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できることを着実にやる、質実剛健なVFXワーク 映画『キングダム』

できることを着実にやる、質実剛健なVFXワーク 映画『キングダム』

02 王都「咸陽」~Spade&Co.~

リアリティを高める要素とは? 積極的に画づくりを提案

先述のとおり、Spade&Co.は咸陽シーンのVFXワークをリード。その中でも特筆すべきなのが、咸陽の街並み、王宮の内観、そして信たちと巨漢ランカイの戦闘シーンである。咸陽の街並みについては、美術監督を務めた斎藤岩男氏が、6km×6kmという広大な街全体の図面や街を構成する建造物の位置や、高低差を図示した断面図といったデザイン画を数多く作成。それらの資料を基にアセットとプリビズを作成したという。「今回は、ロケ撮影でもスタジオ撮影でも、必要なシーンについてはFAROによる撮影現場のリアリティキャプチャを徹底してもらいました。実際のロケ地の三次元データを基にしてアセットを作成することができたので、比率や形状に迷うことなく精度の高いモデルを短時間で制作することができました。ショットワークでは非常に膨大な物量のシーンデータを扱うことにはなりましたが、遠景はローポリに収めたりVrayProxyを使用することでシーンの最適化を行いました」と、木川氏はふり返る。ショットによっては実写プレートのライティングがイマイチだったため、より印象的な画になるようフルCGで作り直すなど、こちらから画づくりを提案する要領で作業を進めたところ、佐藤監督にも歓迎してもらえたそうだ。

ランカイのようなクリーチャー的なVFXでは、3DCGによるパーツの追加、差し替えが一般的だが、それはあえて用いずに特殊メイクと特機によって撮影されたプレートに対してコンポジットワークを駆使することでリアリティと不気味さが高められた。「主には顔のサイズ調整や衣装に対する不自然なシワのレタッチを行いました。激しいアクションが伴うのでフレーム単位で細かくバレ消しやレタッチを施す必要がありましたが、こちらから積極的に提案することを心がけることで、指針となったショットがOKになった後は効率的に量産することができました」とは、ランカイのコンポジットワークを手がけた芝 那々子氏。特殊造形で作られたランカイの指先をNUKEのWarperによる動かしや血で汚す表現の追加といった、細かい処理も施されているのでぜひ劇場で確かめてほしい。「今回はフルCGのキャラクターアニメーションといった、派手なVFXは登場しませんが、咸陽宮の景観シーンではこちらから提案させていただいたフルCGショットを採用していただけるなど、本作の世界観を高めるVFXワークを着実に実践することができたと思います」(白石氏)。

王宮モデル。手前側はそれなりに見えてくるので比較的つくり込まれた一方、奧側の後宮はローポリに収めつつテクスチャでディテールを足している。「後宮に生えている樹木などはVRayProxy化してスキャッタしています。見えるアングルが限られていたので、見えてくる部分に重点を置いて制作しました」(木川氏)


咸陽シーンを構成する建物アセットの例

咸陽宮で使用している王宮建物モデル

咸陽の街並みで使用している民家モデル。外観シーンのアセットは、FAROによるスキャンデータやフォトグラメトリーによって作成したメッシュをアタリにしてMayaで作成している。民家モデルについては似通ったパーツが多数あったため、最初の段階では壁や窓、手すりなどをパーツごとに作成、その後キットバッシュで建物を組み立てていくというアプローチが採られた。これにより、担当アーティストごとのテイストやクオリティのバラツキをなくしつつ、短期間で多くのアセットを作成することができたという


Substance Painterによる3Dペインティング作業の例。事前にスマートマテリアルとして各質感をプリセット化し、それぞれの建物に割り当てていくことで作業時間を短縮、担当アーティストごとのテイストのバラツキを抑えたという。寄りで映る建物に関しては、さらにディテールをペイント。UVについては質感ごとにUDIMタイルを分けてある


通称ドローンカットのMayaシーンファイル。実写プレートはドローンによる空撮で撮影されたが、王宮のCGモデルを入れた際の見え方が良くなかったため、完成したショットでは途中からCGのカメラワークに切り替え、印象的な画になるよう調整された


ドローンカットのブレイクダウン



  • 実写プレート(CG側でカメラワークを修正した状態)



  • マットペイント素材



  • 王宮CG素材。Maya上でV-RayでレンダリングしたものをDeepEXR形式で出力



  • Houdiniで作成したフォグ素材(ディープコンポジットによるホールドアウト後)。フォグ素材についてもDeepEXR形式で出力し、NUKE側でディープコンポジットが行われた



  • 各要素を合成し、馴染ませた状態



  • Goboマスク。コンポジットシーン上で動きを調整できるよう、PointPositionパスを用いてNUKEにて上から低周波ノイズを投影し作成された

ViewLUTを当てた完成形


王宮内シーンのコンポジット作業例



  • NUKEの作業UI。実写素材はグリーンバックで撮影されたため、3DCGで作成した抜けの内観やスモーク素材を合成する等のコンポジットワークが施された



  • Mayaから書き出された各種レンダーパス


ブレイクダウン



  • 実写プレート



  • 【左画像】をキーイングした状態



  • 3DCGで作成した王宮内観



  • CG素材を合成



  • NUKE上で、各種パスの調整、カラーコレクション、デフォーカス等を調整



  • 空気感を演出するスモークの実写素材、レンズフレア等のレンズ効果を加えた完成形


後半に登場するランカイとの戦闘シーンのNUKE作業例。特殊メイクを施したランカイの演技のリアリティを高めるべく、頭部のサイズ変更や不自然なシワのレタッチなど細かなコンポジットワークが施された

ブレイクダウン



  • 実写プレート



  • 下手・上部の背景に映り込んだバレ消し



  • ランカイ全身のマスクを作成し、全体のサイズ感を調整



  • 【実写プレート】と【下手・上部の背景に映り込んだバレ消し】を合成



  • ランカイの質感を調整、不自然な衣装のシワ(肩まわりなど)や凹みをレタッチ



  • 身体のバランス、顔のサイズを調整



  • ランカイが吐く息の実写素材



  • 各種素材を合成、手前の人物素材を戻した後、全体的なルックや馴染みを調整した完成形

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03 馬群&山の民 ~白組~

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