03 馬群&山の民 ~白組~
着実に成果が得られる手法で大ボリュームに対応
お気づきの読者もいると思うが、Spade&Co.と白組は近年、コンスタントにコラボレーションしている。「一般的に協力プロダクションの立場では、プリプロ段階から制作に携わることは珍しいと思うのですが、今回は撮影部や美術部との打ち合わせを事前にしっかりと行うことができました。自分たちのチームが佐藤監督作品のVFXを担当するのは3本目になりましたが、より効率的に制作を進めることができたと思います」とは、白組の羽原直栄プロデューサー。白組が担当した馬群と山の民シーンを合わせたVFXショット数は約150。「馬と兵士のアセット制作では、王騎軍は5名、山の民は7~8名の役者さんにそれぞれの衣装を着ていただき、ピクチャーエレメントさんのフォトグラメトリー専用スタジオで3Dスキャンを実施しました。馬については、クレデウスさんから提供されたモデルに対して、こちらでディテールを追加したりマテリアルを調整したものを使いました」と、一連の3DCGワークをリードした佐々木 悟VFXディレクターはふり返る。馬と兵士のリグはMotionBuilderで揺れものを含めて作成。MBで作成したアニメーションデータをFBX形式で書き出し、それを3ds Maxに読み込みキャッシュを取得。そのデータをVRayProxyで書き出し、MultiScatterで数を増やしているとのこと。頭数を増やす際はV-Rayのマテリアルでランダムに色が変わるように設定することで、ループ感が出ないように配慮された。
山の民シーンについて。予告編にも登場する岩城の景観ショットの制作では、山の民のコンセプチュアルデザインを手がけた田島光二氏が描いたイメージボードが指針となった。「役者さんの撮影は千葉県鋸南町(きょなんまち)で行いましたが、そちらのプレートは最終的に役者さんの周囲しか使っていません。奧の背景については、本作のスチール隊が中国の黄山(こうざん)で撮影した大量の写真素材からパースやライティングが合っているもの、なおかつ解像度も十分なものを選んで使用してマットペイントを作成。それらをNUKEによるコンポジット作業で加工、合成しています」(小林晋悟コンポジットSV)。山の民の王宮内観についても田島氏が描いたイメージボードを基に建てられたスタジオセットで撮影。そこへセットエクステンションが施された。「宮殿の柱はスタジオセット用の3Dモデルを美術部から提供してもらえたのでそちらを基に加工しています。ただ、イメージボードでは天井までの高さが30~40mもあったので、スタジオセットのFAROXメッシュから得た三次元データをトラッキングすることで実写プレートと背景セットの整合性をとりました」(佐々木氏)。
王騎軍の騎馬兵キャラクターモデル。フォトグラメトリーの時点で馬にまたがった姿勢で撮影が行われた
MBによるアニメーション編集作業の例。ボディはモーションキャプチャデータをブラッシュアップし、セカンダリは物理プロパティを使ったシミュレーションをベースに動きが付けられた
王騎の軍勢のレンダリング用3ds Maxシーンファイル。軍勢並びに地面の草はVRayProxyで配置している
ブレイクダウン(幼少時代の信が王騎の軍勢を目の当たりにする回想シーンより)
山の民を統べる山界の死王・楊端和(長澤まさみ)の岩城を捉えた景観ショットより
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NUKEにて、マットペイントをカメラプロジェクション
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【左画像】のワイヤーフレーム表示。遠景は単純なカード型のジオメトリだが、近景は3ds Maxで作成したジオメトリを用いることで奥行きのある画に仕上げられた
ブレイクダウン
楊端和の王宮内シーンより
3ds Maxによるライティング作業
同じくレイアウト作業。FAROで計測したスタジオセットのリアリティキャプチャデータを軽量化したレイアウトモデルに対して実写素材を合成した状態
ブレイクダウン