>   >  VFXアナトミー:できることを着実にやる、質実剛健なVFXワーク 映画『キングダム』
できることを着実にやる、質実剛健なVFXワーク 映画『キングダム』

できることを着実にやる、質実剛健なVFXワーク 映画『キングダム』

実現不可能と言われた超大作エンターテインメントが待望の映画化。それを支えたプロフェッショナルに徹したVFXワークを紐解く。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 249(2019年5月号)からの転載となります。

TEXT_福井隆弘
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

映画『キングダム』4月19日(金)ロードショー
原作:原 泰久「キングダム」(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)/監督:佐藤信介/脚本:黒岩 勉、佐藤信介、原 泰久/撮影監督:河津太郎/美術監督:斎藤岩男/録音:横野一氏工/アクション監督:下村勇二/VFXスーパーバイザー:神谷 誠、小坂一順/編集:今井 剛/テクニカルプロデューサー:大屋哲男/DIプロデューサー/カラーグレーダー:齋藤精二/制作プロダクション:CREDEUS/配給:東宝、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/VFX制作:Spade&Co.、白組、DIGITAL-ATOM LABOほか
kingdom-the-movie.jp
©原泰久/集英社
©2019映画「キングダム」製作委員会

トリックプレイは用いずに、着実にクオリティを高めていく

中国春秋戦国時代を舞台に大将軍になるという夢を抱く戦災孤児の少年・信(山﨑賢人)と、中華統一を目指す若き王・嬴政(吉沢 亮)の物語を描く漫画「キングダム」(原 泰久/集英社)。2006年1月より「週刊ヤングジャンプ」にて連載を開始し、現在までに単行本は53巻まで刊行。累計発行部数3,800万部超(2019年1月現在)を記録するというヒット作であるが、その壮大なスケールから映画化は不可能と言われてきた。そんな大作を、『GANTZ』シリーズ(2011)や『アイアムアヒーロー』(2016)をヒットさせたことでも知られる佐藤信介監督が待望の実写映画化したのが本作だ。

リードVFXスタジオを務めたのは、Spade&Co.(スペード・アンド・カンパニー)。昨年公開され、興収37億を達成した大ヒット作『銀魂2 掟は破るためにこそある』でもリードVFXスタジオを務めた同社だが、本企画が舞い込んだのは2017年の秋だったという。「最初に佐藤監督から、この作品では大スケールの人間ドラマを描きたいとお聞きしました。佐藤組には、"できることを確実にやっていこう"という制作スタイルが確立されていることもあり、すでに中国で大規模な撮影を行うことが決まっていました。そこに求められるVFXは特定のカットをつくり込むのではなく、作品全体のリアリティを高めていくものであるという方針で制作を進めました」と、Spade&Co.代表取締役であり、本作のVFXスーパーバイザーのひとりを務めた小坂一順氏はふり返る。

<前列>左から、芝 那々子コンポジター、田中志野コンポジター、上田春寧コンポジター、越智 瞳マットペインター/<後列>左から、山田昭仁デジタルアーティスト、大場勇作VFXスーパーバイザー補、森本匡祐コンポジター、富永 稔コンポジター、白石哲也VFXディレクター、木川裕太CGディレクター、浅川翔太コンポジター、小坂一順VFXスーパーバイザー、藤井 翼プロダクションマネージャー
Spade&Co. www.spade-co.jp

例えば、劇中にはランカイという巨漢のキャラクターのアクションシーンも登場する。プリプロ段階ではランカイをフルCGで描くという案も出たそうだが却下。最終的に2mを超える高身長のアクターが特殊な装置に乗り、さらに上からワイヤーで吊った状態で演技をしてもらい、そのフッテージにコンポジット処理を施すことでリアルなアクションに仕上げられた(「02 王都「咸陽」~Spade&Co.~」にて解説)。なお本作では、神谷 誠氏と小坂氏によるVFXスーパーバイザー2名体制が採られているが、長年にわたり佐藤監督作品に携わり、その流儀を熟知する神谷氏が現場への立ち会いや特撮まわりを監修。そして、小坂氏がプリプロとポスプロをみていくという要領で役割分担をしたという。

左から、羽原直栄プロデューサー、佐々木悟VFXディレクター、小林晋悟コンポジットSV 白組
shirogumi.com

左から、外塚勇己VFXディレクター、吹谷 健コンポジットSV、齋藤寧々FXアーティスト、増田真理デジタルアーティスト(フリーランス) DIGITAL-ATOM LABO(CREDEUS)
www.credeus.com

01 プリプロ&実写撮影

実写素材をフル活用しつつCGならではの表現に注力

本作の撮影は、2018年4月8日(日)クランクイン。まずは20日間にわたって中国で大規模な撮影を実施。その後、6月13日(水)のクランクアップまでは、東映撮影所のスタジオ内に組まれた王宮セットや国内各地の ロケーションにて撮影が行われた。中国ロケの目的は、言うまでもなく壮大なスケールの映像を撮ること。本作の主な舞台となる王都・咸陽(かんよう)の屋外シーンは、中国浙江省の象山影視城にある春秋戦国時代の宮殿を再現した巨大なオープンセットで撮影。王騎(大沢たかお)の騎馬隊をはじめとする馬群の撮影は、象山影視城からクルマで30分ほどのところに位置する象山平原で実施された。「CG・VFXチームに実写プレートのDPXデータが届いたのは8月上旬でした。ポスプロ作業が本格的にスタートしたのは9月からで、2018年末までにひと通りの制作を済ませた後、2019年初頭から2月中旬まで修正作業を行なっていました。プリプロ段階で実写で撮影するもの、CGで作成するものをしっかりと見極めた上で撮影に臨むことができました」(小坂氏)。「本作クライマックスの舞台となる咸陽宮や、山の王の宮殿などの内観シーンについては東映撮影所の一番広いスタジオに建てられたセットで撮影していただき、その実写プレートにセットエクステンションを施しました。作品的にアクションシーンでは、血飛沫や破片、土煙などの表現も数多く求められたのですが、それらについては神谷VFXスーパーバイザーに監修していただき、全て実写素材で対応することができました」と、Spade&Co.の白石哲也VFXディレクターはふり返る。また、本作では粒子感の強いルックに仕上げ られたため、CG・VFX作業の際にはデノイズ処理が求められたそうだが、ノイズリダクションツールとして定評あるNeat Videoを重宝したそうだ。

VFX制作の編成について。Spade&Co.が、メイン舞台となる咸陽シーンのVFXを担当。馬群のVFXと山の民シーンを白組。タイトルバック前の時代背景を解説するモーショングラフィックスや8万人の兵士たちを見せるショット、嬴政の暗殺をたくらむムタの戦闘シーンといった劇中でもケレン味のあるVFXを、制作プロダクションCREDEUSのVFXチームであるDIGITAL-ATOM LABOが担当している。そのほかにもロトやキーイング作業を手がけたANNEX DIGITALなど、数社がVFX制作に参加している。

王都「咸陽」美術資料の例

咸陽の街の全体図。6km四方もの広大な街並みという設定だ。「美術監督を務めた斎藤岩男さんが作成されたものですが、この全体図があったおかげで各シークエンスにおいて背景に何が見えてくるのかを明確にすることができました」(木川裕太CGディレクター)

クライマックスの舞台となる「咸陽宮」(政治などを行う宮場)の断面図(斎藤氏が作成)。CGでモデリングする際に悩まないよう、デザイン画に描かれている建物は全てロケ地に実在する建物が参考になっている

Spade&Co.内で担当モデラー向けに作成した王宮デザイン指示書の一部。どこのロケ地のどの建物なのか、参考にしていい部分、逆に参考にしてはいけない部分が明記されている

通称ドローンカットと呼ばれた「咸陽」マスターショットのデザイン画。Spade&Co.が作成したプリビズをアタリとして、それをブラッシュアップする要領で斎藤氏が描いたもの


「咸陽」外観シーンの撮影は、中国浙江省にある「象山影視城」の広大なオープンセットで行われた。そのスケールの大きさも相まって、最終的にリファンレンス写真は約75,000枚に達したそうだ




  • 3DレーザースキャナFAROによるリアリティキャプチャの様子。写真・中央にある三脚に置かれているのがFARO機材



  • パーツごとのサイズを計測する様子。建物の大きさから手すりの高さや厚みなど細かい部分も計測された


中盤に登場する成蟜(本郷奏多)が飼い慣らす巨漢・ランカイが、ある兵士の頭を潰すカット向けに撮影された血飛沫素材と完成カット


本作では、神谷VFXスーパーバイザーが中心となり、血飛沫や破片、土煙など多種多様な実写素材が撮影されている。図はクライマックスで描かれる王騎(大沢たかお)が、敵兵を長刀で吹き飛ばすカット向け実写素材の一部と完成形



  • 黒布の破片素材



  • 吹き飛ばされる敵兵素材



  • 土煙素材



  • コンポジット処理が施された完成形

次ページ:
02 王都「咸陽」~Spade&Co.~

その他の連載