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できることを着実にやる、質実剛健なVFXワーク 映画『キングダム』

できることを着実にやる、質実剛健なVFXワーク 映画『キングダム』

04 8万の兵士&ベッサ族の刺客「ムタ」~DIGITAL-ATOM LABO~

GPUレンダラRedshiftをはじめモダンな手法を積極的に採り入れる

CREDEUS(クレデウス)は、『銀魂2』の制作プロダクションとしても知られるPlus D(プラスディー)から、『キングダム』プロデューサーの松橋真三氏がスピンアウトするかたちで誕生した創立間もない映画制作会社である。そんなCREDEUSのVFXチームが「DIGITAL-ATOM LABO」だ。「2年ほど前に誕生し、現在はデジタルアーティスト5名、コンポジター3名で活動しています。本作では、OPや8万の兵の群衆カット、そしてムタのVFXを中心に約230ショットを担当しました。過去にも映画VFXは手がけていますが、これほどの物量を担当するのは初めてだったので試行錯誤も多々ありましたが、Spade&Co.さんや白組さんにも助けていただきつつ、終始楽しみながら制作することができました。シミュレーションに強いメンバーが多いので、そうした処理が求められる複雑なVFXを積極的に手がけていきたいと思っています」と、コンポジットSVを務めた吹谷 健氏はふり返る。

タイトルバック前に描かれるOPパートでは、劇中の時代背景が砂鉄ルックのミニチュアアニメーションで表現される。「ミニチュア撮影したシーンにCGアニメーションを合成しています。OPとしてのインパクトを追求した結果、モーショングラフィックスの要素が増えていったため、フルCGのカットが追加されるなど当初の計画よりもCG・VFX主体の映像に仕上がりました」とは、VFXディレクターを務めた外塚勇己氏。ミニチュア撮影が行われたのは昨年9月、OPのポスプロ作業が始まったのは11月末というこで、ワークフロー的にも本編VFXとは異なるMVやTVCMに近いスタイルが採られたという。

予告編にも登場する8万の兵の群衆カットについては、増田真理氏が3DCGワークを担当。「当初はMiarmyを利用することも検討しましたが、兵士たちはその場から移動しないのでMASHでランダム感を演出しつつ、Mayaの標準機能だけでつくることができました」。兵士のアセットはフォトグラメトリーを利用。モデルは5~6バリエーション作成し、そこからテクスチャがランダムに設定されるようにセットアップすることでループ感を抑えている。また、DIGITAL-ATOM LABOでは、本編VFXのCGレンダリングにはGPUレンダラとして定評あるRedshiftを採用。8万の群衆カットの場合は約350フレームの長尺だったにも関わらず、制作期間内に仕上げることができたという(キャッシュを読むのにひと晩かかるが、レンダリング自体は1フレーム4分程度で済んだそうだ)。「Houdiniで作成した要素については、Mantraでレンダリングしています。社内にはCPUレンダリング用のサーバが約10台用意されていますが、高負荷のショットについてはZYNCを併用することで対応しました」(吹谷氏)。

タイトルバック前のオープニングより。王騎に見立てたキャラクターが押し寄せる敵兵をなぎ払うシーン。本文でも述べたとおり、ミニチュア撮影による実写素材をベースとしつつ、よりダイナミックかつ様式美あふれる映像を追求した結果、3DCG主体のアニメーションに仕上げられた。3ds Maxによるレイアウト作業「馬のモデルとアニメーションは白組さんから提供していただいたものをミニチュア調に加工しつつ、砂鉄のエフェクトはHoudiniでシミュレーションしています」(外塚氏)



  • メインとなる王騎に見立てた人馬のアセットと背景シーンをレンダリングした状態



  • Houdiniでレンダリングした敵兵の馬群素材



  • 【上の2画像】を合成した状態



  • 色味や質感を調整した完成形


Houdiniより砂鉄エフェクト(流体シミュレーション)の作業例

馬1頭分の砂が崩れるシミュレーション。POP内でWrangleを使い、ある条件で崩れるよう制御

シミュレーションによって形が崩れていく過程

軽い1キャッシュを利用し、馬を増殖させ、シミュレーション時間を短縮している


騎馬隊が咸陽に見立てた画面奥の城門に向かって攻め込むシーンのブレイクダウン



  • ミニチュア用の機材で撮影した実写プレート



  • 両端の城壁をCGでセットエクステンション&別途用意した空を合成。背景アセットはSpade&Co.から提供されたものをミニチュア調に加工



  • CGの騎馬隊を合成



  • 砂鉄エフェクトを合成

一連のコンポジット処理が施された完成形


成蟜が自身に従う8万の兵士たちを見下ろすショット

兵士のアセット。レンダリングにはRedshiftを使用。顔の周りや鎧の汚しについてはバリエーションを用意し、それらがランダムで割り当てられるようにセットアップすることでリピート感を回避している

兵士のエキストラのフォトグラメトリーから作成したテクスチャ素材の例



  • ユニット単位でRedshiftプロキシオブジェクトにした兵士を配置した状態。図が1ユニットを構成する



  • 【左画像】をカメラアングルに合わせてレイアウト。全87ユニットが配置された



  • MayaプラグインのMASHを使い、兵士の並びにバラツキが加えられた(図はテストレンダリング)



  • マッチムーブ用に、中国のオープンセットで撮影した際にFAROで計測したリアリティキャプチャデータから作成したロケ地のジオメトリ


ブレイクダウン



  • 実写プレート



  • CGの兵士を合成した状態。「実写VFXにRedshiftを利用するのは本作が初めてだったのですが、一般的なCPUレンダラと比べても遜色ない結果が得られたことで他のシーンでも積極的に使用していくことができました」(吹谷氏)



  • NUKE上で作成した石畳の地面を合成



  • コンポジットワーク担当したSpade&Co.にて、遠景の背景を合成、一連の調整が施された完成形


昌文君(髙嶋政宏)らと合流すべく、竹林を進む信たちの前に立ちはだかるムタ(橋本じゅん)との戦闘シーンより。ムタは毒矢と首に巻いた特殊な武器による戦闘が特徴だが、一連のショットワークは増田真理氏がリードした

アクション俳優のフォトグラメトリーから作成したムタのモデルと動きを付けた武器アセット。軽量モデルでアニメーションを付け、レンダリング時に本番モデルへ差し替えるためにローモデルとハイモデルが用意された

【ムタのモデルと動きを付けた武器アセット】(上画像)のリグ。タコの足のリグを参考に5分割でコントローラを作成、ねじったり曲がったり伸びたりするしくみ。「回転したときの遠心力で多少自動的に伸びますが、爪部分がカメラ前を横切る際ダイナミックに見せたかったのでキーフレームで長さを調節し、武器を伸ばして見映えの良いところを探りました」(増田氏)。ベースの動きをキーフレームで制御しつつ、重力やしなりはシミュレーションで作成。具体的には、IKsplineのカーブをnHair化し、DynamicsとkeyAnimationでコントロール。割合も適宜調整している

アニメーション作業。動きを付けつつ、効率良くモデルとリグの更新が行えるように、武器モデルはReferenceで読み込んでる。実際、制作途中で形状やUVの変更が発生したが、スムーズに対応できたという


ブレイクダウン



  • ロケ現場における武器の小道具を撮影したリファレンス。色味や深度、影の落ち方等の参考とされた



  • 実写プレート



  • ムタの攻撃によって巻き上がる落ち葉のエフェクトについては、齋藤寧々FXアーティストがHoudiniで作成。POPによるシミュレーションとWrangleで笹の葉の回転を制御している



  • 【左画像】を合成



  • 武器エフェクトを合成



  • 一連のコンポジット処理が施された完成形。「コンポジット作業では襟の手前を境目として、前後に笹の葉(カメラからの距離に応じて4素材)、振動で揺れている襟、武器の影、武器素材を挟み、最後にcameraShakeをかけ、このショットではムタが優勢で攻撃している感を表現しました」(増田氏)。笹の葉が様々な方向に速く舞うことで、武器の回転スピードや攻撃力をより感じさせることができたという



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