記事の目次

    画にプラス要素を。

    画には法則があります。
    それは長い年月をかけて、様々な先人たちにより研鑽されてきたものです。CGという分野においても非常に有効な法則で、きっとあなたの知恵と技術になってくれることでしょう。 永く、そして楽しくこの仕事をし続けるために。
    そして願わくば貴方の人生に+画を。

    今回もWeb連載の強みを活かし、動画チュートリアル『CGWORLD Online Turorials』と連携してお届けします。



    TEXT_早野海兵 / Kaihei Hayano
    EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE



    【+画 ONLINE】
    vol.006:雨蟻 / 「天地」を与える
    (CGWORLD Online Tutorials)の詳細・動画はこちら





    Layout

    レイアウトを制する者は画を制する

    新型コロナウィルスによる緊急事態宣言が初めて発令されてから、早いものでもう1年が経ちました。日本は不屈の精神で苦境を乗り越え現在に至る......こともなく、この連載記事を執筆している現在も、未だに緊急事態宣言が発令されています。人生とは3歩進んで2歩下がるようなものですね。

    様々な変化を受け入れ、そして進化していかなくてはなりません。今できること、そして未来につながること。そんなことを毎日考えています。

    一進一退を続けてはいるものの、勉学に励むには適した環境が整ってきましたね。
    今までのように時間をかけずとも、オンラインであらゆることが学べる環境や、出社せずとも働くことができ、家族と過ごす時間が確保できる環境。
    見渡してみると、悪い面だけでなく良い面も結構あるものです。

    さて、今回は少し感覚的な分野、「レイアウト」についてお話ししていきます。

    レイアウトといえば、古来から本当に多くの人々により研究されつくしてきた分野とも言えます。インターネットで「レイアウト」と検索してみても、本屋でデザイン関連書籍の一角を見渡してみても、そんな感じのタイトルが無数に目につきます。

    しかし、これほどまでにたくさんの「レイアウト」関連の解説があるものの、どれもほとんど同じことを説明している、ということに気が付くはずです。ある意味、「レイアウトの法則」は長い「画の歴史」において完成されつつある、ということなのかもしれません。これは私見になりますが、画の良し悪しはレイアウト(構図)で7割がた決まってしまうと思っています。

    古(いにしえ)より、絵画において最も重要な勉強法は「模写」です。
    過去の偉大な画家たちの作品を模写すること。
    これは、「レイアウトを身体で覚える」ことにほかなりません。

    レイアウトを制する者は画を制する。



    <画創の法則>
    「天地」

    画を構成する画創における7大構図の1つです。

    そういえば昔、これに似たタイトルの映画ありましたよね。当時の角川映画は、少年心にとても素晴らしく、ドキドキと新作を楽しみにしていました。時は高度成長時代末期。日経平均は3万円を超え、まさにバブル絶頂期。日本のいたるところで「ゴージャスな雰囲気」が漂っていました。

    地価高騰、億ション、マハラジャ、お立ち台、タクシー万札、スターウォーズ、インディージョーンズ......、将来の夢が田舎者の私にも実感できる、そんな素晴らしい時代でした。夢を目指して単身上京し、脇目もふらずに勉学に夢中になったのが、つい昨日のように思い描かれます。周りにもそんな夢追い人が多い時代でした......、とここまで書いたものの、今回のテーマとは何の関係もない話題なのですが(笑)、そんな時代もありました、という話です。序盤でいきなり脱線しましたが、本題に入りましょう。

    『創世記』にも書かれているように、世界には「天」があり「地」があります。
    「上」があり「下」があるのです。世の理(ことわり)の1つですね。

    1.はじめに神は天と地とを創造された。
    2.地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。
    3.神は「光あれ」と言われた。すると光があった。
    4.神はその光を見て、良しとされた。神はその光とやみとを分けられた。
    5.神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた。夕となり、また朝となった。第一日である。
    6.神はまた言われた、「水の間におおぞらがあって、水と水とを分けよ」。
    7.そのようになった。神はおおぞらを造って、おおぞらの下の水とおおぞらの上の水とを分けられた。
    8.神はそのおおぞらを天と名づけられた。夕となり、また朝となった。第二日である。
    9.神はまた言われた、「天の下の水は一つ所に集まり、かわいた地が現れよ」。そのようになった。
    10.神はそのかわいた地を陸と名づけ、水の集まった所を海と名づけられた。神は見て、良しとされた。
    11.神はまた言われた、「地は青草と、種をもつ草と、種類にしたがって種のある実を結ぶ果樹とを地の上にはえさせよ」。そのようになった。

    「レイアウト=構図」とはすなわち「見ている人の心に響くもの」で、その中でも「天地」は安定感をもたらす構図です。

    さて、皆さんが生きているこの地球には、「空(天)」があり「地面(地)」があります。これは変えようのない事実であり、日常であり、当たり前の「常識」ですね。

    しかし、CGの世界にはこの「常識」がありません。例えば......、

    この画像を見ると、一般的には「逆さまですね」と思うことでしょう。では、なぜ「逆さまである」と断言できるのでしょうか? なぜ「逆さまになっている」と感じるのでしょうか? きっと小さい子供でも同じことを言うでしょう。なぜなら、「あまりにも当たり前の日常」が刷り込まれているからです。

    これを画に応用すれば、「安定と不安定」を操ることができます。
    天地の最も単純な使い方は、「上を空けること」。そして「地面をつくること」です。いくつか作品を例に見てみましょう。

    よく見ると、モチーフが真ん中に置かれていないことがわかるでしょうか? 下より上に空間が空いてますね。さらに地面もあります。

    さてこちらも同様に、少し上を空けています。

    もちろん真ん中にしても成立しますが......、

    やはり、下線にかかっていた方が安定しますよね。

    地面がない場合でも、このように上の空間を空けることで、画に安定感を与えることができます。

    ただのティーポットです。真ん中に置いただけだと、空間に何の意味もない「単なる画像」です。

    しかし、ティーポットの上に少し空間を空けると「意味」が生まれ......、

    さらに地面があれば「世界」ができます。モチーフを安定させて、相手に見せるための構図。これを「天地」といいます。

    ちなみに、有名な構図の取り方「三分割法」に倣えば、下のラインに少し被るような配置が望ましいです。

    もしご自身で何かしらのモデルをつくってプレゼンがしたい場合、ほんの少しセンターからずらしたり、地面をつくってあげてみてください。きっと作品に安定感が得られるはずです。また、見てくれる人に安心感をもたらします。

    今回の構図も、三分割法により「ちょっと下」に配置しています。



    Composite

    リアリティの追求

    コンポジットと合わせて行う、シーンの「詰め」の作業になります。左は、そのまま透明な質感に地面のテクスチャを貼ったものですね。右は、それに「画創の観察」でリアリティを付け足したものになります。


    Point 01:水滴

    水滴は決して「完全な球」ではないですね。自然物は何かしらが歪んでおり、ナチュラルな構造が入ってきます。この水滴もよく見てみると、完全な球ではありません。球をわざと湾曲させて、自然の柔らかさを表現しています。


    Point 02:つるつるしていない

    表面は決してつるつるしていません。自然のものですから、「まったく不純物がない」ということはないはずです。透明なものはなるべくきれいにしておきたいのが人間の性(さが)ですが、濁っていたり混ざっていたり、といった小さな表現が「パッと見」のリアリティを引き出してくれます。


    Point 03:湿気・湿度

    CGは乾いた表現に向いていますよね。しかし、自然界ではそのままだと乾燥してしまいます。なので、あえて「湿気(湿度)を感じる表現」を強調したいところです。


    Point 04:格好良い状況にしてしまう

    「自分の主導権は自分が握っている」。ハリウッドの映画を参考にするならば、突然夕景のカットになるなど、演出のために時間軸を変更することはよくあることですね。ちなみに、「マジックアワー(マジックタイム)」(※1)はとても素敵な「光の時間」です。

    ※1:日没前、日の出後に数十分程体験できる薄明の時間帯を指す撮影用語で、光源となる太陽からの光線が日中より赤く、淡い状態となり、色相がソフトで暖かく、金色に輝いて見える状態である。「マジックアワー (写真)」(Wikipediaより)

    今回は、レンダリングしたままの状態でも「そこそこの色合い」までできていました。ですが、このままだと「V-Rayですね」で終わってしまいそうなので、若干のコンポジットを行います。

    ほんの少し「レフレクション」などの要素を追加してあげるだけで、印象が変わってきます。中でも「フレア」の効果は強力ですね。

    色の影響は本当に大きいです。これをキーカラーに例えると、「暖色」と「寒色」の組み合わせになってきます。この2つは相対するものなので、画の印象もかなり左右されます。もし制作後に時間があったら、こういったカラコレを数多くこなして最適な色を見つけてみてはいかがでしょうか。



    【チュートリアル収録内容】

    <画創の法則>
    ・画角の法則から「天地」
    ・仕上の法則から「フレアとグレア」
    ・画創のS

    <実際の制作過程メイキング>
    ・モデリングからコンポジットまで
    ・使用ソフト:3ds Max、After Effects

    長年、セミナーや授業でお話ししてきた生の感覚をぜひご体感いただけたら嬉しいです。

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    Information

    • 3ds Max『画龍点睛オンライン』講座
      文章だけでは語りつくせない詳細をオンライン形式でお届けします。実践で役に立つ「基本と応用」をCGWORLDの連載『画龍点睛』で制作した作品を通じて解説します。ゼネラリストとしての作品づくりに対する考え方で、さらなるステップアップを。
      tutorials.cgworld.jp



    • 3ds Max『3DCGクリエイター講座』講座(デジタルハリウッド)
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      online.dhw.co.jp/course/3dcg



    Profile

    • 早野海兵/Kaihei Hayano

      画龍 / Garyu
      ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・コンピュータエンタテインメントを経て創作活動の世界へ。現在、CGWORLD.jpにて「+画」連載中。アートディレクターを務めながら講師や執筆等、幅広くCG業界に貢献している。
      #3dsMAX,#adobe aftereffects,#zbrush,#substancepainter

      <代表作>
      ゲーム『鬼武者』シリーズ
      『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ
      『EXILE LIVE TOUR 2018-2019 "STAR OF WISH"』
      著書『テクスチャイリュージョン』シリーズ
      連載「+画」、「画龍点睛」

      早野海兵公式サイト:kaihei.net
      画龍公式サイト:garyu.mystrikingly.com
      Twitter:@Kai_ryu_Kai