画にプラス要素を。
画には法則があります。
それは長い年月をかけて、様々な先人たちにより研鑽されてきたものです。CGという分野においても非常に有効な法則で、きっとあなたの知恵と技術になってくれることでしょう。
永く、そして楽しくこの仕事をし続けるために。
そして願わくば貴方の人生に+画を。
今回もWeb連載の強みを活かし、動画チュートリアル『CGWORLD Online Tutorials』と連携してお届けします。
TEXT_早野海兵 / Kaihei Hayano(@Kai_ryu_Kai)
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
【+画 ONLINE】
vol.011:繭/「前後の配置」を考える
(CGWORLD Online Tutorials)の詳細・動画はこちら
存在感を演出する
最近、あるきっかけで蚕について調べていたのですが、たくさんの蚕が繭を少しずつ紡いでいく様は3DCGの制作過程に似ているな、などと親近感をもちました。
蚕は日本人にとって、古くから馴染み深い昆虫ですね。日本人に限らず、世界的にみても養蚕は5000年あまりの歴史があるらしく、最も人に近しい昆虫ではないでしょうか。日本書紀にも登場しているくらいですからね。それほど歴史のある昆虫ですが、養蚕の詳しい由来はわからないらしく、世の中はほんの近くのこともまだ解明されていないことがあるものだと、久しぶりに思いました。由来がわからないのに、日常生活にこんなにも馴染みがある。何か未知のテクノロジーを使用しているようなロマンがありますね。
引用元:「カイコ」, フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
3DCGというものは中身がないもので、それを埋めるために膨大な資料で理由付けをしています。そうすることで仮想のものは現実的な意味を感じさせるようになり、存在感を増していきます。ひとえに作り手の御業ですね。
<画角の法則>
「前後」
久しぶりにレイアウトのお話をしようかと思います。今回は「前後」についてです。もっとも単純なレイアウトの効果のひとつです。以前、「天地」を取り上げたかと思いますが、それを90度倒したバージョンともいえると思います。
まずは以前の復習から、天地ですね。世界には天と地があることわり。さすれば、天をとり地を創れば安寧に至る。
3DCGというものはその名のとおり、3D、立体的な表現なので、得意分野は立体感、奥行き感だったりしますね。ですので、たとえば物を並べるとき、わざわざ立体感をなくすような構図にせず......。
3Dの強みを生かした構図にすることが、より簡単に魅力的な画をつくる方法のひとつです。実は有名作品などを観るとこの前後感のとりかたが絶妙に巧い。ハリウッド作品などでも前後に絶妙にものを配置したり、過ぎ去らせたりすることですばらしい演出にしています。
前後に重ねて覆うのもありですね。これはヤカンですが、例えば山などが手前にかぶっているところを追い越して、その先に広い街がある......、などはとてもよく使われるカメラワークの手法です。
さらに、こういう逆の配置も考えられます。例えば大空の雲。そして、飛行機やUFOなどの浮遊物にもあてはまるレイアウトです。
こちらは以前の作品ですが、同じものを並列に並べるとどこか説明的な画になってきます。例えば百科事典や教科書、説明書など。そういった用途では効果的ですね。
画の構図としては、やはり奥行き感があるほうが魅力的に見えてきます。
また、主役の前後になにかほかのものを置くことで、より主役に目がいくようになり、わかりやすい構図をつくっていくことができるようになります。
Layout
こうした考えに基づき、今回の作品を見てみましょう。今回の作品ではどのように生かされているかというと、実は最初は繭ひとつで見せようかと考えていました。
しかし、これではさみしすぎると考えて繭を3つほど配置。これで少し良くなりましたが、3つ真ん中にあると、本当にただ3つあるだけというような......。今回はたくさんある中のクローズアップなレイアウトを考えているので、これではちょっとちがいますね。
たくさん配置してみました。3DCGは同じものをコピーするのは大得意ですね。そしてポイントは両端がレイアウト的に切れていることです。これによって5個よりさらに横に多く並んでいるであろうと想像することができます。ただ、これだけでは説明くさい感じで、商品展覧会のような印象です。
そこでさらに数を増やし、前後に並べ替えてみました。こうすることで同じものでも画全体に奥行き感を与えることができ、3DCGとしての魅力も増すことができます。ここでも両端に切れている繭があることで、多数ある繭のうちの一部分にクローズアップしたと思わせるレイアウトにしています。
今回はさらにライティングと被写界深度を加えることで、より一層奥行き感と真ん中の繭に視線を誘導する「誘導の法則」を取り入れています。誘導の法則についてはまたどこかの回で詳しくお話しします。
Modeling
この繭のモデルはプリミティブのカプセルです。一番近い形状からモデリングしていくこともモデリングのセオリーだったりしますね。この後、どのように作業しているかはムービーの方に制作過程を収めましたので、興味のある方はぜひご覧ください。
Composite
まずはレンダリングしたままの画像を並べていきます。今回は部分的にレンダリングしていきました。
まずは全体的に暗すぎるので、明るくもち上げます。「どうせ明るくするなら、最初からライティングすれば?」、と言われてしまいそうですが、これは心理効果的も考えてのことです。例えば、蚕の養育場所は、おそらくは暗くてしっとりとした場所だと思います。そういったところで写真を撮影し、それを現像の過程で明るくする......、なんて、なにか現実的で臨場感ありますよね。まあ、画には現れないのですが......。
全体的に明るくしてみると、糸車が目立ちすぎていることに気が付きます。そこで、ここを暗く調整。コンポジットはこのように良し悪しを決断していく場でもありますね。
微妙ですが、全体のトーンを描くレイヤーごとに調整。とびすぎたり、馴染んでいなかったところなどを修正していきます。
実は繭のなかにはちゃんとお蚕様がいらっしゃいます。後付けですが。
今回は久しぶりに考えながらつくるというプロセスを踏んでみました。これもとても楽しい制作過程のひとつです。
昔は何かひとつつくることにとても時間をかけていました。それが実際に作品の深みにつながっていたんですね。そういったことはデジタルではなかなか学べないことで、私も数多くの先輩から学んできました。感謝をしつつ、そういったことをまた後の世につないでいけたらと思います。
本来の画をつくる楽しさをいつまでも忘れずに。
【チュートリアル収録内容】
<画創の法則>
・前後
<誘導の法則>
・光
・ぼかし
<実際の制作過程メイキング>
モデリングからコンポジットまで
使用ソフト:3ds Max、After Effects
長年、セミナーや授業でお話してきた生な感じをぜひ体感いただけたら嬉しいです。ムービーの解説ではさらに詳しく内容をご説明しております。
【+画 ONLINE】
vol.011:繭/「前後の配置」を考える
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Information
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3ds Max『画龍点睛オンライン』講座
文章だけでは語りつくせない詳細をオンライン形式でお届けします。実践で役に立つ「基本と応用」をCGWORLDの連載『画龍点睛』で制作した作品を通じて解説します。ゼネラリストとしての作品づくりに対する考え方で、さらなるステップアップを。
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CGに初めて触れる方や新人教育用の教材「CGオペレーション基礎講座」として、基礎固めに効果を発揮しています。3ds Maxの機能をひとつずつ詳細に解説。豊富な作例から楽しく機能を学んでいただけます。
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Profile
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早野海兵/Kaihei Hayano
画龍 / Garyu
ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・コンピュータエンタテインメントを経て創作活動の世界へ。現在、CGWORLD.jpにて「+画」連載中。アートディレクターを務めながら講師や執筆等、幅広くCG業界に貢献している。
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<代表作>
ゲーム『鬼武者』シリーズ
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ
『EXILE LIVE TOUR 2018-2019 "STAR OF WISH"』
著書『テクスチャイリュージョン』シリーズ
連載「+画」、「画龍点睛」
早野海兵公式サイト:kaihei.net
画龍公式サイト:garyu.mystrikingly.com
Twitter:@Kai_ryu_Kai