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約1年を投じて作り上げた、原発をテーマとした重厚なシリアスな作品、映画『天空の蜂』を支えるVFXを紹介する。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 206(2015年10月号)からの転載記事になります

今回のVFXアナトミーは、エヌ・デザインがVFX制作を担当した、映画『天空の蜂』のVFXショットメイキングを紹介する。本作は、遠隔操作でハイジャックされた超大型ヘリ「ビッグB」を使った原子力発電所へのテロに立ち向かう人々のドラマを描いた作品だ。ビッグBはもちろんのこと、テロの舞台となる原子力発電所「新陽」も架空のものであるため、3DCGで制作されたアセットが利用されている。それにより制作されたVFXショットも1,000ショット近い作業量になったという。

映画『天空の蜂』予告篇90秒

VFXの制作が始まったのは昨年の5月。台本を基にしたロケハンから始まり、6月には絵コンテの内容からプリビズが作成され、VFXショットの検討が行われた。
「プリビズをつくりながら、どのように実写とCGを切り分けていくかをプランニングしていくのですが、ビッグBがフル3DCGとなるのは当然なのですが、背景もフル3DCGになるカットが多く、それをどのように制作していくかが課題になりました。監督からは、話の内容がコメディではなくシリアスな話なので、画にリアリティがあることが第一条件だと言われていました」とCGIディレクターの阪上和也氏は語る。

「制作が始まった頃はリアルに見せるという点でなかなか思うようにいかず、試行錯誤が続きました。われわれに経験のないところは各方面のスペシャリストにアドバイスをいただいています」とVFXプロデューサーの藤田卓也氏はふり返る。
エヌ・デザインでは、完全な分業体制を採っているわけではないが、モデラー8名、リガー1名、アニメーター4名、エフェクト5名、コンポジター8名で実制作を担当し、約5社の外部プロダクションが参加している。また、技術的なノウハウはその分野の著名なアーティストからアドバイスをもらっているという。

連載VFXアナトミー:映画『天空の蜂』

前段左から、林 弘倫、永田泰子、阿美伸一コンポジットディレクター、阪上和也CGIディレクター、基荘一郎、奥平智也。中段左から、井達麻未、加藤志帆、伊藤絵里加、宮前よし子、藻垣香子、森下陽一、妹尾真澄、柴亜佳里、朝倉 怜、福田林太郎。後段左から、岩﨑朋之、岡野良久、鈴木隆一、不破香織、早坂 渉、安井智太郎、山本智彬、森 智章、寶村雅彦(敬称略)

「これまであまり経験したことがないような大変な作品だったのですが、大人数で巨大なボリュームの作品を作るにあたって、データのつくり方ひとつとってもワークフローを見直す良い機会になったのではないかと思います。非常に大変だったのですが、プロダクションとしてやれることの幅が広がっていくのが楽しい作品でもありました」と阪上氏は作品が終わっての手応えを語ってくれた。

それでは、エヌ・デザインが総力をあげてチャレンジした代表的なVFXショットを紹介する。

<1>スケール感にこだわったビッグBのモデリング

ビス1本にもこだわったモデリング

本作のVFX作業の中で、最も注力されたポイントが超大型ヘリ「ビッグB」の3DCGモデルだという。ビッグBは物語の核となる存在であるため、リアリティが要求されることとなった。ビッグBのモデルは昨年6月から、美術スタッフが作成した図面を基にモデラーの不破香織氏を中心にモデリングが開始されたが、ひと筋縄ではいかない作業となったという。

「登場するもうひとつのヘリである自衛隊機のBell412の機体は、実物のリファレンスがあったのですんなり完成したのですが、実物がない分ビッグBはディテールのつくり込みが難しく、何度も改修をくり返しました」と阪上氏は言う。
昨年11月に一度モデルが完成してカット制作に入ったのだが、リアリティに満足できず12月後半から1月後半までで全体を通して見直し、改修を行なっている。この改修作業では、何人かのスタッフでヘッド部担当、ボディ担当、後部担当とモデルのディテール足しを分担し、不破氏がそれらをまとめて整合性をとりながら全体のバランスを調整していったという。

「ローターのような複雑な構造を必要とする部分では、既存のヘリの写真を基にモデリングしていったのですが、構造がわかりにくく苦労しました。特にビッグBはスケールがまったくちがうので、スケールにあったディテールをモデリングするのが非常に大変でした」と不破氏。
ビッグBはショットによってかなりアップで登場するため、ボディのビスなどをテクスチャで描いてごまかすということができず、全てジオメトリで作成しているなど、リアルなスケール感を表現することに非常にこだわったモデリングになっている。

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▲<1> ビッグB全体のワイヤーフレーム。一連の3DCGワークにはMayaを使用。ボディを構成する鉄板もジオメトリで構成されている

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▲<2> 底部のディテール。ビッグBは原発上空でホバリングしているショットが多いため、底部のディテールは特に念入りに作成されている

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▲<3> ビッグB格納庫部分のディテール。格納庫部分はセットでもつくられているが、ショットによっては格納庫内も見えてしまうため、セットに合わせて詳細がつくり込まれている

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▲<4> 最も苦労したというローター部分のディテール

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▲<5> タイヤ部分のディテール

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▲<1> ローター部分のリグ。リグのセットアップもビッグBのリアリティを表現するひとつの要素となっている。「本物のヘリのローターの挙動を再現し、なおかつできるだけ自動で動くようにセットアップを実現しています」とリガーの寶村雅彦氏が語るように、回りはじめの羽根のしなりや、回転速度に応じたローターの軸の傾きなどもリアルにつくり込まれている。

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▲<2> ローターを回転させた場合の挙動

次ページ:<2>ビッグBのルックデヴ

<2>ビッグBのルックデヴ

表現の難しい銀色の機体

ビッグBの機体は、モデリングによる造形部分の困難さに加えて、マテリアルやライティングなどルックの制作も難しい作業になったという。ビッグBはディテールが細かい分、テクスチャの量も多く、700枚近いテクスチャが作成されている。テクスチャはディフューズやリフレクション、バンプなどひと通りの要素に加えて、デカールのテクスチャやマスクが別に作成されている。テクスチャやシェーダの設定は不破氏を中心に作業が進められ、最終的なルックに関しては阪上氏を中心に調整が進められた。

「ビッグB単体でのルック調整では上手く表現できていても、実際のショットに合成するとスペキュラの反射や強さが上手く表現できないショットが多く、試行錯誤が続きました。真夏の晴天のIBLをベースとしていますが、ビッグBはジュラルミンのような質感をしているため、ライティングの状態次第で見え方が大きく変化し、当たりすぎると白く飛び、弱いとハイライトが上手く出ない。そのバランスをとるのが難しかったです」と阪上氏は語る。
シーンの状況によって大きくルックが変化してしまうので、本作ではIBL用のHDRを切り替えて使用されている。

なお、HDR素材などシーンリニア環境の構築にはロゴスコープの亀村文彦氏の協力を得ることで、精度の高い検証を行うことができたという。

ビッグBの機体に使用されたテクスチャの一部。

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▲<1> (左)鋼板部カラーテクスチャ/(右)鋼板部グロッシー用テクスチャ

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▲<2> (左)デカール用テクスチャ/(右)デカール用マスクテクスチャ

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▲<3> Mayaによるマテリアル設定。上部がデカール用シェーダの設定で下半分がベース質感のシェーダ設定。このようにデカール用とベースで2つのUVチャンネルに分けられている

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▲<1> 最終ショットで使用した標準的なライトセット

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▲<2> 地上のHDR

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▲<3> 上空のHDR

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▲<4> 新陽上空でのホバリング時に使用したルック

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▲<5> 新陽を消して敦賀湾環境にしたルック

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▲<6> 地上メインのルック

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▲<7> 格納庫内の扉が閉じているときのルック

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▲<8> 格納庫の扉が開いているときのルック

次ページ:<3>背景アセット制作

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<3>背景アセット制作

フル3DCGで作られた新陽

原子力発電所の新陽は完全に架空の発電所であるため、外観のほとんどが3DCGによる背景アセットが使われている。このアセットは、ロケが行われた横須賀市のゴミ処理場の建物をベースにつくられた。当初ゴミ処理場の実写をベースに原子炉部分だけを合成する予定だったが、カメラワークの都合から原発周辺の背景全体をモデリングすることになったという。背景アセットの制作は基荘一郎氏が担当している。

「発電所の建物は、実際のゴミ処理場の図面をもらってモデリングすることで、完全に実寸でつくられています。はじめの頃は資料がほとんどなく、Google Earthで距離を測りながら憶測でモデリングしていました。そこからのつくり直しは大変でしたね。敷地内には樹木や標識といった細かいアセットも多いので、物量をこなすのが非常に大変でした。後半で1名に手伝ってもらいましたが、それでも3ヶ月かかっています」と基氏は言う。
大量にある樹木は、そのままではレンダリングが回らなくなってしまったため、最終的にはV-Rayプロキシに置き換えてレンダリングされている。

「フル3DCGでつくってしまうとどうしても生活感が出ないので、生活感のある背景になるようにオーダーさせてもらいました。クルマの駐車の仕方だったり、パイロンなどが雑多な配置になっていたり。カメラが引いているショットではつくり込まなくてもよかったのですが、ある程度カメラが寄ってしまうようなショット用に3度目のつくり直しをしてもらいました」と阪上氏は語る。

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▲<1> 撮影された横須賀のゴミ処理場のリファレンス写真

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▲<2> 初期に作られた新陽の全景モデル

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▲<3> 新陽のモデルをレンダリングしたもの

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▲<4> レンダリングに使われたIBL素材

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▲<5> 新陽のモデル確認用の実写プレート

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▲<6> フル3DCGで作成された新陽の全体をレンダリングしたもの

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▲<7> 図のように確認用の実写プレートと新陽のCGを重ね合わせて違和感がないか確認している

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▲<8> 選択されている樹木の部分は、レンダリングコストがかかるため、プロキシ化されている

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▲<9> 樹木をプロキシ化した状態

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▲<10> 樹木のメッシュ表示

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▲<11> 実際にレンダリングすると図のような樹木としてレンダリングされる

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▲<12> かなりカメラを寄せた状態の新陽の原子炉部分のモデル

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▲<13> 原子炉部分のレンダリング素材

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▲<14> ゴミ処理場を撮影した実写プレート

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▲<15> 完成ショット

背景アセットはその他に、格納庫などが作成された。格納庫内はセットが組まれていたので、FAROで3Dスキャンを行いモデルを作成している。

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▲<1> FAROのデータを基に作成された格納庫内部のモデル

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▲<2> 格納庫の外装もモデリングしたもの

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▲<3> ショットに合成したもの

次ページ:<4>エフェクト制作

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<4>エフェクト制作

ディテールが追求されたエフェクト

本作では、ビッグBに絡む煙や爆発などシミュレーション系のエフェクトが多数使われている。ビッグBの排気口から出る熱の揺らぎなどは、モデルのアセットとして制作されているが、ローターが回ったときに起こる土埃や爆発の炎や煙はFumeFXとthinkingParticlesを使ってシミュレーションされている。エフェクトチームが作成したエフェクトの素材はそのままショットに使用することはほとんどなく、コンポジットで組み合わせながらさらにディテールのある画に加工された。

ネタバレになってしまうのであまり詳しくは言えないが、エフェクト制作の中で一番苦労した点はビッグBの爆発エフェクトだという。爆発ショットではハイスピード処理された映像になっているため、24fpsの状態ですでにハイスピードの動きになっているアニメーションを3ds Maxで120fpsになるようにfpsを調整してシミュレーションが行われた。

「爆発のエフェクトの中で一番難しかったのは、爆発時にビッグBも壊れていくのですが、それらの破片が爆発のエフェクトに紛れて目立たなくなってしまう部分の調整でした。壊すところを手作業で壊して調整していたのですが、パーツが細かすぎて大変な作業になってしまいました。そこで日頃からパイプラインを使わせてもらっているJCGSさんから、JCGSカッターというオブジェクトをエフェクト用に粉砕するツールを利用させてもらったことで、非常に助かりました。ただ、JCGSカッターは直感的にオブジェクトを切ることができるので、調子に乗って細かくしすぎてシミュレーションが回らなくなることもありましたね(笑)」とエフェクトを担当した岡野良久氏は語る。

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▲<1> FumeFXとthinkingParticlesによる火球エフェクトのシミュレーション作業画面。要素が多いので、ビッグB周りのパーツはXMesh化している

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▲<2> JCGSカッターの作業画面。ユーザーが描いたライン通りにオブジェクトを綺麗に切断することができる

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▲<3> 背景素材

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▲<4> ビッグBのレンダリング素材

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▲<5> JCGSカッターなどで作成した破片素材

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▲<6> 火球素材

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▲<7> ショックウェーブ(衝撃波)素材

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▲<8> 爆発による照り返し用素材

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▲<9> 全ての素材を合成しフレアを足したもの

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▲<10> ブラーなどを処理をした最終状態

上空の雲をエフェクトで作成した例。

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▲<1> 雲のシミュレーション作業画面

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▲<2> 雲のシミュレーション画面その2。いくつもの状態の異なる雲を別々に作成し合成して利用している

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▲<3> 背景素材

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▲<4> Bell412のレンダリング素材

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▲<5> ビッグBのレンダリング素材

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▲<6> いくつもの雲素材を合成したもの

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▲<7> 全てを合成した最終ショット

次ページ:<5>NUKEを活用したコンポジットワーク

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<5>NUKEを活用したコンポジットワーク

本格的にNUKEを導入した初のプロジェクト

エヌ・デザインではこれまでコンポジットツールにはAfter Effects(以下、AE)が使われていたが、本作から本格的にNUKEによるコンポジットワークフローが採用された。タイトルワークにAEが一部使われているが、実写パートに関しては完全にNUKEが使用されている。2年くらい前に仮導入した経験があるが、1作品を丸ごとNUKEだけでコンポジットしたのは本作が初めてだそうだ。

本格導入するにあたり、コンポジットディレクターの阿美伸一氏は昨年の9月から2ヶ月の間、NUKEの勉強だけをするという期間を設けてもらい、社内でNUKEセミナーを行なってコンポジットチーム全体にNUKEのノウハウを共有していったという。この2ヶ月間を集中してNUKEの習熟にあてることで、ほぼストレスなく実戦投入することができたとのこと。「NUKEを使っていなかったら、この期間でこのクオリティでは完成していなかったと思います。ノードベースなので効率的であると同時にできる幅も広く、実写向きのワークフローが組めました」と阿美氏は話す。

これまではboujouでトラッキングしたものをMayaで3Dマットを作成し、AEで合成するというツールを渡り歩かないといけないワークフローだったが、NUKEは3Dコンポジットの機能が強いので、NUKEだけでこれらの機能を実現することができ、非常に作業効率が良いのだという。3DCGの素材は基本的にOpenEXRが使用され、実写プレートはプリグレーディングされたDPXによって運用されている。「コンポジットで難しかったのはビッグBをいかに馴染ませるかというところです。ノーマルチャンネルを使ってリライティングするなど、ライティングはかなり加工しています。あと雲や気流のショットでは、3DCGで作成してもらったエフェクトにNUKEのパーティクルで作成した煙を混ぜるということなどもしています」と阿美氏は言う。

窓ガラスはめ込みの制作例

NUKEの3D空間にオブジェクトを配置し、実際に環境を映り込ませて作成している。

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▲<1> 元画像

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▲<2> CameraTrackerで3Dトラッキングを行い、ポイントクラウドを基に窓の位置にcardを配置

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▲<3> 映り込み用画像

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▲<4> <3>を環境の球体に割り当てる

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▲<5> <3>~<4>を実際に反射させ映り込みを作成

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▲<6> ガラスの汚れ素材なども作成

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▲<7> 背景には写真を基にパースマップで立体に起こしたものを使用

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▲<8> 3DCGで作成されたエンジンなどを足した完成ショット

蝉の動きをNUKEで付けている例。

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▲<1> 死んだ蝉を木に貼って撮影した実写プレート

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▲<2> 実写プレートをNUKEでトラッキング

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▲<3> 蝉だけを除去

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▲<4> Model Builderで蝉の胴体を作成しProject3Dでマッピング

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▲<5> 左右の羽根も同様に作成する

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▲<6> マスクを使って3Dモデルに起こした蝉の必要部分だけを抽出

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▲<7> モーションブラーやグレインの調整を行う

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▲<8> 完成ショット。映像ではカメラがパンをしている。羽の動きは簡易ツールを作成しエクスプレッションで制御可能だ

TEXT_大河原 浩一(ビットプランクス

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  • 映画『天空の蜂』
    絶賛公開中!

    監督:堤幸彦/脚本:楠野一郎/原作:東野圭吾「天空の蜂」講談社文庫/VFXスーパーバイザー:野﨑宏二/出演:江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵ほか/制作プロダクション:オフィスクレッシェンド/製作:松竹、木下グループ、講談社、ローソンHMVエンタテイメント、GYAO/企画・配給:松竹

    ©2015「天空の蜂」製作委員会 tenkunohachi.jp


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