記事の目次

    昨年から大変な年で、仕事も外出もままならない......。ソワソワしているような、未来が描けないような、そんな不安と隣り合わせの日常が続いていますが、そんなときでも画を描くことはできます。おうち時間の多い今こそ、想像力が必要ですね。



    TEXT_早野海兵 / Kaihei Hayano
    EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(CGWORLD)


    【+画 ONLINE】vol.002:ランタン
    (CGWORLD Online Tutorials)の
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    Concept

    イーペン祭りの「コムローイ」(タイ・チェンマイ)

    今回は、モチーフであるイーペン祭り(タイ・チェンマイ)の「コムローイ」に願いを込めて。もしこんな場所に行けていたら? とスマホで撮影した気分の作品に仕上げました。

    日頃、CGは完璧を求めていくものですが、リアルな日常の映像の場合、完璧ではない「無駄な情報」がリアリティをもたせます。手ブレやノイズ、レンズ、それぞれが思考を重ねた技術です。インハウスな感じがするCG・映像業界でも、人と接することは実はとても必要です。会社に行ってちょっとした気付きやアドバイスを先輩たちから知らず知らずのうちに教わっていた、ということも多かったです。今はこういった連載やSNSがその代わりとなっているのでしょう。

    今回は「量」についてのお話です。その中でも「バランス」や「密度」など様々な言い回しがありますが、大量に何かを配置するということは、CGをやっていれば何度か遭遇する場面でしょう。

    元来、CGのようなPCでの作業は「大量に作成する」ことが得意です。大量に複製する、配置する、検索する。手作業だと何日も必要とする作業がワンクリックで済んでしまうこともあります。ただ、一定の環境変数があるため、それなりの配置はすぐにできますが、パターンが単純なので見飽きてしまうという現象が生じます。物理シミュレーションを使って見た目が素晴らしいものがすぐにつくれる昨今ですが、見どころを見極めなければせっかくの良い画ももったいない結果になってしまいます。

    今回もWeb連載の強みを活かして、動画チュートリアル『CGWORLD Online Turorials』との連携をしております。



    Design

    一見、何かの記号のようですね。制作にあたり、モチーフとなるコムローイの構造を調べてみました。材料は単純なのですが、自分の目で実際に見たことないものは立体的な把握が難しいので、一度構造を調べてみることにしています。デザインは大量の情報があってはじめて伝え方を模索できるので、制作前の情報収集はとても大切です。これからつくり始めるワクワク感がたまりません。

    基本的には「熱気球の原理を活用した小型版」みたいな感じです。昔は竹やバナナの皮でつくるのが一般的だったようですが、現在は針金などを使ってつくられることもあるようです。環境問題があるようで、材料の見直しがされているのだとか。

    なかなかつくり方を見つけることができなかったのですが、どうやらランタンの形には数種類のバージョンが存在するようで、その中でもシンプルなつくりのものや手づくりできるものを参考に作成してみました。「ランタンセット」みたいなものも売っているようですが、昔ながらの紙袋を使用したものが風情もあり素敵だと感じました。 天灯(てんとう)とも孔明灯(こうめいとう)とも呼ばれていて、かつては通信手段だったようですが、映画などでチェンマイのイーペン祭りがモチーフとなっているものを見たことがあり、一度は現地まで行って実際に見てみたいイベントの1つです。ところで、落ちてきたゴミはどうやって回収しているのか......。気になるところです。

    モデルの構造としてまず気を付けることは「バランス」です。そのため、できるだけシンプルな構造のものから作成していくのが基本でしょう。今回はボックスから作成。実際のつくり方を見ても、紙を貼り合わせてつくっているようですね。よくメッシュの分割数を質問されますが、「臨機応変に」と答えるのが的確かと。今回はシミュレーションをかけることを見越して、少し多めのセグメントにしています。

    そして大切なのは「柔らかさ」ですね。硬いと人工的で重く感じられるし、柔らかすぎると布か泡か水か......、とにかく固形物ではなくなってしまいます。そして形のバランスを見ると、熱気が集まりやすいように裾が広がっていることに気づきます。

    さらに、紙のような薄いものは「エッジの処理」が大切です。そのままだとスパッと切れたようになりがちなので、ここに厚みをもたせます。

    「バランス」の話をするときに真っ先に思いつくのはこの「黄金比」でしょう。美術に関わったことがない人でも、一度くらいは見たことがある図ではないでしょうか。対比は、1:1.6180339887......と割り切れない数値ですが、昔から最も美しい比率と言われています。

    さて、「なぜかちょっと安心する対比」になるのは、実はランタンは知らずのうちに黄金比になっていたからです。黄金比は「黄金比になるようにつくる」のではなく、「つくったら黄金比だった」ということの方が実用的なのでしょう。これは経験則かもしれません。

    質感を付けてみましょう。ちょっとした細かいパーツもリアリティを与えるために欠かせないものです。こういった紐や紙のパーツはほとんど見えないかもしれません。それでも、「見ている意識がなくても見えているもの」は、現実世界には必要ですね。皺の強度も付けすぎず弱すぎず。見た目で確認しながら調整していきます。皺がまったくないと、ちょっと味気ないですね。

    「ライト」や「光のグラデーション」はいくつかの法則があります。今回はソフト内の機能で済ませていますが、法則については別の機会に。



    ●配置するバランスを考える

    ここでは、画創の法則「均衡の法則」から「Denseness/画密感・ランダム」を考えてみましょう。

    「ランダムに配置する」と言われると、おそらくPC上では上の画像のようになるのではないでしょうか? しかしこれは、ランダムというより一定の距離を保った機械的な配置、と言わざるを得ません。

    犯罪心理学では「犯罪を犯す人の場所は、知らないうちに一定の距離を保つ」......みたいな法則があるそうです。人間には、無意識に配置を揃えてしまう傾向があるのかもしれませんね。

    密集の密度を変えてみました。左右に分けて「集中しているところ」と「閑散なところ」を作成。これにより、どことなく意味が感じられる画に変わります。何かの生き物の集合のような、細菌のような。そんな有機的なイメージが感じられますね。ちなみに、数は変えていますが同じベースのパーティクルです。

    さらに数を変えてみました。今度は、枠で右の方にまとまっている集合体と、少しはずれた左側に少量の集合体を。

    こうすると、また別のストーリーが浮かびます。地図の分布図のような、何かのポイントクラウドのような。最初のパーティクルの画像は、何の意図も感じられないのではないでしょうか。そこで、あえてバランスを崩すことで様々な効果が見て取れるようになります。画創の法則「画密の法則」は、チュートリアルで詳しくお話しします。

    それを基に考えて、発生を真にランダムに配置します。配置には意思があるはずで、「その配置になる理由」が必ず存在しています。配置には「流れの法則」も応用できます。画創の法則「流れの法則」から、流体、空気、水の流れを意識した配置のコントロールをしてみましょう。

    もう1つは空気の穴。前回の「丑」でも穴がありましたが、より具体的で密に使用する空気が通る場所をあえてつくってあげます。

    物を多く見せるためには、多すぎると逆に見えなくなるという矛盾に行き着きます。手前に物が多いと後ろが見えません。

    様々な技を組み合わせることによって、ただ並べるだけでなく、密度をより効果的に魅せることができます。

    ビューポートでIPR表示をして作業をしていて、つい「綺麗」とつぶやいてしまいました。ランタンには人の心を癒す何かがありそうですね。

    ランダムな配置と画密感は、画の下部にいる人々にも応用していて、3ds Max標準のポピュレート機能を使用しています。暗いのでこれくらいで問題なさそうですが、少しでも動いていないとマネキンぽく見えてしまいます。

    群衆のアニメーションを自動で生成してくれるこの機能は、ぜひとももっと進化してほしい機能です。この配置も、全体にまんべんなく配置するのではなく、隙間を空け密集地帯を分割して並べることで、より立体感と奥行き感を強調できるようになります。

    それらをそれぞれに応用して配置していきます。こういった大量のオブジェクトの配置を手で行うのは難しいためパーティクル等を使用しますが、ついパラメータに配置を頼りがちです。そこにランダムな要素を入れてあげたいですね。

    今回は「ふらっと旅行に行って、ついスマホで撮影」がコンセプトなので、カメラは手持ち風にして実際に手の動きをトレースしました。3ds Maxで簡易的にできます。

    昔、カメラワークで手ブレ感が上手くできなかったときに、先輩に「だったら本当に撮れば良い」と言われたのも良い教訓の1つです。そういった現場でしか味わえない体験が数多くあり、それらが今の私のワークフローに活きているのだと思います。



    Composite

    ここでは、CGでレンダリングしたままの素材から仕上げまでの工程について解説していきます。ツールについては賛否両論ありますが、私はどんなツールでも、まずは慣れているものをメインに、そこに新しいツールを足していくといった使い方が好きです。昔とちがい現在はあまりにツールの種類が多いので、上手な使い分けがポイントになってくると思います。

    ▲(左)レンダリングしたままの画像/(右)コンポジット後の画像

    まずはレンダリングしたものをAfter Effectsにもってきました。やはりこれだけではCGっぽくて硬いですね。今でこそ、GIをはじめ様々な機能によりレンダリングだけでもかなりのクオリティまでもっていくことができますが、昔はレンダリングしたままの画像など使いものにならず、ほとんどが「後処理で加工」することを前提に素材として作成していました。これをどうやって自然にもっていくのか......。

    カメラのレンズを見ると、夜、特に湿気のあるときには必ずフレアが入ります。レンズの性能に依るとも言われますが、一般的に「フレア」や「グレア」が入ることを脳が認識しているのでしょう。ここでもフレアの付け方が最重要ポイントになってきます。

    もう1つは背景ですね。「夜だから黒でしょ」という発想では何とも味気がありませんね。ここは意図的に色を入れておきましょう。CGはとても情報量が少ないので、できるだけ要素を増やしておくに越したことはありません。

    最後はカラコレでの画像の締め具合です。おそらくカメラのメーカーやそのときの状態でそれぞれ変わってくるかと思いますが、基本的には画創の法則「画創のS」でベースはOKでしょう。

    今回は並べ方でいかに印象が変わるか、というお話がメインでした。
    はやく本物のコムローイを見に行ける平和な世の中になりますように。



    【チュートリアル収録内容】

    <画創の法則>
    ・均衡の法則からランダム
    ・流導の法則から空気と穴
    ・画角の法則か黄金比
    ・仕上の法則からフレアとグレア
    ・画創のS

    <実際の制作過程メイキング>
    ・モデリング からコンポジットまで
    ・使用ソフト:3ds Max、After Effects

    長年、セミナーや授業でお話ししてきた生の感覚をぜひご体感いただけたら嬉しいです。

    【+画 ONLINE】vol.002:ランタン
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    Information

    • 3ds Max『画龍点睛オンライン』講座
      文章だけでは語りつくせない詳細をオンライン形式でお届けします。実践で役に立つ「基本と応用」をCGWORLDの連載『画龍点睛』で制作した作品を通じて解説します。ゼネラリストとしての作品づくりに対する考え方で、さらなるステップアップを。
      tutorials.cgworld.jp



    • 3ds Max『3DCGクリエイター講座』講座(デジタルハリウッド)
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      online.dhw.co.jp/course/3dcg



    Profile

    早野海兵 / Kaihei Hayano
    Sony music、Sony computer entertainmentを経て創作活動の世界へ。現在は、アートディレクターを務めながら講師や執筆等、幅広くCG業界に貢献している。 #3dsMAX,#adobe aftereffects,#zbrush,#substancepainter 『CGWORLD』連載「画龍点睛」
    『鬼武者シリーズ』
    『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』
    『EXILE LIVE TOUR 2018-2019 "STAR OF WISH"』
    著書『テクスチャイリュージョン1~3』

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