次元データをトラッキングすることで実写プレートと背景セットの整合性をとりました」(佐々木氏)。

    王騎軍の騎馬兵キャラクターモデル。フォトグラメトリーの時点で馬にまたがった姿勢で撮影が行われた


    MBによるアニメーション編集作業の例。ボディはモーションキャプチャデータをブラッシュアップし、セカンダリは物理プロパティを使ったシミュレーションをベースに動きが付けられた

    王騎の軍勢のレンダリング用3ds Maxシーンファイル。軍勢並びに地面の草はVRayProxyで配置している


    ブレイクダウン(幼少時代の信が王騎の軍勢を目の当たりにする回想シーンより)



    • 撮影プレート



    • 別撮りした実写素材を合成



    • 【別撮りした実写素材を合成】(右上画像)のマスク素材



    • CGの騎馬隊



    • 手前に追加した土煙や綿毛の実写素材



    • 一連のコンポジット処理が施された完成形


    山の民を統べる山界の死王・楊端和(長澤まさみ)の岩城を捉えた景観ショットより



    • NUKEにて、マットペイントをカメラプロジェクション



    • 【左画像】のワイヤーフレーム表示。遠景は単純なカード型のジオメトリだが、近景は3ds Maxで作成したジオメトリを用いることで奥行きのある画に仕上げられた


    ブレイクダウン



    • 鋸南町で撮影した実写プレート



    • 【左画像】のマスク。手前の役者周り以外はCG・VFXでリプレイスされたことがわかる



    • マットペイント(遠景)



    • マットペイント(近景)



    • 手前に追加したレイヤー。手前もカメラプロジェクションによって地形のエッジが加工された



    • 一連のコンポジット処理が施された完成形


    楊端和の王宮内シーンより

    3ds Maxによるライティング作業

    同じくレイアウト作業。FAROで計測したスタジオセットのリアリティキャプチャデータを軽量化したレイアウトモデルに対して実写素材を合成した状態


    ブレイクダウン



    • 実写プレート



    • 【左画像】のマスク。美術セットの上部はCGに置き換えるため除去している



    • CG素材(奧の壁面)



    • CG素材(柱)



    • ボリュームライトとフォグのレイヤー。ボリュームライトはCGで作成。そこに実写の煙素材をミックスしている



    • 一連のコンポジット処理が施された完成形

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    04 8万の兵士&ベッサ族の刺客「ムタ」~DIGITAL-ATOM LABO~

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    04 8万の兵士&ベッサ族の刺客「ムタ」~DIGITAL-ATOM LABO~

    GPUレンダラRedshiftをはじめモダンな手法を積極的に採り入れる

    CREDEUS(クレデウス)は、『銀魂2』の制作プロダクションとしても知られるPlus D(プラスディー)から、『キングダム』プロデューサーの松橋真三氏がスピンアウトするかたちで誕生した創立間もない映画制作会社である。そんなCREDEUSのVFXチームが「DIGITAL-ATOM LABO」だ。「2年ほど前に誕生し、現在はデジタルアーティスト5名、コンポジター3名で活動しています。本作では、OPや8万の兵の群衆カット、そしてムタのVFXを中心に約230ショットを担当しました。過去にも映画VFXは手がけていますが、これほどの物量を担当するのは初めてだったので試行錯誤も多々ありましたが、Spade&Co.さんや白組さんにも助けていただきつつ、終始楽しみながら制作することができました。シミュレーションに強いメンバーが多いので、そうした処理が求められる複雑なVFXを積極的に手がけていきたいと思っています」と、コンポジットSVを務めた吹谷 健氏はふり返る。

    タイトルバック前に描かれるOPパートでは、劇中の時代背景が砂鉄ルックのミニチュアアニメーションで表現される。「ミニチュア撮影したシーンにCGアニメーションを合成しています。OPとしてのインパクトを追求した結果、モーショングラフィックスの要素が増えていったため、フルCGのカットが追加されるなど当初の計画よりもCG・VFX主体の映像に仕上がりました」とは、VFXディレクターを務めた外塚勇己氏。ミニチュア撮影が行われたのは昨年9月、OPのポスプロ作業が始まったのは11月末というこで、ワークフロー的にも本編VFXとは異なるMVやTVCMに近いスタイルが採られたという。

    予告編にも登場する8万の兵の群衆カットについては、増田真理氏が3DCGワークを担当。「当初はMiarmyを利用することも検討しましたが、兵士たちはその場から移動しないのでMASHでランダム感を演出しつつ、Mayaの標準機能だけでつくることができました」。兵士のアセットはフォトグラメトリーを利用。モデルは5~6バリエーション作成し、そこからテクスチャがランダムに設定されるようにセットアップすることでループ感を抑えている。また、DIGITAL-ATOM LABOでは、本編VFXのCGレンダリングにはGPUレンダラとして定評あるRedshiftを採用。8万の群衆カットの場合は約350フレームの長尺だったにも関わらず、制作期間内に仕上げることができたという(キャッシュを読むのにひと晩かかるが、レンダリング自体は1フレーム4分程度で済んだそうだ)。「Houdiniで作成した要素については、Mantraでレンダリングしています。社内にはCPUレンダリング用のサーバが約10台用意されていますが、高負荷のショットについてはZYNCを併用することで対応しました」(吹谷氏)。

    タイトルバック前のオープニングより。王騎に見立てたキャラクターが押し寄せる敵兵をなぎ払うシーン。本文でも述べたとおり、ミニチュア撮影による実写素材をベースとしつつ、よりダイナミックかつ様式美あふれる映像を追求した結果、3DCG主体のアニメーションに仕上げられた。3ds Maxによるレイアウト作業「馬のモデルとアニメーションは白組さんから提供していただいたものをミニチュア調に加工しつつ、砂鉄のエフェクトはHoudiniでシミュレーションしています」(外塚氏)



    • メインとなる王騎に見立てた人馬のアセットと背景シーンをレンダリングした状態



    • Houdiniでレンダリングした敵兵の馬群素材



    • 【上の2画像】を合成した状態



    • 色味や質感を調整した完成形


    Houdiniより砂鉄エフェクト(流体シミュレーション)の作業例

    馬1頭分の砂が崩れるシミュレーション。POP内でWrangleを使い、ある条件で崩れるよう制御

    シミュレーションによって形が崩れていく過程

    軽い1キャッシュを利用し、馬を増殖させ、シミュレーション時間を短縮している


    騎馬隊が咸陽に見立てた画面奥の城門に向かって攻め込むシーンのブレイクダウン



    • ミニチュア用の機材で撮影した実写プレート



    • 両端の城壁をCGでセットエクステンション&別途用意した空を合成。背景アセットはSpade&Co.から提供されたものをミニチュア調に加工



    • CGの騎馬隊を合成



    • 砂鉄エフェクトを合成

    一連のコンポジット処理が施された完成形


    成蟜が自身に従う8万の兵士たちを見下ろすショット

    兵士のアセット。レンダリングにはRedshiftを使用。顔の周りや鎧の汚しについてはバリエーションを用意し、それらがランダムで割り当てられるようにセットアップすることでリピート感を回避している

    兵士のエキストラのフォトグラメトリーから作成したテクスチャ素材の例



    • ユニット単位でRedshiftプロキシオブジェクトにした兵士を配置した状態。図が1ユニットを構成する



    • 【左画像】をカメラアングルに合わせてレイアウト。全87ユニットが配置された



    • MayaプラグインのMASHを使い、兵士の並びにバラツキが加えられた(図はテストレンダリング)



    • マッチムーブ用に、中国のオープンセットで撮影した際にFAROで計測したリアリティキャプチャデータから作成したロケ地のジオメトリ


    ブレイクダウン



    • 実写プレート



    • CGの兵士を合成した状態。「実写VFXにRedshiftを利用するのは本作が初めてだったのですが、一般的なCPUレンダラと比べても遜色ない結果が得られたことで他のシーンでも積極的に使用していくことができました」(吹谷氏)



    • NUKE上で作成した石畳の地面を合成



    • コンポジットワーク担当したSpade&Co.にて、遠景の背景を合成、一連の調整が施された完成形


    昌文君(髙嶋政宏)らと合流すべく、竹林を進む信たちの前に立ちはだかるムタ(橋本じゅん)との戦闘シーンより。ムタは毒矢と首に巻いた特殊な武器による戦闘が特徴だが、一連のショットワークは増田真理氏がリードした

    アクション俳優のフォトグラメトリーから作成したムタのモデルと動きを付けた武器アセット。軽量モデルでアニメーションを付け、レンダリング時に本番モデルへ差し替えるためにローモデルとハイモデルが用意された

    【ムタのモデルと動きを付けた武器アセット】(上画像)のリグ。タコの足のリグを参考に5分割でコントローラを作成、ねじったり曲がったり伸びたりするしくみ。「回転したときの遠心力で多少自動的に伸びますが、爪部分がカメラ前を横切る際ダイナミックに見せたかったのでキーフレームで長さを調節し、武器を伸ばして見映えの良いところを探りました」(増田氏)。ベースの動きをキーフレームで制御しつつ、重力やしなりはシミュレーションで作成。具体的には、IKsplineのカーブをnHair化し、DynamicsとkeyAnimationでコントロール。割合も適宜調整している

    アニメーション作業。動きを付けつつ、効率良くモデルとリグの更新が行えるように、武器モデルはReferenceで読み込んでる。実際、制作途中で形状やUVの変更が発生したが、スムーズに対応できたという


    ブレイクダウン



    • ロケ現場における武器の小道具を撮影したリファレンス。色味や深度、影の落ち方等の参考とされた



    • 実写プレート



    • ムタの攻撃によって巻き上がる落ち葉のエフェクトについては、齋藤寧々FXアーティストがHoudiniで作成。POPによるシミュレーションとWrangleで笹の葉の回転を制御している



    • 【左画像】を合成



    • 武器エフェクトを合成



    • 一連のコンポジット処理が施された完成形。「コンポジット作業では襟の手前を境目として、前後に笹の葉(カメラからの距離に応じて4素材)、振動で揺れている襟、武器の影、武器素材を挟み、最後にcameraShakeをかけ、このショットではムタが優勢で攻撃している感を表現しました」(増田氏)。笹の葉が様々な方向に速く舞うことで、武器の回転スピードや攻撃力をより感じさせることができたという



    • 月刊CGWORLD + digital video vol.249(2019年5月号)
      第1特集:進化するゲームグラフィックス
      第2特集:VRミステリーアドベンチャーゲーム『東京クロノス』
      定価:1,512 円(税込)
      判型:A4ワイド
      総ページ数:128
      発売日:2019年4月10日